3251話
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指輪を見つけた翌日……レイの姿は、マリーナの家にあった。
「じゃあ、準備はいいか? ……まぁ、基本的に荷物の類は俺が持っていくから、問題はないんだが」
「レイがいると本当に便利よね」
レイの言葉に、しみじみとマリーナが同意する。
ギルドマスターになる前は冒険者だっただけに、荷物の運搬については色々と苦労したことがあるのだろう。
それなりのランクになって金に余裕が出来れば、荷物を運ぶ為の馬車や、それを牽く馬を買ったりすることも出来るだろうが、冒険者になったばかりの新人ではとてもではないがそんな余裕はない。
あるいは馬車や馬を買っても、それを維持するのに相応の金額が必要となるし、宿も厩舎のある場所しか泊まれなくなるなど、色々と問題がある。
そういう意味では同じく冒険者のヴィヘラやビューネも同様だったりする。
もっとも、今ではレイがいるのでその辺の心配をしなくてもいいのだが。
「荷物の運搬については任せてくれ。……その代わり、道案内はニールセンに頼むことになるんだが……大丈夫か?」
「大丈夫に決まってるでしょ! 一回行った場所なんだから、しっかりと覚えてるわよ!」
自信満々といった様子のニールセン。
そんなニールセンにレイは頷く。
「ニールセンがそこまで自信満々なら、多分問題はないだろ。……じゃあ、そろそろ行くか。エレーナ、ミスリルの結界があるから大丈夫だとは思うけど、もし万が一トレントの森で何かあったら、対処を頼む」
「任せて欲しい。……ただし、私が竜言語魔法で対処する場合、トレントの森にもそれなりに被害が出るのを忘れないで貰いたいが」
レイの攻撃範囲を限定した魔法や炎獄と違い、エレーナの竜言語魔法によるレーザーブレスはどうしても周囲に大きな被害をもたらす。
場合によっては、その魔法によって予想以上の範囲に被害が及ぶ可能性も否定は出来ない。
レイはそれを知っているが、だからといってそのような手段でなければ穢れに対処出来ない以上、仕方がない。
「一応、ダスカー様が他の冒険者……特に高ランク冒険者に打診してみるとは言ってたけどな」
それが功を奏するのかどうか、生憎とレイには分からない。
レイもギルムにいる高ランク冒険者や異名持ちに何人か知り合いがいるが、そのような者達でどうにか出来るかと言われれば、微妙なところだろう。
(エルク辺りがいれば、どうにかなりそうなんだけどな)
ランクAパーティ『雷神の斧』に所属し、そのままパーティ名の雷神の斧が異名ともなっているエルク。
だが、そのエルクは現在ベスティア帝国の内乱の影響で昏睡状態だったが何とかそれを回復させたロドスの静養の為にギルムを出ている。
いつ戻ってくるのか分からず、連絡をつけることも出来ない相手を頼る訳にはいかない。
「いざという時はやっぱりエレーナに頼るしかないな」
「……レイがそう言うのなら、私も出来る限りやらせて貰おう」
レイに頼られたのが嬉しかったのか、エレーナは黄金の髪を掻き上げるようにしながらそう言う。
薄らと頬が赤くなっているのだが、そこに突っ込むような者はいない。
「話は決まったな。じゃあ、行くか。……ニールセンは道案内をするから、俺と一緒にセトに乗る。マリーナとヴィヘラの二人は、セト籠。これでいいよな?」
確認の為に尋ねるレイに、誰も反対の言葉は口にしない。
レイの提案が最善なのだと、話を聞いていた者達も十分に理解していたのだろう。
「ん……」
そんな中で、唯一反対ではないにしろ、不満そうな様子を見せるのはビューネ。
ビューネにしてみれば、一番懐いているヴィヘラが自分と別行動を取るのが不満なのだろう。
かといって、穢れの関係者の拠点という非常に危険な場所に行く以上、未熟なビューネを連れていく訳にいかないのも事実。
ビューネは盗賊としては平均以上の実力を持っているし、純粋な戦闘技術という意味では外見からはとてもではないが想像出来ない程の実力を持つ。
だが……それでも、穢れの関係者の拠点という何があるのか分からない場所での行動となると、対処出来るかどうかは微妙だろう。
