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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3236/3865

3236話

 リザードマンが穏やかな性格をしており、自分から人に危害を加えることはない。

 そのように言われたグリムアースは、その言葉を信じてもいいのかどうか分からないといった微妙な表情を浮かべる。

 いや、寧ろその表情は微妙ではなく胡散臭いといった表現の方が相応しいだろう。

 このままだとグリムアースがフラットに向かってふざけるなといったように怒鳴るのではないか。

 そう心配したレイは、グリムアースが爆発するよりも前に口を挟む。


「フラットの言ってることは真実だ。そのリザードマンは温厚な性格をしてる……というのは少し違うかもしれないが、こっちから手を出さない限りは攻撃したりといった真似はしない」


 フラットの説明と少し違うレイの説明。

 そんな説明に、フラットはもう少し穏やかな表現をしろと視線で言う。

 ただ、ガガを知っているレイにしてみれば、フラットの言うように穏やかな性格をしているというのは、とてもではないが正しいとは思えなかった。

 また、もし間違った知識を持ってガガ達に会うようなことになった場合、それを信じたグリムアースによって最悪の結果が待ってる可能性もある。

 そういう意味では、前もってガガを始めとしたリザードマンの性質についても話しておいた方がいいだろうというのがレイの考えだった。


「彼はこう言ってるが、本当はどうなんだ?」

「こちらから危害を加えない限り安心なのは間違いありません。ただ、この野営地の近くにいるリザードマンは武闘派というか、強者を尊敬する性質を持っているのは間違いないです」

「それは……本当に安心な相手なのか?」

「強者を尊敬するだけあって、相手の強さが多少は影響してくると思いますが、基本的には心配はいらないかと」

「……ひとまず、君の言葉を信じよう。それで、私の子供を助けてくれたのは、本当にそのリザードマンで間違いはないんだね?」

「レイ」


 グリムアースの問いに、フラットはレイの名前を呼ぶ。

 お前が助けたのだから、お前が答えろと。

 そんなフラットの視線に押されるように、レイは頷く。


「そうなる。俺はあくまでも赤ん坊を助けたリザードマンに呼ばれて、どうしたらいいのかと相談を受けただけだ。結果的に赤ん坊はフラットを通してダスカー様に預けたが」

「それについては知っている。……ダスカー様からすぐに私の家に連絡があったのでな」

「……ちなみに、何でグリムアースの子供だと分かったのかというのは、聞いてもいいのか? 赤ん坊というのは、基本的に小さい頃は大きな違いはないし。いやまぁ、髪の毛の色とかそういうので見分けたのかもしれないが」


 そう自分で口にして、レイは改めてグリムアースの髪を見る。

 その髪の色は薄い茶色で、赤ん坊と同じ色だ。

 それだけを見ても、赤ん坊とグリムアースが親子だと言われれば、それなりに納得が出来る理由ではあった。

 ……もっとも、まだ気絶したままのグリムアースの妻の髪は薄い緑なので、子供にそちらの影響は出ていないというのが少し疑問だったが。


「肌着の家紋で私の家の者だと判断したのだろう。お陰で、あの子が届けられてからすぐに私の家に確認の者が来た。……もっとも、当時はそれどころではなかったのだが」

「それは……いやまぁ、仕方がないんじゃないか?」


 レイにも詳しい事情は分からないが、鳥のモンスターと思しき存在によって子供が連れ去られたのだ。

 それを見ていた者がいれば、何とかしてそれを追わなければいけないと判断しただろうし、それを誰も見ていなければいきなり赤ん坊が消えたことになるのだから。

 とにかく赤ん坊がいなくなったのは間違いないので、屋敷の中が大騒ぎになるのは間違いない。

 そんな中でダスカーの部下が確認をする為に訪れても、すぐに相手が出来る訳でもなかったのだろう。


「とにかく、あの時はどうなることかと思った。……そういう意味では、やはりレイやリザードマンには感謝しかないよ」

「そう言って貰えると嬉しいけど、感謝を言うだけなら別に今日でなくてもよかったんじゃないか?」


 恐らく感謝の言葉だけで自分を呼んだのはではない。

 そう理解しつつも、取りあえずレイはそう言う。

 一種の牽制にも近い言葉だったが、それを聞いたグリムアースは特に隠すようなこともなく、首を横に振る。


「いや、レイを呼んで貰ったのはそれだけが理由ではない。勿論、感謝していると伝えたかったのもあるが。……ここからが本題だ。私の子供がいなくなった時、子供の肌着の中にはとある指輪が入っていた。しかし、戻ってきた時にその指輪はなかった」


