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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2938/3865

2938話

「そんな訳で、最大で二日は妖精郷に入ることが出来ないみたいだ。どうする?」


 長が解体の魔法を使う光景を見たレイは、モンスターの死体が自動的に……それこそ多数の見えない手で解体されていくかのような光景に一通り驚き、やっぱり解体の魔法を覚えたいと思いつつも、炎の属性に特化している自分にそのような真似は無理だろうと諦めるしかなかった。

 そうして諦めたレイが次に行ったのは、妖精郷の外の部分……濃霧に覆われた場所にいるボブに会いに来ること。

 長からボブの持つ穢れをどうにかするのは最大で二日程時間が掛かると聞かされていたので、それを知らせに来たのだ。

 ボブがその二日間をどうするのかを聞く為に。


「それ以前に、何で僕は妖精郷に入れないんです?」

「そう言えば、そっちの説明もしていなかったな」


 穢れの件は長から聞いたのでボブに説明をしていなかったことを思い出したレイは、改めてボブに説明する。


「ようは、お前には穢れとかいう……よくない魔力があるらしい。それをどうにかしないと、妖精郷には入れられないらしい」

「穢れ……ですか? 何でそんなのが僕に?」


 ボブにしてみれば、穢れというよくない魔力が自分にあると言われても納得出来ない。

 そもそもボブは猟師であって、魔法使いではない。

 魔力云々については一切関わり合いがないのだ。


「もしかしたら、実は僕には隠された才能があるとか、そういうことですか?」

「どんな才能だ、どんな。俺はそういう才能があっても、とてもじゃないが喜べないけどな」


 これがただの魔力であったり、あるいは長剣や槍、弓といった武器の才能であれば喜んでもおかしくはないだろう。

 ……いや、ボブは腕のいい猟師なのだから、弓の腕に関しては才能があるのかもしれないが。

 ともあれそういう才能ならともかく、穢れた魔力という才能はとてもではないが欲しいとは思えない。


「そう言われても……じゃあ、何で僕にその穢れとかいうのがあるんですか?」

「お前が分からないのに、俺にそれを聞かれても分かる筈がないだろう。……ただ、予想は出来る。以前お前は洞窟で怪しげな集団を見たとか言ってただろう?」


 そう言われると、ボブもすぐにその意味に気が付いたらしい。

 驚きの表情を浮かべ、口を開く。


「まさか、あの時の人達が僕に穢れを押し付けたと!?」

「あくまでも可能性だけどな。けど、俺がボブから聞いた話でそれらしいのは、その一件しかない。あるいは、俺が知らないだけでお前がどこか別の場所で穢れを宿したという可能性はあるけど」


 レイの言葉に考え込むボブだったが、やがて首を横に振る。


「思いつく可能性はやっぱり洞窟の件しかありません。ただ、もしかしたら僕の知らない場所でその穢れに触れた可能性もありますが」

「ボブに思いつくのがそれしかないのなら、取りあえずその洞窟の一件が理由なんだろう。……昨夜襲ってきた連中、出来れば一人くらいは捕らえておきかったな」


 セトの攻撃によって、怪我をして動けなくなっていた者も何人かいた。

 しかし、そのような者達も全員が気が付けばいなくなっていたのだ。

 もし何人か捕らえていれば、多少なりとも情報を得ることが出来ていたのは間違いないのだが。


(いや、あるいはそれを嫌って動けない奴も連れていったんだろうな。穢れってのが具体的になんなのか……悪い魔力というのは分かるが、それが具体的にどういう風に関係してくるのかとか、そういうのが分からないのは痛い。向こうもそれをこっちに知らせたくなかった、か)


 それだけなら連れていかずとも、動けない者を殺してしまうという手段もあった筈だ。

 だというのに、そのような真似をしなかったのは……


(向こうはそうやってあっさりと切り捨てることが出来るだけの人数的な余裕はないのか? つまり、この穢れに関係しているのはそう多くはない可能性が高いな)


