2949話
今年もこのライトノベルがすごい!2022のアンケートの時期がやって来ました。
詳細については、以下をご覧下さい。
https://questant.jp/q/konorano2022
回答期限は9月23日(木)23:59となっています。
是非、レジェンドに投票をお願いします。
「あ、レイさん。セトとニールセンはどうしたんですか?」
妖精郷の外……正確には霧のある場所にやって来たレイを見たボブは、そう声を掛ける。
そんなボブの言葉に、レイは何と答えるべきか迷い……やがて口を開く。
「ニールセンは長に叱られてる。セトは狼の子供達と遊んでいる」
「長に叱られる……ですか? 何か悪いことをしたんですか?」
「オークの一件でちょっとな。それより、さっき俺が来た時には何人か妖精がいたと思うけど、どうしたんだ?」
今こうしてボブの姿を見たレイだったが、周囲に妖精の姿がない。
とはいえ、どうした? と聞きながらも、レイは何となくその理由を理解出来た。
レイもまた、ニールセンを含めて妖精郷の妖精と接しているのだ。
当然ながら、そんな妖精の性格は大体理解出来てしまう。
つまり……ボブにちょっかいを出すのに飽きて、妖精郷に戻るなり、どこかその辺に適当に遊んでいたりするのだろうと。
そして実際、次にボブの口から出たのはそんなレイの予想を裏付けるものだった。
「僕と話すのは飽きたから、ちょっと遊んでくると言ってましたよ」
「そうか。……妖精なら不思議なことじゃないか。それより、これはお前の分だ」
そう言うと、レイはミスティリングの中からオークの肉を取り出す。
いきなり目の前に出て来たオークの肉に驚くボブ。
レイがミスティリングを使ったのに驚いた……というのもあるが、やはり目の前のオークの肉について驚いたのだろう。
ボブは一人でオークを倒すのは難しい。
ましてや、辺境と違って他の場所ではオークは出没するものの、それでもそこまで多くはない。
そんなボブがオークの肉を食べる機会はどうしても少ないのだ。
だからこそ、こうして目の前にオークの肉を出されたことに……ましてや、それが自分の分だと言われたことに驚いたのだろう。
「え? いいんですか、これ?」
「ああ。そもそも、このオークの肉はお前からの情報がないと見つけることは出来なかったしな」
それは間違いのない事実だ。
ボブがオークを見掛けたという話を口にしたからこそ、レイ達はオークを倒しに行った。
ボブからの情報がなければ。当然ながらそんな行動をすることはなかっただろう。
そういう意味で、今回のオークの討伐で一番重要な役割を果たしたのはボブだとも言える。
「ありがとうございます、レイさんがそう言ってくれるのなら、この肉は貰います。今日の食事は豪華になりそうですね」
「妖精達に食われないようにしろよ。もし妖精達がオークの肉のことを知ったら、自分にも食べさせろと集まってきてもおかしくはないし」
「あははは。気を付けます」
これがレイなら、妖精達が肉を欲しいと言っても断ることが出来る。
……あるいは、それ以前に長が出て来て妖精達を叱るか。
だが、ボブの場合は妖精に甘いということもあるし、何より現在は穢れのせいで妖精郷に入ることが出来なくなっている。
そんなボブが妖精にオークの肉をちょうだいと言われれば、それを断ることが出来るとはレイには思えなかった。
もっとも、ボブにしてみればオークの肉を入手したことそのものが、幸運ではあった。
当初の予定では、あくまでもこの森にいる野生動物や鳥を獲って食料にするつもりだったのだ。
勿論肉だけでは健康にも悪いので、山菜や野草、木の実、果実といった諸々も見つければ採っただろうが。
幸いなことに、今は恵みの季節である秋だ。
ちょっと探せば、色々と入手出来るのは間違いない。
「それで、レイさん。今回はどうしたんですか? ちょっと様子を見に来ただけでしょうか? それともオークの肉を届けに?」
「そうだな。大体そんな感じだ。こうして見た感じでは特に何か問題があるように思えないし。……ちなみに、穢れの件で何か感じることとかはあるか?」
何となくそう尋ねてみるレイだったが、生憎とボブには特にこれといって感じるようなことはなかったらしく、首を横に振る。
「特にそういうのはないですね。……何かあったんですか?」
