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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3258/3865

3258話

「好きラノ2022上」が開催されています。

2022年1月から6月まで発売された作品が対象で、レジェンドは18巻が対象となります。


今後の為にも投票してくれると助かります。


好きラノについての詳細は、以下のURLを参照して下さい。


https://lightnovel.jp/best/2022_01-06/


今日が最終日なので、よろしくお願いします。

 セトに乗ったレイとマリーナは、あっさりと村を出ることに成功する。

 正門……というより、正規の出入り口には一応見張りがいるものの、村に侵入してきた盗賊と同様にわざわざそのような場所を通る必要はない。

 レイとマリーナの二人を乗せていても、セトの持つ跳躍力があれば村を覆っている木の板を跳び越えるのは難しい話ではない。

 この辺りは非常に高い身体能力を持つセトだからこそ出来ることで、普通ならそう簡単に出来ることではなかった。

 村も、夜遅くということもあって既に大半の者達が眠っており、明かりのある家はない。

 これが、もう少し大きな村や街であれば、まだ起きている者もいるのかもしれないが。

 そのような小さな村だけに、レイ達は見付かることもないまま村から出ることに成功する。

 村から出て数分も走れば、目的の場所が見えてきた。


「あれね」


 レイの後ろでセトの背に横座りしているマリーナが、レイの背中に抱きつきながらそう言う。

 マリーナも夜目が利くので、それなりに離れた場所にある林を見つけるのは早い。


「ああ。見張りは……いないように見えるけど」


 小さいとはいえ、盗賊のアジトだ。

 ましてや、偵察として盗賊を一人村に送っている以上、もし見付かったらすぐに対応出来るように見張りの一人くらいはいてもおかしくはない。

 もしくは、偵察の男が戻ってきたらすぐにでも村を襲うつもりだった場合、襲撃の準備をしていてもおかしくはない。

 だというのに、次第に近付いてくる林にはどこにも見張りの姿がなかった。

 それがレイには疑問に思える。


「最低でも一人くらいは見張りがいてもおかしくはないと思うんだが」

「考えられる可能性としては、私やレイ、セトでも見抜くことが出来ないように上手く隠れているとか」

「それはないだろ」


 即座にマリーナの意見を否定するレイ。

 小さな盗賊団だけに、そんなに腕の立つ者がいるとは思えない。

 村にやって来た偵察が腕利きであれば、レイの感想も違ったかもしれないが。

 しかし、村にやってきた盗賊は偵察役は勿論、戦う者としても素人としか言えないような技量の持ち主だった

 そんな男を偵察として送ってくる以上、盗賊団が実は少数精鋭だという可能性は低い。

 絶対にないという訳ではないが、それでも可能性としてはまず考えなくてもいいだろう。


「多分、あの村が小さいから、自分達が見付かるようなことはまずないと思ってるんだろうな。もしくは見付かってもどうとでも対処出来ると考えているのか」

「なら、問題はないわね。そういう盗賊はさっさと倒してしまうに限るわ。……盗賊の討伐って、ギルムの冒険者だとあまり機会がないのよね」


 ギルドマスターをしていた時のことを思いだしたのか、マリーナがそんな風に呟く。

 後ろから聞こえてきたその声に、レイは以前のランクアップ試験の時のことを思い出す。


「ランクアップ試験で盗賊の討伐をやった覚えがあるけど?」

「その時の盗賊は、ギルムの近くじゃなかったでしょう? いえ、時々はギルムの周辺に来る盗賊もいるけど……」


 そこで言葉を切ったマリーナだったが、レイはその言葉の続きを容易に理解出来た。

 盗賊の中には自分達の実力を過信し、ギルム周辺にやって来る者もいる。

 だがそのような者達は、それこそ高ランクモンスターに襲撃されてあっさりと全滅してしまうのだろうと。

 最初のうちは、偶然にも高ランクモンスターと遭遇しないということもあるが、それでも辺境でギルムに入らず野営をしていれば、いずれ高ランクモンスターと遭遇するのは避けられない。

