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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2994/3865

2994話

 長との穢れの話が終わると、レイは特に何もすることがなくなる。

 もう少し穢れについての情報を聞こうかと思ったのだが、長もレイと話していられるような時間がある訳ではない。

 具体的には、霧の音をそろそろ仕上げるといったようにやることがある。

 レイにとって霧の音はそれこそ自分が頼んだ……そして是非とも欲しいマジックアイテムである以上、その仕上げをするという長の邪魔をする訳にもいかなかった。


「ねぇ、レイ。このまま妖精郷にいても暇だし、ちょっと妖精郷から出ない?」


 穢れの一件が終わったからか、ニールセンは長から解放されていた。

 ニールセンにしてみれば、今までずっと長と一緒に穢れの対処をしていたので気分転換でもしたいのだろう。

 穢れに侵された死体の時にニールセンを見捨てたこともあったので、レイはそんなニールセンの誘いに乗る。


「分かった。俺はそれで構わない。ただ、途中でセトを拾っていくけど構わないか?」

「セト? そういえばセトがいないわね。どうしたの?」


 セトはいつもレイと一緒にいるという認識を持っていたニールセンだったが、今こうして改めて見ると、そこにセトの姿はない。

 改めてそのことを疑問に思って尋ねたのだが、レイはセトがいるだろう方を見る。


「向こうにいる。ここに来る途中で狼の子供達とか、ボブとか妖精とかに見つかってな。セトがここに来ても難しい話は興味がないだろうから、置いてきた」

「ふーん。……レイがそれでいいのなら構わないわよ? ただ、セトを連れていったら狼の子供達も一緒に来たいっていいそうだけど。最終的にはボブや他の妖精達も含めて、かなり大人数で行動することになるんじゃない?」

「それは……」


 ニールセンの口から出た言葉は、レイにも否定は出来なかった。

 好奇心の強い者達が大勢揃っているのだ。

 妖精郷から出るといったようなことをレイやニールセンが口にした場合、自分達も一緒に行きたいと言ってもおかしくはない。

 ……いや、まず確実に言うだろう。

 そうなった時、一緒に連れ出すとなると面倒なことになってもおかしくはない。


「それに狼の子供達は妖精郷から出さないように言われてるしね」

「は? そうなのか? それはまた誰が?」

「長よ」


 あっさりとそう言ってくるニールセンに、レイは疑問を抱く。

 レイも長とそこまで付き合いが長い訳ではないが、それなりに会話をしたので性格は大体理解している。

 そんなレイにも、長が狼の子供達を妖精郷の外に出さないようにしている理由が分からなかったのだ。

 長の性格を考えれば、ただ狼の子供達が可愛らしいから危険に晒さない為に外に出さないようにしている……というのは、少し考えにくい。


(だとすれば、何らかの理由があってそうしてるのは間違いないと思うんだが、具体的には一体どういう理由でそんな真似をしてるんだ? 考えられるとすれば、妖精郷で狼の子供達を育てると特殊なモンスターになるとか? あの子供達の親のことを考えると、そういう可能性もあるのか)


 本当にそうなのかどうかは、生憎とレイにも分からない。

 しかし狼の子供達を外に出さないようにしているというのを考えると、やはりそこには何らかの理由があるように思えるのだ。


「けど、妖精郷の外に行くのにセトを連れていかないって選択肢はないぞ?」


 セトの鋭い感覚は、それこそレイにとって非常に頼れる存在だ。

 レイの感覚も決して鈍い訳ではない。

 それこそ普通の人間と比べると間違いなく鋭いのだが、セトの五感はそんなレイよりも更に鋭いのだ。

 そんなセトが周囲の偵察をしてくれているので、レイは安心して行動することが出来る。

 だからこそ、ここでセトを連れていかないという選択肢はレイにはない。


「うーん……レイがそう言うのなら、それでもいいけど。じゃあ、ちょっと行きましょうか」


 ニールセンは若干の不満を抱きつつもレイの言葉に頷き、セトのいるだろう方に向かって進む。

 そんなニールセンの後を追いながら、レイは少し……本当に少しだけ期待する。


(穢れの関係者、また現れてくれればいいんだけどな。そうなったら、すぐにでも気絶させて情報を引き出すんだが。……あ、でもそうなるとまたギルムに向かわないといけないか。それも空を飛ばないで)


