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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3133/3865

3133話

レジェンド18巻、発売中です。

続刊に繋げる為にも、購入して貰えると嬉しいです。

4万文字以上の追加エピソードもありますので、WEB版を読んでいる人でも楽しんで貰えるかと。

 レイが新たに穢れを……それもサイコロと円球の二種類が混在している相手を捕らえたという情報は、すぐに広がった。

 実際にレイが捕らえた光景を数人の研究者達が見ていたのだから、その情報が伝わるのは自然な流れだったのだろうが。

 しかし、そこまでは自然な流れであっても、そこからは違う。

 具体的には、誰が新しく穢れを捕らえた方を見に来るかという件について、研究者達の意見はそう簡単に纏まらない。

 とはいえ、それは自分がどちらかを見に行きたいのに、他の者達もそれを希望している……といったようなものではなく、もっと別の問題だ。

 具体的には、湖の側で捕らえた穢れはいつ消滅するのか分からない。

 それを見逃したくはないが、同時に野営地の側で捕獲された穢れもサイコロと円球の二種類が混在しているという、非常に興味深い存在なのだ。

 そうである以上、湖の側だけではなく野営地の側の炎獄に捕獲された穢れも、両方見たい。

 そのように考えた研究者が多かった。


「レイ、これは私が言っても意味はないのかもしれないが、出来れば野営地の側ではなく、この湖の側まで引き寄せてから炎獄で捕らえるといった真似をしてもよかったのではないか?」


 オイゲンが少しだけ不満そうに言う。

 オイゲンにしてみれば、現在のこの状況には色々と思うところがあるのだろう。

 だが、レイにしてみれば今の状況で不満を言われても困る。

 あの状況で湖まで移動して穢れを引き付けるといった真似をする訳にはいかなかったのだから。

 ……実際にはやろうと思えばやれただろう。

 だが、そのような余裕がなかったのも間違いない。

 あの状況で湖にまで穢れを引き付けるような真似をした場合、それこそどのような状況になるのかが分からない。


「穢れのいる場所に新たに穢れを連れていった場合、一体どうなったと思う? 何か問題が起きたという可能性はないか?」

「ふむ、なるほど。それについても何人かから意見が出ていたな。具体的にどのようなことになっているのかというのは、まだ意見が纏まってはいないが。ただ、問題なのは研究者の数だろう」


 そう言うオイゲンは、難しい表情を浮かべていた。

 現在は穢れの研究に多くの研究者が集中している。

 言ってみれば、研究者が足りない状況なのだ。

 出来ればもっと多くの研究者がいて欲しいと、そう思っていた。


「研究者の数か。野営地で寝泊まりをしないで、ギルムから通いで来る研究者もいるんじゃなかったか? ……見ないけど」


 もしそのような研究者がいるのなら、それこそ今はもうここにやって来ていてもおかしくはない。

 だが、生憎と今日そのような研究者の姿をレイは見ていなかった。


「そちらに関してはあまり期待出来ないだろう。やる気のある者達は、野営地で寝泊まりをしているのだからな」


 オイゲンは特に気にした様子もなく、そう告げる。

 オイゲンにしてみれば、ギルムに残った研究者達は既に穢れの研究をする際の計算に入れてないのだろうと、レイには思えた。

 その件についてこれ以上突っ込むような真似をすると、色々と不味そうだ。

 そう判断したレイは、話題を変える。……正確には戻す。


「穢れについての研究は、それぞれ半数ずつに別れてやるのがいいんじゃないか? どのみち、湖の方の穢れはもう少しで死ぬ可能性も高いんだし。そうなると、いずれ皆が野営地の近くにやってくると思うけど。……どうだ?」

