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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2978/3865

2978話

カクヨムにて5話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452219415512391


「長? どうしたんだ?」


 いきなりレイの方……正確にはレイの前にある道具を見て厳しい表情を浮かべた長に、レイはそう尋ねる。

 現在レイの前にあるのは、トレントの森に侵入してきた者達……レイの予想ではボブを狙っている穢れの関係者だろう相手から奪った道具だ。

 それを長が厳しい視線で見ているのにレイは戸惑い、すぐに気が付く。


(あ、もしかしてこのマジックアイテムって穢れが関係していたりするのか?)


 長が穢れを危険視しているのはレイも知っている。

 最悪の場合は大陸が滅びるかもしれないと言われているのだから、長がそこまで警戒するのはレイにも理解出来た。

 理解は出来たものの、まだ穢れの危険について殆ど知らないレイにしてみれば、あまり実感はなかったのだが。


「レイ殿、それは一体なんですか?」


 厳しい視線をマジックアイテムと思しき道具に向けていた長は、ようやくそうして声を出す。

 マジックアイテムから視線を逸らし、レイを見ながら。

 マジックアイテムを集める趣味があるレイとしては、長の言葉を何とか誤魔化したいという思いもあったのだが、それでも今の状況でそのような真似をするのは危険だと本能的に察知し、口を開く。


「何だと言われても、ニールセンから話は聞いてるだろう? 穢れと関係があると思しき連中を捕らえたって。その連中が持っていた奴だよ。……長の様子を見ると、どうやらこのまま俺が使うといった訳にはいかないみたいだな」

「そうですね。それは穢れによって生み出された物でしょう。それを使うようなことをすれば、一体どうなるか分かりません」

「やっぱりか。……ただ、これもニールセンから聞いたかもしれないけど、このマジックアイテムのどれかには死んだことをなかったことにするといった効果があるらしいんだが……あ、駄目か」


 説明に長の視線が更に厳しくなったのを理解し、レイはすぐに諦める。

 死んだことをなかったことに出来るというのは、どういうことかは分からない。

 単純に生き返らせることが出来るのか、あるいはもっと別の何かなのか。

 その辺が気になるところだったが、長の様子を見る限りではそのマジックアイテムを使うのは間違いなく不味そうだ。

 であれば、これ以上マジックアイテムに固執するのは止めておいた方がいいとレイは判断する。


「ええ、穢れの力が使われたマジックアイテムは、それを使ったところで最悪の結果しかもたらしません。ただ……問題なのは、このマジックアイテムをどうするかですね」


 レイがマジックアイテムを諦めたのを理解したのだろう。

 長は少しだけ安心した様子を見せつつも、困ったように呟く。


「どうするかって、ボブの穢れを取り除いたように、このマジックアイテムからも穢れを取り除けばいいんじゃないか?」

「取り除いた穢れを保存するのは、レイ殿も見たあの宝石が必要なのです」

「花の形をした宝石か?」


 尋ねるレイに、長は頷く。

 しかし、長の表情にあるのは苦悩の色だ。

 一体何故そのような表情を?

 そう思ったレイだったが、何となく理解出来てしまう。

 つまり、花の形をした宝石はそこまで数がないのだろう、と。


「花の形をした宝石、あれの残りが少ない訳か」

「そうなります。もちろん、全くないという訳ではありません。ですが、これからのことを考えると、出来ればあまり消費したくないので。……レイ殿、お願い出来ませんか?」

「は?」


 いきなりの長の言葉に、レイは最初何を言われているのかが理解出来なかった。

 しかし、このマジックアイテムをどうにかして欲しいと言ってるのだろうと理解すると、何故自分に? と思ってしまう。

 レイとしては、目の前に置かれているマジックアイテムを欲しいとは思っていた。

 しかし、それはあくまでも自分が使うという意味で欲しかったのだし、穢れが影響をしているとなれば、それを使うのは避けた方がいいのは理解出来る。

 このような状況で、一体何を?

