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レジェンド  作者: 神無月 紅
穢れ
3022/3865

3022話

「これは……驚きだったな」


 セトの持つスキル……その中でも直接攻撃するスキルではなく、離れた場所から攻撃出来るスキルを使って黒い塊に攻撃をしたのだが、それが一通り終わるとレイの口から出たのはそのような言葉だった。

 具体的には、黒い塊に対して一番効果があったのが衝撃の魔眼ということに対する驚きだ。

 衝撃の魔眼は、その名の通り相手に衝撃を与えるという効果を持つ魔眼だ。

 魔眼だけに、例えばウィンドアローのように一度風を矢の形にしてから射出するといったような手間が必要なく、ただ相手を見ればその効果を発揮するという、実際に攻撃が行われるまでの速度に優れているスキルだ。

 しかし、そのような優れた効果を持つ影響か、あるいは単純にまだレベルが三とそこまで高くない為か、衝撃の魔眼の威力は決して強力ではない。

 レベル三の現在は、岩の表面に軽く傷を付けられる程度の威力なのだ。

 これがスキルが飛躍的に強化されるレベル五になっていれば、まだ何か違ったのかもしれないが。

 しかし、そんな衝撃の魔眼が黒い塊に対しては大きな意味を持ったのだ。

 具体的には、衝撃の魔眼によって黒い塊が吹き飛ぶといった感じで。

 ただ、それでダメージを与えられたのかと言えば、その答えは否だ。

 吹き飛ばすことは出来たものの、黒い塊は特にそれを気にした様子もなく攻撃をしたセトを追った。

 それでも、そこまで明確に黒い塊に影響を与えたのは、衝撃の魔眼だけだったのも事実。

 では、何らかの物質を経由せず、直接衝撃を与えるのが効果的なのかと言われれば……長がサイコキネシスのような力で攻撃をしても効果がなかったことから、また違う。

 つまり、具体的にはまだ何も分かっていないに等しい。


(いや、何も分かっていないというのはちょっと言いすぎか。衝撃の魔眼が黒い塊を吹き飛ばすような効果があるのだけはきちんと分かったんだし)


 何も分からない、全く意味不明の状態よりは、一歩も二歩も進んだのは間違いない。

 問題なのは、衝撃の魔眼によって生み出された衝撃には吹き飛ばされるというのを発見しつつも、長の使うサイコキネシスっぽいのでは効果がなかったということだろうが。


「長にとっては、セトの衝撃の魔眼が効果があって、長の力が効果がなかったのはどう思う?」

「そう言われましても……衝撃の魔眼でしたか。私のスキルが特別なのではなく、この場合は寧ろセトのスキルの方が特別だと思った方がいいのではないでしょうか?」


 少し困った様子でそう言う長だったが、そんな長の言葉を聞いたレイは寧ろ少しだけ驚く。

 長が自分の力……超能力のサイコキネシス染みた自分の力をスキルだとはっきりと断言したことにだ。

 勿論、今までレイもまたそれがスキルの類だとは思っていた。

 思っていたのだが、それでもやはりスキルではなく超能力ではないのかと、そんな風に思っていたのだ。

 それを長が自分でスキルだと断言したことは、レイにとって十分に驚きだった。

 ただし、それを表に出せば、ならどのような力だと思っていたのかと突っ込まれそうな気がしたので、レイはそれを表に出すような真似はしない。


「セトの方が特別か。そうなると、セトだけが特別なのか、モンスターの使うスキルが特別なのかを調べてみたいところだけど……難しいか」


 セトのような存在は、そういるものではない。

 ギルムでもモンスターをテイマーを希望して実際に何人かはテイムを成功したという話を聞いてはいるが、そのモンスターとセトではどうしても格が違ってしまう。

 セトに負けないだけのスキルを持つモンスターと言えば……


(イエロか? いや、けど無理だろ)


