2948話
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回答期限は9月23日(木)23:59となっています。
是非、レジェンドに投票をお願いします。
「ぎゃあああああ、長、許して。許して下さい!」
そう叫びながら、ニールセンは空中を飛んでいた。
……正確には、ニールセンの意思で飛んでいるのではなく、長によって無理矢理空中を飛ばされているのだ。
長に一種のサイコキネシスのような力があるというのを、レイは知っている。
具体的には果実を渡した時、特に何か呪文を唱えたりもせずにその果実を空中に浮かばせ続けていた。
それも全く苦労した様子もなく。
それこそ自分の手足を動かすような感覚で果実を持っていた長にしてみれば、そんな果実よりも軽いニールセンをサイコキネシスで……あるいは見えない手とでも呼ぶべき力で振り回すといったことは、そう難しい話ではない。
ニールセンも妖精である以上、自由に空を飛ぶことは出来る。
だが、自分で自由に空を飛ぶのと、サイコキネシスによって身動きが出来ないまま空中を振り回されるのでは、当然ながら勝手が違う。
そんな状況から何とか解放されようと叫ぶニールセンだったが、生憎と長はそんなニールセンの言葉を聞き流していた。
そんなニールセンをさすがに哀れに思ったのか、レイは恐る恐るといった様子で口を開く。
「長、ニールセンはその辺で許してやってくれないか? 俺がオークを倒しに行くと言ったから、ニールセンもそれについてきたんだ。だから……な?」
その言葉に、長は一旦ニールセンを強制ジェットコースターとでも呼ぶべきお仕置きを止め……だが、レイの言葉に対しては首を横に振る。
「レイさんの言葉でも、それは聞けません」
レイの言葉は尊重する長だったが、それでも今の状況ではニールセンを許すことは出来ないと言う。
それだけ今回の一件……ニールセンが勝手にオークを相手に戦いを挑んだことは、長にとっても許せなかったのだ。
「そうか。悪いな」
「ちょっ、え!? レイ、何でそんなに弱いのよ!」
まさかレイがこうもあっさり引き下がるとは思っていなかったのか、ニールセンの口からはそんな声が放たれる。
今の状況ではレイだけが頼りなのに、こうもあっさり引き下がられるとニールセンにとっては長に対抗出来る手段がない。
とはいえ、レイにとってもこの状況でこれ以上長を刺激するのは避けたいという思いがあるのも事実。
霧の音であったり、ボブの穢れについてであったり、解体のマジックアイテムであったり、オークの解体であったりと、長に頼みたいことは幾らでもあるのだ。
……同時に、ニールセンへのお仕置きは程々にして、それらの方に力を入れて欲しいという思いもあったが。
「ほ、ほら。長。もしかしたらオークが妖精郷に来ていたかもしれないんですよ? 私はそれを倒した訳で……褒められるようなことではないかもしれませんけど、怒られるようなことでもないかなって思うんですけど。どうでしょう?」
長からのお仕置きを避ける為、必死になって告げるニールセン。
もしこの言い訳に失敗すれば、一体どんなお仕置きが待っているのか分からない。
分からない以上、ニールセンとしては何としてもそれは避けたかった。
好奇心の強いニールセンだったが、だからといって長のお仕置きにも興味を持てというのは、無理な話なのだから。
「なるほど」
レイが側にいるためか、ニールセンの必死の言い訳を多少なりとも聞く姿勢を見せる長。
とはいえ、妖精郷の近くにオークがいたのは間違いのない事実。
妖精郷は何重にも渡る侵入者用の対策があるが、それも絶対ではない。
それを考えれば、妖精郷に到着するよりも前にオークを倒しておく……というのは、決して悪い選択肢ではないのは間違いなかった。
だからといって、勝手を許せるのかと言えばその答えは否だが。
「そうですね。では、オークを倒した件については少し考えましょう」
「え? 本当ですか? なら……」
長の言葉に、もしかしたらお仕置きは免除されるのではないか。
そんな思いを抱いたニールセンだったが……
「ええ。なので、お仕置きは他の件についての分だけにしておきます」
「……え?」
一瞬、何を言われたのか分からないといった表情を浮かべるニールセン。
一度は自分に対するお仕置きがなくなったのではないかと思っていただけに、まさか他にもお仕置きされるというのは予想外だった。
