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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3160/3865

3160話

カクヨムにて5話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452219415512391


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日にサポーター限定の番外編を公開中です。

 レイがグリムと対のオーブで話すのを諦めていた頃、ニールセンはイエロに乗って目的地の妖精郷に向かっていた。


「それにしても暇ね。イエロは暇じゃない?」


 ニールセンは自分を乗せて飛んでいるイエロに尋ねる。

 そのイエロは、翼を羽ばたかせながら後ろを向く。


「キュ? キュウウウ!」


 残念ながら、ニールセンにはイエロが何を言ってるのか分からない。

 分からないが、それでもイエロが嬉しそうにしているのは十分に理解出来た。


「嬉しそうね」

「キュ!」


 ニールセンの言葉に、その通り! と鳴き声を上げるイエロ。

 イエロはマリーナの家の敷地内から出ることが出来なかった。

 クリスタルドラゴンの件があったのも大きいし、それを抜きにしてもギルムには増築工事で多くの者が集まっており、その中にはイエロにちょっかいを出そうとするような者がいる可能性が高かったのだ。

 勿論、ギルムに多くの者が集まっても、その大半は貴族街に入ることはない。

 貴族街に迷い込むような者もいるが、そのような者達は警備として雇われている冒険者達が街中に案内する。

 あるいは無理に貴族街に入ろうとする者もいるが、そのような者達の場合はすぐに冒険者達に捕らえられるだろう。

 貴族街の警備をする為に雇われた冒険者である以上、当然ながらその実力は高い。

 そのような冒険者達を相手に、逃げようとするのは……不可能ではないが、かなり難しかった。

 それでも貴族街に入れる身分のような者がイエロを見つけた場合、自分の中にある欲望に負けて手を出すといった可能性は否定出来ない。

 そしてイエロはその竜鱗によって非常に高い防御力を持ち、空を飛び、周囲の景色に紛れるといった、防御や潜伏に高い能力を持ってはいるものの、攻撃力という点では決して能力が高くない。

 勿論、ドラゴンの子供である以上は牙や爪は十分な鋭さを持つが……ギルムにいる腕利きの冒険者にそれが効くかと言われれば、微妙なところだろう。

 そんなイエロがもし捕まったらどうなるか。

 そのような真似をすればエレーナを……そしてレイやその仲間達を敵に回すことになるのだが、それを知った上でも欲望に負けてどうにかなると考えた者がいてもおかしくはない。

 エレーナとしては、その辺は避けたかったのでイエロにはマリーナの家の敷地から出ないように言っていた。

 使い魔である以上、イエロがエレーナの命令に逆らえる筈もなく、イエロはマリーナの家の敷地内でしか遊べなかった。

 とはいえ、マリーナの家の敷地はそれなりに広い。

 また、精霊魔法の効果によって快適な環境となっているので、決して不自由の類はなかったのだが。

 それでもイエロにしてみれば、こうして自由に空を飛び回れるというのは非常に嬉しいことだった


「キュウウウウウウウウ!」


 そんな嬉しさを心の底から発するように鳴き声を上げるイエロ。


「ちょっ! 何よ急に!」


 イエロにしてみれば、自分の嬉しさを存分に表現した鳴き声……雄叫びだったが、その背に乗っているニールセンにしてみればイエロのいきなりの行動に驚くなという方が無理だった。


