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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3030/3865

3030話

昨日の更新で3029話を飛ばして予約投稿してました。

現在は修正済みなので、まだ3029話を読んでない方は前話からどうぞ。

 取りあえず黒いサイコロを転移させたと思われる、他よりも大きな個体を見つけることは出来なかった。

 レイだけではなく、セトであっても見つけることが出来ない以上、レイ達がいる周辺には敵の姿がないのだと、そう判断するしか出来ない。

 とはいえ、それで完全に納得するような真似が出来る筈もなかったが。


(黒いサイコロは、昨夜の黒い塊とはまた違った性質を持っていて、実は他よりも大きな個体はいないとかだったらいいんだが……そこまで楽観的になるのもな)


 考えられるとすれば、転移してきた黒いサイコロが分裂して複数の黒いサイコロになったというものがあるだろう。

 しかし、それを信じることが出来るかと言われれば、レイも素直に頷くことは出来ない。

 そこまで自分に都合のいいようになるとは、到底思えなかったからだ。

 勿論、本当にそのようになってくれるのなら、レイとしてはありがたいが。


「それで、これからどうするんだ? もう黒いサイコロは全部倒したし、レイが言っていたような大きな個体も見つからない。そうなると、取りあえず今回の一件は片付いたと思ってもいいのか?」


 冒険者の問いに、レイは迷う。

 実際に今の状況を思えば、もしかしたらそうした方がいいのかもしれない。

 しかし、またいきなり黒いサイコロが現れたらどうなるか。


「正直なところ分からない。ただ……そうだな。今回の一件に関わった連中は、恐らくギルドかダスカー様から何か言われると思う」


 そう言いつつ、今更だがギルドに穢れの件が伝わっているのか? とレイは若干疑問に思う。

 レイが穢れについて話したのは、あくまでもダスカーだけだ。

 ダスカーも自分の信頼出来る側近になら話しているだろうし、王都にも連絡をしている以上、ギルドの方に連絡がいっていてもおかしくはない。

 いや、それはむしろ納得すら出来るだろう。


「え? ……おい、俺達は一体何に巻き込まれたんだよ?」


 まさかここでギルドはともかく、ダスカーの名前が出てくるとは全く思っていなかったのだろう。

 レイに尋ねた冒険者は勿論、他の冒険者達もまた一体何がどうなってそのようなことになっているのかといった表情を浮かべている。


「ちょっと説明するのが難しいけど……そうだな、取りあえず色々と面倒臭いのに巻き込まれたのは間違いない」


 ここで、下手をすれば大陸が滅亡するといったように言おうかと思ったレイだったが、それを聞いても恐らく驚くだけで納得は出来ないだろうと判断し、やめておく。

 今のこの状況は冒険者達にとって完全に予想外であるのは間違いないものの、それでも自分がここで詳細を説明するのは冒険者達が混乱するだけだと判断する。


「取りあえず俺が昨夜遭遇した、他の個体よりも大きい奴が見つかっていないのはどうかと思うが、こうして探してもいない以上はどうしようもない。……セト、分かるか?」

「グルゥ……」


 レイの言葉に、セトは残念そうに喉を鳴らしながら首を横に振る。

 セトの五感や第六感、魔力を感知する能力であっても把握出来ないのであれば、それこそどうしようもないのは間違いない。


「こうしてセトが探しても見つからない以上、俺達で探しても見つけることは出来ないだろう」


 レイのその言葉に、冒険者達は顔を見合わせる。

 ここにいる冒険者達は、当然ながらギルムにおいてセトがマスコット的な存在になっているのは知っている。

 それだけではなく、冒険者としてセトがどれだけの強さを持つのかも知っていた。

 それだけに、レイがこうしてセトが見つけられないのなら自分達が探しても大きな黒いサイコロを見つけることは出来ないと、そんな風に理解出来てしまう。


「分かった。レイがそう言うのなら、それを信じよう」


 もしこれで、ここにいる冒険者が自分の力を過信していた場合……その時は、それこそセトが敵を見つけることが出来ないからといって、それに素直に納得出来ないと思う者もいるだろう。

