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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2927/3865

2927話

カクヨムにて5話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452219415512391

 男はボブと名乗った。

 旅の猟師という聞き慣れない言葉はレイの興味を惹く。

 レイが興味を抱いたからというのもあるのだろうが、ニールセンやセトもボブに興味を持ったようだった。


「僕の話を聞いても、そんなに面白くないと思いますけどね。寧ろ僕としては、レイさんの話を聞きたいですし」


 ボブにしてみれば、異名持ちの冒険者から話を聞ける機会などそう滅多にあるものではない。

 そんな中でこうしてレイに会えたのだから、レイから色々と話を聞きたいと思うのは当然だった。


「そうだな、お前が俺に面白い話をしてくれたら、俺も話をするよ」

「うーん……分かりました。それで手を打ちましょう。それで、何を話せばいいんです?」


 ボブのその言葉に、レイは聞きたい話については最初から考えていたのか、即座に口を開く。


「まず、何で猟師なんてやってるんだ? 街から街、村から村を移動するのなら、猟師よりも冒険者の方が色々と便利だろう?」


 例えば、都市や街、あるいは村にも、中に入る時に金を支払う必要のある場所もある。

 しかし、そういうのはギルドカードを持っていれば免除されるのだ。

 そういう決まりになっているのだから当然だろう。

 しかし冒険者として登録していない以上、当然ながらギルドカードは持っていない。

 そうなると都市や街、村の中に入る時に金が必要となることも多い。

 他にもギルドカードは身分証となることもある。

 何かあった時に身分証の有無というのは、大きな意味を持つ。


「そうですね。今まで会った人からも冒険者としてギルドに登録するようにと言われました。けど……何となくですけど、嫌なんですよね」

「そうか」


 ボブの言葉に、レイはそれだけしか言えない。

 もし何らかの理由……登録をしようとしたギルドが腐っていたとか、そういう理由があったのなら、レイからギルドに話を通してどうにかして貰うといった真似も出来るだろう。

 だが、今回は違う。

 何か明確な理由があるのではなく、本当に何となくギルドに登録をしていないと言うのだ。

 であれば、ここでレイが何かを言ってもそれは意味をなさない。

 そんなレイの態度が意外だったのか、ボブは少しだけ驚いた様子を見せた。


「あれ、いいんですか? 今までこの話を聞いた人達は、それでも冒険者として登録した方がいいって言ってきたんですけど」

「ボブはその辺を承知の上で冒険者に登録してないんだろ? なら、別にここで俺が敢えて何かを言う必要はない。ただ、利便性を考えれば冒険者になった方がいいと思うけどな」


 レイは冒険者になったおかげで、色々と利益を得ている。

 だからこそこのようなことを言うのだが、それはあくまでも自分だからという思いがあるのも事実。また……


「冒険者になったらなったで、便利なだけじゃない。面倒なことがあるのも事実だしな」


 そう告げる。

 実際、その言葉は決して間違ってはいない。

 もし冒険者になった場合、人によっては猟師という職業よりも冒険者を下に見る者も珍しくはなかった。

 冒険者というのは、異名持ちのように英雄的な存在として見られる者もいる一方で、中には素行の悪い低ランク冒険者によって依頼が失敗し、被害を受けたという者も珍しくはない。

 それどころか、本当に数は少ないものの、中には護衛依頼を受けておきながら盗賊と協力し、それによって護衛対象を盗賊に売り払うという者すらいる。

 勿論そのようなことが判明すれば、身の破滅が待っているのだが。

 とにかく冒険者をしている者は多いだけに、中にはそのような存在がいて、そのような存在と関わったことがある者にしてみれば冒険者というのはとても信じられる相手ではない。

