2950話
今年もこのライトノベルがすごい!2022のアンケートの時期がやって来ました。
詳細については、以下をご覧下さい。
https://questant.jp/q/konorano2022
回答期限は9月23日(木)23:59となっています。
是非、レジェンドに投票をお願いします。
ボブとの話を終えたレイは、再び妖精郷に戻ってきた。
もう少ししたらボブは狩りに……もしくはキノコや木の実、果実、野草、山菜を採取しに行くと言っていたので、それに同行してもよかったのだが。
レイとしてはオークの肉があるのだから、それで十分なのでは? と思わないでもなかった。
ともあれ、ボブと一緒に行くつもりがないレイは妖精郷に戻ってきたのだが……
「ニールセン?」
「あー! ちょっと、レイ! さっき私を見捨てたのは、絶対に忘れないからね!」
妖精郷の中に入ったレイがニールセンの名前を呟くと、ニールセンはすぐそれに反応してレイに向かってそう言ってくる。
ニールセンにしてみれば、レイは戦友の自分を見捨てた裏切り者なのだ。
……もっとも、レイもあの状態の長に何か不満を言える筈はなく、他の誰がいても同じようなことになっただろうと思っていたが。
「そう言ってもな。妖精郷の中の出来事に俺が口を出せる筈もないだろう? それに……もしあの時に俺が何かを言っていた場合、長は渋々その場では引き下がるかもしれないが、後でもっと酷いお仕置きをされたかもしれないぞ?」
「う……それは……」
レイの言葉にニールセンは反論出来ない。
可能性としては、そんな可能性も十分にあると思ったからだろう。
そういう意味では、あの場でレイが余計な口を出さなかったことに感謝してもいいのかもしれないが……だからといって、素直に感謝するのも何か悔しい。
「ふ……ふんっ! じゃあ、そういうことにしておいてあげるわ!」
苦し紛れにそう言い、ニールセンはレイの前から飛び去る。
そんなニールセンの姿を、レイは無言で見送る。
ここで自分が何かを言えば、恐らくニールセンはそれが気に入らないとしてまた何かを言ってくるだろうと、そう思えたのだ。
実際にそれが正しいのかどうかは、レイには分からなかったが。
触らぬ神に祟りなしと、そんな風に思いながらニールセンの姿を見送り……そして、再び妖精郷を適当に見て回る。
何しろ、今の状況ではレイがやるべきことは特にない。
穢れの件を考えても、それをどうにかする準備をしているのは長で、レイは特に何もやるべきことはない。
長から何かを手伝って欲しいと言われれば、レイとしてもそちらに手を貸すつもりではあるのだが……生憎と今のところ長からそのように手伝って欲しいと言われる様子はなかった。
であれば、今は長から声が掛かるのを待ちながら適当に時間を潰すしかない。
「グルルルルゥ」
妖精郷の中を適当に歩いていたレイは、不意に聞き覚えのある鳴き声を耳にして動きを止める。
その声の主……セトが一体何をしているのか少しだけ気になったレイは、暇潰しも兼ねて声のした方に向かって歩き出す。
そうして向かった先では、セトを中心にして二匹の狼の子供達や複数の妖精が走り回っていた。
狼の子供達も妖精も、どちらもセトに比べるとかなり小さい。
そうである以上、セトを障害物に見立てて走り回る……といったようなことは普通に出来る。
勿論、それをやられる方がそのようなことを受け入れていればの話だが。
そして幸いなことに、セトはそんな自分の状況を普通に受け入れていた。
「あはははは、待てよ、まてってば!」
「へいへいへい、こっちこっち!」
「ワオオオオン!」
妖精と狼の子供達は、嬉しそうな様子でセトと一緒に……いや、寧ろセトで遊んでいた。
そんなのでセトは楽しいのか? と少し疑問に思ったレイだったが、そんなレイの視線の先にいるセトは、決して嫌々そのような真似をしているとは思えない。
それは明らかに、嬉しそうな様子を見せながらの行動だった。
だとすれば、レイもそんなセトの様子に不満を口にしたりはしない。
……これでセトに無理矢理このような真似をさせているとなれば、話は別だったかもしれないが。
(まぁ、その場合はセトが自分でどうにかするか)
セトが本気になれば、それこそこの妖精郷そのものが消滅してもおかしくはない。
