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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3253/3865

3253話

「好きラノ2022上」が開催されています。

2022年1月から6月まで発売された作品が対象で、レジェンドは18巻が対象となります。

投票期限は7月17日(日)までとなります。


今後の為にも投票してくれると助かります。


好きラノについての詳細は、以下のURLを参照して下さい。


https://lightnovel.jp/best/2022_01-06/

 昼食を終えると、レイ達は再び空を移動する。

 そのまま特に何もない時間が流れ……やがて午後四時くらいになると、すでに日は半ば沈んでいた。


「敵が出て来ないのは助かったけど、それでも日が沈むのが早いのはちょっと困るな」

「そうね。でも冬なんだからしょうがないと思うわよ?」


 セトの背の上でレイとニールセンがそのような会話を交わしていると……


「グルルルルゥ!」


 不意にセトが喉を鳴らす。


「ちょっと、もしかしてモンスターが出たとか、そういうことじゃないわよね?」


 セトの鳴き声を聞いたニールセンがレイにそう尋ねるものの、レイはそれに対して首を横に振る。


「いや、セトのこの鳴き声の様子からすると、そういう感じじゃない。もっと他の何かだ。……ああ、あれだな」


 セトとの付き合いが長いレイは、その鳴き声で大体の意味を理解することが出来る。

 今の鳴き声は敵を見つけたという警戒の鳴き声ではない。

 そんなセトが何を見たのかは、もう数分セトが飛び続けたことでレイにも理解出来た。


「村か」


 そんなに大きくはない村が、既に暮れそうになっている日の中にあるのをレイは見つける。


「あれ? 村ってあったかしら? ……もしかして、ちょっと移動する方向がずれてるかも」


 ニールセンは以前降り注ぐ春風の治める妖精郷に向かう時、村の近くを通ることはなかった。

 それだけに、今こうして視線の先に村があるというのは疑問を抱いてしまう。

 自分達が通った時になかった村なのだから、道に迷ってしまったのかも? と疑問に思ってもおかしくはない。

 そもそも、空を飛ぶというのは街道や踏み固めた道を移動するのと違って、目印らしい目印はない。

 いや、全く目印がない訳ではない。

 地上にある岩や川、湖、山、丘……そのようなものを目印にすることは出来る。

 だがしかし、それでも地上を移動するよりはどうしても目印が少なくなってしまう。

 おまけに今回はともかく、レイとセトだけで移動している場合は双方共に微妙に方向音痴気味だったりするので、余計に道に迷いやすくなってくる。


「大丈夫か?」

「それは……きっと大丈夫よ。いざとなったら、妖精の力でどうにかするわ!」

「いや、妖精の力ってなんだよ」


 そう突っ込むレイだったが、もしかしたら妖精には仲間がどこにいるのかを察知したり、近くの妖精郷の位置を把握したりといったような真似が出来てもおかしくはないと思い直す。


「なら任せるけど……とにかく丁度いいし、今日はあの村に泊まるとしよう。ニールセンもそれでいいよな?」

「いいけど……それだと、私は外に出られないんでしょう?」

「そうなるな。宿があれば、部屋の中でなら自由にしてもいいけど。ただ、あの規模の村だと宿屋とかはちょっと期待出来そうにないな」


 視線の先にあるのは、本当に小さな村だ。

 住人の数も、百人はいないだろう。

 それどころか、五十人……いや、三十人にも達していないかもしれない。

 それだけの小さい村である以上、宿屋がない可能性は十分にあった。

 小さな村であれば、それこそ宿屋があっても訪れる者が少なく、意味がないということもあるのだから。

 そういう場合は、基本的に村長の家に泊まったり、あるいは村人に金を払って泊めて貰ったりする。

 レイとしては、そこまでするのならいっそマジックテントの方がいいのでは? と思わないでもなかったが。


「取りあえず村に降りるか。具体的にどうするのかは、村で話を聞いてからにした方がいいだろうし」

「グルゥ!」


 レイの言葉を聞いたセトは、地上に向かって降下していく。


「セト籠は村の外に下ろしてくれ。いきなり村の中にセト籠を置いたりしたら、村の連中を混乱させるかもしれないし」

「グルルゥ」


 レイの言葉に分かっていると喉を鳴らすセト。

 実際、セトが降下していく場所は村の中ではなく村の外だ。


(夜の見張りをやる兵士とか、そういうのは……いるのか?)


