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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2965/3865

2965話

 レイの顔を見て、倉庫の護衛をしていた冒険者達はすぐに通す。

 それを見て、変装をしているとか疑わないのか? と疑問に思ってしまったが。

 ともあれ、レイは倉庫の中に入り……その瞬間、今まではドラゴンローブの中で大人しくしていたニールセンが暴れ始まる。


「おい、どうした?」

「どうしたって……そっちこそどうしたってのよ。この圧倒的な魔力……一体ここに何があるのよ!?」


 妖精としての感覚でドラゴンの魔力を感じたのか、ニールセンはドラゴンローブから出るとそう叫ぶ。

 ニールセンが見つかるのは不味いのでは?

 そう思ったレイだったが、倉庫の中にある物を思えばニールセンがこんな風になるのも理解出来ると納得してしまう。


「前に言わなかったか? 俺は未知のドラゴン……取りあえずクリスタルドラゴンと名付けたが、それを倒した。この倉庫では、その死体を解体して貰ってるんだよ」

「そう言えば聞いたような気がするわね。それにしても、死体になってもこんなに圧倒的な魔力を持ってるなんて……」


 レイの言葉でこの倉庫にある何かについては理解したものの、だからといってそれでも驚くなというのは無理な話だったらしい。


「これ……ちょっと厳しいわ。レイ、私はちょっと休んでるから」


 クリスタルドラゴンの魔力に当てられたのか、ニールセンはそう言って再びドラゴンローブの中に入り込む。

 好奇心から行動することが多いニールセン……というか妖精だけに、クリスタルドラゴンの死体を見なくてもいいのか? とレイは思う。

 思うのだが、ニールセンの様子からするとクリスタルドラゴンの死体を見るというのはあまり気が進まないらしいと判断し、それなら無理をさせることもないだろうと判断し、倉庫の中を進む。

 そうして倉庫の中でも人の集まっている場所……クリスタルドラゴンの解体をしている場所に向かって進むと、真っ先にレイの存在に気が付いた者がいた。


「おう、レイか。どうした? 以前約束した時にはまだ早いと思うが」


 クリスタルドラゴンの解体の指揮を執り……時には自分でも直接解体をする親方が、レイに向かってそんな風に言ってくる。

 レイにしてみれば、既に見慣れた顔だ。

 特に気にした様子もなく、手を振って言葉を返す。


「ちょっと事情があってな。エグジニスでの一件は片付いた……片付いた? まぁ、片付いたと言ってもいいと思うから、こっちにやって来た」


 レイの言葉から、何となく事情を理解したのだろう。

 親方は呆れの視線を向ける。


「また何かやらかしたのか」

「いや、一応言っておくがやらかしたのは俺じゃないからな? エグジニスで暴れたのはネクロゴーレムだ。俺はそのネクロゴーレムを倒した方だから、感謝されこそすれ、責められることはない……筈」


 筈と最後につけている辺り、レイにも若干親方の言葉に思うところがあるのだろう。

 何しろエグジニスはネクロゴーレムが暴れた影響で街中はかなり破壊され、死者も多く出ている。

 レイが関わったからこそ、そのような状況になった……と言えば、それはそれで否定が出来ない事実でもある。

 ただし、もしレイがエグジニスの騒動に関わっていなければ、それこそ今でも盗賊や違法奴隷を犠牲にして、ゴーレムの核を作るといったようなことになっていたのは間違いない。

 そういう意味では、レイがエグジニスの一件に関わったのは多くの者にとって正解だったのは間違いない。

 そのお陰で、レイにとっては色々と面倒なことになったのも事実なのだが。


「なるほど。何かやらかしたのは間違いない訳か。もっとも、以前来た時にその辺の話は少し聞いてるけどな」

「以前来た時か。実際には少し前なのに、随分と前のことだったように感じるな」


 それは、レイが以前この倉庫に来てからエグジニスに戻った途端に暗殺者に襲われ、そこから怒濤の展開だったというのが大きい。

 レイがエグジニスに戻った日に起きたその暗殺から、事態は一気に動いたのだ。


(濃密な日々だったからこそ、時間が流れるのも早かったといったところか。個人的にはもっとゆっくりとした日々を楽しみたいんだけどな)