 そうなれば結局は全滅してしまう。

 これが本当に強い盗賊団であれば、ギルム周辺で活動出来るかもしれない。

 しかしそうなれば、当然だがギルムの冒険者に討伐の依頼が出る。

 モンスターを相手にしては何とか勝つことが出来るかもしれないが、腕利きの冒険者と遭遇するようなことになったら、盗賊団が生き残るのは難しい。

 総じてギルム周辺において盗賊団が生き残って活動を続けるのは、何らかの特別なスキルやマジックアイテムといったものがない限り難しいのだ。


「ギルムの盗賊事情はこの辺で置いておくとして、今はまず林にいる盗賊団を倒すとするか。マリーナは援護を頼む。……そこまでの相手とは思えないけどな」


 レイの認識では、これから攻撃すべき盗賊は決して強くない。

 そんな相手に異名持ちのランクA冒険者のレイと、グリフォンのセトが襲撃するのだ。

 マリーナの援護どころか、レイとセトのどちらかで十分対処出来るだろう。

 寧ろレイやセトがおらず、援護役のマリーナだけで十分に盗賊達を討伐出来る。

 そんな者達を相手にするだけに、レイとしてはマリーナの援護は過剰だと思えるのだが、援護をしなければ何故マリーナが来たのかということになってしまう。

 ……マリーナとしては、レイと夜のデートをするくらいの気持ちだったのだが。


「じゃあ、さっさと終わらせましょうか。明日は村を早く発ちたいし」


 マリーナの言葉に頷き、レイはセトを撫でながら口を開く。


「セトもそこまで必死に頑張る必要はないけど、林から盗賊を逃がさないようにしてくれ」

「グルゥ!」


 レイの言葉に任せてと喉を鳴らすセト。

 そうしてレイ達は林に近付いていくが……


「やっぱり見張りはいないか」


 遠くから見て見張りがいないというのは分かっていた。

 分かっていたが、それでも実は……という可能性を考えてはいたのだ。

 しかしこうして林に近付いても本当に見張りがいないことに驚き、呆れ、いっそ笑いすら湧き上がってくる。

 盗賊という他人を襲い、冒険者に襲われるだろう者達なのに、全く警戒をしていないとはと。

 発作的に湧き上がってきた笑いを堪えつつ、レイはセトの背から降りると林の中に入っていく。

 マリーナは林の外でいつでも精霊魔法を使える準備をしており、セトはレイとは違う方向から林の中に入っていく。

 いつもであれば、レイはデスサイズと黄昏の槍を手にして敵と戦う。

 しかし、今回はそこまでする相手ではないという確信があったので、素手だ。

 レイの実力なら、林の中でも長物の武器を使うのは難しくはない。

 それこそ最悪の場合、デスサイズや黄昏の槍で周囲の木々を切断しつつ攻撃するといった真似も出来るのだから。

 だが、この林はあの村にとって子供の遊び場であり、山菜や木の実、果実といった食料や薬草の類を手に入れる場所でもある。

 林の規模が規模なので、食料の類が潤沢にある訳ではないが、それでも村にとってこの林は必要な場所だろう。

 だからこそレイとしてはこの林の木々を無駄に傷付けるような真似は避けたかった。

 木々の間を縫うように移動しつつ、盗賊のいる場所を捜す。

 林は小さく、レイの五感はセト程ではなくても十分に鋭い。

 林の中に入って数分も経たないうちに、自分やマリーナ、セト以外の者の声を聞き取る。

 聞こえてきたのは、笑い声。


(笑い声? ……おい、まさか……)


 微妙に嫌な予感を覚えつつ、声の聞こえてくる方に進むと……そこでは五人の男達が酒盛りを行っていた。


(嘘だろ)


 偵察にやって来たのが雑魚だった。

 アジトとして使っている林には見張りの一人も置いていない。

 その上で、盗賊達がやっているのが酒盛りだ。

 盗賊の割には何故ここまでやる気がない?

 そんな疑問をレイが抱いてもおかしくはない。

 酒盛りをしている盗賊達に呆れつつも、それでもこの場から帰る訳にはいかない。

 視線の先にいるのが盗賊である以上、ここで倒さないという選択肢はないのだ。


(とはいえ、ここまで警戒心のない相手だと、殺すのはちょっとどうかと思ってしまうな。だからといって捕らえても、結局のところ殺すようなことになるんだろうし。……実はこの連中、盗賊じゃないとか、そういう可能性はないよな?)


 周囲の警戒もせずに酒盛りをしている相手を見ると、もしかしたら……本当にもしかしたら、盗賊ではなく冒険者や商人の類ではないのかと疑問を持ってしまう。

 それが半ば現実逃避に近いと知りつつも、そう思ってしまった以上は万が一の事態を考えて歩いていく。

 冬ということで大半の木々は枯れているが、幾つか生えたままの茂みもある。

 枯れている木々をへし折る音を立てながらレイは進むのだが、男達は酒盛りに夢中になっている為か、レイの存在に全く気が付いた様子はない。

 これはもしかして本当に盗賊ではないのか?

