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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3023/3865

3023話

 黒い塊がレイの魔法によって焼滅したのを確認すると、すぐに長が口を開く。


「申し訳ありません、レイ殿。私は妖精郷を長く空けていることが出来ませんので、妖精郷に戻らせて貰います。黒い塊についての相談は、妖精郷に戻ってきてからで構いませんか?」

「ああ、それで構わない。急いでいる状況で何かを話しても、それは何かを見逃したりしかねないし」

「ありがとうございます。……ニールセン、レイ殿と一緒に妖精郷に戻ってくるように。……あの程度の光を放っただけでそこまで疲れるとなると、訓練をする必要がありますね」

「えー……」


 訓練という長の言葉に思うところがあったのか、ニールセンは不満そうな声を出す。

 しかし、長が改めてニールセンの方に視線を向けて、何か文句でも? と無言で尋ねると、ニールセンは慌てて首を横に振る。


「いえ、何でもないです。訓練は楽しみですね。是非ともやりたいです!」

「ならいいわ」


 長はそう言うと、レイに一礼をし……次の瞬間には、そこに長の姿はなかった。


「おお」


 その唐突さに、レイは驚きの声を上げる。

 近くで様子を見ていたセトもまた、長が突然消えたことには驚いていた。

 唯一、ニールセンのみがこの状況であっても特に驚いた様子を見せてはいない。

 レイやセトにとっては驚くことであっても、ニールセンにしてみれば特に驚くようなことでもないのだろう。

 ニールセンとしては、最後に言われた訓練の方に頭を抱えていた。


「嘘でしょう。長の訓練なんて、一体どういう風になってしまうのよ。私は生きて帰れるの?」


 それは大袈裟では?

 ニールセンの呟きを聞いたレイはそう思ったが、ニールセンの様子を見る限りでは冗談でそのようなことを言ってるようには見えない。

 本気で自分の状況を心配していた。


「それについては、長に期待するしかないだろうな。……さっきの長の様子を見ると、そこまで厳しい訓練をするようには思えなかったし。多分大丈夫じゃないか?」

「気楽に言うわね。レイは長の……っ!? いえ、何でもないわ。気にしないで」


 長の性格を知らない。

 そう言おうとしたニールセンだったが、今の自分の見た光景は長に伝わるようになっているのを思い出し、慌てて言葉を止める。

 黒い塊を発見して長がここに来た時、もう既に自分の目で見ている光景を長が見ているという魔法は切れていると思っていたし、何より長が知ることが出来るのは見ている光景であって、声は聞こえてない……と、そう思っていた。

 それでもニールセンが言葉を止めたのなら、長ならまだ自分に対して使った魔法がそのままであってもおかしくはないし、何よりも目だけではなく実際には聴覚の類も共有していてもおかしくはないと思えたのだ。

 そうである以上、今のこの状況で妙な真似を口にする訳にいかないのは事実だ。

 それが慌てて口を閉じた理由だった。

 ニールセンの考えはレイには分からなかったが、それでも今の様子を見ると何かあるのだろうと予想することは出来る。


「それで、どうする? 妖精郷に戻るってことでいいんだよな? ここにこれ以上いても、黒い塊……もしくは穢れについて特に何かがあったりといったようなことはないだろうし」

