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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3100/3865

3100話

『なるほど。それでいつもとは違うこんな時間に連絡をしてきたと』


 対のオーブに映し出されたエレーナは、レイから事情を聞いて納得の表情を浮かべる。


「ああ、俺が領主の館に行ってもいいけど、そうなればまた隠れて行動する必要があるし、何よりトレントの森で穢れを倒せる奴がいなくなるし」


 もしどうしてもレイが領主の館に行くとなれば、レイの代わりに穢れを倒すことが出来る唯一の人物、エレーナにトレントの森にやって来て貰うしかない。

 だが、当然ながらそのような真似をすると大きな騒動になりかねない。

 なら、わざわざレイが直接領主の館に行かなくても、レイからの伝言を預かったエレーナに領主の館へ行って貰えばいい。

 レイにしてみれば、下手に自分が行くよりもエレーナの方が研究者達の対処に詳しいだろうという思いもあったが。


『それは否定出来ない、か。アーラの性格を考えれば特に……』

『エレーナ様?』


 エレーナの言葉が最後まで言われるよりも前に、アーラの声が聞こえてくる。

 向こうでエレーナの側にアーラがいるのは、この状況を見れば確実だった。

 とはいえ、レイもそれで特に驚くようなことはないが。

 アーラはエレーナの従者という役割も持っているのだ。

 そう考えれば、ここでアーラが出てくるのはおかしな話ではない。


「で、どうだ? 頼めるか?」

『レイからの頼みを、私が断るとでも? 任せて欲しい。幸い……という表現がこの場合に正しいのかどうかは分からないが、研究者達の中には貴族派と繋がりの深い者もいる』


 エレーナの言葉はレイを納得させるのに十分だった。

 貴族派は国王派よりは小さい派閥だが、それでも中立派よりは大きい。

 そうである以上、貴族派から資金援助を受けている者、あるいはそれこそ貴族派の貴族の身内が研究者となっていてもおかしくはなかった。


(あれ? もしかして俺に突っ掛かってきた奴が貴族派の貴族の身内とかだったりしないよな?)


 そう思ったレイだったが、この件については自分が今ここでどうこう考えても意味はないだろうと思う。

 もし貴族派の関係者であった場合、それこそエレーナからどのようなことを言われるのか分からないのだから。


『それにしても、穢れの件はともかく妖精の件も知られたというのは少し不味いな』

「そうだな。俺もそう思う。ある意味で穢れよりも妖精の件を知られたことの方が問題だろう」


 レイとしては穢れの方が大きな問題だと思うのだが、それはあくまでもレイが穢れがどのような存在なのかを知っているからだ。

 研究者達にしてみれば、見ただけで嫌悪感を覚える黒い円球という存在に興味を覚えてもおかしくはない。

 それこそ研究者として、何故見ただけで嫌悪感を覚えるのかといった仕組みを解明したいと考える者もいるだろう。

 だが、そんな黒い円球よりも、妖精という存在の方が研究者達の興味を惹くのは間違いないとレイには思えた。

 妖精が作ったマジックアイテムがあることからも、妖精が実在したというのは間違いのない事実だ。

 しかし、過去に実在したのは事実だが、その姿を確認出来なくなって久しい。

 ……あるいは、日本のようにネットといった便利なものがあれば、色々な場所から情報を入手出来るので、もっと妖精についての情報を入手出来たのかもしれないが。

 研究者の中には、もしかしたらもう妖精は絶滅したのでは? と思っている者もいる。

 そんな妖精がいきなり目の前に現れたのだから、情報を何も持っていない穢れよりも妖精の方に興味を持ってもおかしくはない。……いや、寧ろ自然だろう。


『そうなると、妖精についてはダスカー殿ときちんと打ち合わせをしておいた方がよさそうだな。……では、残念だがそろそろ話は終わろう。出来るだけ早くダスカー殿に会った方がいいだろうし』

「悪いけど、頼む」


 その一言で通信が切れる。

 レイとしては、出来ればもう少しエレーナと話をしていたかったというのが正直なところだ。

 だが、今こうしてエレーナに対のオーブで連絡をしたのは、研究者達への対処の為である以上、ここで自分が長々とエレーナと話をするといった真似をしたら、それは致命的なことになりかねない。