 辺境やその周辺であれば、夜の見張りというのは必須だ。

 また、それ以外の場所でもモンスターはともかく、盗賊の襲撃を警戒するので見張りは必須となる。

 これがもっと規模の大きな街とかになれば、夜中にこっそりと街に入ってきたりする相手を警戒したり、もしくは出ていく相手を警戒したりといったこともする必要があった。

 しかし、急速に近付いてくる小さな村はどうか。

 近くに山や森の類はないので、獣が夜に侵入してくるといった心配はそこまでしなくてもいいだろう。

 だが、ゴブリンやコボルト、オークといったモンスターは辺境以外の場所でも普通に存在する。

 それだけに、幾ら小さな村であっても見張りがいないというのは不味いことなのは間違いなかった。

 そうして考えている間に、セトが持っていたセト籠を地上に降ろす。

 どん、という音が周囲に響く。

 村から少し離れた場所にセト籠を置いたのだが、それでもその音が村まで聞こえたのは間違いない。

 これが真夜中なら、眠っているのでその音を聞き逃す者もいたかもしれないが、今はまだ午後四時すぎだ。

 夕食を食べていたり、その準備をしていたりしている者達が多い以上、今の音を聞き逃すといったことはまずないだろう。


(さて、これで村の方がどんな反応をするかだな。出来れば友好的に接してくれるといいんだが)


 そう考えている間に、セト籠を降ろしたセトは再び上空まで高度を取ると、地上に向かって降下していく。

 特に何の問題もなく地上に降下したセトの背からレイが降りると、セト籠のある方に向かって歩き出す。


「レイ、今日はここで野営?」


 レイが到着するよりも前にセト籠から出て来たヴィヘラの問いに、レイは首を横に振る。


「いや、ここじゃなくて……ほら、あそこだ」


 レイの示した方に視線を向けたヴィヘラは、そこに村があるのを確認する。


「ああ、村があるのね。あの村に泊まるの?」

「村に宿屋があればそうするつもりだ。ない場合は……最悪、マジックテントだな」

「マジックテントを最悪という表現で使うのは、普通の冒険者に喧嘩を売ってるようなものよ?」


 ヴィヘラに続いてセト籠から出て来たマリーナが、笑みを浮かべてそう言う。

 実際、その言葉はそれ程間違ってはいない。

 普通の冒険者が野営をする時は、精々がテントだ。

 大抵の場合は焚き火の周辺の地面に寝転がって眠る。

 テントの中で寝るのは地面で寝るよりは快適だが、いざ襲撃された時の対処が難しくなるので、それなりに余裕がある時でなければ使われない。

 そのような者達にしてみれば、レイの使っているマジックテントは非常に羨ましい代物だろう。

 ……もっとも、マジックテントはテントよりも更に外の様子を確認は出来ないのだが。

 ただし、レイの場合は相棒のセトがいる。

 マジックテントに敵意を抱いた者が近付いてきても、セトがいる以上はマジックテントにいるレイ達に危害を加えるような真似は出来ないだろう。


「ねぇ、レイ。誰か来たわよ」


 レイがマリーナやヴィヘラと話をしていると、ニールセンがそう声を掛けてくる。

 その声にレイが村のある方に視線を向けると、そこには確かに数人が村から出てレイ達のいる方に向かってくる様子があった。


「そうみたいだな。……ニールセン」

「分かってるわよ。出来れば宿があって欲しいけど」


 そう言いながら、ニールセンはドラゴンローブの中に入る。

 セトの体毛の中に入るのではなくレイのドラゴンローブの中に入ったのは、冬の夜ということで寒いからか。

 暖かいという意味では、セトの体毛に包まっても十分なのだが。

 ただ、それでもニールセンにとってはドラゴンローブの方が快適だと考えたのだろう。

 ニールセンがドラゴンローブの中に入ったのを確認すると、レイはマリーナとヴィヘラに視線を向ける。


「さて、どうなると思う?」

「そうね。あの村は……遠くから見る限りだと小さいように見えるけど」

「そうだな。住人はかなり少ないと思う」


 マリーナはレイの言葉を聞いて納得するように頷く。


「そうなると、宿とかには期待しない方がいいわね」

「じゃあ、レイのマジックテント? それでも私はいいけど」

「ヴィヘラの言う通りマジックテントを使うのなら、いっそ村から離れた場所の方がいいかもしれないわね。あの村の人にとっても私達のような見知らぬ相手が村の近くで野営をするのはあまり好ましくないでしょうし……それに、小さい村だと村長が強権を持ってる時があるから、そうなるとちょっと困るわ」