「そうね。戻ってくるのが遅かったら、長に何を言われるか分からないし。……戻りましょうか。もしかしたら妖精郷の方でも何か騒動が起きてるかもしれないし」

「何か? そういう風に言うって事は、何かあるのか?」

「長が来たでしょう?」

「……いや、それなら穢れの関係者の一件の時も妖精郷を出ていたんだろう? というか、妖精郷には長がいないと駄目だとか、そういう何かがあるのか?」

「あるのよ。……あれ? これって言ってもよかったんだっけ?」

「おい」


 話しの流れの中でサラリと口に出されたその情報に、レイは思わず突っ込む。

 それが重要な情報なのだろうとは思うものの、ニールセンは話の流れであっさりと口にした。

 レイが信頼出来る相手だから口にしたというよりも、本当に話しの流れの中で口にしてしまったというところだろう。

 ニールセンの性格を知ってるだけに、レイも当然ながらそのことは理解出来た。

 理解出来たからといって、それにどう突っ込めばいいのかというのは、また別の話だったが。


「取りあえず聞かなかったことにしておく」

「そうしてちょうだい」

「長に知られてないといいけどな」

「ちょ……」


 レイの言葉に、そう言えば!? と衝撃を受けた表情を浮かべるニールセン。

 そんなニールセンに呆れつつ、レイはセトの背にのって妖精郷に向かうのだった。






「うん、特に何かこれといっておかしな様子はないな」

「そうね。なら問題はなかったんだと思うわ」


 レイの言葉に対してそう返すニールセンは、妖精郷の心配よりも自分の心配をしていた。

 妖精郷について、本来は人に話してはいけないことを口にしてしまったのだ。

 そうである以上、長にこの件が知られたらどうなるかは考えるまでもないだろう。

 ただでさえ光を出す訓練があると言っていたのに、その訓練がもっと厳しくなるかもしれない。

 そのような不安があるのだろう。


(取りあえずニールセンの口が軽いのは分かった。本当に重要な情報は、出来るだけニールセンには話さない方がいいな)


 ニールセンにそのつもりがなくても、話しの中でもしかしたら秘密を口にする可能性もある。

 ただし、ニールセンは立場的に長の後継者という扱いになっていた。

 これはあくまでもレイがそのように思っているだけで、もしかしたら実際には違うのかもしれないが。

 そのような立場である以上。ニールセンは自然と色々な秘密について知ってしまう可能性があるのは間違いない。


「あ、レイさん。どこに行ってたんですか?」


 妖精郷の中を歩いていたレイは、不意にそんな風に声を掛けられる。

 その声を掛けてきたのは、ボブ。

 ボブにしてみれば、夜になってからいきなりレイがセトと共に妖精郷を飛び出していったということを心配していたのだろう。


「ちょっと厄介なモンスターが現れてな。その対処だよ」


 実際にはモンスターではなく穢れ関係だったのだが、そう誤魔化しておく。

 ボブは穢れについて本格的に関与している人物ではある。

 しかしそれでも、余計なことは出来るだけ知らない方がいいのも、また事実。

 穢れについて話して、わざわざ不安にさせることもないだろうと、そう判断したのだ。


「そうなんですか? お疲れ様です」


 ボブは正面から戦った場合は、オークを倒すことも難しい。

 それだけに妖精郷の側に強力なモンスターが現れたのなら、それをレイが倒してくれたというのは素直に助かる。

 素直に感謝の言葉を述べてくるボブに、若干後ろめたい思いを抱くレイ。

 だが、素直に穢れ関係の騒動があったというようなことを口にした場合、不安にさせてしまいかねないのも事実。

 だとすれば、その辺については実際に口にするようなことはなく、誤魔化しておいた方がいいだろう。


「ああ。ボブの方はどうしたんだ? こんな夜に周囲を歩き回って」

「あ、あははは。ちょっと妖精達と遊ぶことになりまして」


 少し困ったように告げるボブの様子に、レイはそうかと頷く。

 普通ならこんな夜に遊ぶのか? と疑問に思ってもおかしくはない。

 だが、ボブが遊ぼうとしている相手は普通の存在ではなく妖精だ。

 そうである以上、夜に遊ぶといったことをしてもおかしくはないとレイには思える。

 ……寧ろセレムース平原で夜に接触した妖精達のことを思えば、まだ可愛いものだろうと。

 その辺は長の力があってこそなのかもしれないが。


「そうか。夜遊びもいいけど、あまり遅くなるなよ」


 本来なら、この程度の時間ではまだ夜遊びとは呼べないだろう。

 しかし、エルジィンにおける夜と日本の夜は比べるのが間違っている。

 だからこそボブもレイの言葉に素直に頷くと、遠くで自分の名前を呼んでいる妖精達の方に向かう。


「そう言えば、妖精郷に来ればいつもはセトの存在を嗅ぎつけて狼の子供達が来るんだが……その辺についても、まだ子供だからもう眠ってるのか?」


 子供は寝るのが仕事。

 どこかで聞いた言葉を思い出しつつ呟くレイに、セトは少し残念そうな様子を見せる。


「あの狼の子供達も時間が経てば大きくなると思うわよ。……その時、どういう風になるのかは生憎と分からないけど」

「どういう風に? モンスターになるって件か?」

「ええ。妖精郷で育った狼なんだから、いつモンスターになってもおかしくはないでしょ。その時、あの子達がどういう性格のモンスターになるのか……それはちょっと分からないでしょう?」