 そうなれば、最悪妖精郷に研究者達が押し寄せるといったことにもなりかねなかった。


「さて、取りあえず妖精についてはこれでいいな。……まぁ、今回の件に関してはニールセンを責めたりは出来ないし」


 まさか穢れがいきなりあれだけ大量にやって来るとは思わず、それについてニールセンにどうなっていると聞いたのは、レイなのだ。

 ニールセンがそれに答えただけである以上、寧ろこの件が問題になった時に責められるのは自分だとレイは思っていた。

 ……当然だが、そういう風になりたくはなかったので、レイとしてはエレーナに上手い具合にダスカーに説明して貰い、ダスカーには研究者達をどうにかして欲しかった。

 仕事が大量にあって忙しいダスカーだ。出来ればこれ以上仕事を増やしたくないとは思っていたが、今の状況を考えるとダスカーに頼るしかないというのも事実。

 申し訳なく思いながらも、レイはエレーナとの会話も終わったので、対のオーブをミスティリングに収納する。


「レイ、どうだったの?」


 少し……本当に少しだけだが緊張した様子で、ニールセンがレイに尋ねてくる。

 いつもならレイがマジックテントの中にいる時は、自分もマジックテントの中に入ったり、あるいはセトの上で寝転がったりといったようなことをしているニールセンだったが、今の自分の状況……妖精の自分が研究者達の前に姿を現したのは色々と不味いというのは十分に理解しているのだろう。

 だからこそ、レイにはしっかりとエレーナに対して説明し、色々と対処をして欲しいと思っていたのだ。


「エレーナに頼んでおいたから、その辺はもう特に問題ないと思う。後は……研究者達がどういう風に反応するかだな」


 そう言うレイだったが、実はその辺についてはあまり心配していない。

 自分に突っ掛かってきた研究者の件もあるので、完全に安心するといった真似は出来ない。

 しかし、自分と話をしていた研究者は基本的に優秀な人物で、ダスカーを困らせるような真似をすれば、それが結局自分達にとって損になるだろうというくらいは容易に予想出来る筈だ。

 そうである以上、馬鹿な真似をしてダスカーを怒らせるなどといった真似は基本的にしないだろう。

 あくまでもレイの予想で、実はレイと話した男が実際にダスカーと話した時は好奇心や知識欲が暴走し、最悪の結末を迎えるといったようなことになってもおかしくはないのだが。


「ふぅ。じゃあ、長からのお仕置きは心配しなくてもいいのね」


 心の底から安堵した様子のニールセン。

 そんなニールセンを落ち着かせるように、レイは口を開く。


「今回の件に関しては、俺がニールセンに聞いたのが原因だしな。この件でニールセンがお仕置きされそうになったら、きちんと擁護するよ」


 黒い円球が大量に出て来た時、どうなっているとレイがニールセンに声を掛けたのが原因である以上、レイとしてはもしその件でニールセンが長からお仕置きをされそうになった場合、しっかりとそれを止めるつもりだった。

 レイの言葉だけで長がニールセンに対するお仕置きを止めるかどうかは、正直なところ分からない。

 それでも何故か長はレイに対し必要以上に尊重しているように見えるので、ある程度の効果はあるだろうとレイは思っていた。

 本来ならお仕置きをされるのが、軽く注意される程度になるといったように。


「本当!?」

「ああ、だから長との連絡はしっかりとやっておいてくれよ。お仕置きが怖くて長と連絡が取れなくなるとか、そういう風になった場合、穢れの件で色々と問題が起きたりするかもしれないし」


 そう言うレイの言葉に、一瞬ニールセンの表情が固まる。

 実際にそのような真似をしたのか、それとも考えただけだったのか。

 生憎とレイにはその辺の事情は理解出来なかったものの、ニールセンに何か後ろめたいことがあったのは間違いないのだろう。


「言っておくけど、ここで下手な真似をしてそれが理由で長にお仕置きをされるとか、そういうことになったら庇うような真似は出来ないぞ」

「わ……分かってるわよ、そんなことくらい」


 怒りか照れか、それとも自分の考えを見透かされた羞恥か。

 理由はともあれ、顔を赤く染めて叫ぶニールセン。

 そんなニールセンを、レイは……そしてセトまでもがどこか呆れた様子で見る。


「取りあえず、次に穢れが出た時の対処もある。その辺はしっかりと頼むぞ。……それに、今回の件は場合によっては最悪の展開の可能性もある」

「最悪の展開? ……何それ?」

「あれだけ黒い円球が姿を現したのに、何故長が気が付かなかった? トレントの森の外だからだろう? もし黒い円球が一瞬でもトレントの森に入ってれば、長ならすぐに察知出来た筈だ。その長が一瞬であっても察知出来なかったということは……」


