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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2960/3865

2960話

今年もこのライトノベルがすごい!2022のアンケートの時期がやって来ました。

詳細については、以下をご覧下さい。


https://questant.jp/q/konorano2022


回答期限は9月23日(木)23:59となっています。


是非、レジェンドに投票をお願いします。

 屋台で適当に――それでもレイが美味そうだと思える料理を――買うと、レイとニールセンは領主の館に向かう。

 当然ながら、領主の館の周囲にはダスカーと面会をしようと多くの商人や貴族が待っていた。

 中には約束もないのに待っていて、約束をした者が時間になっても来なかった場合、その後の者もまだいなくて時間が空いた場合に面会が出来るようにと一縷の希望を抱いている……言わば、キャンセル待ちをしている者もいる。

 そんな者達が待っている中を、レイは特に気にした様子もなく進む。


「何だ、あの魔法使い。もしかしてダスカー様と面会しようとしてるのか?」

「馬鹿な。俺達ですら、そう簡単に面会は出来ないんだぞ? なのに、あんなただの魔法使いが……それも見習い魔法使いか何かが、面会出来る訳がないだろ」


 ドラゴンローブの隠蔽の効果で、レイが着ているドラゴンローブは外見的には普通の……それこそどこにでも売ってるようなローブにしか見えない。

 だからこそ、それを見抜く目を持っていない者にしてみれば、レイはその辺の冒険者見習いにしか見えなかった。

 あるいはこれでセトが一緒にいれば、また話は別だったかもしれないが……今はレイをレイと見破られない必要がある以上、自分が見習い魔法使いにしか見えないというのはレイにとっても幸運だったのは間違いないだろう。