 ふと、レイの頭にスローライフという言葉が思い浮かんだが、自分がそういう生活をしている光景が全く思い浮かばない。

 もしそのようなことになったら、それこそ自分は一体どうなのかと疑問にすら感じてしまう。


(スローライフか。もし俺がスローライフを希望しても、何だかんだで向こうから騒動がやって来そうな気がするよな)


 今までの経験から考えて、それは確実なようにレイには思えてしまう。

 今までも、レイは様々なトラブルに巻き込まれてきた。

 そのトラブルの中には、自分から関わったものも多いが、レイが何もしていないのに向こうからトラブルがやって来たというのも少なくない。

 であれば、レイがスローライフを送ろうとしても、何らかの理由によってトラブルの方からレイにやってくるという可能性は否定出来ない。

 これまでの経験から、レイとしてはそんな風に思ってしまうのだ。


「レイだから仕方がないか」

「……それで納得されるのは、あまり嬉しくないんだが」


 レイだからで納得されるのは、正直なところレイとしても決して好ましいことではない。

 だが、レイはそう思うも、他の者にしてみればそのように思ってしまうのも仕方がないことなのだろう。


「そうか? だが、ギルムにいる者なら、何かあってもレイだからと納得する者は多いと思うぞ?」

「ぐ……」


 親方のその言葉に、レイは何も反論出来ない。

 実際、何人かから似たようなことを言われた記憶があったからだ。

 そうである以上は『レイだから』という言葉が広まっているという話には納得するしか出来ない。


「今のところは、それで納得しておくよ」


 ドラゴンローブの中にいるニールセンが、親方の言う通りだといったようにレイの身体を叩いてくるのが気になったが、取りあえずそう言っておく。

 そして……レイは話を逸らす。

 いや、正確には話を逸らすというよりも、最初からそちらが話のメインだったのだが。

 レイの視線が向けられたのは、倉庫の中にあるクリスタルドラゴンの頭部。

 以前レイがギルムに戻ってきた時、頭部の解体をやるから十日くらいしてからくるようにと言われていたのだが、レイがギルムに戻ってきたのは約束よりも少し早い。

 だからこそと言うべきか、倉庫に置かれているクリスタルドラゴンの頭部はまだ完全に解体はされていなかった。


「これがクリスタルドラゴンの頭部か」

「いや、何でお前が頭部を見て感心する? これはお前が倒したモンスターだろう」


 レイの言葉を聞いた親方が、呆れたようにそう言ってくる。

 しかし、レイは親方の言葉に視線を向けつつも言葉を返す。


「そうだけど、こうして解体されている途中の頭部を見ると、改めて迫力があると思ったんだよ」


 頭部は既に骨が露出している場所もあり、普通なら驚いてもおかしくはない。

 あるいは骨が露出し、肉が見え、皮が破れている光景に気持ち悪くなるか。

 だが、レイは不思議とその光景に目を奪われる。

 勿論、そのようなことになるのはクリスタルドラゴンという存在の頭部だからだろう。

 例えばこれがゴブリンの頭部であれば、今のように思うことはまずない筈だった。

 そんなレイの様子を見て、親方はやがて納得したように頷く。


「そうか。お前にもそういう風に見えるのなら、もしかしたら解体の才能があるのかもしれないな」

「……解体の才能? 俺に?」


 完全に予想外のことを言われたことで我に返ったのか、レイはクリスタルドラゴンの頭部から親方の方に視線を向けて尋ねる。

 レイにしてみれば、自分に解体の才能があるとは到底思えない。

 事実、モンスターの解体をすることもあるが、自分でも決して手際がよくないと理解出来るのだから。

 最近では、スモッグパンサーのいた森で倒したモンスターの解体の時にそれを実感している。

 だというのに、何故か親方の口から解体の才能があるという言葉が出たのだ。

 それを本気にしろという方が無理だった。

 しかし、意外そうな視線を向けてきたレイに対し、親方は少し考えながら説明する。


「まぁ、才能があるというのはちょっと言いすぎたかもしれないな。だが、冒険者の中にはどうしても解体の現場を見ると気持ち悪くなって、吐いてしまうという奴もいる。勿論、そういう連中も解体に慣れれば問題はなくなるが」