盗賊の中では高い戦闘技術を持つとはいえ、それはあくまでも盗賊の中での話だ。
超一流の域にいるヴィヘラとは比べものにならないし、マリーナのように精霊魔法や弓を使える訳でもない。
盗賊としての技術はあれば嬉しいが、その辺はレイ達でも何とかなる。
そんな訳で、今回ビューネは留守番となる。
「ほら、ビューネ。もう納得したことでしょう?」
ビューネの様子を見たヴィヘラが、落ち着かせるように言う。
ヴィヘラに撫でられている時は微かに……本当に微かに目を細めるビューネだったが、それで納得した訳でもない。
「悪いな、ビューネ。今回の件はお前には荷が重い。もしお前に何かあったら、それこそ大変なことになるのは分かるだろう?」
ギルムにおいては、ビューネはあくまでも一人の冒険者でしかない。
しかし、ビューネの地元……迷宮都市に戻れば、ビューネはそこを代表する者の一人なのだ。
……だからこそ、ビューネを危険な目に遭わせる訳にはいかない。
もっとも、冒険者として活動する以上は、どうしても相応の危険は乗り越えないといけないのだが。
「ん」
レイの言葉に完全に納得した訳ではないのだろうが、ここで自分が我が儘を言っても意味はないと判断したのか、やがてビューネの口から一言だけ言葉が漏れる。
その言葉の意味を何となくだが理解したレイは、ビューネに向かって頷く。
「悪いな。次があったら……そしてビューネがその時に相応しい実力を持っていたら一緒に行って貰うよ」
そう言いつつ、レイはミスティリングの中からセト籠を取り出す。
突然姿を現したその大きさは、恐らくマリーナの家の周囲で見張っている者達にも見えているだろう。
もっとも、セト籠を見たところで見張っている者達がどうにか出来る訳でもないのだが。
「じゃあ、行くぞ。マリーナとヴィヘラはセト籠に入ってくれ。ニールセンはさっきも言ったけど俺と一緒にな。セト、準備はいいか?」
指示を出しながら、レイはセトの背に乗る。
ニールセンも既に移動するのは慣れたものと、レイの右肩に立つ。
エレーナやアーラ、ビューネはセト籠の邪魔にならないようにと距離を取り、マリーナとヴィヘラはセト籠に乗り込んだ。
そうして完全に準備が終わったところで……
「じゃあ、エレーナ。ちょっと行ってくる」
そう言い、セトの首の後を軽く叩いて合図を出す。
セトは数歩の助走で翼を羽ばたかせながら空に舞う。
マリーナの家の上空まで飛ぶと、今度は反転して地上に向かって降下を始めた。
「グルルルルルゥ!」
そんな鳴き声を発しながら、セト籠の頂上部分を掴み……再び上空に向かって翼を羽ばたかせる。
セトの背の上から、レイは改めて地上を眺めた。
まだ午前中ということもあり、何よりも冬になったということもあって、外に出ている人数は多くない。
……実際には、以前までであれば結構な数と認識出来たのだろう。
だが、ここ数年はギルムの増築工事を行う為に多くの者が集まってきていた。
そのような状況で空を飛ぶことが多いレイだっただけに、どうしても地上の様子はそのような状況に慣れていたのだ。
「まぁ、それを気にしても仕方がないか。……セト、行くぞ」
「グルルルゥ!」
レイの言葉に、セトは鳴き声を上げてその場から出発するのだった。
「ニールセン、最初は街道沿いでいいんだよな?」
「そうよ。ただ、途中で敵が襲ってくるかもしれないから、気を付けてね。……まぁ、レイやセトがいるんだから、心配したりしなくてもいいと思うけど」
レイやセトの強さを知っているニールセンにしてみれば、もしモンスターが襲ってきてもどうとでも対処出来るだろうと予想していた。
それこそ、以前遭遇した巨大な鳥のモンスターと遭遇しても、レイやセトならどうとでもなると思える。
レイはともかく、セトはセト籠を持っているので実力を完全に発揮するといった真似は出来ないのだが。
それでも何とかなるだろうと思えるくらいに、ニールセンはレイとセトの能力を信じていた。
「未知のモンスターが出て来るのなら、俺としては願ったり叶ったりなんだけどな」
「それ、レイだから言えることよ?」
呆れた様子のニールセン。
ニールセンも妖精としては長には及ばずとも、かなりの力を持つ。