「それしかないだろう。ただ、問題なのは誰がどちらに行くかだ。それを決めるのに、下手をしたら数日掛かる可能性もある」

「いや、それは駄目だろ」


 オイゲンの言葉に、レイは思わずといった様子で突っ込む。

 湖の側で捕らえられた黒い円球の群れは、それこそ明日にでも餓死してしまいかねないのだ。

 だというのに、どこにいる穢れを観察し、研究するのかを決めるのに数日が掛かるというのは、明らかにおかしい。

 オイゲンもそんなレイの言いたいことは分かっているのだろうが、それでも今のこの状況でどの穢れの研究をするのかというのは、そう簡単に決められるものではなかった。


「レイの言いたいことは分かる。分かるが、これは研究者としてはどうしようもないことなのは間違いないのだ」

「……それで、結局どうするんだ?」


 オイゲンはすぐに誰がどこの穢れを研究するのかを決められないとは言っているものの、実際にそれを決めなければ、穢れについての研究が進まないのも事実。


「それぞれの希望を完全に聞く訳にもいかない以上、こっちで決めるしかない」


 結局のところ、そうなるのだった。

 ただし、オイゲンが勝手に決めるということは、決められた方がそれに不満を持っている場合、オイゲンを恨むということになる。

 現状においては、オイゲンは研究者達を率いる立場となっているので、恨まれてもすぐにどうこうといったことはないだろう。

 だが、それは今……オイゲンが研究達を率いる存在だからだ。

 もし何らかの理由でオイゲンの立場が落ちた時、恨んでいる者達が一体どのような行動に出るのか。

 その辺りのことを考えたからこそ、オイゲンはあまり気が進まない様子なのだろう。

 もっとも、なら他にどのような手段があるのかと言われれば、それに答えることが出来る者はそういないだろう。


「その辺はオイゲンに任せる。任せるけど……そうなると、今度また穢れと遭遇した時は野営地の方に引っ張ってこない方がいいか?」

「駄目だ」


 一つ観測出来る場所が増えただけで、こうしてオイゲンが頭を悩ませているのだ。

 そうである以上、同じように穢れを捕らえた場所が増えるといった真似をした場合、もっと面倒なことになるのは間違いないだろう。

 だからこそ、レイはこれ以上穢れを捕らえない方がいいのかと聞いたのだが、オイゲンは一瞬の躊躇もなく……それこそ、半ば反射的にレイの言葉を否定した。


「オイゲン?」

「レイが私のことを心配してそのように言ってくれているのは理解出来る。だが、それでも私の立場としてはえ……いや、立場という問題ではなく、一人の研究者として穢れを研究出来る機会を逃す訳にはいかない」


 真剣な表情で……それこそレイですら一瞬気圧されるかのような迫力でそう言ってくるオイゲンに、レイはすぐに反論出来ない。

 それでも数秒の沈黙の後に口を開く。


「けど、穢れを捕らえる度に誰がどこに行くのかといったことで迷うことになるんだろう?」

「そうだな。だが、恐らくそれも最初のうちだけだと思う。勿論、穢れという存在は貴重だ。それでも捕らえた数が多くなれば、最初程には研究者達も必死にはならないだろう……と思う」


 断言出来ないのは、穢れという存在がそもそも自分達の知っているモンスターと大きく違うからだろう。

 そうである以上、研究者なら穢れに強い興味を抱いてもおかしくはない。

 ……本来なら、穢れというのは見た者に本能的な嫌悪感を抱かせるといった特徴を持っている。

 しかし、研究者達にしてみれば、そのような嫌悪感よりも自分の知的好奇心を満足させる方が優先されるべきことなのだろう。

 その辺りの事情をレイは理解しているのか、いないのか。

 ただ、この件についてこれ以上言うのはオイゲンを暴走させるようなことになりかねないと判断し、止めておく。


「話は分かった。取りあえず、どういう風に研究者を分けるかはオイゲンに任せる。俺がそっちに口を出す必要もないしな」

「そうしてくれると助かる。だが、穢れは多ければ多い程にいいのだ。そうである以上、くれぐれも……くれぐれも穢れを捕獲出来る時に捕獲しないということはしないで欲しい」


 大事なことだから二回言ったとでも言いたげな様子のオイゲンの言葉に、レイは素直に頷く。


「分かった。とはいえ、穢れがどこに出るのかというのは俺にも分からない。その辺は具体的にどうなるのか……責任は持てないぞ」

「それでも、出来る限りレイが対応してくれるのなら、それでいい」


 そう告げるオイゲンに頷くと、レイはオイゲンとの会話を終えることにした。


「じゃあ、このままここでオイゲンと話をしていて邪魔をするのもなんだし、俺はそろそろ行くよ。研究者達の件は任せた」


 そう言うと、レイは軽く手を振ってその場を後にする。

 何となく……本当に何となくだが、オイゲンから視線を向けられていたように思わないでもなかったが、このまま自分がオイゲンと話をしていれば、それだけ穢れの研究に遅れが出てしまう。