 その言葉に、何となく話の流れを理解出来たレイだったが、同時に嫌な予感を覚える。


「もしかして、その指輪を俺達が盗んだとか、そういう風に言うつもりだったりしないよな?」

「そうではないと思う。思うが、その指輪は我が家にとって重要な代物であるのは事実。だからこそ、何としてでも見つける必要がある」

「肌着に入っていたのなら、赤ん坊が落下する前に落ちたとか、もしくは赤ん坊を連れ去った鳥のモンスターと思しき存在が赤ん坊は捨てても指輪だけは持っていったという可能性があるんじゃないか?」

「ないとは言わない。だが、子供を落とした時に一緒に指輪も落ちた可能性の方が高いと思う」


 そう言い、真剣な表情を浮かべるグリムアース。

 そこまでして確保したい指輪というのが、一体なんなのか非常に興味深い。

 だが、それをグリムアースに聞いても恐らく素直に答えてくれるとは思えなかった。


(指輪ということは、マジックアイテムか? けどマジックアイテムなら、なんで赤ん坊に持たせるような真似をしたんだ? そんな真似をすれば、それこそ最悪の場合は指輪を赤ん坊が飲み込もうとして、窒息して死んでしまったかもしれないのに)


 そう思いつつ、レイはグリムアースに向かって尋ねる。


「取りあえず、明日になったらリザードマンが赤ん坊を受け止めた場所に行ってみるか? 俺も一応その辺りは知ってるけど、もしかしたら他の場所で受け止めたのかもしれないし」


 レイが知ってるのは、レイを呼びに来たリザードマンから案内された場所にいた、赤ん坊を受け止めたリザードマンだ。

 そうである以上、リザードマンがそこで赤ん坊を受け止めたのか、それとも別の場所で赤ん坊を受け止めて、移動してから他のリザードマンに呼びに行かせたのか。

 その辺の状況は、生憎とレイには分からなかった。

 そうである以上、正確に赤ん坊を受け止めた場所を知るには、実際に赤ん坊を受け止めたリザードマンに聞くしかない。


「出来れば、明日とは言わずに今日、いますぐに頼みたい」

「……何でそこまで急ぐ必要がある?」


 訝しげに尋ねるレイ。

 こんな夜中に自分を起こして呼んだのもそうだが、何故そこまで急ぐのかレイには分からなかった。


「その指輪に何かあるのか? 例えばマジックアイテムだとか」

「そうなる。詳しくは言えないが、その指輪は我が家にとって非常に重要な物となる」


 なら、なんでそんな重要な指輪を赤ん坊の近くに置いておくんだ。

 そう突っ込みたくなるレイだったが、その件については自分がどうこう言ってもそれに答えるとは思わない。


「そうなると、少しでも早く指輪を見つける必要がある訳か。……ちなみに、その指輪を探す為の何らかの手段とか、そういうのはないか?」

「残念ながら、そのようなものはない」


 首を横に振るグリムアース。

 そうである以上、レイも難しい表情になる。

 そのような状況で指輪が本当に見つけられるとは、レイには思えなかったのだ。

 もし地面に落ちていても、それを見つけられるかどうかと言われると、難しいだろう。

 もしくは地面に落ちる前に木の枝に引っ掛かっている場合、余計に見つけにくくなる筈だった。

 そして最悪なのは、赤ん坊を連れ去った鳥のモンスターが、実は赤ん坊を食べる目的でそのような真似をしたのではなく、指輪を欲しての行動だった可能性もある。

 例えば、鴉を始めとした鳥の中には、光り物を集めるという習性があり、そのような習性を持つモンスターといった可能性も否定は出来ない。


(というか、この件だとダスカー様を含めてギルムの上層部にとっても頭が痛いだろうな)


