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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム

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2959/3880

2959話

今年もこのライトノベルがすごい!2022のアンケートの時期がやって来ました。

詳細については、以下をご覧下さい。


https://questant.jp/q/konorano2022


回答期限は9月23日(木)23:59となっています。


是非、レジェンドに投票をお願いします。

 高度二百mから落下したレイだったが、いつもセトが飛んでいる倍の高さからの落下ということで多少は緊張していたものの、それでも空中でスレイプニルの靴を何度か使い、落下速度を落として目的の場所……マリーナの家の中庭に着地する。

 二百mの高さから落ちたというのに、着地した時の音は全く周囲に響いていない。

 この辺り、レイの身体を動かす技術の高さを物語っていた。


「レイ? もう戻ってきたのか」

「レイ殿?」


 そう声を掛けてきたのは、エレーナとアーラの二人。

 空中で見た時は二人で模擬戦を行っていたようだったが、レイが着地するのと前後して、模擬戦に決着がついたらしい。

 エレーナの持つ連接剣のミラージュと、アーラの持つパワー・アクスがそれぞれ持ち主の手に握られている。


「ああ、ちょっと緊急の用事があってな」

「それなら、対のオーブを使って私に連絡を取ればよかったと思うが?」

「……そう言えばそれがあったな」


 あっさりとエレーナの口から出た言葉に、レイは失敗したと思う。

 そう言えば対のオーブがあったのだ。

 それを使えば、すぐにでもエレーナと連絡が取れたし、何よりも長もダスカーとの会話に参加することが出来た。

 とはいえ、このような重大事は実際に直接会って話した方がいいのも事実だったが。

 何よりエレーナがダスカーに会いに行くといった真似をした場合、どうしても目立つ。

 かといってアーラを呼んでダスカーをマリーナの家に連れてくるというのも、当然ながら目立つ。

 後者の場合、目立つだけではなくダスカーの仕事を中断させるということも意味していた。

 ギルド程ではないにしろ、領主のダスカーも増築工事の諸々で非常に忙しい。

 いや、増築工事だけではなく緑人やリザードマン達の関係であったり、香辛料、砂上船……それ以外にも多数、やるべき仕事があるのだ。

 そうである以上、やはりこうしてレイが直接出向く必要があった。


(ただ、本当の意味で最善となると、俺の持っている対のオーブを長に預けて、俺はエレーナから対のオーブを預かって……といった真似をした方がよかったな)


 それが最善であるのは間違いないものの、それがダスカーに会いに行くと決めた時に思いつかなかったのだ。

 今こうしている時に思いついても意味はない。


「対のオーブについてはエレーナとかと話す時に使うマジックアイテムという認識だったからな。……そう言えば今日は客がいないんだな」


 レイは話を誤魔化すようにそう尋ねる。

 とはいえ、それは純粋に疑問に感じたことでもあった。

 毎日のようにエレーナとの面会を希望する者がいて、エレーナはそれに応じていた。

 ギルムにやってきた、ある程度地位のある者……あるいは貴族派と縁の深い者や、貴族街にいる貴族が少しでもエレーナと親しくなったり、あるいは親しくなったように周囲に見せつけたいということから、そのように行動している。

