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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3149/3865

3149話

カクヨムにて5話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452219415512391


また、カクヨムサポーターズパスポートにでサポートをしてくれた方には毎週日曜日に限定の番外編を公開中です。

「グルルルゥ!」


 ダスカーとの話が終わって庭に戻ってくると、そこではセトが嬉しそうに料理を食べていた。

 そんなセトの前には、数人の料理人の姿。

 ……漂ってくる料理の香りに、レイのドラゴンローブの中にいるニールセンがレイの身体を軽く蹴る。

 執務室でレイやダスカーの分の焼き菓子も食べたニールセンだったが、そんなニールセンもまだ腹一杯という訳ではないらしい。

 そんなニールセンを落ち着かせるべく、ドラゴンローブの上から軽く叩く。


「あ、レイさん。こんにちは。もうダスカー様との話は終わったのですか?」


 セトが近付くのを見て、料理人達もレイの存在に気が付いたのだろう。

 中年の女がレイに向かってそう声を掛けてくる。


「ああ、色々と相談することはあったけど、それも何とか終わった。それより、セトが色々と世話になったようだけど」

「いえ、セトちゃんは料理を美味しそうに食べてくれるから、作る方としても嬉しいんですよ。料理長もセトちゃんが来ると張り切って料理をしてますし」


 そう言う女の言葉は、お世辞でも何でもなく本気で言ってるように思える。

 他の料理人達も女の言葉に頷いているのだから、その言葉は正真正銘真実なのだろう。


「そう言って貰えると助かる。……セト」

「グルルルゥ」


 レイが何を言いたいのか理解したセトは、喉を鳴らしながら頭を下げる。

 そんなセトの様子に料理人達は嬉しそうに笑みを浮かべていた。


「じゃあ、これ。セトが世話になったお礼だ。素材で悪いけど」


 レイが取り出したのは、ガメリオンの肉の塊。

 お礼の品として渡すのはどうかと、普通なら思うだろう。

 だが、料理人にしてみればガメリオンの肉はこの季節の風物詩だ。

 ましてや、今年は出回り始めた時、ガメリオンの肉はかなり高価だった。

 最終的には例年よりも少し高いくらいの値段に落ち着いたが、それでもガメリオンの肉を料理する機会は少し少なくなっていた。

 それでも領主の館の料理人である以上、ガメリオンの肉……それも高級食材となる希少部位を調理することはあったのだが。

 ただし、それはあくまでもダスカーやダスカーの客人が食べる料理で、料理人達は精々が味見程度だ。

 そういう意味では、こうしてガメリオンの肉の塊を好きなように料理をしてもいいと渡されるのは、料理人として悪い話ではなかった。


「ありがとうございます」

「セトが世話になったからな。……さて、じゃあいつまでもここにいる訳にもいかないし、そろそろ行くか。セト」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは屈んでレイが背中に乗りやすいようにする。

 そのような真似をしなくてもレイはセトの背に乗れるのだが、セトが気を遣ってくれたのだろう。


(それなりに長時間領主の館にいたしな。出来るだけ早くトレントの森に戻らないと)


 トレントの森において、現在穢れを倒すことが出来るのはレイだけだ。

 エレーナがギルムにいる以上、今はまだレイがやるしかない。

 だからこそ、レイがいない間にトレントの森に穢れが出ていないかどうかを確認しておく必要があった。


「じゃあ、また来ると思うから、その時はセトの相手を頼む」

「大歓迎です」


 これまでの態度からも何となく予想出来ていたものの、レイは目の前の女……いや、女だけではなく他の者達も含めてセト愛好家なのだと理解する。


(それでもまだ一般的な部類になるんだろうけど)


 どこぞの某女冒険者達は、セトの為となれば見境なく金を使ったりする。

 ここにいる料理人達はセトのことは好きなのだろうが、それでもきちんと限度をもって行動していた。


「いえ、こちらこそガメリオンの肉をありがとうございました」


 礼を言ってくる女に頷くレイを背に乗せたセトは、そのまま数歩の助走をすると翼を羽ばたかせながら、庭を飛び立つ。


(あ、やっぱり結構人がいるな)