 幸い、ここにはそのような冒険者はいなかったが。

 生誕の塔の護衛を任された冒険者達程ではないにしろ、ここにいる冒険者達もギルドから相応の信頼をされている冒険者なのは間違いのない事実なのだから。


「分かって貰えて何よりだ。そうなると、取りあえず……樵達に合流するか。俺が途中まで一緒に行動していた奴に樵達の護衛を任せてはいるけど、一人だけで護衛をするのは危険だし。いや、手が回らないという方が正しいのか?」

「あー……まぁ、ワッツの奴なら大丈夫だとは思うけど、モンスターや動物に襲撃されるよりも前に合流した方がいいな」


 ワッツという名に、レイは初めて自分と一緒に行動していた冒険者の名前を知る。

 そう言えば、自己紹介をしている暇もなかったな……と、そう思いながら。

 もっとも、レイはワッツの名前を知らなかったが、ワッツはレイの名前を知っていた。

 レイの知名度を考えれば、それは自然なことだろう。


「なら、さっさと移動しよう。ここにいた黒いサイコロは全部倒したけど、実はまだ生き残りがいてワッツのいる方に出るという可能性もあるしな」


 そう言いつつも、それはレイとしては避けたいことだった。

 触れると黒い塵になる存在が好き勝手に動いているとなれば、それこそ最悪の未来が待っているのだから。

 レイの言葉に他の冒険者達も嫌な想像をしてしまったのか、素直に頷いて移動を開始する。

 普通に歩いて移動するのではなく、小走りといった速度での移動だ。

 少しの時間が経ち、やがてセトが喉を鳴らす。


「グルゥ」


 その鳴き声を聞いたレイ以外の者達は、一瞬にして気を張り詰めて何かあったら即座に行動出来るようにするが……


「心配ない。今のは安心したという意味だ」

「……よく分かるな……」


 若干の呆れが混ざった様子で、冒険者の一人がレイに向かって言う。

 口にしたのは一人だが、他の面々もその言葉には同意しているのだろう。

 レイとセトは魔力で繋がっている影響もあって、大体の意思は理解することが出来る。

 しかし、それはあくまでもレイとセトが魔力で繋がっているというのを知っている者であれば納得出来ることでしかない。

 魔獣術について知らない者達にしてみれば、セトはレイにテイムされたモンスターという認識だ。

 そんなセトが何を言いたいのかを何故レイが分かるのかと疑問に思ってもおかしくはない。

 レイも冒険者達が何を言いたいのかは理解しているので、代わりのことを口にする。


「言っておくがセトが何を言いたいのかを分かるのは、俺だけじゃないぞ。ミレイヌとかヨハンナとかも普通にセトが何を言いたいのか理解出来るし」


 これは普通にレイも凄いと思う。

 魔力で繋がっているからレイは問題ないものの、魔力とかは全く繋がっていないミレイヌやヨハンナは一体どうやってセトの意思を理解しているのか。

 やはりミレイヌやヨハンナが言うように、愛故にといった可能性が高いのだろう。


(時々……本当に時々、愛で人には理解出来ないことをやってのけるよな)