(やっぱり、新しい炎獄の方に行きたい研究者は多い……ような気がするんだけどな)


 これでレイが新しく捕らえた穢れが、黒い円球だけであれば研究者達も湖の方で捕らえた方……それこそ、明日にでも死ぬかもしれない方に向かうだろう。

 だが、野営地の近くで新たに捕らえた穢れは、サイコロと円球の二種類が混ざっている。

 研究者にしてみれば、穢れを研究するのにこれを研究しないというのは嘘だろう。

 もっとも、レイにしてみればサイコロも円球も外見が違っているだけで、特に能力にそう違いはないように思える。

 とはいえ、それはあくまでもレイが感じていることであって、実際に研究をしている者達が同じように感じている訳ではない。

 研究者達にしてみれば、少しでも違うところがあればそれは大きな発見となり、その違う場所から穢れについて色々と推察し、穢れが具体的にどのような存在なのかを求める。

 悪い魔力が穢れであるという長からの情報も当然だが研究者達には知らされているのだが、それを知った上でも自分達で色々と研究をする必要があると思っているのだろう。


(とはいえ、穢れの研究をしても……結局どこから穢れが転移してきてるのか分からないと、それを判断するのは難しいと思うけどな)


 レイとしては、穢れについて調べる意味は大きいと思う。

 だが同時に、どうやって転移してきた場所を見つけるのかというのも非常に大きな問題だった。


「レイ、ちょっといい?」

「ニールセン? 急にどうしたんだ?」


 不意に声を掛けてくるニールセンに、レイは疑問の視線を向ける。

 ニールセンの様子から、何か緊急事態が……具体的には、またどこかに穢れが姿を現したといったものとは違うのは、すぐに理解出来た。

 もし穢れが出たのなら、このように悠長な様子で声を掛けてきたりはせず、それこそすぐに緊急事態だと理解出来る様子で声を掛けてきてもおかしくはないのだから。

 そのようなことにならなかったことから考えると、これは穢れが現れた訳ではないのは間違いない。

 だとすすれば、一体何を思ってこのような真似をしたのか。

 それがレイにとっては疑問だった。


「長から連絡があったわ。ちょっとレイと話したいということだけど……妖精郷に行って貰える?」

「それは……どうだろうな」


 レイとしては、正直なところ妖精郷に行っても問題はないような気がする。

 ここ暫くは野営地で寝泊まりしていたので、妖精郷に顔を出したいという思いもあった。

 ボブだけが残された妖精郷において、現在どのような状況になっているのか……それも少しは気になっていたのだから。

 セトに乗って移動すると考えれば、レイが妖精郷にいる時に穢れが現れても対処は可能だ。

 また、冒険者達も穢れの性質を理解した以上、穢れと接触してもどうすればいいのかを理解している。


「今なら問題はないでしょ? それに、長が呼んでいるということは、そこに大きな意味があるのは間違いないわ。もしちょっとした伝言をするだけなら、それこそ私を通せばいいだけだもの」


 ニールセンの言葉は、実際間違ってはいない。

 もし短い言葉をレイに伝えるだけなら、それこそ穢れが出た時のようにニールセンを通して説明すれば、それで十分に伝わるのだ。

 そのような真似をせず、自分に会いに来るようにニールセンに伝えている以上、そこには明確な理由があるのは間違いなかった。

 問題なのは、それが具体的にどのような話なのか分からないことだろうが。


「レイ、どうするの?」


 繰り返し尋ねてくるニールセンに、レイは迷う。

 実際に今のこの状況で自分が野営地からいなくなってもいいものかどうかと。

 しかし、穢れについて現状で一番詳しいのが長であるのは間違いない。

 そんな長が自分を呼ぶ以上、そこにはニールセンが言うように長が直接レイと話したいと思っているのは間違いなかった。

 そうである以上、ここで自分がどうこうといったように考えても意味はない。


「分かった。なら、一度妖精郷に行こう」


 迷った結果、レイが選んだのは自分が妖精郷に向かうという選択肢だった。

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