 そんな風に話しつつ、レイ達は長のいる場所に向かう。

 途中で何人かの妖精が食べ物をちょうだいと言ってきたが、ニールセンの長に呼ばれているという言葉を聞くと、すぐに撤退した。

 ここでレイの邪魔をした場合、長にどのようなお仕置きをされるのか十分に理解しているのだろう。

 ……もっとも長にお仕置きをされた経験が多いのは、ニールセンだったのだが。

 そうして長のいる場所に到着すると、いつもはレイ達が呼んだりもっと奥の方にいかないと出て来ないのだが、当然のように長はレイを待っていた。

 レイに笑みを向けた後で、一瞬ニールセンに視線を向けたのを思えば、やはり森の中での会話を聞いていた可能性が高いのだが。


「お疲れ様です、レイ殿。私は先に戻ってきましたが、何か問題はありませんでしたか?」


 ガクガク、ブルブルと震えているニールセンには長も当然気が付いているのだろう。

 しかし、長はそんなニールセンを見事にスルーしてレイに尋ねる。

 レイはそんなニールセンの様子に若干思うところはあったのだが、今この状況でそれを口にした場合は、それならニールセンについて聞きましょうといったようなことを言われてもおかしくはないので、ニールセンの件には触れずに頷く。


「ああ。黒い塊が消えてからすぐに妖精郷まで戻ってきたから、特に何かこれといったようなことはなかった。それで……早速本題に入るが、あの黒い塊についてどう思う?」

「まず大前提として、穢れと関係があるのは間違いありません。見ただけで強い嫌悪感があったのも、恐らくその為でしょう」


 レイも長の言葉には大体納得出来た。

 ただ、納得出来ない場所もある。


「嫌悪感は俺もあった。けど、死体の件……黒い塵の人型になった時は、嫌悪感の類はなかったぞ? いやまぁ、全くなかったわけじゃないが、黒い塊と比べると皆無に等しい感じだった。その辺はどう思う?」


 レイのその言葉は、長を考えさせるには十分だった。

 長にとって、先程まで戦っていた黒い塊は強烈な嫌悪感を抱くに十分な存在だった。

 あるいはそれが穢れという存在の共通認識なのでは? とも思っていたのだが、レイの様子を見る限りではそういうのとはまた少し違うらしい。


「そうなると、先程の黒い塊は最初から相手に嫌悪感を与えるのを目的としていた……ということでしょうか? 正直なところ、何のためにそのような存在になったのかは分かりませんが」

「見ているだけで、もの凄く嫌な感じでしたしね。……そうやって、敵の注意を惹き付けるのが目的だったりしませんか?」


 ふと気が付いたようにニールセンが言う。

 長はそれを反射的に否定しようとし……だが、もしかしたら? とそう思わないでもない。

 実際にあれだけの嫌悪感を持つ存在がいれば、そちらに嫌でも注意を向けてしまうだろう。

 そういう意味では、陽動用として考えれば決して間違っている訳ではないのかもしれない。


「もしニールセンの言葉が正解なら、何の為にあんな存在を送ってきたか、だろうな。俺達の注意をあっちに向けたかった? それはつまり、どこか別の場所で何かが起きていた可能性があるということにならないか?」

「ですが、私が感知出来る範囲内では特に何かがあったということはありません。だとすると……もっと別の場所、私の感知出来ない場所で何かが起きたということでしょうか?」

「そうかもしれないな。ただ、どのみち長の感知能力の外となると……範囲が広すぎる。もっとも、可能性のある場所は幾つか考えられるけど」

「例えば、ギルムとか?」


 ニールセンの言葉に、レイは驚く。

 まさかニールセンがこうも的確にその答えを口にするとは、思っていなかったのだ。


「ああ、それが一番可能性が高い。そして……俺にはギルムとすぐに連絡出来る手段があるから、それが事実かどうかはすぐに確認出来る」


 そう言い、レイはミスティリングの中から対のオーブを取り出すのだった。

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