 エレーナの竜言語魔法によって生み出された黒竜の子供のイエロは、モンスターの格としてはドラゴンということで十分セトに匹敵する。

 しかし、大人と子供ではどうしてもその力の差は大きい。

 ……実は生まれた年月では実はセトとイエロは年齢差そのものはそこまで違わないのだが。

 ただ、最初から大人の状態で生まれたセトと子供の状態で生まれたイエロの差は大きい。

 そもそも、イエロはドラゴンの子供だけに色々と特殊な力を持ってはいるが、攻撃に適したスキルは持っていない。

 あるいはドラゴンの子供だけにブレスは使えるのかもしれないが……生憎と、レイはそれについては知らなかった。


「他のセトのスキルは試してみたし、次はニールセンの光を試してみるか?」

「え? 私!?」


 まさかこの状況で自分の名前が出るとは思わなかったのか、ニールセンの口から驚きの声が上がる。

 だが、レイにしてみればここでニールセンに話を振るのはそうおかしなことではない。

 そもそもニールセンの光は花の形をした宝石に封印した穢れを処分するのにも役立っている。

 それはつまり、穢れにも一定の効果があるということを意味していた。

 そうである以上、ここでニールセンが光を使わないという選択肢はない。

 ニールセンが光を使うというのは、レイだけではなく長も同じ意見だったのだろう。

 レイの言葉を聞いて、特に抵抗する様子もなく頷く。


「そうですね。最後にニールセンの光を試して見ましょう。恐らく効果はあると思いますが、実際にそれを使ってみないと何とも言えませんし。……ニールセン」


 レイの提案には出来れば遠慮したかったニールセンだったが、このように長から言われてしまえば光を使わない訳にはいかない。

 渋々といった様子で未だにセトを追い続けている黒い塊に意識を集中する。

 精神を集中し、標的を見て力を込めていき……やがてニールセンの指先から一筋の光が放たれた。

 その光は真っ直ぐにセトを追っていた黒い塊に命中し、次の瞬間その動きが止まる。


「動きが止まった?」


 何らかの効果はあるだろうと思っていたいたものの、黒い塊の動きが止まるというのはレイにとっても予想外だった。

 しかし、光で動きが止まってそれからどうなるのか。

 あるいはただ敵の動きを止めるだけなのか。

 そんな風に思っていたレイは、やがて黒い塊が少しずつ小さくなっていくのに気が付く。

 少しずつ、少しずつ……本当に少しずつではあるが、黒い塊は間違いなく小さくなっていったのだ。

 このまま小さくなって消えるのか。

 そのような期待の視線を向けるレイだったが、やがて最初に音を上げたのはニールセン。


「ぶはぁっ! ……もう駄目です。この黒い塊……封印された穢れよりも抵抗力が強いです」


 はぁ、はぁ、はぁと。激しく息を荒げながらニールセンがそう告げる。

 まさに限界といった様子のニールセンに、長は眉を顰めた。

 長の様子に自分の能力が低いので怒られるのではないか。

 そんな風に思ったニールセンだったが、実際には違う。

 長は黒い塊の予想外の強さに驚いていたのだ。

 花の形をした宝石に封印した穢れの件を処理する時も、ニールセンはそれなりに消耗した。

 しかし、それでも今程ではない。

 それはつまり、封印された穢れと黒い塊では後者の方が圧倒的に強い……あるいは穢れとして濃いと表現出来るのだろう。

 触れた場所を黒い塵にして吸収することが出来る能力を考えると、それは非常に強力なのは事実だ。

 しかし、移動速度が非常に遅かったり、他の仲間と協力をしたりといったことがなかったこともあり、完全に花の形をした宝石に封印された穢れよりも下の存在だと思っていたのだ。