 現在、ギルムでは増設工事の影響で結界が張られていない。

 そうである以上、空を飛ぶモンスターも普通に入ってくることが出来る。

 セトがエレーナの家や領主の館に自由に着地出来るようになっているのは、そのお陰だった。

 今回グリムアースの子供が連れ去られたのも、それが理由だったのは間違いない。

 ギルムが無理にでも結界を張るといったようなことをした場合、レイにとっては色々とやりにくくなるのは間違いなかった。


「ともあれ、リザードマンを呼ぶのなら、俺も行った方がいいな」

「いいのか?」


 今までの話の流れから、恐らくレイはグリムアースの言葉に賛成するような真似はしないだろうというのが、フラットの予想だったのだから。

 だが、実際にはこうしてレイは協力的な姿勢を見せている。


「ああ、問題ない。……こうして一回起きてしまって、眠気もあまりないしな。それに……」

「それに?」

「何でもない。たまにはそういうことをしてもいいかと思っただけだ」


 本音を口にしようとしたレイは、慌てて自分の言葉を否定する。

 今回レイがグリムアースに積極的に協力しようと思ったのは、グリムアースがレイの嫌っているタイプの貴族ではなかったから……というのもあるが、それ以上に指輪に興味を持ったからというのが大きい。

 グリムアースの家にとって重要な指輪。

 それはもしかしたら、何らかのマジックアイテムではないのかと、そのように思ったのだ。

 それも指輪を身に付けていれば、それだけで自動的に効果が発揮するタイプの。

 そのようにレイが予想したのは、やはり赤ん坊の近くにそれだけ重要な指輪を置いていたからというのがある。

 例えば、赤ん坊の存在が何らかの理由で疎ましい者にしてみれば、赤ん坊を毒殺しようと考えてもおかしくはない。

 その時、毒を無効化する類のマジックアイテムがあれば、そのような心配はいらないだろう。

 また、貴族の家に代々伝わっているとなると、その指輪の効果も高い可能性がある。

 毒の効果を無効化するマジックアイテムというのは、それなりに存在する。

 だが、毒の種類や強さによっては無効化出来なかったりしても不思議ではない。

 その指輪の効果が高いからこそ、グリムアースは自分でも使うし、赤ん坊に万が一のことを考えて持たせていたという可能性は否定出来ない。


(けど、そうなると……あの赤ん坊は殺される可能性が高いからこそ、指輪を与えられていたと考えた方がいいのか? 貴族だから不思議じゃないけど)


 貴族にとって、暗殺というのは珍しいものではない。

 そういう意味では、グリムアースの家でも後継者を巡ってか、それとも怨恨か、もしくは金か。はたまたそれ以外に何かあるのか。

 ともあれ、子供が暗殺されそうになってもレイはそこまで驚かない。

 ただ……自分が助けた相手だけに、出来れば死んで欲しくはないという思いがあるのも事実だったが。


「とにかく、指輪を探しに行くのなら俺も一緒に行く。俺はともかく、セトがいればもしかしたら見つけることが出来るかもしれないぞ?」

「それはいい。グリムアース様、レイはともかくセトの協力を得られるのなら、それは悪くないかと。そうすれば指輪を見つけられる可能性はありますよ」

「……おい」


 フラットの言葉にレイが思わずといった様子で突っ込む。

 とはいえ、レイもセトの五感がどれだけ鋭いのかは十分に理解している。

 そうである以上、自分に見つけることは出来なくても、セトなら見つけられるかもしれないと思えてしまうのはおかしな話ではない。

 そんなレイの様子を少し気にしながらも、グリムアースの顔には希望の色がある。

 自分の子供を助けたリザードマンから、それがどこなのかという話を聞いて自分達だけで探しても、それですぐに指輪を見つけられるとはグリムアースも思ってはいなかった。

 だが、グリフォンのセトならもしかして、という思いがそこにはあったのだろう。


「すまないが、頼めるか? 勿論、異名持ちのランクA冒険者の力を借りる以上、報酬は支払おう。……満足出来るだけの金額を用意出来るかは分からないが。それにレイには馬車で助けて貰った恩もある。それも合わせて、出来る限りのことはしたい」


 そうして丁寧に頼まれると、レイも断ることは出来ない。

 これが気にくわない相手ならまだしも、グリムアースは貴族としてはかなり友好的な相手で、態度も何の問題もなかったのだ。

 また、頼まれた内容もそう難しいものではない。

 そうである以上、レイが出来るのは頷くことだけだった。

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