だが、そんなニールセンであっても以前遭遇した巨大な鳥のモンスターを相手に勝てるとは思えない。
そのようなモンスターとは遭遇したくないというのが正直なところだった。
「あ、ちょっと方向がずれてるわね。セト、右の方に少しだけ移動して」
「グルゥ」
空を飛びながら、セトに指示を出すニールセン。
セトも大人しくそんなニールセンの指示を聞いて移動する。
「そうそう。そんな感じ。……それにしても、やっぱりセトって速いわね。私達が移動した時と比べると、速度が圧倒的だわ」
ニールセン達が以前穢れの関係者の拠点……というより、降り注ぐ春風が治める妖精郷に行った時は、途中で何度も野営をすることになった。
だが、セトの飛行速度はニールセン達とは比べものにならない程に速い。
それこそ今日中に到着するのは無理だろうが、それでも一泊程度で到着するのではないかと思えてしまう。
「昼はどの辺りで休めばいい? どこかお勧めの場所ってあるか?」
レイのその問いに、ニールセンは呆れながらも口を開く。
「あのねぇ、以前私達が移動した時と比べて、セトの飛行速度はもの凄く速いのよ? 私達が休憩した場所で休憩なんか、出来る訳がないでしょうに」
「そうか? その辺は実際に飛んでみないと分からないと思うけどな。例えばニールセンが二日目に休憩した場所がセトの速度なら今日の昼に到着してそこで休むとか出来るかもしれないし」
「それは……まぁ、そう言われるとそうかもしれないけど、そんなに上手くいくと思うの?」
「どうだろうな。実際にやってみないと、その辺については何とも言えない。もしかしたら上手くいくかもしれないし、失敗するかもしれない。そうなったらそうなった時だろ」
もしニールセンが野営をした場所で無理なら、もっと別の場所で野営をすればいい。
もしくは、どこかに村や街があるのなら、そこの宿に泊まればいいのだ。
……セトが入れるような厩舎があるかどうかは、微妙なところだったが。
そうなれば、最悪セトは厩舎ではなく村や街の外で夜を明かすという方法もある。
真冬の吹雪の中でも、セトは普通に夜を越せるだけの能力があるのだから、今のような気温なら普通に外で寝るという事も出来たりする。
そうレイが説明すると、ニールセンは恨めしそうな表情を浮かべて口を開く。
「ずるい。私達は村とか街に入るなんてことは出来なかったのに」
「それは……しょうがないだろ」
レイやマリーナ、ヴィヘラといった面々がいる今回と違い、以前は妖精のニールセン、ドラゴンの子供のイエロ、ハーピーのドッティという組み合わせだったのだ。
もしそのような面子で村や街に入ったりすれば、騒動になるのは間違いないだろう。
ハーピーのドッティはともかく、妖精のニールセンやドラゴンの子供のイエロは、それこそ捕らえることが出来れば一攫千金なのだから。
ニールセンもレイの言いたいことは十分に理解しているのだろう。
だがそれでも、自分達が非常に苦労したことを思えば、不満に思ってしまうのは仕方がない。
「うー……」
可愛らしく唸り、頬を膨らませてレイを見るニールセン。
だが、そんな視線を向けられても、それでレイがどうにか出来る筈もない。
「ニールセンが羨ましいと思うから、村とか街があってもそこで寝泊まりしないで、野営をした方がいいのか?」
「それは……別にそういうつもりじゃないけど」
レイの言葉にニールセンは不満そうにしながらも否定する。
レイとしては、マジックテントがある以上はどうしても村や街で寝なくてもいいと思っている。
それこそマジックテントは、その辺の村にある宿屋より余程快適なのだから。
今はマリーナとヴィヘラが一緒にいるので、その辺をどうするかという問題もあるが。
「なら、村や街があったら、そこの宿を使うということでいいな? ……都合よく村や街があるかどうかは、微妙なところだけど」
レイの言葉に、完全ではないにしろ頷くニールセン。
ニールセンにしてみれば、村や街に入ればそこで何か美味い料理……あるいは名物料理を食べられるかもしれないという期待があったのも間違いないだろう。
不承不承と――内心は楽しみに思いながら――頷くのだった。