表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2943/3865

2943話

今年もこのライトノベルがすごい!2022のアンケートの時期がやって来ました。

詳細については、以下をご覧下さい。


https://questant.jp/q/konorano2022


回答期限は9月23日(木)23:59となっています。


是非、レジェンドに投票をお願いします。

 長とゆっくりと話をした翌日、レイはいつものように目を覚ますと、身支度を整えてからマジックテントから出る。するとそこでは……


「グルゥ」


 レイが出て来たのを見たセトが、少しだけ情けなさそうな様子で喉を鳴らす。

 セトがそんな声を出した原因は、セトの腹を枕にして眠っている狼の子供達だろう。

 ここでセトが大きく動けば、間違いなく狼の子供達は起きてしまう。

 セトはそうならないように、こうして小さく喉を鳴らしたのだ。


「何だ。結局俺が眠った後も一緒にいたのか」


 狼の子供達は、余程セトの存在が気に入ったのだろう。

 レイがマジックテントで眠った後も、セトと一緒に遊び……気が付けばこうして一緒に眠ることになったらしい。


(そう言えば、この狼の子供達は普段どこで眠ってるんだ? 誰かが面倒を見ているとすれば、その妖精は心配して……妖精だとそういうのはなさそうだよな)


 気紛れであったり、好奇心が強い妖精のことだ。

 例え狼の子供達の面倒を見るように言われていても、それを素直に聞くかどうかはまた別の話だろう。

 レイが知っている妖精であれば、普通にその辺りについて忘れていてもおかしくはない。


(もしかして、そういう時は長が面倒を見ていたりするのか?)


 何だかんだと、妖精郷の長は面倒見がいいのは間違いない。

 それを示すかのように、レイに対して色々と目を掛けたりといった真似をしているし、何か問題はないかと様子を見にきたりもしていたのだから。

 そんな長だけに、他の妖精達が狼の子供達の世話を忘れているときはその世話をしていてもおかしくはなかった。

 ……もっとも、だからといって今のこの状況においてそれを口にしても、長が認めるとは思ってもいなかったが。


「取りあえず、今日はどうするかだな。……特に急いで何かやるべきことはないんだよな」


 レイにしてみれば、急いでやるべきことはない。

 そうである以上、のんびりと妖精郷の見学でもしようかと、そう思う。


(こうなると、モンスターの解体は長に任せない方がよかった……とか? いや、けどそうなればそうなったで、面倒だったのは間違いないしな)


 今回の一件で倒したモンスターの死体は結構な数となる。

 それを全てレイが自分で解体していれば、間違いなく時間が掛かるだろう。

 そして何より、妖精達が好奇心からちょっかいを掛けてくるのは間違いないと思われた。

 昨日は長が解体の魔法を使ったというのもあったが、ニールセンがスモッグパンサーの話をしていたので、そちらに多くの妖精が夢中になっていたのも大きい。


「グルルゥ」


 再度セトが低く喉を鳴らす。

 レイが自分を見ているのに助けてくれないので、助けを求めたのだろう。

 とはいえ、レイにしてみればそんな狼と一緒に寝ているセトの様子は、非常に愛らしい。

 それこそもしカメラとかがあったら、写真として残しておきたいだろうと思えるような。


(もしここにミレイヌやヨハンナがいたら、何があっても……それこそ幾ら金を払ってもいいから、この光景を見たいと思うだろうな)


 レイはギルムにいるであろう二人の女の顔を思い浮かべながら、そう確信する。

 レイのホームグラウンドであるギルムは、当然ながらセトに好意的な者が多い。

 増築工事で多くの者が集まっているが、そのような者達の中にもセトを見て撫でたいと思う者は多かった。

 そんな中でも、セト好きのトップ二人と言えば、やはりミレイヌとヨハンナの二人だった。

 双方共にセトが大のお気に入りで、それこそセトの為なら自分よりもランクが上の冒険者であったり、あるいは異名持ちの冒険者であっても平気で戦いを挑んだりしてもおかしくはない、そんな者達。

 実際にレイにしてみれば、助かる一面があると同時に、そこまでセトにのめり込んでいいのか? と若干心配に思ってしまう相手だ。

 とはいえ、双方共にパーティメンバーや仲間に暴走しすぎれば止めてくれる相手がいるので、セトに金を使いすぎるとそれを止めようとするのだが。


「もう少しすれば起きるだろうし、そのままにしておいてやれ。……狼だけに嗅覚も鋭いだろうから、朝食を用意すれば起きるだろうし。……もっとも、狼の……しかも子供に俺が持っている料理を食べさせてもいいのかどうか分からないけど」