「ちょっと聞いてみただけだ。そういうのがあると理解すれば、改めて自分で今までと違う何かを感じたりといった真似が出来るし。そういう意味で、もしかしたらと思っただけだよ」
「そうですか。……すいません」
別にここでボブが謝る必要はないのだが、ボブにしてみればレイが自分の穢れの為に色々と手をつくしているのに、それに対して何も出来ないというのは悪いと心の底から思ってしまう。
「気にするな。お前みたいに変わった奴が穢れとかいうののせいで悪い影響を受けるのは、個人的にも面白くないし。それに……」
そこで言葉を止めたレイに、ボブは訝しげな視線を向ける。
一体どうしたのかというそんな視線に対し、レイは少し考え……この件は一応言っておいた方がいいかと考え、口を開く。
「お前が追われている原因……ある意味でその穢れの原因と思われるのは、以前に聞いた洞窟の一件なんだよな?」
「え? あ、はい。多分そうですけど」
洞窟の一件と穢れの一件が必ずしも一致するとは限らない。
だが、状況を見る限りでは、多分間違いないと思われた。
そうでもなければ、ボブがいきなり二つの厄介事に巻き込まれているということになる。
……あるいは、それがレイであったならそのようなことになってもおかしくはないかもしれないが。
レイの場合はトラブルの方からやって来る。
それこそトラブルの女神に愛されているかのように。
「そういう連中はこの前お前を殺そうとしたのと同時に、俺にも攻撃をしてきた」
実際にはレイではなく妖精のニールセンを狙っていたり、あるいはセトと戦いになってしまったのであって、レイに直接攻撃してきた訳ではないのだが。
穢れというのは、レイも長から聞いた悪い魔力であるということくらいしか知らない。
それだけに、ボブを襲ってきた相手を返り討ちにして、その上にいる存在も倒した場合、恐らく何らかのマジックアイテムとかが入手出来るのでは? という思いがあった。
実際、男達はセトに気が付かれずにかなりの距離まで近付いている。
レイはそれが魔法、スキル、マジックアイテム……あるいはそれ以外の何かなのだということは予想出来たものの、そんな中で一番可能性が高いと思っているのはマジックアイテムだ。
実際には何らかの根拠がある訳ではなく、もしマジックアイテムなら自分が入手出来るかもしれないので、出来ればマジックアイテムであって欲しいというのが正直なところなのだが。
「ああいう連中は大抵何かお宝を持っている筈だ。それこそ、その辺の盗賊よりも高価なお宝をな」
「え……もしかして、その……そのお宝を奪おうとしてるんですか?」
「奪うという表現は少し人聞きが悪いな。没収する……それもちょっとな。ともあれ、そんな感じなのは間違いない」
奪うという表現が人聞きが悪いので、そうではない表現を口にしようとしたレイだったが、生憎と大人しい表現の言葉は思い浮かばないので、適当に誤魔化しておくことにする。
結局行動は同じなのだからと、そう考えて。
「そういう理由だったんですね。……でも、僕の穢れをどうにかすると、僕を狙ってる相手は僕を見つけられなくなるんじゃ?」
「どうだろうな。そうなったらそうなったで、別にいい。どうしてもその穢れの連中を襲いたい訳じゃないし。出来れば……といったところだな」
レイにしてみれば、ボブを狙っている者達も盗賊もそう違いはない。
せいぜいが盗賊の上位互換な存在だろうというのが、レイの予想だった。
もしボブを狙っている者がそれを聞けば、一体どう思うのか。
当然のように、自分達を盗賊如きと一緒にするとはといったように怒り狂うだろうが、レイにしてみれば違いはそうない。
「そうですか。じゃあ……出来れば僕を狙っている相手を出来るだけ早くレイさんがどうにかしてくれるのを願ってます」
「ああ、それで構わない。とはいえ、長によって穢れがどうにかされたら、ボブを狙っている連中がボブを相手にどうするのかというのはちょっと疑問だが」
レイにしてみれば、出来ればボブを狙ってきて欲しいという気持ちはある。
だが、ボブを追うことが出来ている理由が穢れであった場合、それこそボブを追ってきた連中がボブを見つけることは難しくなる。
ここが地球のようにネット環境の類が発展していれば、穢れという手掛かりがなくなってもボブを見つけることは出来るかもしれない。