「どうした、長。ニールセンが震えているぞ」

「え? ……安心しなさい。別にそのつもりはないから」


 レイの言葉に、長はニールセンを安心させるように言う。

 そんな長の言葉に、ニールセンは安堵した様子を見せる。

 黒い塊を倒すことも出来ず、ただ小さくすることしか出来なかったことでまたお仕置きをされるのかと思っていたのだが、実際には違ったのが嬉しかったのだろう。


「ニールセンにお仕置きじゃないなら、一体何を考えてたんだ?」

「ニールセンの光のことです。花の形をした宝石に対してと今の黒い塊。それについて……」

「って、こっちに来たぁっ!」


 長の言葉を遮るようにニールセンが叫ぶと、その場から逃げ出し始める。

 セトの行動を見ていれば当然のことだったが、黒い塊は自分に攻撃をしたニールセンを追い始めたのだ。

 光によって小さくなったのが影響しているのか、実際にニールセンを追うまではそれなりに時間が掛かったようだったが。

 ともあれ、ニールセンは自分の方に向かってくる黒い塊から逃げ出す。

 幸いなことに、黒い塊は小さくなっても移動速度そのものは違いがない。

 だからこそ、今もこうして黒い塊から逃げることが出来ていた。

 当然ながら、レイと長は黒い塊の通り道と思しき場所から移動する。

 これまでの経験から、黒い塊は何らかの刺激――主に攻撃だったが――を与えれば、そちらに向かって移動するというのは理解出来ていた。

 それはつまり、こちらから積極的に黒い塊に刺激を与えなければ、自分の方に近付いてこないということを意味している。

 ただし、黒い塊が狙っている相手との間にある障害物には触れて黒い塵として吸収するのだが。

 レイと長が黒い塊の進路から離れたのは、それが大きな理由だ。

 ギリギリ黒い塊に触れない場所に移動してもいいのだが、黒い塊は不定形だ。

 場合によってはレイや長の側で突然その姿を変えて身体に触れてこないとも限らない。

 だからこそ、レイと長は余裕をもって回避するのだ。


「それで? さっき言い掛けたのは何だ?」

「え? ああ、そうですね。つまり、ボブから切り離して花の形をした宝石に封印した穢れと黒い塊では、前者の方が封印されていた分だけ倒しやすくなっていた……そのように思ったのです」

「封印されているからこそ倒しやすいか。そういうのはあるかもしれないな」


 レイからも同意して貰えたことで、長は自分の考えが間違っていないのだろうと思えた。


「はい。私もそのように思いました。……何しろ実際に穢れと対峙するのは初めてなので、恐らくそうだろうということしか分かりませんけど。それでも自分の目で見た感じではそうだと思います」

「だとすると、花の形をした宝石はかなり重要になるんだが……数はそこまでないんだよな?」

「……はい。残念ながら」


 長は本当に心の底から残念そうに言う。

 もし花の形をした宝石をもっと多く用意出来ていれば……そのように思えたのだろう。

 長と話していたレイはその辺を残念には思うものの、それを責めるつもりはない。

 そもそも見るからに美しい形をしている花の形をした宝石だ。

 それを作るのにどれだけの時間が必要なのか、あるいは素材が必要なのかというのは、考えるまでもない。


「ちょっと、ちょっと、ちょっと! 長! レイも! 私はいつまでこうして逃げ回っていればいいのよ!」


 レイと長の会話が聞こえたのか、それとも単純に逃げ回るのに疲れたのか、ニールセンは飛び回りながら叫ぶ。

 これが普段であれば、もっと余裕があっただろう。

 だが、光を放ち続けたことによってニールセンの体力はかなり消耗していた。

 そのような状況でこうして逃げ回っているのだから、これまで以上に疲れるのは当然だろう。


「ああ、そうだな。じゃあ……長、どうする? 弱点を調べるのも大体やったし、ニールセンの光によってかなり小さくなってる。そろそろ倒してもいいと思うか?」


 レイとしては、このままニールセンが回復してから改めて光を放ち、その結果どうなるのかを確認したいという思いもあった。

 光を当て続けると、黒い塊は小さくなって最終的に消滅するのか。

 あるいは小さくはなるものの、一定以上の小ささにはならないのか。

 その辺りをしっかり確認したかったのだが、ニールセンの疲れている様子を見るとそう簡単に判断出来ることでないのも事実。

 そうである以上、今のこの状況でどうするべきなのか、長の意見を聞きたかった。


「そうですね。ニールセンの様子からすると、回復するのにそれなりに時間が必要となるでしょう。勿論、黒い塊の移動速度を思えば、ニールセンから私、レイ殿、セトの誰かに狙いを変更させて時間を稼ぐという方法もありますけど……」


 あまりお勧め出来ませんと、長が言う。

 そんな長の言葉は、レイにも納得出来るところがあった。

 ニールセンの様子を見れば、いつ回復するのかも理解は出来ない。

 だとすれば、今のままでも十分に黒い塊の能力を確認した以上、もう倒してしまって構わないだろうと。


「分かった。なら、とっとと片付けるか。……ニールセン、こっちに来い!」


 そう叫びつつ、レイはデスサイズを手に呪文を唱え始めるのだった。

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