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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3138/3865

3138話

「これは……素晴らしい」


 レイから対のオーブを受け取った長は、感心したように言う。

 なお、長はニールセン達普通の妖精に比べると一回り程大きいが、それでも本来なら対のオーブを直接持つのは難しい。

 実際、長はサイコキネシス的な能力を使って対のオーブを受け取っていた。

 空中で自由に対のオーブを動かしてみせるのは、ニールセンに対してお仕置きをする時のことを思えばレイにも納得出来た。

 実際には、対のオーブとニールセンでは重量に大きな差があるのだが。

 長にとっては、その程度の重量差は問題ない程度の違いなのだろう。


(長の能力も色々と凄いけど……ニールセンが長の後継者って扱いになってるってことは、将来的にニールセンも長と同じような能力を使えるようになったりするのか?)


 長から少し聞いた話によると、長もまた普通の妖精だった頃はニールセンのように悪戯好きで楽しいことを最優先だったらしい。

 つまり、長が今のような力を手に入れたり、今のような性格になったりしたのは、妖精から長になってからのこととなる。

 つまり、ニールセンも将来的に長の後継者となった場合、長と同じようなことになるのではないか。

 対のオーブを観察している長を見ながら、そんな風にレイが思うのは当然だった。

 そうして十分程、長は対のオーブを観察して満足したらしい。

 レイに向かって対のオーブを渡してくる。


「ありがとうございます、レイ殿。その対のオーブを見て、色々と勉強になることがありました。これを参考にして通信用のマジックアイテムを作ってみたいと思います」

「頼む。ただ、何度も言うようだが無理はしないでくれ。実際にマジックアイテムを作り始めるのは、穢れの件が終わってからでいい」


 レイの正直な気持ちを言えば、それこそ今日からでもすぐにマジックアイテムの作成に取り掛かって欲しい。

 だが、マジックアイテムに集中しすぎて穢れが転移してきたのを見逃すようなことになってしまっては、本末転倒だろう。

 探知に使っている魔力の問題もあるので、通信用のマジックアイテムに関してはやはり穢れの件が解決してからというのが最善の考えだった。


「そうします。ただ、どのようなマジックアイテムにするのかといったことを考えるのは、問題がありません。そういう意味では、ある程度は考えることが出来ます」

「無理をしない程度で頼む」


 長がこのように言ってる以上、ここで自分が何を言っても意味はないと判断し、そう告げる。

 実際に本当に無理をしない程度でどのようなマジックアイテムにするのかを考えるのなら、そこまで問題はないだろうと判断して。


「はい」


 レイの言葉に長は素直に頷く。

 長も自分の能力については十分に理解している。

 だからこそ、レイの言葉を素直に聞くといった真似を出来るのだろう。

 単純にレイを恩人として信じているからというのもあるのかもしれないが。


「じゃあ、用件はこれだけだから俺はそろそろ野営地に戻るな」


 そう言い、簡単な挨拶を交わしてレイは長のいる場所から立ち去る。

 長はそんなレイの背中が見えなくなるまで眺め続け……そして早速通信用のマジックアイテムをどうするべきかと考えるのだった。






「グルルルゥ?」

「っと、セトか。狼の子供達も一緒だな。こっちの用件は終わったから、そろそろ野営地に戻るぞ」


 長のいる場所から少し離れた場所。

 そこでレイは、狼の子供達と遊んでいるセトに遭遇する。

 妖精郷から出るというレイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らす。

 そしてまだ自分と遊びたいといった様子の狼の子供達に向かって鳴き声を上げる。

 その光景を横で見ているレイにしてみれば、セトと狼と種族が違うのに、何故意思疎通が出来ているのか分からない。


(あ、でもイエロとも意思疎通が出来てるしな。……ただ、イエロは使い魔だからと考えれば納得は出来るけど、狼の子供達は普通の動物だし)


 セトが人の言葉を理解して動けるというのは、レイにとっても十分に納得出来ることではある。

 だが、狼の子供達がセトの言葉を理解出来るというのは、一体何故そのようなことになるのかと、そんな疑問を抱かせるには十分だった。

 もっとも、出来るものは出来ると思うしかないのかもしれないが。


「ワウ……」

「オオン」


 狼の子供達は、セトの鳴き声を聞いて残念そうに、そして悲しそうに鳴き声を上げる。

 狼の子供達にとって、やはりセトというのは大好きな遊び相手なのだろう。


(遊び相手となると、ボブ……はともかく、妖精達がいると思うんだが)


