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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3086/3865

3086話

「んん……? あれ? ここは……ああ、そう言えば昼寝をしていたんだったな」


 目が覚めたレイは、最初自分がどこにいるのか分からなかった。

 ただ、自分がセトに寄り掛かっていたのに気が付き、そしてここがいつものマジックテントの中ではなく外であることにも気が付くと、自分が何故ここにいたのかを思い出す。

 新しい穢れとの戦いによって……いや、正確にはその新しい穢れに追われていた冒険者とのやり取りや、それぞれ散らばっている穢れを見つけ出しては魔法で焼滅させていくといったような真似をしたことによって、精神的に疲れたのだ。

 その疲れを癒やす為に、レイはセトに寄り掛かって眠った。

 普通なら秋も深まったこの季節に外で昼寝をするというのは風邪を引く為の行動と思ってもおかしくはない。

 しかし、セトの体温やドラゴンローブの簡易エアコンの機能によって、レイは特に風邪を引くといったようなこともなく、体調にもおかしなところはない。

 ……もっとも、レイの身体は普通の身体ではない。

 ゼパイル一門が技術の粋を込めて作った身体だ。

 ちょっとやそっとの病気の心配はしなくてもいい。

 ……もっとも、それはつまりレイであっても何らかの病気になるようなら、その病気は凶悪な感染力を持っているということになるのだが。


「セト、ありがとな」

「グルゥ!」


 構わないよと、喉を鳴らすセト。

 実際、セトにしてみればレイが自分に寄り掛かって眠っているというのは、全くつまらないといったことはない。

 普通に幸せな時間だったのだ。

 それこそ、本来ならもう少しレイが眠っててもいいのにと思える程には。

 とはいえ、今の状況を思えばレイがいつまでもゆっくりと眠っていられるような余裕がないのも事実だが。


「それで、セト。俺が眠っている間に何かあったか?」

「グルゥ? グルルルルゥ」


 レイの言葉に首を横に振るセト。

 実際には、レイに会いに来た者達が何人かいたのだが。

 しかし、そのような者達も何か重要な……それこそ穢れが現れたとか、湖の側で燃えている巨大スライムが今まで以上に激しく燃えたとか、そういう理由でやって来たのではない。

 あくまでもちょっとした用事でレイと話そうと思ってきただけだ。

 セトもそれが分かっていたので、レイの質問に首を横に振ったのだろう。


「そうか。なら、今日はこれからもう何もないと……」

「レイ、穢れよ!」

「……思ったんだけどな。これがフラグって奴か」


 まるでレイが起きるタイミングを待っていたかのように、ニールセンが叫びながらそう言ってくる。

 レイはそんなニールセンの言葉に起きていきなり穢れと戦うのかと、少しだけ面倒に思いつつも、立ち上がる。


「分かった。それで場所は?」

「樵の方よ」

「今度はそっちに出たか。……というか、さっきの冒険者もそうだったが、人のいる場所に出るよな」


 レイの知る限り……それはつまり、このトレントの森に姿を現した穢れの全てでということになるのだが、その穢れが人のいない場所に出たというのは、最初の黒い塊以外には存在しない。

 レイにしてみれば、その点が厄介だった。

 それはつまり、穢れをトレントの森に送り込んできている者達が人に害を与えようとしているからこそなのかもしれない。


「そうかもしれないわね。それより、早く」


 ニールセンに急かされたレイは、セトの背に跨がる。

 置いていかれてたまるかと、ニールセンはレイのドラゴンローブに掴まる。


「セト」

「グルルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは喉を鳴らしながら数歩の助走で翼を羽ばたかせ、空に駆け上がっていく。

 野営地にいた者達は、そんなレイとセトとニールセンの様子に少しだけ驚いた様子を見せていたが、レイ達が何故野営地にいるのかというのを考えれば、何故急いで出ていったのかはすぐに分かる。