「ああ、なるほど」


 そういうことなら、レイにも納得出来た。

 レイは日本にいる時に、鶏の解体を手伝ったりしていた。

 また、猟師をやっている知り合いが熊や鹿を殺した時に、その解体を手伝ったりしたこともある。

 都会では動物や鳥の解体というのを見たことがなく、それこそ魚も切り身の状態で海を泳いでいるといったように本気で思っている者もいると聞く。

 そういう意味では、レイは解体を手伝うといった経験があったし、レイの家があるのは山の側で、山はレイの遊び場でもあった。

 そして山の中では、何らかの理由で死んだ動物の死体を見つけることも珍しくはない。

 そういう意味で、レイはある程度解体に抵抗がなかったのは間違いない。


「どうやら理解出来たようだな」

「ああ。……ともあれ、こうして見る限りだとクリスタルドラゴンの頭部の解体は八割くらい終わってるってところか。予想していたよりも進んでないんだな」

「それはそうだ。これは未知のドラゴンなんだぞ? 出来る限りしっかりと解体して、どこにどんな風に肉がついているのか、頭蓋骨はどんな形をしているのか、頭部の構造はどうなっているのか……調べることが多すぎる。寧ろ、この速度は予想していたよりも早いくらいだ」

「そうなのか。まぁ、未知のドラゴンと言われれば、それに納得するしかないのかもしれないけど」


 レイも初めてクリスタルドラゴンを見た時は、かなり驚いた。

 モンスター図鑑や、図書館にある本を読んでそれなりにドラゴンについての情報は知っていた。

 勿論、それでも本職の研究者と比べれば劣るだろうが、それでも専門外の……冒険者としては、それなりにドラゴンに詳しいつもりだったのだが、そんなレイでも全く知らないドラゴンがクリスタルドラゴンだったのだ。

 日本にいた時に好んでいた、ファンタジーものの漫画や小説、ゲーム、アニメといったものにもドラゴンというのは頻繁に出て来たが、そちらの知識でも理解は出来なかった。

 そういう意味で、未知のドラゴンを調べるという親方の言葉はレイにも理解出来た。


「そうそう、そう言えば知ってるか? このクリスタルドラゴンだが……馬鹿野郎、そこはもっと丁寧にやれ!」


 レイに何かを話そうとしていた親方だったが、クリスタルドラゴンの頭部を解体しているうちの一人が集中力を切らしたのか、何かミスをしたのだろう。

 親方がレイと話していた時とは違い、職人が弟子を叱る時のような怒声を上げる。


「すいません、親方。気を付けます!」


 叱られたギルド職員も、親方にそう謝ると再び解体作業に戻っていく。

 元々ここにいるのは、ギルドの中でも解体を任されていた者達だ。

 ……本来ならギルド職員は増築工事の書類仕事をする必要があるのだが、解体作業を専門にしていた者達は当然だがその手の仕事は得意ではない。

 いや、実際にはその手の仕事が得意な者もいるのかもしれないが、そのような者は間違いなく少数だろう。

 だからこそ、ギルドの方でもレイが持ってきた魔の森のモンスターの死体の解体を、親方達に任せることにした。

 それは双方にとって、悪くない選択だったのだろう。

 何しろ親方達が書類仕事をすれば、遅かったりミスをしたりと、色々と面倒が多いのだから。

 そのようなことがないようにする為には、やはりこうして親方達の本職に解体を任せるのが一番だった。


「で? このクリスタルドラゴンが何だって?」

「ん? あー……ああ、そうそう」


 部下を怒鳴ったせいで、レイに何を言おうとしたのか忘れたのだろう。

 それでもすぐに思い出すと、再び口を開く。


「クリスタルドラゴンというのは、今までこの外見からレイがつけた名前で、正式な名称じゃなかったらしいが、ギルドの方で正式にクリスタルドラゴンという名前に決まったらしい」

「そうなのか? ……俺にしてみれば、今までと変わらないからそう違いがあるとは思えないが。それでも、しっかりと名前が決まったのはいいな」


 今までもクリスタルドラゴンとレイは呼んでいたものの、それがレイが臨時でつけた名前だと、当然ながらそれが通じない相手もいる。

 これからはそういうことも少なくなるだろうと判断すると、レイは安堵するのだった。

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