「あー……うん、だろうな」


 女の艶を強烈に滲ませる、胸元が大きく開いたパーティドレスを身に纏っているマリーナと、向こう側が透けて見えるような踊り子や娼婦が着るような服を着ているヴィヘラ。

 双方共に歴史上稀に見る美人だ。

 そしてレイの相棒のセトは高ランクモンスターとして名高い。

 狭い村の中で我が儘放題に育ってきた人物がいた場合、そんなレイ達に目を付けないとは思えない。

 そのような面倒なことは出来れば遠慮したい。

 そう思いながら、近付いてくる村人達を見る。

 既に完全に日は暮れているが、夜目の利くレイはしっかりと相手を認識出来る。

 未知の存在に対する警戒の為だろう。

 近付いてくる数人は槍を持っているものの、とてもではないが扱い慣れているとは思えなかった。


「そ、その……お前達は誰だ?」


 近付いて来た村人の一人が、恐る恐るといった様子でレイに声を掛ける。

 そこにはレイ達に危害を加えるといったような色はなく、ひとまず安心しながら口を開く。


「俺達はギルムの冒険者だ。旅の途中でそろそろ泊まる場所を探している時にあんた達の村を見つけたんだ。あんた達の村に宿はあるか?」


 レイの言葉に、近付いて来た村人達は少しだけ安心した様子を見せる。

 もし自分が盗賊で嘘を吐いていたらどうするのかと、そうレイは思ったものの、今ここでそのようなことを言えば、相手が再び警戒するかもしれないと、黙っておく。

 レイと話していた村人は、安心した様子で口を開く。


「いや、ないな。行商人が来た時は村長の家に泊まってるけど」

「やっぱりか」


 予想はしていたが、その予想が当たって嬉しいかと言えば微妙なところだろう。

 どうする?

 村に宿がないと聞いたマリーナが、レイに視線で聞いてくる。

 そんな光景は、傍から見た場合は目と目で通じ合っているようにも思え……やって来た何人かの村人は、マリーナのような美女とそんな関係になっているのだろうレイに嫉妬の視線を向けていた。

 レイもそんな相手の視線に気が付いてはいたものの、この手の視線はレイにしてみればマリーナ達と行動をしている以上は決して逃れることが出来ないものだ。

 それを知っているので、その視線をスルーし……


「村長の家に泊まらせて貰うことは出来るか? 勿論、ただでとは言わない。相応の代金は支払う」

「うーん、今までにも同じようなことがあったから、多分大丈夫だとは思うけど……」


 そこまで口にしたものの、レイと話していた男はセトに視線を向ける。

 その視線には、何とか隠そうとしているものの、隠しきれないような恐怖の色が宿っていた。

 セトについて知っていれば、そんなに怖がるようなことはない。

 しかし、それはあくまでもセトについて知っていればだ。

 具体的には、セトをマスコットキャラのように思っているギルムの者達がその典型的な例だろう。

 だが、ここはギルムではない。

 小さな……あまり人がやって来るようにも思えないような小さな村なのだ。

 そうである以上、村人達にしてみれば体長三m以上のグリフォンのセトは、恐怖以外のなにものでもない。

 今はこうして怖がっているものの、数日……場合によっては数時間セトと一緒にすごすだけで、受ける印象は大きく変わってくる。

 だが今回の場合、その数日という時間が問題なのだ。

 ここで一晩泊まり、それが終わればもう出発するのだから、数日のセトに慣れる時間というのは存在しない。


「分かった。なら、俺とセトは外で……」

「それなら私達もそうした方がいいんじゃない?」


 レイが最後まで言うよりも早く、ヴィヘラが言う。

 そんなヴィヘラの言葉に、マリーナも頷く。


「そうね。そうした方がいいかもしれないわね」


 ヴィヘラとマリーナがそのように言ったのは、ここでレイと離れて自分達だけで村長の家に泊まったら、妙な面倒がおきるかもしれないと考えたからだ。

 レイがいれば、男も一緒にいるからということで妙な考えをする者も少ないだろう。

 だが、女が二人だけ……それもとびきりの美女となれば、妙な考えを起こす者が出ないとも限らない。

 その為に、こうしてレイと一緒に外で野営をした方がいいと判断するが……そんなレイ達の様子に、村人達は戸惑うのだった。

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