 その為、また穢れが出たのかといったようには思うだけだ。

 レイやセト、ニールセンの心配も多少はしているものの、それについてはレイの強さを知っている以上は、特に問題ないと思えた。

 ……実際、レイの実力を考えれば、そのように思うのは当然だったが。

 穢れは触れた存在を黒い塵に変えて吸収するといった能力を持っている。

 その攻撃力、そして防御力は非常に強力だろう。

 しかし、レイはそんな相手の攻撃を無視するかのように一方的に殺すことが出来るのだ。

 そうである以上、レイが穢れと戦う際の心配をする必要はないというのが、野営地にいる冒険者達の認識だった。

 いや、それは野営地にいる冒険者達だけではない。

 リザードマンにとっても、レイはガガを倒すだけの実力を持つ強者なのだ。

 強者を尊ぶリザードマンだからこそ、レイが穢れ程度を相手にどうにかなるとは到底思っていなかった。






「さて、それで向かうのは樵達でいいんだよな?」


 自分が野営地にいた者達から絶対的に信頼されているのに気が付いているのかいないのか。

 セトの背に乗ったレイは、自分の右肩に掴まっているニールセンに尋ねる。


「ええ、樵達のいる場所に姿を現したって長から連絡が来たわ」

「だそうだ。本当に人のいる場所に姿を現すってのは、厄介だよな。これがせめて、人のいない場所に姿を現してくれるのなら、こっちもそこまで急ぐ必要はないってのに」


 その場合でも、穢れを放っておけばトレントの森に大きな被害が出るのは確実である以上、レイは倒しに行くだろう。

 しかし、人に被害が出るか出ないかというのは、心理的に大きく違う。

 あるいは全く見知らぬ相手なら、レイもそこまで強く気にしたりはしないだろう。

 だが、樵達やその護衛をしている冒険者達は、レイにとっての知り合いだ。

 それもちょっと顔を知っているといった程度の顔見知りではない。

 何だかんだと、レイとは一年程の付き合いになる者もいる。

 そのような者達である以上、レイとしては見捨てるといった選択肢は存在しなかった。


「グルゥ!」


 空を飛んでいたセトが、鋭く鳴き声を上げる。

 野営地から樵達が仕事をしている場所までは結構な距離があり、地上を走って移動する場合は生えている木々が邪魔をしたり、茂みや木の根によって走りにくいこともあって移動するのにそれなりに時間が必要となるだろう。

 セトが走るのなら、そこまで大変ではないかもしれないが。

 とにかく地上を移動するのなら相応の移動時間が必要となるのは間違いないが、セトには空を飛ぶという移動方法がある。

 ギルムからトレントの森まで数分で到着する以上、同じトレントの森での移動となれば、それこそ一分も掛からない。

 それを示すかのように、既にセトは樵達の仕事場に到着し、更にその鋭い視線で地上にいる樵達の姿を発見したのだろう。

 それがセトが鋭い鳴き声を発した理由だった。

 そんなセトから遅れること、数秒。

 レイもまた、木の枝の間から地上を走っている樵達の姿を確認する。


「先に行く」


 そう短く言うと、レイはそのままセトの背から降りる。

 当然だが、セトが空を飛んでいる以上レイは地上に向かって降下していく。


「きゃあっ! ちょっ、降りるなら降りるって言ってよね!」


 レイの右肩に掴まっていた関係でレイと一緒にセトから落ちたニールセンが抗議の声を上げる。


「あ、悪い。そう言えば俺と一緒だったな」


 高度百m程の高さから落ちているにも関わらず、レイは全く動揺した様子もなくそう告げる。

 これまで何度も同じような高さから降りているので、レイにしてみればこの程度の高さを落ちるというのは、そこまで驚くような事ではない。

 途中で何度かスレイプニルの靴を使うことによって落下速度を殺していく。

 なお、突然のレイの行動に文句を言っていたニールセンは、空を飛べる自分がレイと一緒に落下をする必要はないだろうと判断したのか、レイから離れていった。

 そうしたやり取りをしながら高度を下げていったレイは、樵達の周囲に数人の冒険者達が護衛しているのを確認する。


(冒険者の数が少ないのは、穢れを引き付けているからか)