 セトの背の上で、レイは地上を見て納得する。

 領主の館の周囲には面会を求める者達がいる……のだが、それだけではない。

 明らかにそれとは違う者達が何人も領主の館の周囲にいた。

 そのような者達が一体何を目的にしているのか。

 考えるまでもなく、それはレイだろう。

 セトが領主の館に降下していくのを見た者達が、何とかレイと接触出来ないかとやって来たのだ。

 あるいはレイが領主の館に行ったということで、自分の部下を向かわせた者もいるのだろう。

 貴族街にあるマリーナの家に降りた時も、何度となく同じような光景を見ている。

 そうである以上、領主の館の前に同じような目的の者達が集まってきてもおかしくはない。

 おかしくはないのだが、この場合問題なのは場所が領主の館ということだろう。

 当然だが、領主の館というのはギルムの中でも最重要な場所の一つだ。

 そのような場所に面会を求める者達とは別に、何人もが集まっているということになれば、当然ながら怪しい相手だと判断され……


「あ、出て来たな」


 領主の館から離れる前、最後にレイが見たのは、怪しい奴だと判断した者達に兵士達が近付いていく光景だった。

 その後はセトが翼を羽ばたかせて領主の館から……いや、ギルムから離れたこともあって、領主の館の周囲にいた者達がどうなったのかは分からない。

 兵士達から逃げたのか、捕まったのか……あるいは戦ったのか。

 具体的なところまではレイには分からなかったものの、見張りをしていた者達にとって面白くない結果になったのは間違いないだろう。

 もっとも、その辺りについて十分に理解している者達なら、迂闊に領主の館に近付いたりはせず、離れた場所で様子見をしていただろうが。


「ぷはぁっ! ちょっと、レイ! ギルムから出たのなら、もう私がドラゴンローブの中にいる必要はないでしょ!」


 自力でドラゴンローブの中から出て来たニールセンは、不満そうな様子でレイに向かって叫ぶ。

 レイはそんなニールセンに悪いと小さく謝る。


「もう少ししたら、ドラゴンローブから出すつもりだったんだよ」

「本当に?」


 疑わしそうな視線をレイに向けるニールセン。

 実際、レイは領主の館を見張っていた者達の件ですっかりとニールセンのことを忘れていたのだが、それを表に出すような真似はしない。

 そしてニールセンはそんなレイの様子を見て……若干不自然に思いはしたようだったが、それでも確信はなかった為か、それ以上追及はしてこない。

 そんなやり取りをしている間に、セトは既にトレントの森の上空に入る。


「ニールセン、俺達がいない間にトレントの森に穢れが現れなかったかどうか、ちょっと長に聞いてみてくれないか?」


 苦手な長に自分から呼び掛けるのは、ニールセンもあまり気が進まない。

 だが、トレントの森についての情報を少しでも入手する為には、長に話を聞くという選択肢が最優先だった。

 野営地に行ってそこで野営地の指揮をしているフラットに聞いてもいいのだが。


「分かったわ。ちょっと待ってて」


 私、不満です。

 そう言った表情のニールセンだったが、それでも素直にレイの言葉に従う。

 そうして数秒……


「安心してちょうだい。レイがいない間に穢れが姿を現すといったことはなかったみたいよ」

「ちょっと意外だな」


 ニールセンの言葉に、レイは素直にそう告げる。

 自分の運の悪さ……あるいはトラブルに巻き込まれる性質を考えれば、トレントの森にいない間に穢れが姿を現していてもおかしくはないと、そう思っていたのだ。


「レイの運が悪いのは、十分に理解出来るわ」


 レイの言葉に呆れたように、ニールセンがそう告げる。

 そんなニールセンに対し、レイは更に口を開こうとし……


「待って」


 不意にニールセンがレイの言葉を封じる。

 それに対してレイは微妙に嫌な予感を覚えてニールセンを見ていた。


(まさか……)


 そんな風に思うレイの予想を裏付けるように、ニールセンが口を開く。


「どうやら、トレントの森の周辺で数台の馬車が穢れに追われているみたいよ」

「セト」


 やっぱりか。

 そう思いながらも、今はまずセトに馬車を見つけて貰う必要があった。


「グルルゥ、グルゥ……グルルルルゥ!」


 レイの指示に従ったセトは、上空から地上を見る。


(せめてもの救いは、ニールセンの様子を見る限りだと俺達がいない間に起こっていた訳じゃなくて、今この時に起きたことか。……俺がトレントの森に戻ってきたのが原因の可能性もあるけど)