 そのような相手にしてみれば、ボブのような猟師の方が信用はあるだろう。

 勿論、猟師である以上は何らかの依頼をする場合にも猟師がやるような依頼しか出来ないが。


「冒険者って、話を聞いてる限りではそれなりに面白そうよね。……私も冒険者になってみようかしら」

「あのな……」


 ニールセンの冒険者になりたいという言葉に、レイは呆れの表情で告げる。

 レイにしてみれば、ニールセンが冒険者になるというのは有り得ない選択肢でしかない。

 もしニールセンが冒険者になるとすれば、それこそ妖精の存在がもっと一般的になる必要がある。

 そうではない場合、ニールセンが冒険者になったというのを知った多くの者がニールセンを捕らえようとする者が多く出て来るだろう。

 勿論、ニールセンは妖精の中でも長に見込まれているだけに能力は高いので、ニールセンを捕らえようとする者は悪戯の餌食となるだろう。

 それもただの悪戯ではなく、えげつないという表現が相応しいような悪戯の餌食に。


「妖精が冒険者にですか。実現したらかなり興味深いですね。そうなったら、僕も冒険者になるかもしれません」


 レイとは裏腹にボブはニールセンが冒険者になったら自分も旅をする猟師を止めて冒険者になるかもしれないと言う。

 ボブにしてみれば、もしかしたらニールセンと一緒に依頼を達成したり出来るのではないかと、そう思っているのだろう。

 ニールセンの性格を理解しているレイとしては、一緒に旅をするくらいならともかく、ニールセンと一緒に依頼をこなすのはちょっと遠慮したい。

 依頼をこなそうとする時、妖精ならではの気紛れによって依頼を失敗する可能性は否定出来ないのだ。

 ニールセンに限らず、妖精というのは自分が面白ければそれでいいと思う者が多い。

 いや、種族としてそのような特性を持っているのだろう。

 長もまた分別はあれども、妖精である以上似たようなものなのは間違いないだろう。

 だからこそ、レイとしては妖精というのは冒険者に向いてないと思う。

 好奇心が刺激されれば、折角採取した何らかの素材を食べてみたり、あるいは無遠慮に触ったりといったような真似をして台無しにしてしまってもおかしくはない。

 未知を探求するという意味では、冒険者に向いている一面もあるのだが。


「取りあえず、妖精が冒険者になるようなことは基本的にはないと思うぞ。もしそうなるとしても、もっとずっと後のことだろうし」


 そんなレイの言葉に、話を聞いていたボブとニールセンは不満そうな様子を見せる。

 いつの間に意気投合したのか、二人は自分達が冒険者になったらどんな行動をするのかといったようなことを話しており、そこに割り込んで来たレイが面白くなかったのだろう。


「レイは私が冒険者になるのが反対なの?」

「何でそんな話になる? いやまぁ、賛成かどうかと言われれば即座に反対するけど」

「ちょっとレイ!」


 まさかこうもあっさりと反対されるとは思っていなかったのか、ニールセンは面白くなさそうな様子で叫ぶ。

 とはいえ、それはレイにとって正直な気持ちなのだ。

 もしここで適当なことを口にしても、後々面倒なことになるだろうと思えた。

 ……それこそ、長に向かってレイから冒険者になるのが向いていると勧められたなどといったようなことを言われれば、レイとしてはとてもではないが納得出来ない。

 長にどんな目に遭わされるのか。

 ニールセンの様子を見ていれば何となく理解は出来るものの、だからといって自分がそれを体験したいとは到底思えなかった。


「とにかく話を戻すぞ。いや、えーっと……何の話だった? ああ、そうそう。ボブが猟師で道に迷ってここに来たってことだったな。俺達と一緒に夜明かしをするのは別に構わないぞ。ただ、マジックテントは使わせる訳にはいかないけど」


 レイの持つマジックテントは、非常に希少だ。

 それだけに、レイが信用出来る相手にしか使わせたいとは思えない。

 ……ニールセンが信用出来る相手なのかと聞かれれば、レイはかなり戸惑ってしまうだろうが。

 それでもニールセンとは何だかんだで付き合いも長い……訳ではないが、それなりにニールセンの性格は知っている。

 だからこそ、ニールセンがマジックテントを意図的に壊したり、あるいは盗んだりといった真似はしないとレイは思っていた。

 ニールセンも長から色々と言われているというのもあるし、レイの性格も理解している。

 ここでもし自分がマジックテントに何かしようものなら、それこそ洒落ですまないというのは理解出来ていた。

 ……そのような状況であっても悪戯をしかねないのが妖精なので、絶対に安心は出来ないのだが。


「マジックテントですか? えっと、聞いたことがないですけど……名前からしてマジックアイテムですよね?」


 そう言いながら、ボブの視線はマジックテントに向けられる。

 その名前から、マジックテントが自分の視線の先にあるテントだろうと想像するのは難しくない。

 そしてマジックという名前がついているのだから、マジックアイテムだと予想するのも難しくはなかった。


「ああ、マジックテントだ。これは俺の持ってる中でもかなり高級なマジックアイテムだからな。会ったばかりのお前に使わせる訳にはいかないんだよ。万が一のことを考えると、特にな」