「キュ……キュウ」


 イエロも自分の背中に乗っているニールセンを思い出したのか、ごめんなさいと喉を鳴らす。

 そんなイエロの様子に、ニールセンは何かを言おうとしたが……その前に、自分達に近付いてくる存在を察知する。


「ちょっ、イエロ。あれハーピーじゃない!? こっちに近付いてくるわよ!?」

「キュ?」


 まだ辺境から出ていない場所である以上、空を飛ぶモンスターの襲撃というのは十分に考えられた。

 しかし、それでもニールセンとしては子供とはいえドラゴンのイエロがいる以上、モンスターに襲撃される可能性は低いと思っていたのだ。

 ゴブリンのように、お互いの力量差を理解出来ないモンスターならともかく、ハーピーはモンスターの中でもそれなりに知能はあり、相手との実力差を理解出来る筈だった。

 なのに、何故そんなハーピーが近付いてくるのか。


「キュウ! ……キュウ?」


 近付いてくるハーピーに、イエロは攻撃しようとする。

 だが、すぐにそのやる気に満ちていたイエロの表情は、困惑に変わってしまう。

 何故なら、近付いてくるハーピーからは敵意や殺意といったものを感じなかったのだ。

 ハーピーの存在に気が付いていたニールセンも、ハーピーが自分達に向かって攻撃をしようとしていないことに気が付いたのだろう。


「あれ? どうしたのかしら。……てっきりこっちに攻撃をしてくると思ったんだけど」

「キュウ……」


 イエロもニールセンの言葉に不思議そうに首を傾げる。

 もし正面からそんなイエロの姿を見ていれば、愛らしさのあまりイエロを抱きしめてもおかしくはない、そんな仕草。

 ただ、ニールセンはイエロの背中に乗っていたので、その愛らしい光景を見るようなことは出来なかったが。


「ギョアアアアア!」


 近付いて来たハーピーが、イエロに向かって一声鳴く。

 だが、その声にはやはりイエロが感じたように、殺意や敵意の類はない。

 寧ろ好意のようなものすら感じられた。


「キュ?」

「ギュアア」


 ニールセンには二匹が一体どのような会話をしているのかは分からない。

 ただし、それが険悪な雰囲気ではないことだけは十分に理解出来た。

 そのまま空を飛びながら、ハーピーとイエロは数分の会話を続け……


「ギュア!」


 ハーピーが一声鳴くと、イエロを守るようにその後ろを飛ぶ。


「え? あれ、ちょっと……これ、一体何があったの?」


 一方で、イエロの言葉が分からないニールセンは、何が一体どうなったのか分からず、戸惑いの声を出す。

 ハーピーが自分達に敵意を持ってないのは分かる。

 分かるが、だからといって自分達の後ろを飛ばれるというのは、それはそれで怖いと思ってしまう。

 これがそれなりに長時間一緒にいた相手なら、そこまで気にする必要はなかっただろう。

 だが、このハーピーとはまだ会ったばかりなのだ。

 そうである以上、ハーピーが何かの気紛れで自分達に攻撃をしてくるという可能性も否定は出来なかった。

 イエロとのやり取りを理解出来た訳ではなかったが、それでも敵意の類はなく、好意的な存在なのは間違いない。

 だが、今は好意的だからといって、この先もずっと好意的とは限らないのだ。


「ねぇ、イエロ。あのハーピーは私達と一緒に行くってことでいいのよね?」

「キュウ!」


 元気に返事をするイエロ。

 そのイエロの様子から、取りあえずハーピーが自分達の仲間になったのは間違いないだろうと判断する。

 とはいえ、そのように判断したからといって、完全に全てを許容出来るかと言われれば、それは否だ。

 いつ何がどうなって気分を変えて襲ってくるかもしれない以上、気を付ける必要があるのは間違いなかった。


「ね、ねえ。……貴方は何で私達に協力してくれるの?」

「ギュア!」


 ニールセンが恐る恐るといった様子でハーピーに尋ねる。

 妖精として覚醒し、長に次ぐ実力を持っているニールセンだ。

 もしハーピーと戦うようなことになっても、倒すことは出来るという思いはあった。

 そのような思いがあるからこそ、こうしてニールセンは尋ねることが出来たのだろうが。


「ギュア? ……ギョアアアアア」


 何かを言ってる様子なのは間違いなかったが、イエロの言葉も理解出来ないニールセンが、ハーピーの言葉を理解出来る筈がない。


(ドラゴンとハーピーというだけでも、種族は思いきり違うのに。よくああいう風に意思疎通が出来たわね)


 そんな疑問を抱くニールセンだったが、ハーピーの鳴き声にはイエロだけではなく、自分に対する敵意や殺意の類もなかったこともあり、少しだけ安心する。

 もしかしたら、ハーピーが友好的なのはイエロだけで、そのイエロの背に乗っている自分は敵と認識されているのかも? という思いが多少なりともあったのだ。

 しかし、今のハーピーの様子を見る限りでは、自分に向かっても好意的なのは間違いない。


(けど、何でこんな風に友好的な態度なのかしら? イエロがテイマーになったとか? うーん、でもそういう風には思えないのよね。そうなると……偶然? でも、偶然となると……)