「あんな奴が何を考えてダスカー様に会おうとしてるのやら」

「さーて、どうなんだろうな。ただ、門番に追い返されて終わると思うけど」


 そんな言葉を聞き流しつつ、レイは正門前に到着する。

 するとそこには、レイにとっても顔見知りの門番が二人、槍を手に立っていた。

 そしてレイに鋭い視線を向けると、片方が口を開く。


「ここはギルムの領主、ダスカー様の暮らす領主の館。用件については……」

「久しぶりだな。いや、実際にはそうでもないのか?」


 門番が喋っている言葉を遮り、レイが告げる。

 言葉を途中で遮られた門番は不満そうな様子だったが、レイがドラゴンローブのフードを上げて顔を見せると息を呑む。


「レ……」


 さすがにレイの立場は理解しているのか、名前を直接口に出すようなことはない。

 もしここで門番がレイの名前を口に出していれば、それこそ正門の側で待っている者達の多くがレイと話がしたいと、接触してくるだろう。

 先程までの自分達のレイを蔑むような会話が聞こえているとも知らず。

 商人にしろ、貴族にしろ、あるいはそれ以外にしろ……レイがクリスタルドラゴンを倒したというのは、既に知っているのだ。

 そうである以上、何とかレイと接触してクリスタルドラゴンの素材を売って欲しい、あるいはクリスタルドラゴンの情報を欲しいと、そんな風に思うのは当然だった。

 レイにとってもそんな騒動になるのはごめんだったが、騒動になるのが嫌なのは、門番の二人も同様だ。

 ただでさえ、門の近くにこれだけ大勢の者達が集まっているのに、そのような者達が全員レイに会いたいといったように行動をした場合、一体どうなるのか。

 果てしなく面倒なことになるのは間違いない。

 だからこそ、レイを見てもその名前を口に出すのを咄嗟に止めたのだ。


「用件だが、ダスカー様に会いたい」


 門番が自分を確認したと判断すると、レイは再びフードを被って顔を隠す。

 そうして顔が隠されたことにより、門番達も我に返って口を開く。


「ダスカー様にって……幾らお前でも、そう簡単に会える訳じゃないのは分かるだろ?」

「それでも会いたい。至急連絡をしてくれ。結構……いや、かなり重要なことなんだ」


 真剣な表情でそう告げるレイに、門番達はそれぞれ顔を合わせる。

 この様子だと、ただダスカーのご機嫌伺いにやって来た……という訳ではないのは明らかだ。

 そしてレイが今までギルムの為に働いてきたことを思えば、門番達もここでレイを追い返す訳にはいかない。


「分かった。ただ、ダスカー様は忙しい。幾らお前が面会を希望しても、すぐに会えるかどうかは分からないぞ?」

「その時はある程度待つと言ってくれ」


 レイとしては、実はその方がいいのは間違いない。

 何しろ現在レイのドラゴンローブの中にいるニールセンは、早く屋台で購入した料理を食べたいと思っているのだから。

 その為の時間は、あればあっただけいいのは間違いない。

 ……寧ろこのまますぐにダスカーと会うということになれば、ニールセンは屋台で買った料理を食べられないと残念に思うだろう。

 そうなればそうなったで、ダスカーと面会しながら料理を食べるといったようなことを言いかねない。

 そのようなことが長に知られてしまえば、間違いなく面倒なことになると思うのだが。

 しかし、ニールセンにとってはこうして長のいる妖精郷から離れてしまえば、その辺は問題ないのだろう。


「分かった。じゃあ、ちょっと聞いてくる」


 そう言い、門番の一人が屋敷に向かう。

 それを見て驚いたのは、周囲で様子を見ていた者達だ。

 魔法使い見習いが、何を勘違いしたのか領主に会おうとした。

 それはいいが、その結果として門番にすげなく断られ、癇癪を起こして暴れるか、あるいは落ち込んで帰っていくか。そんな感じになると思っていたのだ。

 だというのに、実際に起こったのは門番の一人が屋敷に向かうというもの。

 それはすなわち、ダスカーと会わせる必要があると門番達が把握したということだ。


「お、おい。一体何でだ? 何であんな奴が……」

「俺が知るか。いや、本当に理由が分からないんだが、一体何がどうなってそうなったんだ?」

「もしかして、ああ見えて実はお偉いさんだったとか?」

「いや、あいつが着ていたローブは普通のローブだ。こう見えて、武器や防具の目利きには自信がある。その俺が断言してもいい。あれは普通のローブだ」

「別に街中なんだから、普段着として普通のローブを着ていてもおかしくないんじゃないか?」


 実際にはドラゴンローブなのだが、生憎と目利きに自信があるという男はその真の姿を見抜くことは出来なかった。

 とはいえ、それはおかしな話ではない。

 ドラゴンローブはゼパイル一門にして歴史上最高の錬金術師と呼ばれるエスタ・ノールの作品なのだから。

 そのような者が作ったドラゴンローブにある隠蔽の効果を、多少目利きに自信がある程度の者が見抜ける筈もない。

 ……あるいは見抜くことが出来ていれば、門番の行動の意味も理解出来たのかもしれないが。

 話していた者達だけではなく、正門前にいた者の多くがレイの姿を羨ましく、妬ましく、あるいは疑問の視線を向けていた。

 門番と話しているレイは、当然ながらそんな周囲の視線に気が付いてはいた。

 レイはそのような視線を向けられることも珍しくないので、特に気にした様子はなかったが。


「それにしても、よく今の状況でギルムに戻ってくることになったな」


 相棒がレイがダスカーに会いたいと屋敷に向かうと、門の前に残ったもう一人の門番はレイに向かってそう声を掛けてくる。

 門番も当然ながら、現在のレイの状況は知っている。

 レイがギルムに戻ってきたと知れば、間違いなく多くの者がレイと会いたいと希望するだろう。

 そういうのが嫌だからこそ、レイはギルムを離れている筈だった。

 呆れたように言ってくる門番に、レイは少し不満そうな様子で口を開く。


「そう言ってもな。俺も本来ならまだ暫くギルムに戻ってくるつもりはなかったよ。……それでもギルドの方で解体がある程度終わるのはそろそろだったから、そう遠くないうちに戻ってきていたと思うが」

