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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3129/3865

3129話

レジェンド18巻、今日発売です。

続刊に繋げる為にも、購入して貰えると嬉しいです。

4万文字以上の追加エピソードもありますので、WEB版を読んでいる人でも楽しんで貰えるかと。


カクヨムにて5話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452219415512391

 リザードマンの子供達はレイ達と一緒に穢れを倒しにいくのを諦めた。

 実際には諦めたと口にしてはいるものの、本当に諦めたのかどうかは、レイにも分からない。

 だが、ガガやゾゾにその辺について話しておけば、無茶はさせないだろうと考える。

 その代わりといっては何だったが、リザードマンの子供達はレイやセト、ニールセンと一緒にトレントの森の中を散歩することを主張してきた。

 これに関しては、レイも特に断る必要がないと思ったので素直に受け入れ……


「あ、ほら。あそこ。あそこで以前角を持つウサギのモンスターを倒したんだ!」


 野営地からそれ程離れていない場所で、リザードマンの子供の一人が自慢げに言う。

 自分がモンスターを倒したというのが、それだけ誇らしいのだろう。

 何人かのリザードマンの子供達は、それを羨ましそうな視線で見ていた。

 まだ自分達はウサギのモンスター……いや、ウサギに限らず、モンスターの類を倒していないからこそ、羨ましそうな視線で見ているのだろう。


(リザードマンの子供に殺されるようなモンスターであっても、モンスターはモンスターだ。それがここで、か)


 現在レイ達がいるのは、野営地からそこまで離れていない場所だ。

 弱いモンスターとはいえ、野営地の側までやって来たというのは少し不味いのでは?

 そう思うレイだったが、別に野営地には何らかの対処がされている訳ではない以上、モンスターが近付いてきてもおかしくはないのだ。

 ……もっとも、野営地にはセトがいることが多いので、多くのモンスターはその気配を察知すれば、それ以上近付くといったことはないのだが。


「凄いでしょ。でも、今度はもっと強いモンスターを倒すんだ!」


 自分の決意をレイに向けて口にするリザードマンの子供。

 そんなリザードマンらしい……いや、より正確には子供らしい様子にレイは少し心配になる。

 恐らくは大丈夫だとは思うが、それでもどんなモンスターが現れるかもしれないのを思えば、危険なのは間違いないだろうと。


「今日は俺達がいるからいいけど、次からトレントの森を探索する時はきちんと大人と一緒に移動しろよ?」


 散歩ではなく、敢えて探索と口にするレイ。

 それはリザードマンの子供達の自尊心を満足させ、少しでも危険がないように行動するのを期待してのことだった。

 案の定と言うべきか、そんなレイの考えには全く気が付いた様子もなく、リザードマンの子供達は探索という言葉に喜びつつ、頷く。


「うん、分かった! でも、これは冒険である以上、俺達に対する試練なんだ! だから、その試練を乗り越えて、一人前の戦士になってみせる!」


 その宣言は、強者を尊ぶリザードマンらしいと言えばらしいのだろう。

 他のリザードマンの子供達も同じように自分も戦士になると、そう自分の意思を示す。


「うーん、リザードマンって……こういうのばっかりなの? いや、凄いとは思うわよ? でも、なんというか、こう……」


 奥歯に物が挟まったかのように言うニールセン。

 悪戯好きで、自分の好きなように生きる妖精にしてみれば、リザードマンの子供達の様子は理解は出来るものの、納得は出来ないのだろう。

 そんなニールセンの様子を眺めつつ、レイは自分の横を歩くセトを撫でる。


(野営地の近くでモンスターが現れるのは問題かもしれないけど、こうしてただ散歩してるだけというのも少し退屈だよな。何かイベントの類があればいいんだが。……セトがいる以上、そういうのは簡単に起きないんだろうけど)


 あるいは、そんな風に思っていたのがフラグだったのか……不意に、森の中を何かが……いや、誰かが走っている音にセトが気が付き、それに少し遅れてレイも気が付く。

 だが、レイもセトも走っている音については全く警戒した様子がない。

 足音や気配から、それがモンスターではないことは明らかだったからだ。

 だが同時に、自分達と同じようにトレントの森を散歩しているといったようなことではなく、かなり急いでいるのは間違いない。


(そうなると、何かあったのか?)