 貴族街の貴族は、それこそ一度だけではなく何度も繰り返しエレーナと会うことにより、それだけ自分はエレーナと親しいのだと、そう周囲に示したいのだろう。

 実際にはそのような真似をされてエレーナがどう思うのかは考えていないので、レイとしては一体どうなんだ? と思わずにいられなかったが。


「うむ。何か理由があってそのようになっている訳ではなく、本当に偶然だがな。だからこそ私はアーラと模擬戦をやっていた訳だ」


 エレーナの言葉に、若干困った様子を見せるアーラ。

 勿論、アーラはエレーナに忠誠を誓っている。

 そういう意味では、エレーナとの模擬戦をやるのは全く構わない。

 だが……アーラとエレーナでは、実力差がありすぎるのだ。

 これはアーラが弱いという訳ではない。

 エレーナの護衛騎士団を率いる者として、アーラは十分に強者と呼ぶに相応しいだろう。

 特にその外見からはとても信じられないような剛力は、並の男でも敵わない程なのだから。

 その上で、アーラの持つパワー・アクスはマジックアイテムでもある。

 そんなアーラと正面から戦って勝てる者はそう多くはない。

 ……そんな多くない者が集まっているのが、このギルムなのだが。

 しかし、アーラは強いがエレーナはそれ以上に強い。

 それこそアーラと模擬戦をやっても、アーラが勝つ可能性はまず皆無なくらいには。

 これは、それだけエレーナが強いということを意味している。

 本当の意味でエレーナと互角に模擬戦を行える者となれば、それこそヴィヘラやレイくらいだろう。

 マリーナも精霊魔法を使えば、エレーナとの模擬戦は可能だろうが。


「それで私の件はともかく、緊急の用件というのは? ああ、勿論私に話せないのなら無理に聞かせて欲しいとまでは言わない」


 エレーナはレイと親しい関係にあるのは間違いない。

 しかし、親しい関係にあるからといってお互いに全てを話せるという訳ではなかった。

 実際、エレーナも貴族派としてレイに話していないようなことはある。

 あるいはマリーナに会いに来た相手との会談で貴族派に話してはいけないようなことを聞いたりした場合も、実際にそれを話したりといったようなことはしない。

 それは別にレイに思うところがあってそのようにしているのではなく、貴族派の姫将軍としての立場からのものだ。

 だからこそ、エレーナはレイに向かってもし話せるのならと言ってきたのだろう。

 エレーナにそこまで気を遣って貰っているレイだったが、今回の件は取りあえず話した方がいいのかどうかと迷う。

 普通に考えれば、穢れの件はこの地域だけではなく、この国……最悪の場合はこの大陸そのものに関係してくるのだ。

 そうである以上、エレーナにも当然だがその辺の状況を話しておいた方がいい。

 しかし、この件についてはダスカーに最初に話した方がいいだろうと思うのも、またレイの意見だった。

 そうして迷っていると……


「ねぇねぇ、どうしたの? 穢れの件でダスカーに会いに行くんじゃなかったの?」


 レイとは別に空からやって来たニールセンが少し時間が掛かったもののマリーナの家の中庭に到着すると、そう声を掛けてくる。

 しまった。

 一瞬そう思うレイ。

 ニールセンが自分の後にセトから飛び降りてやってくるというのは知っていた筈なのに、その件についてはすっかりと忘れてしまっていたのだ。

 そしてニールセンの口から出た穢れ。

 その言葉の持つ不吉さと、何よりもダスカーに会いに行くという言葉を聞いたエレーナは、その美貌を微かに歪ませる。

 自分が思っていたよりもかなり大事だと理解したのだろう。


「ダスカー殿に直接会いに行く程のことなのか?」

「そうなるな。……どうする? そこまで気になるのなら、お前も領主の館まで来るか?」


 レイとしては、エレーナが一緒に話を聞いても別に構わないという思いがあった。

 なので、もしエレーナがレイと一緒に領主の館に行くと言うのなら、それはそれで構わないと受け入れるつもりだったのだが……


「いや、止めておこう」


 エレーナの口から出た言葉は、レイにとって予想外のものだった。


「いいのか?」


 一応といった様子で尋ねるレイだったが、エレーナはその言葉に頷く。


「うむ。もしダスカー殿が私に話した方がいいと判断したのなら、後でその話はあるだろう。であれば、私は今は行かない方がいい」

「分かった。エレーナがそう言うのなら、そうさせて貰う。じゃあ、俺とニールセンは行く。もう少ししたらセトも降りてくるから、イエロと一緒に遊ばせてやってくれ」


 その言葉にエレーナは頷き、そしてレイはニールセンと共にマリーナの家を出る。

 ……とはいえ、当然ながら堂々と門から出るのではない。

 マリーナの家はしっかりと見張られている。

 それはレイが空中から落下している時に見て何人かそのような相手がいるのを確認していた。

 そうである以上、誰が家の中に入ったのか、そして出ていったのかということは当然ながら把握されているだろう。

 そんな中でドラゴンローブのおかげで目立たないとはいえ……いや、貴族街で平凡なローブを身に纏っている者がいるのを見れば、怪しむのは当然だった。

 ましてや、レイのドラゴンローブにそのような隠蔽の効果があるというのは、それなりに知られている話だ。

 だからこそ、そのような人物がマリーナの家から出て来るようなことがあれば、当然ながら怪しむ者が多くなるだろう。

 そうならない為には、門ではない場所……本来なら出入りに使わないような場所から移動する必要があった。

 そうして門ではない方向に向かって進むレイの背中を見送っていたエレーナだったが、アーラが何か言いたげに自分を見ているのに気が付く。

 アーラもエレーナが自分の視線の意味に気が付いたと理解したのだろう。

 やがて思い切った様子で口を開く。


「エレーナ様、よろしかったのですか?」

「何がだ?」

「穢れ、とかいうもののことです。わざわざレイ殿が領主の館にまで行くとなれば、当然ですが何か重要な一件なのは間違いないでしょう。なら、レイ殿も許可してくれたのですし、エレーナ様も一緒に行動した方がよかったのでは?」

