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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3268/3865

3268話

「これは……かなり激しい尋問だったようですね」


 ブレイズはレイが連れて来た男……気絶している男を見て、そう言う。

 もっとも、激しい尋問だと言いつつも、ブレイズはそこまで驚いている様子はない。

 掌が半ばまで切断されており、そこから激しい出血が続いているものの、他に大きな怪我は見えない。

 そうである以上、ブレイズにしてみれば許容範囲内なのだろう。


「残念ながら、詳しい情報の類は何も入手出来なかったけどな」


 そう言いつつ、レイは自分が尋問をしたのが失敗だったのだろうと、今更ながらに思う。

 もしここで自分が尋問をするのではなく、マリーナかヴィヘラに尋問をさせていれば、もしかしたらこの穢れの関係者からも色々と情報を引き出すことが出来たのではないか、と。

 もっとも、それは今更の話だ。

 穢れの関係者があのような反応……レイだと認識した時点で痛みも何もかもを無視してレイを見て……そして襲い掛かるだろうというのは、当初予想出来なかったのだから。

 それにマリーナやヴィヘラのような美人が尋問をしようとすれば、それこそこの男がまともに答えなかった可能性は十分にある。

 だとすれば、レイが尋問をするというのは決して間違っていなかったのだろう。


「掌の傷の手当はしてないから、必要ならそっちでやってくれ。死んでも構わないなら、そのままにしておいてもいいと思うけど」

「さすがにそのような真似は出来ませんよ。折角の手掛かりなのですし」


 ブレイズはそう言いつつ、副官に視線を向ける。

 その視線だけで副官はブレイズが何を要求してるのかを理解し、すぐに部下にポーションを持ってくるように指示を出す。

 ブレイズ率いる部隊の持つポーションが、具体的にどのくらいの効果があるのかはレイにも分からなかったが。

 だが、以前騎士団の小隊が穢れの関係者に襲撃され、死人を出しながら逃げ出すことしか出来なかった場所を調べに来た者達だ。

 それを率いるブレイズは恐らく上から相当に信頼されているのだろうし、何かあった時の為にポーションもそれなりに効果が高い物を持ってきていてもおかしくはなかった。


(そこまで効果があるポーションを持っていないのなら、俺の持ってるポーションを使うのも……仕方がないけど)


 レイにしてみれば、穢れの関係者に自分の持ってるポーションを使いたいとは思わない。

 それこそ銅貨数枚程度の安い……効果もその程度のポーションであっても、使ってやりたくはなかった。

 この辺はレイが敵に対しては容赦しないというのもあるが、それでも普通なら安物のポーションなら尋問に使う程度は躊躇しない。

 この男に対してここまで冷酷に反応するのは、やはり穢れの使い手だからだろう。

 穢れというのは、見るだけで本能的な嫌悪感を抱く存在だ。

 何度も戦ってきたレイはそれなりに慣れてはきたものの、それでも完全に問題がない訳ではない。

 見ればやはり嫌悪感はあるし、それを操っている者に対しても思うところはある。

 だからこそ、レイは穢れの関係者に対してポーションを使わないようにしようと思ったのだろう。


「それで、レイ殿はこれからどうするのですか? この男から何も情報を入手出来なかったのは、レイ殿にとってもあまり好ましいことではないのでは?」

「いや、情報を入手出来なかったのは痛いが、そこまで大きな問題じゃない」


 穢れの関係者の拠点……明日行く予定になっている場所についての情報を多少なりとも入手出来ていれば、大いに助かったのは間違いない。

 また、穢れの関係者にどのような者がいるのか、そして何より穢れというのが最悪の場合は大陸を滅亡させるといった危険があるのだが、それを知った上での行動なのか。

 レイとしては、是非ともその辺について知りたかったのだが、自分を見た時の男の様子から考えて、とてもではないが聞き出せるとは思えなかった。


「それでは、今日はこれからどうするのですか?」

「当初の予定通り、目的地に向かう」

「その、もう夜ですし、移動するのは危険です。私達と一緒にここで野営をしてはどうでしょう? 幸い、人数はそれなりにいるので、見張りとかはこちらに任せて貰って構いませんが」