 死体になったのなら、ミスティリングに収納するような真似も出来る。

 しかし、生きている状態では当然のようにミスティリングに収納するといった真似は出来ない。

 そうなると、セト籠で運ぶか地上を移動するしかないのだが……レイとしては、当然ながらセト籠に穢れの関係者を乗せたいとは思わない。

 場合によっては、セト籠が破壊されてしまう可能性もあるのだから。

 結果的に、地上を移動するといったことになるのは間違いない。

 そして現在のレイとセトが堂々とギルムの中に入るといったような真似をすれば、間違いなく騒動になるだろう。


「うん、出来ればどうにかして問題なくギルムに入れるようになってから、また穢れの関係者に出て来て欲しいところだな」

「それは、正直どうなのよ?」


 呆れた様子でニールセンが言ってくる。

 ニールセンにしてみれば、自分に余計な仕事をさせる穢れの関係者は決して面白くない相手なのだろう。

 ニールセンが気に入っているボブを襲った相手ということで不満を抱いている点もある。

 だからこそ穢れの関係者には不満を抱くのだ。


「けど、もし今この状況で穢れの関係者が出て来たら、自殺しないようにしてからそいつらは妖精郷に置いておくことになるぞ? そうなったら、長はどう反応するだろうな」

「それは……」


 長が穢れを嫌ってるのは、ニールセンも知っている。

 トレントの森で遭遇した者達も、妖精郷に連れていくのを嫌がったくらいなのだから。

 そう考えれば、もし新たに穢れの関係者を捕らえることが出来たとしても、妖精郷に連れてくるというのは長にとって決して許容出来ないだろう。


(これがただの盗賊とかなら、その場で殺すといった真似をしてもいいし……多少情報が広がってもいいような相手なら、生誕の塔にいる冒険者達に預かって貰うといったことも出来るんだが。穢れの関係者だと、それは無理だしな)


 穢れの件は出来るだけ知られないようにするようにダスカーに言われている。

 これで穢れが具体的にどのような存在なのかを理解出来るのなら、その辺は特に問題もなく話すといったことも出来ただろう。

 しかし、穢れについては危険な存在だというのは分かっているものの、具体的にどのような存在なのかというのは、まだはっきりとしていない。

 長からの情報によれば、最悪の場合は大陸が壊滅するといったことになっていたが、レイが見た限りだとそこまで穢れが厄介だとは思えないのだ。

 勿論、それはあくまでも比較対象が大陸の壊滅というのと比べればの話で、普通に冒険者として対処する場合にはかなり厄介なのは間違いない。

 そんな穢れについての諸々を、迂闊に冒険者の耳に入るような真似は出来れば避けたかった。

 生誕の塔の近くにいる冒険者達に穢れの関係者を預けるような真似をした場合、そこから情報が漏れる可能性があった。


「とにかく、穢れの関係者に遭遇出来るかどうかは、実際に行動してみないと何とも言えない。個人的には、多分無理じゃないかとは思うけど」

「そう? だってあんなにすぐにトレントの森までやって来たのよ? なら、他の穢れの関係者もここにやってくるんじゃない?」

「その可能性はあるだろうけど、それは今じゃないな。もしやるとすれば、それこそもっと後だと思う。そもそも、穢れの関係者というのはそこまで数がいないと思うし」

「……何で?」

「いや、何でって……普通、大陸が壊滅するのを望むような奴がそんなに大量にいると思うか? 強大な力を使って自分の利益になるような真似をするのならともかく、大陸が壊滅したりしたら、それこそ生活するのはかなり大変になるし」