 犬に対しては、人が食べる料理の塩分では多すぎて健康に悪いというのを、何かで見た記憶があった。

 とはいえ、それはあくまでも日本……地球での話だ。

 それに比べるとここはファンタジー世界のエルジィンなのだ。

 地球の常識が通用する筈もない。


(そもそも身体の大きさ云々で考えれば、妖精は狼の子供達よりも更に小さいんだ。なのに、普通に人が食うのと同じような料理を食べたりしていて、それで何の影響もないんだし。……あるいは普通の狼ならその辺が関係してくるかもしれないけど、妖精郷で育ってる時点で普通とは言えないし)


 セトを枕にして眠っている狼の子供達を見ながら、レイはミスティリングから朝食を出していく。

 焼きたてのパンに、果実、そして野菜や肉の炒め物と海鮮スープ。

 料理を出した瞬間に、周囲には食欲を刺激する匂いが漂い始める。

 同時に、眠っていた狼の子供達の鼻がスンスンといった様子で動き、数秒も経たないうちにパチリと目が開く。

 そして起きると、すぐに匂いのする方を探し……レイのいる方に向かって走り出す。


「ワウワウ!」

「ワオオオオン!」


 お腹減った。それちょうだい。食べ物欲しい。美味しそう。

 そんな風に鳴き声を上げながら、レイの周囲を駆け回る狼の子供達。

 それでいながら、勝手にレイの料理を食べようとしたりしないのは、妖精達……いや、長の躾のおかげか。

 そんな狼の子供達に、パンと炒め物とスープを少しずつ取り分けてやる。

 そんな真似をしていると、狼の子供達の枕から解放されたセトもやって来る。


「グルルルゥ……」


 疲れた、と。そう言いたげな様子のセト。

 普段から子供達を相手にすることもあるし、寝転がって夜に周囲の見張りをすることもある。

 だが、その子供……それも人ではなく狼の子供達を相手にしながら、周囲の状況を確認するといったような真似をするのは、あまり慣れた作業ではなかった為に、疲れたのだろう。


「セトもご苦労さんだったな。ほら、食え」


 疲れた様子のセトを労るように、ガメリオンの生肉の塊を取り出す。

 当然だが今年のガメリオンの肉ではなく、去年……あるいは一昨年やそれよりも前に獲ったガメリオンの肉だ。

 それでもミスティリングに収納されていたのだから、当然ながらその肉は非常に新鮮だった。


「グルゥ!」


 セトもガメリオンの肉は好物なので、嬉しそうに喉を慣らしつつ肉を食べ始める。


「ワウ……」

「ワフゥ」


 嬉しそうに、そして美味そうに食べるセトの姿に、二匹の狼の子供は食べていた食事から顔を上げて羨ましそうに鳴き声を上げる。

 狼の子供達が食べている炒め物にも肉は入っているのだが、やはりそういう肉よりも見て分かる程に大きな肉の塊の方が美味そうに見えるのだろう。


「グルルルゥ? ……グルゥ、グルルルルルゥ」


 ガメリオンの肉を味わっていたセトは、狼の子供達の様子に気が付く。

 するとクチバシでガメリオンの肉を千切り、それを狼の子供達の前にある皿の上に置く。

 狼の子供達は、そんなセトの様子に嬉しそうに喉を鳴らしながらガメリオンの肉を食べる。


(生肉を与えてもいいのか? いや、野生動物だった時は調理とかをしないで普通に生肉とかを食べるんだから、そう考えればこれが普通なのか)