それだけの力を、セトは持っているのだから。
とはいえ、このような状況でセトが喜んでいるのかどうかと考えれば、レイには疑問だったが。
もし自分が今のセトのような立場になったりしたら、とてもではないが喜べるとは思えない。
「あ、ねぇ、レイ。レイも一緒に遊ばない?」
自分達を見ているレイの存在に気が付いたのだろう。妖精の一人がレイに近付いてきてそう尋ねてくる。
さて、どうするか。
そんな風に考えたレイだったが、今は特に何をやるようなこともない以上、少しは一緒に遊んでもいいかと思い直す。
「そうだな。じゃあ、少し一緒に遊ぶか。……それで、あれは何をやってるんだ?」
「セトごっこよ!」
自信満々にそう言う妖精だったが、レイの感想としてはそれはちょっと違うんじゃないか? というものだった。
普通何とかごっこというのは、その何とかになりきって遊ぶようなものだろう。
漫画やアニメ、ゲームの主人公といったように。
だというのに、妖精が口にしたようなセトごっこというのは一体どういうものなのか。
生憎とレイにはその辺については理解出来なかった。
「セトごっこか。……見る限り、どういう遊びなのかちょっと分からないんだけどな」
「簡単よ。セトを舞台にして皆で遊ぶの」
「……それは……うん。見ての通りだな」
レイから見た限りでは、妖精の説明したセトごっこはそんなに面白いようには思えなかった。
せめてもの救いは、肝心のセトがそれなりに楽しそうにしているところだろう。
これで実はセトが全然楽しそうにしていないのなら、レイもその遊びを止めさせたと思うのだが。
「けど、生憎と俺は見ての通りセトよりは小さいが、妖精や狼と比べると大きいんだ。セトごっことやらで遊ぶにしても、ちょっと難しいと思うぞ」
「それは……そうかもしれないけど、じゃあ、どうするの? 何をやって遊ぶ?」
「遊ぶとかいうか、少し休憩しないか? 果実とかもあるし、それを食べてゆっくりするというのはどうだ?」
そんなレイの言葉に、話していた妖精だけではなく……他の妖精達も、一斉にレイに向かって突っ込んでくる。
そんな妖精達の動きに釣られたのか、妖精だけではなく二匹の狼の子供達もまた、レイのいる方にやってきた。
そして最後に、今までは障害物というか、足場というか……そんな状況だったセトもまた、レイの言葉が聞こえていたのかレイのいる方にやってくる。
そんな妖精や狼の子供達、レイはミスティリングから取りだした果実を渡す。
てっきり狼の子供達は果実ではなく肉の類でもなければ喜ばないかと思っていたのだが、幸いなことに狼の子供達も果実を食べる。
(狼も果実を食べるんだな。……いや、考えてみればそこまで不思議じゃないのか?)
狼とはいえ、それは生き物だ。
そうである以上、肉だけを食べるという訳にはいかないだろう。
ましてや、狼や犬は雑食で普通に野菜の類も食べる。
勿論、種族的に食べてはいけない野菜の類もあるのだが。
ともあれ、今はこうして多くの者達がレイの取り出した果実を食べる。
「グルルルゥ」
セトも果実を食べて嬉しそうに喉を鳴らす。
他の者達も楽しそうに果実を食べていた。
「セト、お前はさっき喜んでいたようだったけど、本当に面白かったのか?」
「グルゥ?」
レイの言葉に、セトは何故そんなことを聞くの? と疑問を見せる。
セトにしてみれば、本当に先程のセトごっこはそんなにつまらないものではなかったのだろう。
レイから見れば、あの状況でセトが喜ぶとは思えなかったのだが。
その割にはセトは喜んでいるのだから、疑問にしか思えない。
「まぁ、セトがそんなに喜んでいるのなら問題はないけど。……ほら、こっちも食え」
新たに果実を取り出し、セトに渡す。
レイにしてみれば、セトがあのように遊んでいる……それが本当に遊んでいるのか分からなかったが、そんな遊びよりもしっかりと果実を食べている方がいいと思える。
「そう言えば、明日はセトも色々と忙しくなるかもしれないから、そのつもりでいてくれよ」
「グルゥ?」
レイの言葉に、最初何を言われているのか分からない様子のセト。
とはいえ、レイも正直なところ具体的に明日どのようなことが起こるのかというのは分からない。