 そう考えたレイだったが、酒盛りをしている男達の側に斧が置かれているのを見れば、やはり盗賊だろうと判断する。

 斧を持っているから盗賊というのは短絡的な判断ではあったものの、それでもこの状況から考えて……そして村に偵察に来た男が持っていた斧の件もあって、盗賊であるのは間違いないと思えた。


「ちょっといいか?」


 酒盛りをしている場所に大分近付いても男達が全く自分に気が付いた様子がなかったので、レイは渋々といった様子で声を掛ける。


「なんだ、てめえ」


 酒盛りをしていた男の一人が、近付いて来たレイに向かって威嚇するような声を返す。

 男にしてみれば、酒盛りを邪魔したレイに不満を持っているのだろう。

 レイを睨み付けながら、近くに置いてある斧に手を伸ばす。

 その動きを見つつも、レイは特に気にした様子もなく……それこそ、全く気が付いた様子を見せずに口を開く。


「ちょっと聞きたいことがあってな」

「……何者だ、てめえ」


 斧を手にした自分を見ても特に緊張した様子を見せないレイに対し、多少の警戒を滲ませながら男が言う。

 そんな男の言葉に、他の四人もそれぞれ自分の斧に手を伸ばしていた。


「通りすがりの冒険者だよ。それで、お前達は盗賊か?」

「冒険者、だと?」


 冒険者という言葉に男達の警戒は増す。

 盗賊であれば、冒険者を警戒するのは当然だろう。

 もっとも、レイの外見を見れば決して強そうには思えない。

 ……盗賊達に相手の実力を見抜く目があれば、レイがどれだけの力を持っているのか分かっただろう。

 だが、そのような実力を見抜く目がなければレイはとてもではないが強そうには思えない。

 それでもレイが冒険者ということで、幾らか警戒するのは盗賊だからこそなのだろう。


「ああ、冒険者だ。で? 俺はお前達の質問に答えたぞ。次はお前達が俺の質問に答えてくれてもいいんじゃないか?」


 改めて尋ねるレイに、男達は目を会わせて立ち上がる。


(あ、これ駄目だな)


 男達の様子にそう予想するレイ。

 その予想を裏付けるかのように、男達はレイに向かって近付くと……一斉に斧を振り上げる。


「俺達は盗賊だよ!」


 その言葉と共に振り下ろされる斧。

 ただし、五人という人数にも関わらずレイを囲むといったような真似はしない。

 その結果として、きちんとレイに攻撃出来たのは三人だけだった。

 レイはその一撃を後ろに跳ぶことで回避する。

 振り下ろされた斧は、そのどれもが決して素早いものではない。

 もしこれが相応の実力を持っている者なら、より速度のある一撃を放っただろう。

 単純に腕力だけで振るっているので、どうしても斧の一撃はそこまでの威力や速度を出せない。

 男の攻撃が自分の目の前を通りすぎたのを確認したレイは、即座に地面を蹴って前に出ると斧を振るった男の中でも一番近くにいる相手の懐に潜り込んで拳を振るう。

 酒盛りだったからか、それとも元からなのかはともかく、盗賊が着ていたのは鎧の類ではなく毛皮の服だ。

 防具としての鎧ではなく、ただの衣服。

 そのような服でレイの一撃に耐え切れる筈もなく、心臓を思い切り殴られた男は口から血を吐いて地面に崩れ落ちる。

 他の四人が自分達の仲間が死んだと理解するよりも早くレイは次の行動に移る。

 何が起きたのか、驚きで理解出来ないでいる盗賊の一人の首に向かって蹴りを放つ。

 その一撃は容易に首の骨を折り、続けて右手で腰のネブラの瞳を起動して、残り三人のうちの一人に向けて鏃を投擲する。


「ぎゃっ!」


 眼球に突き刺さった鏃に、反射的に悲鳴を上げる男。

 ダメージそのものは致命傷という訳ではないが、覚悟もろくに決まっていない盗賊が眼球を貫かれるようなダメージを受けたのだ。これ以上まともに戦うといった真似は出来ないだろう。


(残り二人。……余裕だな)


 そんな風に考えている間もレイの身体の動きが止まることはない。

 地面を軽く蹴って跳び、仲間が次々に倒されている光景に何が起きたのか理解出来ない残り二人のうちの一人の頭部を蹴る。

 スレイプニルの靴を通じて伝わってくる、頭蓋骨を砕いた感触。

 そして最後の一人になったところで、向こうもレイが外見通りの存在ではないと判断したのだろう。

 斧を捨て、一目散に逃げ出そうとするも……


「うわぁっ!」


 マリーナの精霊魔法によって土が足に絡みつき、その場で転ぶ。

 そして男を逃がさないようにセトが姿を現し……その前足の一撃で男の命を奪うのだった。

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― 新着の感想 ―
いつのまにかセトに大人2人乗れるようになってる
[一言] 容赦ないっすな。
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