「その……長? 私は頑張りましたよね? なのに、何でお仕置きが……」
「分かりませんか? そうですか。では、その辺がしっかりと分かるまでお仕置きは続ける必要がありますね」
「そんな、何で……ぎゃああああああああ」
最後まで言わせて貰えず、再びニールセンは長のサイコキネシスによって動かされる。
そんなニールセンの悲鳴を聞きながら、レイは長に何か言おうとしたのだが……
「どうしました?」
にっこりと、そう聞かれる。
言葉は丁寧だし、笑みも浮かんでいる。
しかし、ここで自分が長に対して何かを言えば、色々と不味い。
レイにすればそう思わせるだけの何かを長からは感じられた。
「いや、何でもない。ただ、明日にはボブの穢れをどうにか出来るって話だったけど、そっちの方は問題ないのかと思っただけだよ」
「ちょ……レイイイイイイイイイイ! 見捨てないでよぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」
長のサイコキネシスによって空中を縦横無尽に動かされながらも、ニールセンはそう言ってくる。
……こうして長によってお仕置きをされているのに、それでもレイの口から出た言葉をしっかりと把握している辺り、実はまだそれなりに余裕があるのだろう。
そうレイは判断し、改めて長に尋ねる。
「で、どうなんだ? こっちとしては、ニールセンにお仕置きするのはいいけど、だからといってボブの方を……それに霧の音とかそっちの方の優先順位を下げられるのは困るんだが」
「そちらの方は準備を進めていますので、問題はありません。今は特にやることがないので、こうしてニールセンのお仕置きをしてるんですよ」
そう言われると、レイも反論は出来ない。
これでボブの穢れや霧の音を後回しにしていると言うのなら、ニールセンへのお仕置きは後回しにして、今は自分の件を片付けて欲しいと言うだろう。
だが、そちらもしっかりと進めていると言われれば、レイも反論は出来なかった。
「そうか。なら、安心だな。じゃあ、俺はちょっとボブの様子を見に行ってくるから」
「ええ、構いません。……ああ、そうそう。オークの死体は解体しておくので、置いていって下さい」
「いいのか? いやまぁ、こうして俺が頼んでもいいのかどうかは、ちょっと分からないが」
先程まではニールセンに構わずに頼んだ仕事をやって欲しいと口にしていただけに、長からのその言葉はレイにとっても少し予想外だった。
とはいえ、それが助かるのは間違いのないことだったのだが。
オークの解体そのものは、今までそれなりに数をこなしていることもあってレイも得意だ。
だが、得意だからといって長が使う解体の魔法よりも早く……いや、そこまでいかずとも、同じくらいの速度で解体出来るのかと言われれば、即座に否と答えるだろう。
それだけ長の解体魔法は素早く解体出来るのだ。
(俺、妖精郷を出たら元の生活に戻れるのか?)
そうレイが疑問に思ってしまう程に。
人は一度覚えた贅沢の味を忘れるのは難しい。
一度上げた生活レベルを下げるのは難しい、と言い直してもいいだろう。
そんな状況だけに、こうして自分が何かをしなくても綺麗に解体をしてくれる長の世話になっている状況だから、普通の冒険者としての活動が出来るようになるのかと心配になってもおかしくはないだろう。
……もっとも、レイの場合は解体屋に頼んだり、ギルドに解体を頼んだりといったような真似をしてるので、それだけでも普通の冒険者よりは楽をしてるのだが。
普通の冒険者なら、それこそ倒したモンスターの解体は自分で行う。
何しろギルドや解体屋に頼めば、その分の費用を取られるのだから。
それと比べると、自分で解体をすればそれは無料となる。
もっとも解体する際に失敗すれば、ギルドや商人に素材を買い取って貰えなかったり、あるいは買って貰えても安く買い叩かれたりといったようなことになるのだが。
「どうしました? レイさん、オークの死体を」
長に促されたレイは、分かったと頷いてミスティリングからオークの死体を取り出す。
胴体が切断されていたり、頭部が砕けていたりと、そこまで綺麗な死体ではない。
しかし、長はそんな死体を見ても特に嫌そうな表情を浮かべてたりといったようなことはなかった。
「では、このオークの解体は私がしておきますね」
「ああ、頼む。……そうだな。魔石はそっちで貰ってもいいから」
「え? いいんですか?」