「そうなのか? ……ただ。そんな状況でもギルムに戻ってくる理由があった訳だ」

「生憎とな。それが何なのかは教えられないが」


 そう言うレイのドラゴンローブの中では、暇を持て余したニールセンが暇そうにしながら動いていた。

 それが微妙にくすぐったく、レイは反射的にドラゴンローブの上からそのくすぐったい場所を叩こうとするも……何とか我慢する。


「俺もそれは聞こうとは思わないよ。というか、それは多分聞けば絶対に巻き込まれる奴だし」


 正解。

 そう言いたくなるのを、レイは我慢する。

 実際、穢れの件については自分がここで何かを言えば、門番にもダスカーから口止めがされるのは間違いない。

 あるいは口止めだけではなく、穢れの件で動く時にその候補の一人とされてしまう可能性が高かった。

 そうである以上、この場合はやはり何も言わない方がいいのは間違いない。


「なら、そっちの方がいい。けど……領主の館にいる者の数が以前よりも多くなっているみたいだな」

「ああ。今は秋だからな。冬になる前にダスカー様と会っておきたい者が多いんだろう。……おかげで、こっちは大忙しだよ」


 うんざりとした様子を見せている門番に、レイもだろうなと頷く。

 そうして世間話をしていると、やがてレイが来たというのを知らせる為に領主の館に向かっていた門番が戻ってくる。


「中に入ってくれ。ただ、今は他の相手と面会をしているから、少し待って欲しいそうだ。案内はメイドがする」

「分かった」


 レイは素直に門番の言葉に頷いて領主の館の敷地内に入っていく。

 それを見た正門に近くにいた者たちは、一体何故自分達はダスカーに面会出来ないのに、レイはこうもあっさりと中に入れるのかと、不満に思う。

 特に先程レイが着ているのはただのローブだからと言っていた男は、そんな自分の予想が容易く裏切られてしまったことに衝撃を受けていた。

 背後でそのようなことが起きているというを知らないレイは……あるいは知っていても無視しただろうが、とにかく建物の中に入る。

 するとそこにはレイにも見覚えのあるメイドの姿があり、レイに向かって頭を下げてくる。


「お久しぶりです、レイさん。客室の方にご案内しますので」

「ああ、分かった。それで頼む。こっちはダスカー様に会えればそれでいいから、あまり急がせるようなことはしないでくれ。……さすがに夜まで放っておかれるとか、そういう風になるとちょっと困るけど」


 そのようなことはないだろうと思う。

 しかし、ダスカーの仕事の忙しさを考えれば、もしかしたら……とそう思うのも事実。

 だが、メイドはそんなレイの言葉に笑みを浮かべて頷く。


「ご主人様なら、レイさんのことを忘れるようなことはないかと。恐らく今面会している人物との話を出来るだけ早く終わらせてからレイさんと面会することになると思います」

「だといいんだけどな」


 その言葉の後は特に何かを話すでもなく、メイドの案内に従ってとある部屋に到着する。

 そこは以前もレイが使ったことのある客室だった。


「では、少々お待ち下さい。お茶と軽く摘まめる料理を用意しますので」


 メイドはそう言って部屋を出る。

 すると次の瞬間、それを待ちわびていたかのように、ドラゴンローブの中からニールセンが飛び出してきた。


「ぷはぁ……うーん、やっぱりドラゴンローブの中は快適だけど、こうして自由に周囲を飛び回れる方がいいわね」


 その言葉通り、快適そうな様子で部屋の中を飛び回るニールセン。

 ニールセンにしてみれば、こうして自由に飛び回れる方が快適な状態なのだろう。


「言っておくけど、さっきのメイドが戻ってきたら見つからないようにしろよ」


 レイはこうしてニールセンと接するのが珍しくはないと認識していたものの、それはレイだからだ。

 もし何も知らない者がニールセンを見れば、それに対して一体どのように反応するのか……それこそ、ボブを見ていれば考えるまでもないだろう。

 もっとも、ボブの場合は少し大袈裟なくらいに妖精を見て驚いていたようにレイには見えたが。


「分かってるわよ。……どうやら来たみたいね」


 そう言うと、ニールセンは部屋の中にあった壺の後ろに隠れる。

 壺の大きさを考えれば、その後ろに誰かが隠れているとは思わないだろう。

 ニールセンが壺の後ろに隠れたのと同時に、メイドが部屋に戻ってくる。

 やはりダスカーはもう少し時間が掛かると言われ、紅茶とサンドイッチを置いていく。


「ほら、見たでしょ? こうしていれば、私が見つかるということはまずないわ!」

「分かった、分かった。それで……どうする? サンドイッチを食べるか? それとも屋台で買ってきた料理を食べるか?」

「両方!」


 一瞬の躊躇すらなく……それこそ迷うこともないまま、ニールセンは断言する。

 ニールセンにしてみれば、両方を食べるのは最初から決まっていたようなことなのだろう。

 そんな様子に呆れつつも、躊躇なく両方を選ぶ様子に感心し……取りあえず、レイはミスティリングの中から料理を取り出すのだった。

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