 妖精達と狼の子供達は、精神年齢が違わない者も多い。

 そのような者達にしてみれば、狼の子供達と一緒に遊ぶのは悪い話ではないだろう。

 もっとも、精神年齢が近いからこそ妖精達が下手な行動をした結果、狼の子供達が怪我をするといったようなことになってもおかしくはないのだが。

 レイがそのように考えていると、やがてセトの説得が終わったのだろう。

 狼の子供達は大人しくセトを解放する。


「さて、こうなると後はニールセンだけだな。一体どこに行ったのやら」

「グルゥ?」


 レイの言葉を聞いたセトは、ニールセンはどうしたの? と喉を鳴らす。

 妖精郷の中でレイとセトが別行動をした時、レイとニールセンは一緒にいた。

 なのに今はレイとニールセンが一緒にいないというのをセトは疑問に思ったのだろう。


「最初に長と話した時はニールセンも俺と一緒にいたんだけどな。ただ、その話が終わってからもう一回長のいる場所に向かおうとしたら、ニールセンが嫌がったんだ。別にニールセンがいないと困るといったような内容じゃなかったから、俺だけで長に会いに行ったんだよ」

「グルゥ……? グルルルゥ」


 セトもニールセンが長を苦手としているのは十分に理解していたので、レイの説明を聞けば納得出来た。

 狼の子供達と別れたレイとセトは、ニールセンを捜して妖精郷の中を歩いて回る。


「あ、ねぇ、レイ、暇ならちょっと一緒に遊んでいかない?」


 その誘い文句は、ある意味で娼婦が客を誘うような言葉だ。

 だが、当然ながらその妖精が誘っているのは、そういう意味でのものではない。

 ……そもそも、妖精の大きさは掌程なのだから、そのような行為をしようというのが無理なのだが。

 この誘いは文字通りの意味でレイにちょっと遊んでいかないかと、そういう意味での誘いだ。

 レイもそれは十分に理解しているので、首を横に振る。


「悪いな、俺はそろそろ野営地に戻らないといけないんだ。ただ……ちょっとニールセンを見なかったか?」

「ニールセン? そう言えばさっき見たけど。案内してあげよっか?」

「頼む」


 妖精郷はそこまで広い訳ではない。

 だからといって、どこにいるのかも分からないニールセンを捜して、すぐに見つけられるくらいに狭い訳でもなかった。

 だからこそ、レイとしてはニールセンのいる場所に案内をしてくれるというその妖精の言葉に、素直に頷いたのだ。

 妖精も自分がレイに頼られているというのは悪い気がしないのか、上機嫌でレイを引き連れて、ニールセンを見た場所に向かって進む。


「それにしても、穢れだっけ? それってかなり厄介な相手なんでしょう? そういうの相手をするのって、面倒じゃない?」

「面倒かどうかと言われれば、それは十分に面倒だろうな。実際、その件で皆が結構大変な状況になっているのは間違いないし。俺もこの妖精郷じゃなくて、野営地で寝泊まりをするようなことになってるしな」

「それはそれで面白そうだけど」


 妖精にしてみれば、レイの言ってる内容は普通に面白そうに思えたのだろう。

 少しだけ羨ましそうな様子を見せながら、そう言う。


(妖精は別に妖精郷に閉じ込められている訳じゃないから、他の場所に行こうと思えば普通に行けると思うんだが。なのに、羨ましそうなんだ?)


 レイが知ってる限りだと、妖精郷から出る妖精というのはそれなりにいる。

 そもそもの話、レイがニールセンと遭遇したのも野営地でだ。

 それ以外にも、ボブと一緒に妖精郷の外に出た妖精を何度も見たことがある。

 その辺の状況を考えると、目の前の妖精がどういうつもりでそのようなことを言ってるのか分からない。

 それについて聞こうとした時……ちょうどそのタイミングで、レイの側にいた妖精が叫ぶ。


「ニールセン! こっちこっち!」


 その声にレイは叫んだ妖精の視線を追う。

 するとそこには、何人かの妖精が空を飛び回っていた。

 妖精なので、セトが空を飛ぶ速度と比べると遅いものの、それでも妖精が飛ぶ中ではかなりの速度だ。

 また、セトよりも小さく軽いことから、旋回能力は見応えがあったが。

 そんな風に飛んでいた中の一人……ニールセンがレイに向かって飛んでくる。


「早かったわね。でも、出来ればもう少し時間が掛かってもよかったんだけど」

「そう言われてもな。用件がすんでしまえば、いつまでも長の邪魔をする訳にもいかないだろ? ……なんなら、ニールセンも来ればもう少し長との話が長くなったかもしれないが」