分かっているのは、ボブの穢れをどうにかするということだけなのから。
そもそも、その穢れというのが具体的にどういうものなのかも、生憎とレイは分からないのだが。
長からは悪い魔力といったようなことしか聞いていないのだから。
それでも悪い魔力であると長が言っている以上、その魔力が何か問題を起こさないかどうか。
場合によっては、魔力そのものが暴走して周囲に被害を与えないとも限らない。
そのような行動に対処する為には、やはりレイやセトが待機しておいた方がいいのは間違いない。
(穢れってくらいだし、それが何かに取り付いてモンスターになったり……いや、それはどうなんだろうな? モンスターになったら魔石があったりするのか? それはそれで……)
何らかの理由で穢れがモンスターへと変化……あるいは進化したら、それは魔石を入手出来るという意味でレイにとって悪い話ではない。
……もっとも、穢れがモンスターと化した時にそれが具体的にどれだけの強さを持っているのかは、実際に戦ってみないと分からないのだが。
「明日の穢れの一件は、場合によっては結構な騒動になる可能性がある」
そうセトに言い聞かせるレイだったが、これは決して何の根拠もなく言ってる訳ではない。
この妖精郷を率いる長は、当然ながらその力は他の妖精よりも一段、二段、あるいはもっと上だ。
そんな長がボブの穢れをどうにかする為には、二日の時間を必要としたのだ。
それはつまり、穢れという存在が非常に厄介なものであることを意味していた。
そのような穢れである以上、結構な騒動になる可能性は否定出来ない。
「え? 何々? 何の話?」
レイとセトの話を聞いていた妖精の一人が、果実を手に興味深そうに尋ねてくる。
好奇心の強い妖精にとって、穢れについての話は興味深いものがあったのだろう。
(あれ? もしかして不味いか?)
長が穢れについて話していなかったとしたら、ここで自分がその一件について話したのは不味かったのではないか。
一瞬そんな風に思ったレイだったが、それについては今更だろうと思い直す。
明日になれば、当然ながら長からその辺りについて知らされるのだろうと。
何よりニールセンの一件を見ていれば、妖精達が長を怒らせるような真似をするとは思えない。
……もし長を怒らせるような真似をした場合、それこそニールセンのようにお仕置きされてもおかしくはなかった。
妖精達も、長に逆らうのが危険だというのは分かっているので基本的に長には逆らわない。
……あくまでもそれは基本的にの話であって、好奇心を刺激されて半ば暴走のようになってしまったりした場合は、また別の話になるのだろうが。
「ボブの件だよ。長からボブが妖精郷に入ってはいけないって話は聞いてるだろう?」
「あ、それ知ってる。私は会ったことがないけど、ボブっていう人が妖精郷の側にいるんでしょ?」
「私は会ってきたよ! なかなか面白い人だった! お肉もくれたし!」
それ、まさかオークの肉じゃないよな?
思わずそう尋ねようとしたレイだったが、オークの肉を渡してきたのはつい先程だ。
そう考えれば、その可能性はまずないだろう。
ないとは思うのだが、何しろ相手は妖精だ。
場合によっては妖精の輪を使って転移をしてまで悪戯をしてもおかしくはない。
「ちなみに、何の肉だった?」
「え? 鳥だったわ」
その言葉に、レイは安堵する。
とはいえ疑問もあった。
(ボブが鳥肉を食べていたのは、今朝だったよな? けど、俺が行った時はこの妖精はいなかったし……ああ、いや。別に鳥肉を食べたのは今日だけではないのか。俺が知らないだけで、昨夜もボブが鳥肉を食べた可能性はあるし)
ボブは腕のいい猟師だ。
そうである以上、獲物を獲るのはそう難しい話ではない。
だからこそ、鳥を獲ることも楽に出来るのだろう。
「そうか。けど、それはボブの食事なんだから、あまり食べ物を貰ったりといった真似はしない方がいいぞ。ボブならそれでも問題ないと言いそうだけど」
レイの目から見て、ボブは妖精に甘い。
正確にはボブもまた好奇心が強く、それ故にニールセンを始めとした妖精達と親しくなりやすいのだろう。
そんなレイの言葉に、妖精は若干不満そうな様子を見せるものの……長について口にすると、即座に頷くのだった。