「それはそうでしょうね。僕は構いませんよ。焚き火のある場所、それでも異名持ちの冒険者や、何より妖精と一緒に夜をすごすことが出来るんですから。これだけあれば十分です。……けど、そんな高級なマジックアイテムをこういう場所で普通に使っていいんですか?」


 ボブはマジックテントを見ながらそんな風にレイに尋ねる。

 最初レイはボブが一体何を心配しているのか分からなかった。

 しかし、少し考えればすぐにそれが何のことなのかを理解出来た。


「セトがいるから、マジックテントが人に襲われるといったようなことは基本的にない。ボブも猟師をしてるのなら分かるだろ? 動物やモンスターに限らず、圧倒的な存在からは基本的に逃げようとする。……中には本能が鈍かったり、知性が低かったりでセトを見ても襲ってくる奴がいるが」


 レイが思い浮かべたのは、ゴブリン。

 実際に今まで何度もゴブリンによって襲撃されたことがある為に、まさに実体験だった。

 それは猟師をしているボブも同じだったのだろう。

 すぐに納得した様子で頷く。


「ゴブリンとかですね。僕も猟をしている時に時々遭遇して困っています。一匹二匹殺した程度では力の差は理解出来ないのが厄介なんですよね。それに矢も使えば折れたり、鏃が欠けたりとかしますし。それでいながら、ゴブリンの魔石とかは安値で買い叩かれますし」


 はぁ、と憂鬱そうな表情を浮かべるボブ。

 レイが先程口にした時同様に、そこには実感が籠もっていた。


(一応、魔石とかそういうのは冒険者じゃなくても商人が買い取ってくれるしな。ギルドの方は……買い取ってくれるくれない以前に、冒険者以外が売りに行くと目立ってしまうか)


 しかし商人に売るとなると、それはそれで大変だったりする。

 具体的には、価格交渉が。

 商人にしてみれば、魔石を買い取るのはいいが、少しでも安く買い叩きたい。

 安く買えばそれだけ自分の利益が増えるのだから、それは当然だろう。

 そして商人にとって、ボブは人の良い……悪く言えばカモにしやすい相手という風に見える。

 とはいえ、ゴブリンの魔石が。

 レイの認識では、単三電池一本くらいといったくらいの価値しかない。

 そのような安い魔石を売りに来る相手を真剣に交渉するかといえば、また別の話だが。


「で、ゴブリン達が来たらどうするんですか?」

「セトがいるだろ。セトはマジックテントを守ってくれるし。というか、ゴブリンは基本的にマジックテントよりもセトの方に注意を向けるし」


 これはセトが高ランクモンスターだからというのもある。

 そしてセトにしてみれば、大好きなレイが眠っているマジックテントをゴブリンに攻撃させるような真似は絶対に許容出来なかった。


「いいですね、レイさんは。僕は一人で行動しているので、野宿とかになると眠るような余裕は殆ど……」

「あれ? だったら別に一人じゃなくて、他にも何人かと一緒に行動すればいいじゃない」

「……そう出来たらいいんですけどね」


 何も考えていないかのようなニールセンの言葉に、ボブは少し困ったようにそう返す。

 ボブにしてみれば、誰かと一緒に行動出来るのならそれはありがたい。

 だがソロの冒険者ではなく、ソロの猟師と一緒に……それも一ヶ所に定住するのではなく、街や村を旅しながらとなると、当然ながらそのような相手と一緒に行動する物好きはそう多くはない。

 勿論、次の村や街に到着するまでの間だけといったようになれば、話は別だったが。


「まぁ、猟師には猟師で色々と大変なことがあるんだろ」


 レイの言葉に、ボブは困ったように笑いながらも頷くのだった。

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