 冒険者達の行動は的確だった。

 何も知らない状態で穢れに遭遇したのなら、冒険者達も相手の情報を何も持っていないだけに対処に苦労するだろう。

 しかし、既にレイから穢れについての情報を聞いている以上、それに対処するのは難しくはない。

 倒すことは不可能でも、相手は単純な行動しかしないのだ。

 そして時間を稼げば、穢れを倒せるレイが来る。

 ここにいるのが冒険者として新人であれば十分な対処は出来ないだろう。

 しかし、生誕の塔の護衛を任された者達程ではないとはいえ、ギルドから優秀と判断されている冒険者達だ。

 そのくらいのことは容易に出来る。

 とん、と。

 そんな風に考えていたレイは、樵達の逃げている先に着地する。

 百m程の高さから落下してきたとは思えないような軽い足音と共に。


「レイ!?」


 樵達の護衛をしていた冒険者の一人が、突然目の前に落ちたきた……あるいは降ってきたといった表現の方が正しいのかもしれないが、とにかくいきなり姿を見せたレイを見て叫ぶ。


「待たせたか?」

「いや、早いと思う。早速だが頼む。向こうの方で現在黒いサイコロを引き付けてるから」

「待て」


 冒険者の言葉に一歩踏み出そうとしたレイだったが、その言葉の意味を理解すると足を止める。

 今、この男は何と言った?


「黒いサイコロと、そう言ったのか?」


 そう聞かれた冒険者の男は、レイが一体何を言ってるのか理解出来ないといった様子で言葉を返す。


「当然だろ。穢れってのは、黒いサイコロの形をしてるんだろ?」


 樵を守っていた冒険者にしてみれば、それは当然のことだった

 冒険者達が穢れを見たのは、まだ一度。

 その一度が、黒いサイコロだったのだ。

 そうである以上、今回襲ってきた穢れが黒いサイコロであっても特におかしなことはない。

 ただし、それはあくまでも樵達の護衛をしている冒険者の視点としての考えだが。

 そうではない、アブエロの冒険者の一件があったレイにしてみれば、穢れは黒いサイコロから黒い円球に変化したという認識だった。

 なのに、何故また黒いサイコロに戻っているのか。

 その件について追及したかったが、ここで悠長に時間を使うことは出来ない。

 そもそもの話、もしここで穢れについて話していても、それで何が変わる訳ではない。

 黒い円球と黒いサイコロ。

 その二つが穢れであるのは変わらないのだから。


「分かった。それで穢れがいるのは向こうでいいんだな?」

「そうだ」


 そう言葉を交わすと、ここではこれ以上の情報は入手出来ないと判断して、レイは護衛の冒険者が示した方に向かう。


「頑張ってくれよ」

「あの連中がいなくならないと、俺達も仕事が出来ないんだ。よろしく頼む」

「レイなら勝つって信じてるからな」


 レイに向かって、樵がそんな声を掛けてくる。

 樵達が予想以上に落ち着いているのをレイは頼もしく思う。

 最初に穢れと接触した時は、樵達もかなり狼狽していた。

 未知のモンスターと遭遇したのだから、そのような反応は当然だったが。

 しかし、今はもうそのモンスター……穢れがどのような存在なのか、十分に理解している。

 触れればそれが致命傷になるが、逆に言えば触れなければ問題はない。

 また、攻撃をすれば延々と攻撃してきた相手を狙うが、人を見れば襲ってくるといった真似をする訳でもない。

 そうである以上、樵達にしてみれば怖い相手ではあるが、積極的に襲ってくる訳でもない分、そこまで気にする必要はないと判断したのだろう。

 勿論、だからといって放っておいていい相手という訳ではない。

 自由に動き回り、そして触れた場所を黒い塵として吸収するといった能力がある以上、樵としては木の幹を黒い塵として破壊され、倒されてしまうのだから。

 樵としての仕事をする上で非常に厄介な相手なのは間違いない。

 ある意味では木を伐採してくれてるのだが……穢れに触れた木を建築資材として使うのは、何があるのか分からない以上、不味いだろう。

 また、それらを抜きにしても穢れというのは見るだけで嫌悪感を抱く。

 そのような存在が自由に行動するのは、樵達にとっても面白いことではない。

 だからこそ、こうしてレイが穢れを倒しに来てくれたのは樵達にとって嬉しかったのだろう。


「任せろ。すぐに穢れは倒す。そうしたら、また忙しくなるから頑張って木の伐採を頼むぞ」


 レイは樵達にそう告げ、空から降りてきたセトの背に再び跳び乗る。

 少しでも早く情報を入手する為に上空のセトから降りたのだが、再びセトに乗って……ただし、今度は空を飛ぶのではなく地上を走ってセトは移動するのだった。

 なお、ニールセンもレイに置いていかれないようにと、再びレイの側にいる。

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