「アーラの気持ちは分かる。しかし、今はまだ様子を見た方がいいだろう。もし本当に何か重要なことがあるのなら、レイは私に一緒に行くか? といったように聞いたりはせず、事情を説明してくれるだろう」


 エレーナのその言葉に、アーラは取りあえず納得するのだった。






「さて、ここなら問題はないな」


 マリーナの家の敷地内から出たレイは、周囲の様子を素早く確認する。

 そこにはマリーナの家を偵察している者の姿はどこにもない。

 ニールセンに周囲の様子を確認して貰ってからの判断だったので、そこまで警戒した様子はしていなかったが。

 そうしてマリーナの家の敷地内から出ることに成功すれば、後はそこまで怪しまれることはない。

 勿論、それでも貴族街に普通のローブを着ているように見えるレイがいるという時点で怪しいのだが。

 貴族街だからこそ、ある程度豪華なローブを着ていなければ目立ってしまうのだ。


「ねぇ、レイ。このまま領主の館に行くのよね? 途中で屋台に寄っていかない?」


 レイのドラゴンローブの中で、ニールセンがそんな風に言ってくる。

 そんなニールセンの言葉に、周囲にいる者達に怪しまれないようにしながらも、レイは呆れを込めて口を開く。


「お前、長にあんな風に言われたのに、よくもまぁ……」


 セトが空を飛んでギルムまでやって来たので、妖精郷から出てまだそんなに時間は経っていない。

 だというのに、まさかこうもあっさりと長からの言葉を忘れて自分の思うように行動したいと言い出すというのは、レイにとっても完全に予想外だった。

 しかし、ニールセンはレイの言葉を聞いて不満そうな様子で反論してくる。


「何よ。別に穢れの報告をしないって言ってる訳じゃないわよ。しっかりと説明はするけど、腹ごしらえは必要でしょう? 穢れの件を説明している時に、お腹が鳴ったら恥ずかしいじゃない」


 ドラゴンローブの中に入っているので、どんな表情をしているのかは分からない。

 それでも今の言葉から、恐らく言葉と同じように不満そうな表情を浮かべているのは間違いないだろうと予想出来る。


「分かったよ。けど、どこで食べる? 言っておくけど、ドラゴンローブの中で食うってのは認められないからな」


 ニールセンがドラゴンローブの中にいるのは、レイにも構わない。

 だが、その中で飲み食いされるのはさすがに困る。

 例えばドラゴンローブの中で串焼き……それもタレをたっぷりとつけて焼いているような串焼きを食べられたら、堪ったものではない。


「えー……じゃあ、どこで食べろって言うのよ」

「人目につかないようなどこかだな。もっとも、そういう場所があるのかどうかは分からないが」


 増築工事中のギルムには、現在仕事を求めて多くの者が集まっている。

 それこそ宿屋が足りなくなるくらいに大勢だ。

 そんな数が現在ギルムにいるのだから、当然ながら街のどこにいっても誰かしらがいてもおかしくはない。

 数秒程度の時間であればまだしも、ニールセンが何かを食べるとなると十分程度は必要となる。

 それだけの時間、ニールセンを隠して誰にも見つからないようにしておくというのは……不可能ではないものの、面倒なのは間違いない。

 ましてや、今のレイはクリスタルドラゴンの件で半ばお尋ね者に近い状態だ。

 ニールセンが何かを食べるのをゆっくりと待ってるといった真似は出来ない。


「取りあえず……何か適当に買っていって、領主の館でダスカー様に会う前に食べるか」


 結局そういうことになるのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] レイの口調について気になるようになっています。好きなエレーナの事を名前で呼ばずにおまえと呼んだり、親しい間柄である人たちとの会話も、もう少し言い方があるような気がします。初めて会った他…
[一言] レイが身を隠して領主の館に行きたかったのであれば、セトの光学迷彩スキルを使えば、労せずに行けたでしょう。
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