長にしてみれば、レイが魔石を集めているということから魔石はレイが貰うのだと思っていた。
これが未知のモンスターであれば、レイもそのようにしただろうが……オークは今までに何度となく倒しており、当然ながらその魔石はデスサイズとセトがもう使っている。
オークはオークでも、希少種や上位種の魔石ならレイも欲しかったが、通常のオークの魔石はレイもいらない。
それこそ貰っても、ギルドに売るくらいだろう。
あるいは何らかのマジックアイテムを動かす為の燃料として使うか。
だが、レイの魔力があればマジックアイテムを動かすのに魔石を使う必要はない。
……勿論、マジックアイテムの中には最初から魔力は使わずに魔石を使うことを前提にしたマジックアイテムも存在するのだが。
そうなったらそうなったで、ミスティリングの中には魔石を集めるのが趣味だということで魔石も多少はあるし、いざとなったらレイとセトならその辺のモンスターを倒して魔石を入手するのも難しい話ではない。
「元々オークを倒したのは肉が目当てだしな」
肉目当てであった以上、魔石は特に必要ない。
何となくギルドに売るといったような真似もするかもしれないが、別にそのような真似をしなくても長がマジックアイテムを作るのに使うのなら、それに使って貰えばいい。
「ありがとうございます。では……」
そう言い、ニールセンが逃げないように固定し――つまり、まだ仕置きは終わっていないと知ってニールセンは涙目だったが――てから、解体の魔法を使う。
すると多数あったオークの死体はすぐに解体されていく。
(これ……今更だけど、肉と骨とか皮とかはいいけど、素材として使えない部位ってどう判断してるんだろうな?)
肉や魔石を解体するのは、レイにも理解出来る。
だが、それ以外の部位……内臓の類もきちんと解体され、素材として使える部分はしっかりと保護されるのだ。
あるいは長にその辺りの知識が必要なのかもしれないが、今は素材として使えない部位であっても、将来的に何らかの理由で今まで捨てられていた部位が素材となる場合とかはどうなるのか。
そんな疑問を抱くレイだったが、その辺は魔法だから……それも人の使う魔法ではなく妖精が使う魔法だからということで納得しておく。
「終わりました。では、肉はどうぞ」
「悪いな」
綺麗に骨から切り離された肉。
それこそ魔法の効果か骨に肉片の一つも残っていない肉を、レイはミスティリングに収納していく。
そんなレイの姿を見ながら、長は笑みを浮かべて首を横に振る。
「いえ、スモッグパンサーの魔石や様々な素材だけではなく、このオークの魔石もこちらに譲ってくれるというのですから。この程度は問題ありませんよ。……では、私はまだニールセンに用事がありますので、これで失礼しますね」
「あ……レイ、ちょっとレイ! 戦友を見捨てる気!? 助けてよ!」
長の力で身体が身動き出来ない状態になったニールセンが叫ぶが、レイはそっと視線を逸らす。
長には色々と世話になっている為に、ここで余計な口出しはしない方がいいと判断したのだ。
同時に、解体魔法の便利さから、出来ればこれからも色々と世話になりたいという思いもあった。
(解体魔法……ちなみに、あれを生きてる奴に使ったらどうなるんだ? もし同じように効果が発揮されるのなら、解体魔法というか即死魔法とでも呼ぶべき魔法になると思うんだが)
生きている相手を即座に解体するのだ。
その魔法の威力は、非常に強力……いや、凶悪と表現すべきだろう。
「なぁ、ニールセンにお仕置きをする前にちょっと聞いてもいいか?」
「はい? 何でしょう?」
「長が使う解体魔法……生きている奴に使った場合はどうなるんだ?」
「……こうなります」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああっ!」
あっさりとニールセンに解体魔法を使う長。
それを理解したニールセンの口からは、大きな悲鳴が上がる。
だが……実際に、ニールセンには特にこれといった被害はない。
にこり、と笑みを浮かべつつ長が口を開く。
「見ての通り、生きている相手に解体魔法は通じません。あれはあくまでも解体する為のものですから」
そう言う長だったが、それでも何の躊躇もなくニールセンに解体魔法を使ったのは、レイにしても驚くべきことだった。
活動報告にレジェンドに関しての重大発表を書いてありますので、気になる方はどうぞ。