 ニールセンにしてみれば、一体何がどうなってこのような状況になったのか、全く理解出来ない。

 理解は出来ないが、それでも現状が悪くないと思っていた。

 ハーピーは、純粋にモンスターとして考えた場合はそこまで強力なモンスターではない。

 だが、それでも空を飛ぶことが出来るというだけで大きな意味をもつのは間違いなく、これから自分達が向かっている妖精郷まで一緒に行動してくれる仲間が増えたというのは、悪い話ではなかった。


(数は多い方がいいしね。それに……まぁ、暖かそうだし)


 ニールセンの視線が向けられたのは、ハーピーの腕と一緒になっている翼。

 そこに生えている羽毛は、かなり暖かそうに思える。

 妖精郷に到着するまで、それなりの日数が掛かるのだろう。

 レイが一緒にいるのなら、ドラゴンローブの中に入ればいい。

 だが、そのレイがいない以上、ニールセンとしては木の幹の中で眠れない時はハーピーの翼に包まれて寝ようと考えていた。


「よろしくね、ハーピー。……いえ、ハーピーだと種族名だし、これから一緒に行動するんだから、名前を付けてあげた方がいいわね。うーん……どんな名前がいいかしら?」

「ギュエ?」


 ハーピーにとっては、種族名はともかく個体名というのは気にするようなことでもないのだろう。

 理解出来ないといった様子で首を傾げる。

 テイマーに使役されていたり、召喚魔法の契約を結んだりしていれば、ハーピーの中にも個別の名前を持っていたりするのかもしれないが、イエロやニールセン達と一緒に行動しているハーピーにそのような経験はなかった。


「あ、そろそろ出るわね」

「キュウ!」


 ハーピーを気にしていたニールセンだったが、ギルムを出発してから結構な時間が流れ、やがて辺境から出たことを理解する。

 イエロもそんなニールセンの言葉に同意するように鳴く。

 ただ、ハーピーだけはニールセンやイエロが一体何を言ってるのか理解出来ないといったように、首を傾げている。

 空を自由に飛び回っているハーピーにしてみれば、辺境もそうでない場所もそう違いはないのだろう。


「このまま飛んでいてもどうかと思うし……あ、そう言えば食事はどうしよう? イエロもお腹減ったら何か食べたいわよね?」

「キュウ!」


 元気に返事をするイエロだったが、当然ながらイエロは食事を持っていない。

 レイの持つミスティリングのようなマジックアイテムでもあれば話は別なのだが、生憎とニールセンやイエロはそんな便利なマジックアイテムは持っていない。

 つまり、食事は自分達で用意する必要があるのだ。

 また、ハーピー、ドラゴン、妖精という自分達のメンバーを考えれば、気軽に街中に入って料理を買うといった真似も当然出来ないだろう。


「あれ? これ……本当にどうすればいいの? つまり、私達でモンスターとか動物を狩って、解体して、料理をする必要があるということ?」


 ニールセンだけなら、木の実とかだけでも問題はない。

 ただ、レイと一緒に行動をするようになってから、美味い料理を何度も食べて舌が肥えてしまった。

 そんなニールセンにとって、木の実だけで我慢しろというのはかなり厳しい。

 あるいはもう少し前なら、秋で果実の類もそれなりに実っていただろうが、今はもういつ雪が降ってもおかしくはない冬だ。

 そうである以上、当然だが果実の類も採ることは出来ない。

 だからといって、このメンバーで狩りをして解体をして料理をする……そんな真似は、到底出来るようには思えない。

 つまり、最悪何も食べないか、木の実で我慢するか、生肉を食べるかといった選択肢しかないのだ。

 妖精の魔法は色々と使えるが、その中には当然だが料理をするといったような都合のいい魔法は存在しない。

 出来るのは、精々が驚かせる為に必要な火花を作るような魔法を使って火を点けて肉を焼くといった程度だろう。


「うわぁ……ちょっと、これ本当……?」


 心の底から嫌そうに呟くニールセン。

 だが、そのような真似をしなければ今の状況はもっと悲惨になってしまう。

 最悪の状況の一歩手前。

 ……実際にはとてもではないが最悪の状況と呼べるようなものではなく、本当に最悪の状況を知っている者にしてみればかなり恵まれていると思えるのだが。

 とにかくニールセンは妖精郷に到着するまでの旅路で、どうにかして美味い料理を食べたいし、その方法について悩みながらイエロの背に乗って、何故かお供となったハーピーと共に空を旅するのだった。

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