 レイは何かがあったのは間違いないと思いながら、やって来る者達を見る。

 そんなレイの様子を見たリザードマンの子供達も一体何をしてるのかといった様子でレイの視線を追う。

 すると、その視線を向けている方から、やがて数人の冒険者達が姿を現した。

 その冒険者達を見て、やっぱりなといったように納得するレイ。

 だが、レイ達の前に姿を現した冒険者達は、レイを見て助かったといった表情を浮かべる。

 それを見れば、冒険者達がレイを捜していたのは間違いない。


「レイ! ここにいたのか! ようやく見つけることが出来た!」

「その様子を見ると、俺を捜してたみたいだけど。何かあったのか?」

「ああ。ちょっと野営地に戻ってきてくれないか? 研究者達の護衛が来たんだが、こっちの冒険者と揉めたんだよ」

「それは……まぁ、十分に有り得るのか」


 冒険者の口から出たのは、レイにとっても予想出来たことだったのは間違いない。

 研究者の護衛が来るいうのは分かっていたものの、それでも出来れば問題が起きないといいと思っていたのだが、そんな希望は儚く散ってしまったらしい。


「俺が言っても説得力はないかもしれないが、あの連中はかなり横暴なんだよ。それが理由でこっちに上から命令するような真似をする奴がいて」


 その説明に、レイはやっぱりかと納得の表情を浮かべる。

 そういう護衛だけがいるという訳ではないだろうが、そのような護衛が一人や二人でもいれば、その時点で他の護衛達も同じように見られてしまう。

 普通の……野営地にいる冒険者達と上手くやろうとしている者にしてみれば、そのような護衛の態度は好ましくないだろう。

 それでも止めないのは、命令系統が違うからか。

 もしくは、傲慢に振る舞っている者の実力が他の者よりも強いからか。

 その辺りはレイにも分からなかったが、この話を聞いて放っておく訳にもいかない。

 実際にはレイは野営地で生誕の塔の護衛をする者という訳ではないので、この騒動に関わる必要はないのかもしれない。

 しかし、レイが野営地で寝泊まりをしている以上、放っておけばレイにとって面白くない結果になる可能性も十分にある。

 そうなった時に嫌な思いをするかもしれないと思えば……


「分かった、行くか」


 結局レイが選ぶのは、自分がその騒動を鎮圧するといったものだった。


「助かる」


 レイを呼びに来た者達は、レイの決断に助かったと言う。

 現在の状況を考えると、やはりレイのように力でどうにかして欲しいと思っていたのだろう。

 野営地にいる冒険者達も、本来なら自分達の実力でどうにかしようと思えばどうにか出来た。

 護衛としてやって来た中でも、問題を起こしているのは数人なのだ。

 それに対して、野営地にいる冒険者の数はかなり多い。

 また、実力という点でも野営地にいる冒険者達はギルドから優秀な冒険者と認められている者達だけに、護衛達に実力で負けている訳ではなかった。

 そうである以上、やろうと思えばどうにか出来る。

 出来るのだが、それでも今の状況で自分達が動くと問題になる可能性が高く、だからこそレイに頼ったのだろう。


「聞いての通り、俺はやるべきことが出来たから行く。お前達もそろそろ生誕の塔に戻った方がいい、野営地での騒動に巻き込まれるのは嫌だろう?」

「大丈夫だよ! 俺が敵は倒すんだ!」


 リザードマンの子供の一人がそう言うが、レイは少し困った様子を見せる。

 今の状況を思えば、リザードマンの子供が何を言いたいのか、したいのかは分かる。

 分かるのだが、だからといってそれを受け入れる訳にいかないのも事実だった。


「レイ、この子供達の相手は俺に任せてくれ。無茶はさせない。だからレイは野営地の方に」


 そう言われたレイは、すぐに頷く。


「分かった。じゃあ、この子供達の相手は頼む」

「任せろ」


 レイの言葉に当然といった様子で頷く冒険者達。

 野営地にいる冒険者達は、生誕の塔の護衛を任されている者達だ。

 そうである以上、生誕の塔で暮らしているリザードマンの子供達を守るのは冒険者として当然だった。

 もっとも、野営地にいる冒険者達とリザードマン達は友好的な関係を結んでいる。

 自然と冒険者達とリザードマンの子供達も接する機会が多くなり、関係は良好である以上はレイに頼まれなくてもリザードマンの子供達を守っていただろう。