 勿論、人数が少ないとはいえ、それが具体的にどのくらいの人数なのかというのは分からない。

 襲ってきた者達で全員という可能性もあるし、もしくは全部で数百人規模の可能性もある。

 結局のところ、実際に敵を倒して情報を入手するまでは具体的にどのくらいの数なのかというのは分からない。


「とにかく、そんな訳で……ボブが二日をどうするかというのが問題になってくる。とはいえ、選べる選択肢はそんなに多くはないが」

「具体的には、どのようなものがあるのでしょう?」

「ここで野宿をするか、アブエロというここから近い街で宿を取るかだな」


 ギルムではなく、ギルムから一番近いアブエロをボブの休憩する場所として選んだのは、ある意味で妥協の産物だった。

 具体的には、ギルムに戻ればクリスタルドラゴンの一件で多くの者が自分に会いに来るのが面倒だった。

 その対策として、ギルムから一番近いアブエロを選んだ。

 もっとも、当然ながらアブエロでもクリスタルドラゴンの一件は知られているので、レイがアブエロまで一緒に行くということはない。

 アブエロからそう離れていない場所で、街道から外れた場所までセト篭で送るといった形だろう。


「ここから近い街はギルムじゃないんですか?」

「そうだな。ギルムが一番近いのは間違いない。ただ、今のギルムは増築工事をやっていて人が多い。その中にお前を狙ってる奴は……お前と会った森との距離を考えるとまずないと思うが、それでも人が多すぎるのは面白くない」


 空を飛べるセトだからこそ、レイ達はボブと会った場所からここまでかなりの速度で移動が出来たのだ。

 もし地上を移動した場合、それこそ馬で移動してもそう簡単にレイ達に追いつけるとは思えない。

 一日二日でギルムは勿論、アブエロ……いや、アブエロよりも更に一つ辺境から離れた場所にあるサブルスタに到着するのも無理だろう。

 しかし、それは絶対に安全と言えないのも事実。 

 具体的には、襲ってきた者達はレイ達に追いつくのは不可能に近いだろうが、既に襲ってきた者達の仲間がギルムにいて、対のオーブ……とまではいかないが、何らかの手段で連絡を取るという可能性は否定出来ない。


(まぁ、連絡を取るということなら、それこそギルムだけではなくアブエロにいるのも危険だとは思うんだけど。ただ。これは比較の問題だよな)


 ギルムとアブエロのどちらに人が多いか、そして重要な場所なのかと聞かれれば、多くの者はギルムと答えるだろう。

 だからこそ、穢れに関係するだろう者たちがギルムとアブエロのどちらにいる可能性が高いかと言われれば、レイはギルムだろうと断言する。


「で、どうする? ボブの安全を重視するのなら、ここで野営。二日程度とはいえ、野営をするのが嫌で快適な暮らしをしたいのなら、アブエロの方がいいと思うが」

「……悩みますね」


 レイの言葉に、ボブは非常に悩ましげな様子を見せる。

 自分が一体どういう風にすればいいのか、全く分からないといった様子で。

 そうしてボブが悩んでいると、不意に霧の中から一人の妖精が姿を現した。


「あれ、レイじゃない。どうしたの、こんな場所で」


 ニールセンと同じくらいの大きさと思えるその妖精は、霧の中にレイがいるのを見て不思議そうに声を掛け……そしてレイの側にボブがいるのを見て、興味深そうにする。


「誰? この人、誰? あ、そう言えばニールセンがレイ以外に一人連れて来たって言ってたけど、この人?」


 その妖精は興味深そうにしながら、ボブの周囲を跳び回ってレイに尋ねる。


(ニールセンもそうだったけど、やっぱり長が言っていたようにボブの穢れとやらは感じられないらしいな。いやまぁ、俺やセトでも感じられないんだから、そう考えれば当然かもしれないけど)


 長の言葉が真実だったと確信するレイ。

 とはいえ、長が目を掛けているニールセンですらボブを見ても穢れを感じるようなことはなかったのだ。

 そう思えば、やはりボブの穢れに気が付くのは難しいだろうというくらいはレイにも納得出来た。


「レイさん、僕はここに残ります」


 不意にボブがそんな風に言ってくる。

 ボブのその言葉に、レイは驚く。

 先程まではここで野営をするか、アブエロの宿屋ですごすかといったことで悩んでいた筈なのだが、それが何故かいきなりここに残ると言ったのだから当然だろう。

 しかし、ボブが何故急にそんなことを言ったのかは……ボブの顔を見ればすぐに理解出来た。

 自分の周囲を飛び回っている妖精に目を奪われているのが明らかだったからだ。

 元々ボブは妖精に対して強い興味を抱いていた。

 同じような好奇心を持っているというのが影響してか、ニールセンともそれなりに友好的な関係を築くくらいには。

 ただ……最初にニールセンと会った時に、妖精を食べる云々といった話をしたのが影響してしまい、ニールセンと友好的にはなれたものの、どこか少し距離を置かれていたのも事実。