「うーん……そうなの? 人の考えることはちょっと分からないわね」


 妖精の場合は、基本的に人と関わるようなことはない。

 もし人の世界が壊滅しても、妖精の暮らしそのものに不都合はないだろう。


「大陸が壊滅するってのが、具体的にどういう意味かは分からない。けど、普通に考えれば大陸が壊滅したら妖精郷も壊滅すると思うぞ」

「それはちょっと困るわね」

「もし妖精郷が壊滅しなくても、人の世界が壊滅したらお菓子とかそういうのも入手出来なくなるな」

「それはとてもとても、とてもとてもとてもとても困るわね」

「一体どれだけ困るんだ」


 何度とてもを繰り返したのかと、そう突っ込みたくなるレイ。

 しかし妖精の性格を考えればそれもまた仕方がないだろうとは思う。

 ニールセンを含めた妖精達がどれだけ甘いお菓子を好むのか、レイは十分知っているのだから。


「あ、見えてきたな。……って、大人しい?」


 視線の先にセトの姿を見つけたレイは、そんな疑問を抱く。

 セトと狼の子供達、妖精達、そしてボブが遊んでいたのだから、てっきりもっと派手に動き回っているのだとばかり思っていたのだ。

 しかし、レイの視線の先にいるセトは、特に動いている様子もない。

 一体何故動いていないのかと思っていたが、セトに近付くにつれてその理由に納得出来た。

 地面寝転がっているセトを枕にして、狼の子供達は眠っているのだ。

 それだけではなく、近づけばセトの身体の上には妖精も眠っているのに気が付く。

 何故かボブだけはセトを枕にしたりはせず、少し離れた場所で地面に眠っている。


(痛くないのか、身体)


 ボブを見てそんな風に思うも、見たところボブは普通に眠っている。


「どうする?」

「どうするって言われても……」


 レイとニールセンは当初の予想とは全く違う光景に驚き、迷う。

 最初はここでセト達を連れて妖精郷を出るつもりだったのだが。


「でもセトは起きてるな」


 セトが円らな瞳に困ったような色を浮かべて自分の方を見ているのに気が付いたレイはそう呟く。

 しかしセトが起きていてもセトの身体を枕にしている狼の子供達や、セトの身体を布団にしている妖精がいる状況ではそう簡単に起き上がることも出来ない。

 どうしてもセトがレイと一緒に行動しなければならない緊急事態なら、セトも狼の子供達や妖精達を起こすだろう。

 しかし、今のレイは特に何かする必要がある訳ではない。

 もしかしたら……本当にもしかしたら、トレントの森で穢れの関係者と遭遇するのではないか。

 そんな希望からの行動なのだ。

 そうである以上、レイも無理にセトを連れていくといった真似をするつもりはない。

 また、ニールセンもボブや妖精達はともかく、狼の子供達は妖精郷の外に出さないようにしようと思っていたので、この状況は悪いものではない。


「じゃあ。行きましょうか。久しぶりにゆっくりと出来るんだし」

「長に聞かれたら、またお仕置きされるぞ」


 久しぶりにゆっくり出来るという言葉の意味に気が付いたレイがそう言うと、ニールセンは一瞬ビクリと動きを止め……だが、すぐに問題はないと口を開く。


「別に私は長のことを言ってる訳じゃないんだから、平気に決まってるでしょ。それよりもほら、早く行くわよ」


 そう言い、ドラゴンローブを引っ張るニールセン。

 気のせいか、ドラゴンローブを引っ張る力が強いような気がしたが……レイはそれを気にせず、セトに軽く手を振ってその場から移動する。

 セトは去っていくレイに残念そうにしていたが、それでも寝ている者達を起こさないように自分もまた昼寝を楽しむべく目を瞑るのだった。






「さて、妖精郷から出た訳だが……やっぱりこの状況では特に何かやるようなことはないな」

「そうね。穢れの関係者と遭遇するのが難しいのなら、オークを探してみない? まだいるかもしれないし」


 ニールセンがまだいるかもしれないと口に出したのは、つい最近ボブがオークを見つけて、それを倒したからだろう。

 正確には、ニールセンが楽しみにしているのはオークとの戦いではなく、オークの肉なのだろうが。


(妖精が肉食ってのは……どうなんだろうな。いやまぁ、別に肉だけを食う訳じゃないから、雑食って表現が相応しいんだろうけど。雑食の妖精……)


 以前セレムース平原で妖精と遭遇した時点で、レイの中には妖精に対する幻想の類はなくなっている。

 なくなっているのだが、それでも雑食の妖精というのは幾ら何でもどうかと思ってしまう。


「レイ? どうしたの?」


 雑食の妖精……といったように自分をじっと見ているレイに疑問を抱いて尋ねるニールセンだったが、レイはそれに何でもないと首を横に振ってトレントの森を進むのだった。

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