 ブレイズが何を言いたいのかは、レイにも理解出来た。

 もしまた穢れの関係者が……もしくは穢れが現れた時、レイ達を頼りにしたいのだろう。

 それはレイも分かっていたが、だからといって相手の要望を全て叶える訳にもいかない。


「悪いけど、こっちもこっちで予定があるんだ。それに、この連中の仲間はそんなに多くない筈だろうから、ここがまた襲撃されるといったことは……絶対にないとは言い切れないけど、可能性はかなり少ないと思う」

「……分かりました。レイ殿の言葉を信じましょう」


 ブレイズはそう言う。

 本来ならレイ達にいてほしいのだが、まさか助けて貰い、更には手掛かりとなる襲撃犯の引き渡しまでして貰ったというのに、ここで無理を言う訳にもいかない。

 これでブレイズが地位を利用してレイに命令するようなことをすれば、レイもそれに大人しく従うといったことはなく、それこそ場合によってはその力を振るっていただろう。

 だが、幸いなことにブレイズはそのような恩知らずな性格をしてはいなかった。

 その結果として、お互いが特に問題を起こすようなこともなく別れることになる。


「レイ殿、今回は本当にありがとうございました。その……穢れの件については、上に報告をしてから、こちらでもどのように対応するのかを決めることになると思います」

「分かった。穢れの件で何かを知りたければ、ギルムのダスカー様に連絡をするといい。……もっとも、もういつ雪が降ってもおかしくはない。手紙を出すにも一苦労だろうけど」

「そうですね。今年は寒いのですが、何故か雪は降らないという不思議な天気です。……もっとも、そのお陰で雪に足を取られるといったことがないのは助かりますが」


 そんな会話を交わしつつ、レイはセトの背に乗る。

 マリーナとヴィヘラもセトの背に乗るが、ここに来る時はレイの後ろはマリーナだったが、帰りはヴィヘラに変わっていた。

 とびきりの美女二人と一緒にセトに乗っているレイの姿に、ブレイズはともかくそれ以外の者達の何人かが非常に羨ましそうな視線を向けている。

 そんな嫉妬の視線を感じつつも、レイは特に何かを言うようなことはない。

 レイにしてみれば、エレーナ、マリーナ、ヴィヘラといった面々と一緒に行動している時点でこのような視線を向けられるのは想定しており、今更といった感じだった。


「じゃあ、また機会があったら会おう」

「はい。本当にありがとうございました」


 頭を下げるブレイズをその場に残し、セトが走り出す。

 そうして十分にブレイズ達から離れたところで、今まで隠れていたニールセンがどこからともなく姿を現す。


「残念だったわね。出来れば情報を入手したかったのに」


 レイの側を飛びながら、ニールセンはそう言う。

 普段ならあるいはふざけた態度を取ったりもするのだが、今この場では違う。

 ニールセンにしてみれば、明日には自分が穢れの関係者の拠点に向かって移動するのだ。

 そうである以上、少しでも何らかの情報が欲しかったのだが、それが失敗してしまったのだから、それを残念に思うのはおかしくない。


「仕方がないだろ。まさか俺をレイだと認識した途端にあんな風に行動するとは思ってもいなかったし。……いやまぁ、俺が穢れの関係者に恨まれてるのは知ってたけど、それでもここまでとは思ってなかった」


 元々穢れの関係者が狙っていたのはボブで、レイはそのボブを守った相手と認識されていると思っていたのだが、今となっては穢れの関係者の中でレイはボブよりも上位の排除対象と考えられているのは間違いない。

 自分を見た時の穢れの関係者の様子を見る限り、その判断はそう間違っていないように思える。


「ボブは腕利きとはいえ、普通の猟師よ。そんなボブのいる付近に延々と穢れを送り込んでいるのに、その全てが倒されるなり、捕獲されるなりしてるんだもの。向こうにしてみれば、それをやってるのはレイだと認識してもおかしくはないでしょう?」