 そんな疑問を抱いていると、長はレイに……正確にはレイの右手に視線を向ける。

 右手にあるのはミスティリング。

 それを見れば、長が何を期待しているのかがレイにも理解出来た。……いや、理解出来てしまったという方が正しい。


「ミスティリングに収納しろってことか?」

「はい。アイテムボックスというのは……現在作られている物はともかく、レイ殿が持つアイテムボックスは収納した物は時間が流れないんですよね?」

「そうなるな」

「レイ殿のアイテムボックス……ミスティリングに、このマジックアイテムを収納して貰えませんか?」


 現在世界で数個しか確認されていない、本物のアイテムボックス。

 量産型のアイテムボックスも、かなり高価だが存在する。

 この二つの間の大きな違いは、収納出来る量と収納された後で時間の流れがあるかどうか。

 つまり、レイのミスティリングに収納しておけば、それはある意味で封印に近い。

 生き物は収納出来ないといった制限はあるものの、ミスティリングの能力を考えればかなり強力な封印といえる。

 長もそれを理解したからこそ、こうしてレイに向かってマジックアイテムをミスティリングに収納して欲しいと口にしたのだろう。


「急にそう言われてもな」


 長の考えは理解した。

 理解はしたものの、だからといってその通りにする必要があるのかと言われれば、その答えは否だ。

 少なくても、レイとしてはすぐに頷ける訳ではなかった。


(問題は幾つかあるが、俺がこのマジックアイテムを使わないままに出来るかというのが大きい)


 マジックアイテムを集める趣味を持つレイにしてみれば、未知のマジックアイテム……それも気絶している者達が口にしたのが正しいのなら、死んだことをなかったことに出来る、あるいは生き返らせるといったような能力を持つ筈だ。

 この世界では強者に分類されるレイだったが、それでも不死という訳ではない。

 あるいはパーティを組んでいるマリーナ、ヴィヘラ、ビューネといった面々や、パーティを組んではいないが仲間と呼ぶべきエレーナやアーラがもし死んだ場合、もしそのようなマジックアイテムがあれば使ってしまう可能性を否定出来ない。

 それを抜きにしても、もし何らかの理由でそのようなマジックアイテムをレイが持っていると誰かが知ってしまった場合、それを手に入れようと考える者は多いだろう。

 それこそ、場合によっては貴族どころかこの国の王族が手を出してくる可能性も十分にあった。

 そうなると、当然だがミレアーナ王国の王族と敵対したレイとしてはこの国にいるような真似は出来ない。

 権力者の言いなりになるのはレイもごめんだったが、だからといって国と戦うことになれば面倒になる。

 ……個人で国と戦うことになっても、勝てないのではなく面倒だと思う辺り、レイの異常な強さを示していた。

 強さ以外にも、セトに乗って移動可能だという高い機動力があるからこそ、そのように思っている点も大きかったのだが。


「レイ殿にも色々と考えがあるのは分かります。ですが、穢れの力で生まれたマジックアイテムにはあまり力を使いたくないのです。この先、穢れが一体どれだけの規模になるのか分かりませんので」


 そう言われると、レイも即座に断るような真似は出来ない。

 穢れによって被害が出た場合、それはレイにも大きな影響を与える可能性が高いのだから。

 いや、その場合はレイだけではない。

 長から聞いた話が事実なら、それこそ個人でどうこうといった規模でないのは間違いない。

 であれば、やはり長からの要望には従った方がいいのか。

 そう考えたレイは、やがて頷きを返す。


「分かった。取りあえず穢れの力で作られたマジックアイテムは俺の方で預かっておく。それで具体的にどのくらいの間、預かっておけばいいんだ?」


 レイにしてみれば、預かるのはいいのだが半ば封印状態になるからといって、そのまま放っておかれるというのも困る。

 最悪の場合、それこそミスティリングそのものが穢れに影響される……汚染されたりするのではないかと思ってしまうのだ。

 勿論、普通に考えればそのようなことにはならないと思うものの、可能性は皆無という訳ではないのだから。


「ありがとうございます。預けるのは、出来るだけ短くしたいと思っていますが……」


 具体的にいつになるのかは分からない。

 そう告げる長に、レイも頷く。

 正直なところ、レイもこのマジックアイテムを預かるのは出来るだけ短い時間にして欲しい。

 しかし一度預かると決めた以上、しっかりと預かっておこうと判断したのだ。


「まずは穢れの件を何とかするのが最優先だな。……それで、マジックアイテムはこれでいいとしてだ。そっちの連中はどうする? どうやら、もう起きてるのが何人かいるみたいだが」