 もしかしたら自分が戻ってきたのが原因で今のようになったのか。

 そう思うと、現在襲われているという馬車に乗っている者達に対しては悪いと思う。

 しかし、レイがいない状況で襲撃されたということを考えれば、今の状況はまだそう悪くないのだろうと考えていた。


「グルゥ!」


 レイも周囲の様子を見ていたものの、やがてセトが鋭く喉を鳴らす。

 セトが見ている方に視線を向けると、そこには五台の馬車が必死になって走っている光景があった。

 何から逃げているのかは、考えるまでもないだろう。


「セト、行け!」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは翼を羽ばたかせて地上に向かって降下していく。

 そんな中、ニールセンは必死になってレイのドラゴンローブに掴まっていた。

 セトの飛行速度は速く、もしレイのドラゴンローブに掴まっていなければ、間違いなく置いて行かれただろう。

 あるいは吹き飛ばされてしまったか。

 幸いなことに、セトの飛行速度は馬車に追いつくまでそう時間は掛からない。

 急速に近付いてくる馬車と、そして馬車を十匹近い黒い円球が追っているのが見えた。


「円球か。最新型だな。……そういう表現が合うかどうかは微妙だけど。……セト、黒い円球に攻撃をして、一ヶ所に集めろ! それを俺が一気に攻撃する!」

「グルルルルルルルルルルルルルルゥ!」


 レイの言葉に、任せて! と喉を鳴らすと同時にアイスアローを発動させて五十本の氷の矢を放つ。

 正確に狙いを付けて放った訳ではない一撃だったが、馬車を追っている黒い円球に向かって雨の如く降り注ぐ。

 元々黒い円球の移動速度はそこまで速くなく、馬車との距離がそれなりに開いていたのもセトがアイスアローを使った理由なのだろう。


(というか、黒い円球が馬車を追い掛けてるってことは、あの馬車に乗ってる連中が黒い円球にちょっかいを掛けたのか? 具体的には攻撃をしようとしたとか。……そもそも、あの馬車に乗ってるのは誰だ?)


 その馬車は箱馬車と呼ばれるタイプの馬車で、野営地に補給物資を持ってくる者達が使っている馬車ではない。

 つまり、補給を担当している者以外の者達が馬車でトレントの森に近付いたということを意味している。

 だが、あれだけの馬車の数でトレントの森にやって来たということは、当然ながらトレントの森に立ち入らないようにしている兵士や騎士達に見つかっている筈だ。

 にも関わらず、こうして大人しく通したということは、ダスカーから許可を貰っているということになる。


(研究者達か?)


 急速に近付いてくる地面や、氷の矢が命中して敵意をセトに向ける黒い円球、氷の矢が命中しなかったので、未だに馬車を狙っている黒い円球。

 それらを見ながら、レイは馬車に乗っている者達の正体を察した。

 ダスカーから許可を貰っていて、それでいてこれだけの集団なのだ。

 レイが思いつくのは、研究者達だけだ。


「グルルルルルゥ!」


 再度放たれる五十本の氷の矢。

 その氷の矢が向かったのは、セトに攻撃の狙いを定めた黒い円球……ではなく、未だに馬車を追っていた黒い円球だった。

 セトにしてみれば、黒い円球を捕らえるにしろ殺すにしろ、とにかく一纏めにする必要がある。

 そうである以上、ここで敵を逃がすといった選択肢は存在しなかったのだろう。

 黒い円球はセトを追うも、移動速度は比べものにならないくらいの差がある。

 ある程度の距離が開いたところで、レイは改めて黒い円球をどうするべきか考え……だが、すぐにそれを決める。

 ここで炎獄を使って捕獲しても、その炎獄は動かせない以上、どうしようもない。

 トレントの森の外側のこの部分で捕らえても、ここまで観察に来るというのは……


(いや、あの研究者達ならやりかねないか? とはいえ、だからといってそれを許可する訳にもいかないし)


 研究者達には専門の護衛がいる。

 そういう意味では、レイがそこまで気にする必要もないのかもしれない。

 だが、それでも出来れば研究者達を無駄に殺したくないという思いがそこにはあった。

 もっとも、それは研究者達に友情を感じているとかそういう理由からではなく、少しでも早く穢れについての詳細を調べ上げて欲しいという、そんな思いからのものだったのだが。

 どうするべきかを決めると、レイはミスティリングからデスサイズを取り出すのだった。

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