 改めてミレイヌやヨハンナのことについて考えていると、レイの話を聞いていた冒険者達はそれぞれ納得した様子を見せる。

 レイだけならテイムしたとして納得は出来るが、ミレイヌとヨハンナは一体どうやってセトの言いたいことを理解出来るのかと疑問に思い、あるいは感心したのだろう。

 そうして会話をしながら進むと、トレントの森の中でも一番外側……既に木を伐採して、開けている場所に出た。

 そこは木々が生えていないので、見渡しがいい場所だ。

 そのような場所に、樵達は固まっていた。

 最初にレイと遭遇した冒険者も、樵達の側で周囲の警戒をしている。

 だからこそ、その冒険者がトレントの森から出て来たレイ達の姿に樵達よりも先に気が付いたのだろう。


「皆、無事だったのか!」


 喜色満面といった様子で叫ぶ男。

 そんな男の声に、樵達も冒険者の男が見ている方に視線を向け、そこにレイ達がいるのを見て驚きながらも喜ぶ。

 ここにこうしてレイ達がいるということは、それはつまりレイ達が黒いサイコロを何とかしてくれたのだと理解したからだろう。


「お前等、本気であんな奴に勝ったのかよ!」

「どんな攻撃も通用しなかったのに、一体どうやって勝ったんだよ!」

「すげえ……すげえよ、お前達……」

「ありがとう、ありがとう。助けてくれてありがとう」


 大勢の樵達が、レイやセト、他の冒険者達に向かって感謝の言葉を口にする。

 そんな中で、冒険者達が浮かべているのは微妙な表情だ。

 何しろ黒いサイコロを倒したのは、あくまでもレイなのだ。

 自分達が出来たのは、あくまでもレイが来るまでの時間稼ぎでしかない。

 だというのに、こうして樵達に感謝されてもいいのかと。

 ここにいる冒険者達は、相応に腕の立つ者達だ。

 それこそ今までであれば、このような状況では自分達が他の冒険者を助けるといったような形になることが多かった。

 それが今度は自分達がレイに助けられ、樵達の思い込みとはいえ、レイの手柄を横取りしているのかのようにすら思えてしまう。

 そのことが何だか微妙に思えてしまい……


「いや、あの黒いサイコロを倒したのはレイだ。俺達はただ時間稼ぎをするしか出来なかったんだよ」


 やがて樵達の言葉に、冒険者の一人がそう告げる。

 すると他の者達もそんな冒険者の言葉に同意するように、黒いサイコロを倒したのはレイだと告げる。

 ここにいるのがその辺の冒険者であれば、あるいはレイが倒したのを自分が倒したということにしていたかもしれない。

 しかし、そのような性格の者がギルドに信頼される筈がない。

 もし自分のプライドも何もなく、人の手柄を奪うといったようなことを平気でやるような者がいたら、ギルドからの信用を得られず、ここで樵の護衛をするという仕事をすることは出来なかっただろう。

 そんな冒険者達に対して、レイは気にするなと首を横に振る。


「確かにあの黒いサイコロを倒したの俺かもしれないが、俺が合流するまで黒いサイコロを樵達の方に向かわせなかったのは、間違いなくお前達だ。そもそもお前達の仕事はあの黒いサイコロを倒すことではなく、樵達を守ることなんだ。そういう意味では、しっかりと役目をこなしただろう」


 レイのその言葉に、樵達も同意するように頷く。

 樵達にとっては初めて遭遇するモンスターとの戦いになったのに、冒険者達が自分達を守ってくれたのは間違いないのだ。

 それに感謝こそすれ、不満を言うような者はいなかった。

 あるいはこれが今日が初日の依頼であれば、もしかしたら樵達も不満を言ったかもしれない。

 自分達を守るのが冒険者達の役目なのに、何故敵を倒すことが出来ないのかと。

 しかし、樵達と冒険者達はずっと一緒に……それこそ毎日のように一緒に行動しているのだ。

 当然のように親しくなる。

 そのような相手をこの状況で責めるといったような真似は、到底出来ない。

 これもまた、生誕の塔や湖のおかげで決められた者達しか護衛を出来なくなっていることのプラスの面だろう。

 もっとも、その辺りの人間関係が上手くいっていない場合、お互いに嫌い合っているということでギスギスした人間関係になったかもしれないのだが。

 そういう意味では、ここにいる多くの者にとって、これが最善の結果だったのだろう。


「悪いな」


 レイの言葉や樵達の言葉に、冒険者の一人が照れ臭そうにそう告げる。

 他の冒険者達も自分に不満ではなく感謝の言葉を向けられ、嬉しそうに笑みを浮かべている者が多い。

 そうして少しの間、お互いの無事を祝って言葉を交わす。

 レイはそんな様子を眺めていた。

 樵達にしてみれば、レイが自分達を助けてくれたというのは分かっているだろうが、やはりレイよりも普段から一緒にいる冒険者達の方に感謝しているのだろう。

 黒いサイコロを倒せなかったというのも、倒せない相手を前に、自分達を助ける為に引き付けたと判断すれば、それに感謝を抱くのは当然だった。

 出来ればレイももう少しこの光景を邪魔したくはなかった。

 したくはなかったが、それでもいつまでもこのまま騒いでいる訳にはいかない。

 黒いサイコロは何とかしたが、その後の状況について色々と話をする必要が出てくる。


「助かったのを喜ぶのはいいけど、そろそろこれからどうするかの話に入りたい。冒険者達には言ったが、今回の件はちょっと複雑な事情がある。それこそ、ギルムの領主ダスカー様が直接動くくらいにはな」


 そんなレイの言葉に、樵達は一瞬意表を突かれ……そして信じられないといった表情を浮かべるのだった。

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