 その辺りについて理解しているのか、いないのか。

 それでもレイはこの冒険者達に任せておけば、リザードマンの子供達の心配はいらないだろうと判断し、セトとニールセンと共に野営地に向かう。

 リザードマンの子供達は、自分も野営地に行って敵――この場合は横暴な振る舞いをしている護衛達――を倒すと騒いでいたが、冒険者達に止められていた。

 幾らリザードマンが戦闘に向いている種族だとはいえ、結局のところ子供はまだ子供でしかない。

 捕まえられ、幾ら尻尾を振るっても冒険者達の手から脱出することは出来なかった。






「あれだな」

「グルゥ!」

「全く、面倒な真似ばかりさせないで欲しいわね」


 野営地に近付いてレイが呟くと、セトとニールセンがそれぞれ言葉を返す。


「どうやら本格的な戦いにはなっていないみたいだな」


 野営地に近付いても、殺気の類は感じられない。

 他にも闘気の類もないのを考えれば、まだ最悪の結果にはなっていないのだろう。

 レイを呼びに来た冒険者の様子から考えると、もしかしたら最悪の結果になっていた可能性も高いので、そういう意味では悪くない状況だったのは間違いない。


(後はどうやって騒動を収めるか、だな。……聞いた話だと新しくやって来た護衛の連中の中に数人だけ厄介な奴がいるって話だった。なら、その連中を見せしめにでもすれば問題は解決するか?)


 そんな風に考えながら、レイは野営地の中を進む。

 すると、野営地の丁度真ん中辺りに多数の者達が集まっているのが見えた。


「あれ?」


 集まっている者達がいる以上、そこで問題が起きているのは間違いない。

 そうレイは思ったのだが、その集団に近付くと予想していたのとは全く違った光景がそこには広がっていた。

 元々野営地にいた冒険者達が集まっている集団は、新しくやって来た研究者の護衛達に対し、戸惑ったような視線を向けている。

 レイを呼びに来た者達の話によれば、野営地の冒険者達は自分達に上から口調で命令する護衛に対して不満を抱いていた筈だ。

 だからこそレイはお互いに一触即発の状況になってるのではないかと思っていたのだが……それが一触即発どころか、戸惑っているのだ。

 そして護衛達の方は、怒っているような気配がある。

 しかし、その怒りが冒険者達に向けられていないのも、近付けば何となく理解出来て……


「一体、これはどうなってるんだ?」


 結局その集団に近付いたレイが見たのは、数人の護衛達が他の護衛達によって地面に倒され、動けないように押さえつけられているという光景だった。

 これが例えば、冒険者達が護衛達を押さえつけているのならレイもまだ納得出来ただろう。

 なのに、何故か仲間の護衛に押さえつけられているのだから、それに驚くなという方が無理だった。


「あ、レイ。心配しないでくれ。勝手な振る舞いをしていた奴はこっちでどうにかした。だから、レイに迷惑を掛けるような真似はしない」


 レイの呟きが聞こえた護衛の一人が、慌ててそんな風に言ってくる。

 護衛達のその様子を見たレイは、レイが来たことで何故か納得の表情を浮かべた冒険者達を見て、何となく状況を理解した。


(つまり、自分達が最悪の状況になりそうだったのを理解したんだろうな)


 もしお互いが敵対している状況でレイが戻ってきた場合、レイがどちらに味方をするか。

 お互いに悪いところがあれば、レイも冒険者達に一方的に味方をするような真似はしないだろう。

 だが、今回の問題は明らかに護衛達が悪い。

 正確には、護衛達の中にいた偉ぶった者達。

 レイについての情報を少しでも知っていれば、ここでレイを敵に回したいと思う者はいない。

 だからこそ、護衛達の中でも状況が理解出来る者……特に何人かの冒険者がレイを呼びに行ったことに気が付いた者達は、このままだと自分達もレイに敵視されかねないと判断し、冒険者達に絡んでいた数人を即座に鎮圧した。

 ここでレイと敵対するようなことは、それこそ百害あって一利なしと判断したのだろう。

 実際、その判断は正しく、レイは護衛達に驚きの視線を向けてはいるものの、敵意や警戒の視線は向けていない。

 野営地はそんな奇妙な状況になっているのだった。

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