表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2981/3865

2981話

『レイ? 随分と早い連絡だが…何かあったのか?』

 対のオーブに映し出されたエレーナが、レイを見て驚きの表情を浮かべる。


「ちょっと問題があってな。それよりもこんな時間に呼び出して悪い。面会とかはなかったのか?」

『ふふっ、レイがセトと共にギルムから出ていったのを見て、何人もが面会を希望してきたが……それは明日以降の話だ。そして明日以降にも前々から約束のあった相手が多いから、実際にはいつになるのかは分からないな』


 笑みを浮かべつつ、そう告げるエレーナ。

 面会云々よりも、直接ではなく対のオーブ越しでもレイと話が出来るのが嬉しいのだろう。

 エレーナの顔を見た者全てが視線を奪われるような、そんな魅力に満ちた笑みを浮かべているエレーナ。

 レイもまた、当然ながらそんなエレーナの笑みに目を奪われる。

 ……あるいはこれが、対のオーブ越しだったのはまだよかったのだろう。

 直接その笑みを見た場合、そこにある破壊力は間違いなく今よりも高かったのだろうから。


「それは何よりだ。ただ……またそっちで騒動になるかもしれない。というか、その可能性が非常に高い」

『……それはどういう意味だ?』


 レイの言葉に女として……というより、姫将軍として何かを感じたのだろう。

 一瞬前まで浮かべていた嬉しそうな笑みは一瞬にして消え、真剣な表情でそう尋ねてくる。

 少しだけ魅力的な笑みが消えたのを残念に思ったレイだったが、元々こうして連絡をしたのはきちんとした理由があってのことである以上、すぐに話し始める。


「実はトレントの森に戻ってきた時、セトが密猟者と思しき相手を見つけたんだが……実はそれが密猟者ではなく、穢れの関係者だった」

『穢れの? 以前レイ達が襲われた場所は、かなり遠くであったと聞いてるが? セトの翼があればともかく、そうでもなければこんなに早くやって来ることは出来ないのではないか?』

「生憎と俺達が遭遇したのは、以前襲ってきた奴とは別の穢れの関係者だ」


 実際にはボブを襲ってきた者達はレイの危険性から一旦この任務を棚上げにしているのだが、生憎とレイはそれを知らない。


『そうなると、私のように対のオーブは無理として、連中の中にいる魔法使いやテイマーが召喚獣やテイムした鳥にでも手紙を持たせたか? そういうのを仕事でやっている者もいるが、事情を考えると頼むとは考えにくい』

「そうか? 仕事でやってる奴は手紙を運ぶが、別にその手紙の中身を見るといった真似はしないんだろう? なら、その辺について心配する必要はないと思うが」

『それでも万が一というのがある。例えばこれが盗賊とかの問題であったり、あるいは多少後ろ暗いことについての連絡であったりすれば、あるいはそのような者達に頼む可能性もあるだろう。しかしレイから聞いた穢れという存在について考えれば、そのような真似は出来ないだろう』


 レイはエレーナの言葉に納得した様子を浮かべる。


「そうなると、もしかしたらそういう手段を使ったのかもしれないな。……それはともかく、その連中は俺達に捕まったが、最終的に自殺した」

『自殺?』

「ああ。尋問に耐えられないと思ったんだろうな。だが、ただの自殺ではなくてな。死体になった連中が穢れによってモンスター……これは正確な表現かどうかは分からないが、とにかくモンスターになろうとしているのをミスティリングに収納することで止めた」

『ミスティリングに収納……? 生き物は収納出来ないのではなかったか?』

「そうだな。生き物なら収納出来ない。だが、穢れが変化させようとしていたとはいえ、それは死体だ。そして死体なら普通にミスティリングに収納出来る」


 その説明に、エレーナは納得したような、納得出来ないような、不思議そうな表情を浮かべた。

 エレーナにしてみれば、レイの説明を聞いてもすぐに納得出来るような内容ではなかったのだろう。

 とはいえ、レイにしてみれば事実がそういう感じだったのだから、そういうものだとしか言えないのだが。


「そうやって収納をしたのはいいけど、この件はダスカー様に知らせた方がいいと思ってな。ただ、問題なのはさっきギルムから出たばかりの俺が戻れば、また色々と騒動が起きるかもしれないだろう? だから、そっちの方を何とかして欲しい」