 レイが長やニールセンと話をしている間に、木に縛り付けられていた者達が何人か意識を取り戻していた。

 意識を取り戻した者は、自分達が捕らえられたということにすぐ気が付いた。

 だからこそ、今の状況でもどうにかして情報を入手しようとしたのだろう。

 その為に気絶した振りを続けていたのだが……

 レイの言葉を聞いた瞬間、ビクリ、と身体を動かしてしまう。


「長の目で、この連中が穢れと関係があるというのは……ボブを狙っていた奴の仲間だというのは理解出来た。だとすれば、この連中にとってボブと繋がっている俺達から何らかの情報を得たいと思うのは当然だ。それに……」


 そこで一旦言葉を切ったレイは、再びニールセンと長に視線を向ける。


「この連中はボブだけではなくニールセンの……というか、妖精も狙っている様子があった。それを思えば、ボブだけじゃなくて妖精郷についても情報が欲しいんだろうな」


 基本的に妖精の住んでいる場所が妖精郷なのだから、長やニールセンがいる以上はその辺りを誤魔化すといった真似も出来ない。


(あ、でもミスったか? この連中はギルムにも連れていって、そこで尋問を受けるんだから妖精郷については……いや、どのみち妖精郷は穢れの件とも詳しく関わっているし、その辺はどうしようもないか)


 少しだけ失敗したかと思ったレイだったが、結局その辺は気にしないでおくことにする。


「そうですか。ですが、こちらとしても穢れを持つ者を妖精郷に連れてはいけません」


 長はきっぱりとそう告げる。

 目の前にいる穢れの関係者に対しては、それこそその辺に落ちている小石でも見るかのような……あるいは汚物でも見たかのような、そんな視線。

 長にしてみれば、穢れというのはそれ程に許容出来ないものなのだろう。

 ボブの場合は、自分で好んで穢れに接した訳ではないので穢れを持っていてもまだ我慢出来た。

 それでも妖精郷に入れるのは、穢れの対処が出来るように準備を整えてからになったが。

 そんなボブとは違い、木に縛り付けられている者達は自分から進んで穢れを受け入れた者達だ。

 長にとっては唾棄すべき相手でしかない。

 意識が戻っていた数人は、長の視線に何を感じたのか身体を震わせる。


「妖精郷に連れていかないって話だけど、なら全員ギルムに引き渡してもいいのか? 穢れに詳しいのは……」

「穢れ? 穢れだと? 貴様、私達の大いなる希望を穢れと言うか!」


 不意にそんな声が聞こえてくる。

 いきなりなんだ? と声のした方に視線を向けたレイが見たのは、この十人を率いていた人物……穢れのマジックアイテムを持っていた男が怒りに燃えた視線を自分に向けてくる光景だった。

 そしてその言葉により、まだ気絶していた者達も次々に目を覚ましていく。


(意外だな。いや、そうでもないか?)


 ここにいた者達を率いていた男だ。

 少しでもレイや長、ニールセンとの会話から情報を得ようとしているとばかり思っていたのだが、ここまで堂々と不満を口にするというのはレイにとっても驚きだった。

 今の会話からでも、穢れの関係者達は穢れに対して並々ならぬ思いを抱いているのはレイにも理解出来た。

 その辺りを突けば、何か穢れについての情報を引き出せるかもしれない。

 そんな風に思ったレイだったが、レイが口を開くよりも前に男が口を開く。


「俺達を尋問して、情報を聞き出そうとしているらしいが……そんなことが出来ると思うのか?」

「出来るかどうかで考えると、出来ると思うぞ」


 レイは尋問をそこまで得意としていない。

 盗賊のような連中を相手にした場合は、痛めつければすぐに情報を話す。

 しかし、それはあくまでも盗賊だからだ。

 ……勿論、盗賊の中には義理堅い性格をしていて仲間のことを決して話さないといった者もいるかもしれないが、レイの知ってる限りそのような盗賊は非常に少ない。


「そうか。では……俺達はそれに負けないようにしよう。明日の太陽を見る為に」


 そう告げ、今の意味ありげな言葉の意味を考えているレイの視線の先で、今まで話していた男は息絶えていた。

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[一言] 大いなる希望がやっぱりこの連中のヒントなのかなぁ
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