 そんなボブにとって、こうして遠慮なく自分に近付いて来てくれる妖精がいるというのは、非常に嬉しいことなのだろう。

 それこそ、ここで二日程の野営をしても構わないと思うくらいには。


「本当にいいのか? いやまぁ、ボブがそれを望むのなら俺としてはそれでいいんだが」

「はい。ここにいれば、妖精と接する機会もありますし。……ですよね?」

「え? うーん、そうね。私が何人か呼んできてもいいけど。ただ、それでもここに来るかどうかは分からないわよ?」


 妖精は良くも悪くも好奇心が強く、今が面白ければいいという……一種の快楽主義者とでも呼ぶべき存在だ。



 それだけに、妖精郷の妖精達がボブに興味を持てば、ボブに会いに来たり、あるいは一緒に遊んだりといったような真似をするだろう。

 しかし、ボブに興味を抱かなかった場合……そうなると、恐らくはボブに会いに来るといったようなことはしない。


(というか、長が許すのか? 穢れがボブにあって、それがあるからボブは妖精郷に入れないようにしてるんだろうし。なのに、妖精達がボブと接触するのは……いやまぁ、ニールセンが接していたのを思えば、恐らく問題はないんだろうけど)


 なら、ボブを妖精郷に入れてもいいのでは?

 レイとしてはそう思わないでもなかったが、長の様子を見る限りではそれは絶対に許容出来ないものだった。

 であれば、今のこの状況こそが最善なのは間違いないのだろう。


(とはいえ、長の反応を見る限りだと、ボブがここにいるのは何とか我慢出来るといった感じだったけどな)


 穢れを感じることが出来る長にしてみれば、本来ならボブを妖精郷の近くにも置いておきたくないのだろう。

 しかし、それでもある程度我慢することが出来たのは……やはりレイが連れてきた人物だからというのが影響しているのは間違いない。


「妖精が来るかどうかは分からないけど、それでもここで待っているってことでいいんだな?」

「はい。食事は……ここは森ですし、獲物を獲れば何とか出来ると思いますし」

「腕利きの猟師だしな。とはいえ、このトレントの森は今、多くの動物やモンスターがいる。中にはボブではどうしようもないような高ランクモンスターがいたりもするから、気を付けろよ」


 トレントの森は出来てからまだそこまで経っていない。

 それでも数年は経っているのだが、まだ動物やモンスターの縄張りがしっかりと決まっている訳ではなかった。

 ある程度その辺が纏まったかと思えば、また新たな動物やモンスターがやって来て、騒動になる。

 その為、この森が本当の意味で落ち着くまでにはまだ相応の時間が掛かるのは間違いないというのが、森に詳しい者達の予想となる。

 そのような場所だけに、腕利きの猟師のボブなら獲物に困ることはない。

 ただし、このトレントの森が辺境なのは間違いないのだ。

 そうである以上、中には辺境にしか棲息していないような高ランクモンスターがいても、おかしくはない。

 レイにしてみれば、ボブがそのような相手と遭遇した時にどうするのかというのを考えていた。


「もし手に負えないモンスターに遭遇したら、ここまで戻ってくるといい。妖精郷の霧が守ってくれる筈だ。……もっとも、それで狼に被害が出たりすれば、面倒なことになるかもしれないが」


 狼は妖精郷の守備を任されている。

 そんな場所に、ボブが手に負えないモンスターを引き連れて来れば、狼とそのモンスターが戦いになる可能性は十分にあった。

 勿論、モンスターが妖精郷の周囲の霧を嫌って、ボブを追いかけ回すのを止める可能性も否定は出来なかったが。


「どうする? それでもここで野営をするのか?」


 そう尋ねるレイに、ボブはしっかりと頷くのだった。

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