『何とかと言われても……レイが来る以上、隠し通すのは無理だと思うが?』

「ああ、俺もそう思う。だから、ダスカー様の方からマリーナの家に馬車を出して欲しい。そうすれば、俺が乗ってると思っても見張ってる連中は妙なちょっかいは出せないだろうし」


 幾らマリーナの家を監視している者がいても、領主の館からやって来た馬車をどうにかするといった真似は出来ない。

 ……いや、そもそもダスカーからの使者である馬車ではなくても、ただ監視しているような者がそんなことを出来る筈もないのだが。

 だが、監視をしている者の上司が……具体的には貴族がその場にいれば、あるいはそのような真似をする可能性は否定出来ない。

 そしてレイがマリーナの家からセトに乗って飛び立ってからまだそこまで時間が経っていないのを考えると、監視の者から報告を聞いた貴族が現場に駆けつけていてもおかしくはない。


『いいだろう。では、すぐにアーラをダスカー殿のいる領主の館に向かわせる。レイはいつこちらに戻ってくる?』

「すぐだな。マリーナの家にいれば、見張っている者達に俺が戻ってきたことを知られても、敷地内に入ってくることは出来ないだろうし。……ちなみに今更の話だが、エレーナは大丈夫なのか?」

『大丈夫? 何の話をしている?』

「面会の件だよ。こうして俺と話しをしているからには、多分大丈夫だとは思うんだが」


 その言葉に、エレーナは笑みを浮かべて頷く。


『レイが言っているように、こうして対のオーブで話をするくらいの余裕はあるのだ。心配する必要はない。もっとも、レイの件もあって私と面会をしたい者は多くいるだろうが』

「そういう意味だと、俺がそっちにまた行くと面倒なことになりそうだが……」

『それは仕方がない。今の状況では、そのようなことを言っている余裕はないのだろう?』

「じゃあ、いつまでもこうして対のオーブで話しているのもなんだし、俺は一度そっちに戻る」

『うむ。ではな』


 そう言い、対のオーブに表示されていたエレーナの顔が消える。

 対のオーブをミスティリングに収納した後で、レイは長に視線を向けた。


「そんな訳で、今のやり取りを見ていれば分かったと思うけど……」

「ええ、ギルムに行くのですね」


 長は特に気にした様子を見せずにそう告げる。

 長にしてみれば、妖精郷に穢れを持ち込むのではないのだから問題はない。

 ギルムにいる者達が穢れにどうなるかといったようなことを気にしたりはしない。

 長にとって重要なのは、妖精郷なのだ。

 勿論、トレントの森に妖精郷を作った以上、ギルムと無関係な真似をするといった訳にはいかない。

 また、何よりもギルムで購入出来る料理……特に甘味の類は妖精達が非常に欲している。

 そうである以上、ギルムが滅びるといったようなことは長にとっても好ましいことではなかった。

 ……それを抜きにしても、ギルムが滅びるようなことになれば妖精郷にも影響が出る可能性があった。

 そうならないようにする為にも、やはりギルムにも注意をする必要があるのは間違いない。


「で、ニールセンは……どうする?」

「え? 私? 当然私も行くに……」


 決まってるじゃない。

 そう言おうとしたニールセンだったが、不意にその動きが止まる。

 一体どうしたのかと疑問の表情を浮かべたレイだったが、ニールセンが長に視線を向けているのを見れば、その理由はすぐに理解出来た。


「いいのか? 穢れの関係について話す以上、妖精郷からも誰か来た方がいいと思うけど」

「そうかもしれませんが、ニールセンには穢れの処分を手伝って貰う必要がありますから」


 長のその言葉に、ニールセンは必死になって何かを言おうとする。

 しかし、実際には口がパクパクと動くだけで、声が出る様子はない。


「どうやらニールセンも私の提案に異論はないようですね」


 いや、それはどうなんだ?