だが、そのような手段のないエルジィンにおいて、手掛かりも何もなくどこにいるのか分からない相手を捜すというのは、無理……とまではいかないが、非常に難易度が高くなるのは事実だった。
「僕としては、このまま狙われずに向こうが探すのを諦めるというのが一番いいんですけどね」
「本当にそうか? 向こうが残っている限り、いつどこで向こうがボブを見つけるか分からないんだぞ? まぁ、山の中とか人のあまりいない田舎とか、そういう場所で暮らすのなら、問題はないんだろうが」
「う……そ、それは……」
レイの言葉に、ボブは何も言えなくなる。
旅をしながら猟師として生活し、獲物を売って生計を立てているボブだ。
そのような生活をしている以上、当然ながら人の多い場所に行く機会も多い。
そうなれば自分を探している者がいた場合は、見つけやすくなるだろう。
特に冒険者ではなく猟師として旅をしているという変わり者である以上、探す方にはそれを一つの目安と出来る。
「分かっただろう? まぁ、猟師じゃなくて冒険者として活動して、そして変装して活動をするのなら心配はいらないと思うけど……嫌なんだろう?」
尋ねるレイに、ボブは頷く。
ボブにしてみれば、冒険者ではなく猟師として活動しながら移動するというのは、拘りなのだろう。
レイにしてみれば、そのような真似をする意味は理解出来ないが。
勿論、冒険者ではないということはメリットもある。
例えば、ギルドのある村や街で何らかの危険が迫った時、冒険者であった場合は強制的に協力しなければならなかったりもするが、猟師であればそもそもギルドに所属してないのだから、そのような義務はない。
当然だが、デメリットもある。
例えば、村や街に入る時に一定の料金が掛かるといった場所も多いのだが、冒険者であればギルドカードを見せることで料金の支払いは免除されるが、猟師の場合は毎回料金を支払わないといけない。
他にも様々なメリット、デメリットがあるが、レイの目から見た場合は総合的にはデメリットの方が大きいように思える。
それはレイが冒険者だからこそ、そのように思えるのかもしれないが。
「やっぱり、レイさんに僕を襲ってきた連中を倒して貰うのが一番いいんでしょうね」
ボブも自分の拘りを曲げるよりは、レイに頼んだ方がいいと判断し、そう告げてくる。
「俺もそうであって欲しいとは思うよ。さっきも言ったが、向こうは色々なお宝を持ってそうだし。……それに穢れの件も、錬金術師辺りなら……いや、止めておくか」
穢れについては、長が悪い魔力と言っていた。
それを思えば、穢れが宿っている何らかの素材であったりを錬金術師に渡すのは不味いと思う。
特にギルムでトレントの森の木を建築資材に加工している錬金術師達に渡した場合は、一体どうなるのか全く想像出来ない。
それこそ無茶な実験をして、その結果ギルムに大きな被害を与える可能性もある。
ただでさえ現在のギルムは増築工事中で、仕事を求めて多くの者が集まっているのだ。
そんな中で穢れの実験をした結果、大きな被害となったらどうなるか。
レイとしては、そんなことを考えたくもない。
「レイさん?」
「何でもない。ただ、お前に宿っている穢れの原因の何か……可能性としては、お前が行った洞窟にある何かを入手したらどうしたらいいのかと考えていただけだ」
「それは……どうするんです?」
「何かに使えそうな気はしたが、壊すか……あるいはミスティリングに収納しておくかだろうな」
必ずしも穢れを宿してるのが何らかのアイテムとは限らないが、そのアイテムを壊した場合、下手をすると周辺に穢れが散らばって色々と不味いことになる可能性が高い。
それと比べると、ミスティリングに収納しておけば中では時間が停まっているので、封印するのと同じことになる。
もっともミスティリングとてマジックアイテムの一つだ。
歴史上最高の錬金術師と呼ばれるゼパイル一門に所属するエスタ・ノールが技術の粋を集めて作った物だ。
……本来なら古代魔法文明の作ったアーティファクトしか現存しないアイテムボックスを作った辺り、エスタ・ノールが歴史上最高の錬金術師と呼ばれることはあるのだろう。
そんなミスティリングだが、だからといって永遠に壊れない訳ではない。
壊れた時のことを考えれば、やっぱりミスティリングの収納は止めた方がいいのか? と思うレイだった。