「それは……」


 レイの言葉にニールセンは反論出来ない。

 レイが長に会いに戻ると言ったところで、ニールセンはさっさと逃げ出したのだ。

 そうである以上、ここでレイの言葉に反論するような真似をした場合、自分が不利になるのは分かっていたのだろう。


「じゃあ、戻るぞ。まだ遊んでいる最中だったら、もう少しくらいは待ってもいいけど?」

「……もういいわよ。私の代わりも入ったみたいだし」


 ニールセンの言葉に視線を向けると、妖精の追いかけっこ――というには全員がかなり本気だが――をしてる者の中に、レイをここまで連れて来てくれた妖精がいた。

 レイがニールセンと話をしている間に、いつの間にか向こうに入っていたのだろう。

 レイにも気が付かせずそのような真似が出来るのは、素直に凄いと思う。


(盗賊とか暗殺者とかになったら、それなりに……いや、それなり以上の腕になりそうだな。もっとも、妖精がそういうのをやるとは思えないし、やるにしても場所がないだろうけど)


 もし妖精が盗賊や暗殺者をやろうとしても、そもそも妖精を見つけた者がどうにかして捕らえて売るなりなんなりするだろう。

 もっとも、捕らえてもすぐに妖精の輪によって逃げられるだろうが。


「分かった。じゃあ、行くか」

「グルゥ!」


 レイの言葉に真っ先に反応したのは、ニールセンではなくセトだった。

 早く戻ろうと、そう主張したのだ。

 何故セトがそこまで早く野営地に戻りたがっているのかは、生憎とレイにも分からなかったが。


「そうね。いつまでもここにいるのは、また面倒なことになるかもしれないし。戻りましょうか」


 ニールセンが口にした面倒なことというのは、具体的には長に関しての何かだろう。

 それでも実際にここでそれを口にしなかったのは、もしかしたら長が自分の言葉を聞いているかもしれないと思ったからか。

 レイはそんなニールセンの様子に思うところはあったが、特に何も言わない。

 ニールセンが長を苦手としているのは、十分に理解していた為だ。

 もしここで自分が何かを言ってそれをニールセンが気にくわなかった場合、ここで騒動になってしまう可能性が高かった。

 そして騒動になってしまえば、面白いものが大好きな妖精達だ。

 それこそ追いかけっこをしている者達ですら集まってくるだろう。

 それは面倒だと判断し、レイは話題を逸らす。


「野営地の方で何か変化があったと思うか?」

「え? うーん……そうね。もし何か変化があるとしたら、それはレイが捕らえた穢れにじゃないかしら」

「新しく捕らえた方か? 何かあるとしたら、そっちの方が可能性が高いのは間違いないだろうな」


 野営地の側で捕らえた穢れは、サイコロと円球が同時に存在していた。

 レイもそれなりに穢れと接触した回数は多いので、それなりに穢れに対しては詳しいつもりだった。

 しかし、そんな中でサイコロと円球が混在して行動しているのは、初めて見た。

 そうなると、やはりもし何かがあるとすればそちらに違いはないだろう。

 それが具体的にどのようなことなのかまでは、生憎とレイにも分からなかったが。


(出来れば、こっちにとって利益のあることだといいんだけどな。……具体的にどういうのかというのは、分からないが)


 穢れはまだ未知の部分が多い。

 そういう意味では、湖の方で捕らえたのとはまた違う何かを見つけることが出来るのなら、レイとしても悪い話ではない。


「とにかく、まずは野営地に戻って……それからだな。ダスカー様にもエレーナ経由で色々と報告する必要があるし。……庭に直接降りてもいいかどうかの件についても、進展があったかどうか聞きたいし」


 そう告げ、レイはセトやニールセンと共に妖精郷を出るのだった。

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