 何らかの方法で声を出せなくした長にそう言おうとしたレイだったが、ここで長に何かを言えば、自分も面倒に巻き込まれてしまうかもしれない。

 そう考え、何も言わないでおく。

 そんなレイを、ニールセンは裏切り者と言いたげな視線で見ていたが。

 とはいえ、レイにしてみればこの状況でニールセンを助けるというのは自殺行為に等しい。


「そうか。なら……向こうで決まったことは、俺が長に知らせるって感じでいいのか?」

「はい。それで問題はないかと。レイ殿なら安心して任せることが出来ますから」


 そう言われると、レイも長からの信頼を裏切るような真似は出来ない。

 元々、長はレイに対して親切というか……どこか自分よりも上の存在のように扱う。

 それが妖精郷を助けた恩人だからなのか、それともレイの持つ魔力が莫大であるというのが関係しているのか。

 生憎とレイにはその辺りの事情は分からなかったものの、それでも長が自分を丁寧に扱っているというのは分かったし、それは悪い気分ではなかった。

 もしこれで、長が傍若無人にレイに上から目線で命令するようなことがあったりした場合、その時はレイもそこまで妖精郷に肩入れするといったようなことはなかっただろう。


(その辺を見切った上でこういう態度なのかもしれないが)


 レイは自分がそれなりに単純な性格をしているというのを知っている。

 それだけに、操るのは実はそう難しくないのだろう。

 ……もっとも、それがレイに知られた時にどうなるのかを考えれば、普通はそのような真似は出来ないのだが。


「じゃあ、行くか。セト、何度も悪いけど頼めるか?」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、ギルムまではそれこそ数分といった程度だ。

 街中に入る為の手続きも必要なく、直接マリーナの家に降りることが出来るので、面倒なことはない。

 それどころか、マリーナの家に行けば友達のイエロが持っているのだから、レイの頼みは寧ろ望むところだった。

 未だに助けて欲しいという視線を向けてくるニールセンには若干思うところもあったが、ギルムで何かお土産でも買ってこようと考え、そっと視線を逸らす。

 レイに見捨てられたと思ったニールセンは、まだ何かを言いたげだったものの……それでも長から言葉を封じられている間に、レイはセトの背に跨がる。

 セトは数歩の助走で、空に向かって駆け上がって行くのだった。






「改めて、セトの移動速度って反則だよな」


 トレントの森から、瞬く間にギルムの上空に到着したレイはそんな風に呟く。

 今まで何度もセトの移動速度に助けられていたのは間違いないものの、今回のように改めて感じるのは間違いない。


「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは褒められたと思ったのだろう。

 嬉しそうに喉を鳴らす。

 喉を鳴らしているセトに、レイは改めて口を開く。


「じゃあ、マリーナの家に行くか。今回はスレイプニルの靴を使ったりとか、そういうことをしなくてもいいのは助かるな」

「グルルルゥ」


 嬉しそうな様子を見せつつ、セトは翼を羽ばたかせながら地上に向かって降下していく。

 するとすぐに地上との距離は縮まっていき……やがて翼を羽ばたかせて降下速度を殺すと、セトは優美という表現が相応しいような動きで地面に着地する。


(多分、今頃はマリーナの家の周囲で見張りをしている連中がかなり動いているんだろうな)


 セトの背から降りたレイは、見えはしないが外にいるだろう見張り達のことを不憫に思う。

 自分でやっておいてなんだが、まさか一日のうちに二度もレイがギルムに戻ってくるというのは、今までの経験から考えてまず有り得ない筈だ。

 そんな有り得ない筈のことが起こっているのだから、騒動になるのも当然だった。

 レイも最初はそんな真似をするつもりがなかったのだが、トレントの森で穢れの関係者と遭遇し、しかもその連中が死んで穢れによってアンデッドと思しき何かに変化しつつあるとなれば、それを放っておく訳にもいかない。


「レイ」

「悪いな、急に戻ってきて。それでアーラは?」

「もう領主の館に向かった。私からの急用ということで向かわせたので、ダスカー殿との面会もそんなに時間は掛からないだろう」

「出来ればマリーナにも連絡をしたいんだが……」

「そちらも問題はない。ダスカー殿に面会した後で、治療院の方にも回るように言ってある」


 いたれりつくせりといったエレーナに、レイは感謝の言葉を口にするのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] だから光学迷彩使いましょうって。効果時間考えても充分すぎる程にあるんだし。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