 そこまで言われれば、ニールセンもまたレイの言いたいことを理解したのだろう。

 信じられないといった様子で口を開く。


「最初から、トレントの森の外に転移してきた?」


 その言葉の意味は、ニールセンにも理解出来ているのだろう。

 信じられないといった表情から、次第に真剣な表情になっていく。


「ああ、俺もそう思う。……というか、長が感知出来なかったことを考えると、そう考えるしかない。これで黒い円球ではなくてもっと別の形をした新型の穢れなら、長に察知させないといった能力を新たに持っていてもおかしくはないんだが」

「黒い円球で、新型じゃなかったわね」


 そうだな、と。レイはニールセンの言葉に頷く。

 そんなレイとニールセンの様子を見てか、セトもまた喉を鳴らして同意していた。


「そんな訳で、穢れがトレントの森の外に転移してきたのは確実な訳だ。これが狙ってトレントの森の外に転移させたのか、それとも研究者達が湖の側にいたから、人に引き寄せられるといった特性によってトレントの森の外に転移したのかが問題だな」


 その辺りが具体的にどうなっているのかは、残念ながらレイにも分からない。

 分からないが、それでも今のこの状況を思えば万が一ということは考えておいた方がいい。

 もし穢れの転移がトレントの森の外に自由に出来るようになったら、どうなるか。

 恐らく……いや、間違いなくレイを含めて穢れに対処をしている者達にとって頭の痛い事態になるだろう。


「出来ればあの人達がいたからそうなったということになって欲しいけど」

「その辺を期待するのは、ちょっと問題だろ。……ただし、出来れば長にはトレントの森だけじゃなくて、その周辺にも穢れが出て来たら察知して欲しいと思うけど、どう思う?」

「うーん……やってやれないことはないと思うけど、そうなると長の負担は間違いなく今までよりも大きくなるでしょうね」


 それはレイにも理解出来た。

 感知範囲を今以上に広げるのだから、その際には当然のように力を使う。

 それが魔力か体力か、あるいは妖精特有の何らかの力なのか……もしくはそれ以外の何かなのか。

 生憎とその辺りについてはレイにも分からなかったが、それでも今の状況を思えば何かを消耗するのは間違いない。

 問題なのは、その消耗が具体的にどのくらいなのかということだろう。

 例えば、その消耗が少しの消耗……それこそ百m走るのが百五十m走るようになった程度の消耗の増加であれば、そう問題はない。

 だが、百m走るのが百km走るというくらいに消耗の差があるのなら、レイも無理は言えなかった。

 もっとも、具体的にどのくらいの消耗の違いがあるのかというのはレイにも分からないのだが。

 百kmの例は大袈裟だろうとは思うのだが。


「それで、取りあえずこれからはどうするの?」

「どうすると言われてもな。今のこの状況で特に何か出来たりとかはないし。ただ、待つしか出来ないな。もしかしたら、また穢れが転移してくる可能性は否定出来ないぞ」

「また? ……本当に来ると思う?」

「来るか来ないかと言われれば、来る可能性は十分にあると思う。そもそも穢れの関係者が一体何を考えて今のような真似をしてるのかも分からないんだし」


 レイの言葉を聞いたニールセンは、疑問の表情を浮かべる。


「ボブを狙ってのことじゃないの?」

「それが狙いの一つなのは間違いないだろうが、それにしても少し大袈裟すぎると思わないか? 特に今回のように三十匹近い黒い円球を一気に送ってくるとか、ボブだけを殺すには……」

「でも、それはレイが送ってきた穢れを次々に倒したからじゃない?」


 ニールセンの言葉に対し、レイはその可能性もあるかもしれないなと告げるのだった。

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[気になる点] 戒めの種を使用しないのは何故でしょうか?
[良い点] 3100話到達 おめでとうございます ( ^_^)/□☆□\(^_^ ) カンパーイ!
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