 ガメリオンの肉を食べる三匹を見ながら、レイも用意した料理を口に運ぶ。

 特に魚介類をふんだに使ったスープは、具から多くの出汁が出て、それによって濃厚な海鮮の味を楽しめる。

 具として入っている魚の身は、しっかりと濃厚な味を楽しめる。

 これは、最初に出汁を取る為に入っていた魚介類ではなく、出汁が取り終わった後に追加で投入された魚の身だった。

 勿論出汁を取った具は、最初に全部取っている。

 ある意味でもの凄く贅沢な魚介のスープだろう。

 当然ながら具材を普通よりも多く使うので、スープの値段としてはかなり高級な部類に入る。

 しかし、それでもこのスープの味を気に入ったレイは、数個の鍋ごと購入したのだ。

 だがレイとしてはそのスープの味には十分に満足しているので、高額で購入したことを後悔はしていない。


「あー、ちょっと、レイ。何か美味しそうなの食べてるじゃない。私にもちょうだい」


 海鮮スープの味を楽しんでいると、不意にそんな声が聞こえてきた。

 それが誰の声なのかは、考えるまでもない。


「ニールセンか。お前ももう起きたのか。……ほら、これでも食べてろ」


 そう言い、レイは炒め物の入った皿をニールセンに渡す。

 ニールセンはその皿を受け取って料理を楽しむ。

 ニールセンにしてみれば、その料理は十分に美味いと思って楽しそうにしている。


「それで、ニールセンは今日はどうするんだ? 昨日はスモッグパンサーの話について多くの者に話していたみたいだけど」

「うーん、どうしようかしら。特に何かやることはないのよね。スモッグパンサーの話は昨日のうちに殆どの妖精が聞きに来たし」

「殆ど……ということは、聞きに来ていない妖精もいるのか?」

「ええ。そういうのに興味がなかったり、何かに集中していて全くこっちの話を聞くつもりがなかったり。そういう妖精はそれなりにいるわね」


 妖精とはいえ、全てが同じ性格ではないというのはレイにも納得出来ることだった。


「そうなると、ニールセンも俺と同じで今日は特にやるべきことはないのか」

「そう言われると、私がちょっと暇人みたいに思えて少し思うところがあるわね」


 今のレイの言い方は、ニールセンにとって少し不満だったのだろう。

 とはいえ、それでもやるべきことがないのは事実。


「言っておくけど、妖精は基本的に何か仕事があったりはしないのよ。そういう意味では、私はいつも通りの日常に戻っただけって言ってもいいかもしれないわね」


 そう言い切るニールセンは、全く含むところがなく自分の言葉は正しいと信じていた。

 そんなニールセンに何かを言おうとしたレイだったが、結局その件についてはそれ以上何も言わず、別のことを口にする。


「昨日、ボブに会いに行ったか?」

「え? ああ、うん。見てきたわよ。ただ……興味を持った他の妖精が結構ボブに会いに行っていたみたいだけど」

「それは……」


 ボブが妖精と気が合いやすいというのは、ニールセンとの一件で理解している。

 だが同時に、現在のボブはその身に穢れを宿しているのだ。

 本人にそのようなつもりはないのだろうが、それが妖精に何らかの影響を与えないとも限らない。


「どうしたの?」


 黙ったレイの様子を見て疑問に思ったのか、ニールセンがそう尋ねてくる。

 レイはニールセンに穢れについて説明をするべきか? と少しだけ迷う。

 だが、長が何も言わずにいるのを思えば、恐らく穢れの件は言わない方がいいのだろうと判断し、何でもないと首を横に振る。


「そんなに多くの妖精がボブに会いに行ったのなら、それが理由で長に怒られなかったのかと思ってな」


 当然ながら、長は妖精郷で起きている出来事を完全ではないにしろ、理解している筈だ。

 そんな中で一人や二人ならともかく、多くの妖精がボブと接触していると知った場合、当然ながらそれについては把握している筈だった。

 そんな状況であっても、長はボブに会いにいくのを止める様子がなかったというのは、長もボブに会った程度では穢れが影響しないと考えているのだろう。

 あるいは穢れが明確に影響するのは、妖精ではなく妖精郷……つまり、土地に対してなのかもしれないが。


「ねぇ、レイ。何ならレイも私と一緒にボブに会いにいってみない?」

「俺が? そうだな。野営をして何か不便がなかったのかちょっと聞きたいし。それでもし不便があったら、多少は手を貸してもいいか」

「それなら、料理を分けてあげたらいいと思うんだけど」


 レイが食べている料理を見ながらニールセンが告げるが、レイとしてはその辺は甘やかすつもりはなかった。

 これでボブが妖精郷に入ることが許されていて、レイと一緒に野営をしていたのならボブの分の食事を用意するといった真似もしただろう。

 だが、ボブは穢れのせいでレイと一緒に妖精郷に入ることは許されなかった。

 そうである以上、別に一緒に食事をする訳でもないので、レイとしてはボブに料理を渡す必要性は感じない。

 あるいはボブが獲物を獲れずに空腹であった場合は、また話が別だったが。

 そんな風に考えつつ、レイは食事が終わったらボブの様子を見にいこうと決めるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