「残念ながらそんな感じになりそうだな。……しかも下手に有名だから、セトを連れている俺を見て深紅のレイだと認識するのは難しくないだろうし」


 グリフォンを従えているという点で、レイは非常に目立つ。

 それだけに、グリフォンを連れているだけで深紅のレイと認識されてもおかしくはない。


「でも……今回の件はセトが見つかったからじゃなくて、私がレイの名前を呼んでしまったのが原因でしょう?」


 レイとニールセンの会話を聞いていたマリーナが、申し訳なさそうに言う。

 マリーナが言ったように、男がレイをレイだと認識したのはマリーナがレイの名前を呼んだからというのが大きい。


「その辺は仕方がないだろ。それに、俺のレイという名前はそんなに珍しい訳じゃない。他にもレイという名前の奴はそれなりにいるだろうし。……そう考えると、穢れの関係者はレイという名前を聞けば全員がああいう風に大きく反応するのかもしれないな」


 それが分かったところで、何か役に立つとは思えないけど。

 そう言うレイに、マリーナは思わずといった様子で吹き出す。


「ぷっ……あははは。そうね。レイにとってはそういう風に思えるかもしれないわね」

「そこで笑うってのはどうかと思うけど。っと、それよりそろそろ妖精郷だ。中に入ったらまた妖精達が何をしてきたのかとか聞いてきそうだけど。どう思う?」

「うーん、もう寝てるんじゃない?」

「マリーナの言うように、もう夜も遅いし起きている妖精の方が少ないと思うわよ? ……本当に、あの穢れの関係者は一体何でこんな夜にブレイズ達を襲撃したのかしら」


 ヴィヘラの疑問は、レイにとっても納得出来るものだった。

 そもそも何の為にあの男が森にやって来たのか。


「ちなみにだが、あの男が以前ニールセンの見た奴って訳じゃないんだよな?」


 念の為といった様子で尋ねるレイに、ニールセンはレイの右肩に着地してから頷く。


「そうね。私が見た男はあんなに背が高くなかったわ」

「だとすると、やっぱり別の奴か。……ニールセンが見た奴から、念の為に見てきて、もし森に誰かがいたら殺してくるように言われたとか?」

「もしレイの考えが正しいのなら、夜になってから襲撃したのは相手を効率よく殺す為かしら。日中は森の中に広がって行動していたんでしょう?」


 ヴィヘラの言葉にレイはなるほどと納得する。

 普通なら敵の戦力が纏まっているよりも、各個撃破するという意味で別行動をしている相手を次々と倒していくだろう。

 だが、穢れの関係者の場合は、そもそも普通の攻撃で穢れを殺すことが出来ない。

 つまり、相手が纏まっている方が効率的に敵を殺せるという意味で夜襲を選択してもおかしくはなかった。


「そうなると、俺達がいる時にちょうど襲撃したのが、あの男にとっての不運だったな」


 レイの呟きに、マリーナ、ヴィヘラ、ニールセン……更にはセトも走りながら頷く。

 もし今日この時ではなく、昨日、一昨日、もしくは明日レイ達がこの森からいなくなった後で襲撃をしたのなら、レイ達の邪魔がはいるようなことはなかっただろう。

 ブレイズ達も、今日から森の探索を始めた訳ではないのは、降り注ぐ春風と話した時に事情を聞いている。

 数日前から活動していたのだから、今日この時に襲撃をしたのは、あの男にとって本当に運が悪かったのは間違いない。

 そんな会話をしながらもセトは走り続け、やがて妖精郷の中に入る。

 降り注ぐ春風が認めているからこそ、レイ達は何の問題もなく妖精郷の中に入ることが出来るのだが、降り注ぐ春風の許可がないブレイズ達は、この妖精郷に入ることは勿論、その存在に気が付くようなことも出来ないだろう。


(そういう意味だと、あの穢れの関係者もこの妖精郷に気が付けなかったのは……それを知れば悔しいだろうな)


 穢れの関係者にとって、妖精の心臓というのは大きな意味を持つのはレイも知っている。

 それだけに、実は自分の近くに……いや、もっと言えば穢れの関係者の拠点となっていた山小屋からそう離れていない場所に妖精郷があったと知れば、悔しさに憤死してもおかしくはない。

 もっともレイにしてみれば穢れの関係者が憤死してくれるのなら、寧ろ願ったり叶ったりだったが。

 敵対している相手が自分から数を減らしてくれるのだから。


「あの男にとっての不運は、私達にとっての幸運でしょう? ……お陰で、私も穢れに対処出来るようになったのだから、感謝したいけど」


 そう言い、ヴィヘラは満面の笑みを浮かべてレイの背中を抱きしめる手に力を入れるのだった。

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