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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2920/3865

2920話

「グルルルルルルルゥ!」


 セトの雄叫びが周囲に響き渡ると、竜巻が生み出される。

 その高さは七m程度とかなりの大きさの竜巻だったが、その竜巻は周囲に存在する白い濃霧を巻き上げるようにし、自らの身に飲み込んでいく。


「多連斬!」


 その竜巻に……多数のスモッグパンサーが霧となって吸い込まれたその竜巻に向かい、レイは多連斬を放つ。

 先程は周囲に広がっている霧に向かって放った多連斬だったが、それでもスモッグパンサーがダメージを受けて、霧と化した状態から元に戻っていた。

 周囲に霧が広がっている状態でそれだったのだ。

 今回のように霧が集まっている中で多連斬を食らえばどうなるか……

 ボトボトボトボト、と。霧からスモッグパンサーの切断された身体が大量に零れ落ちてきた。


「うわ、これは……自分でやっておきながらこう言うのもなんだけど……エグいな」


 レイの口からそんな声が漏れる。

 周囲に漂うのは、濃厚な血の臭い。

 本来なら、セトの作った竜巻がその血の臭いも取り込んでくれたのかもしれないが、生憎とレイの放った多連斬によって竜巻は完全に消し飛んでいた。

 それこそ、中に吸い込まれていた霧となったスモッグパンサー諸共に。


「まぁ、それでもこれで……大分霧が薄くなったのは間違いないな」


 レイが周囲を見回しながら、そう告げる。

 霧が集まったところで多連斬が使われたので、スモッグパンサーは肉片……というのは少し言いすぎだが、肉の塊と化しており、具体的にどのくらいの数を倒したのかまでは分からない。

 しかし、それでも結構な数を倒したのは間違いなく……それにより、周囲に漂う白い霧は既に濃霧とは呼べないくらいにまで薄まっている。

 それはレイにとってありがたいことであるのは間違いなかった。

 今のような攻撃を行えば、それだけ周囲の霧を構成しているスモッグパンサーを倒し、周囲の霧は薄くなっていくのだから。


(俺とセトを相手にここまで有利に戦いを進められたのは、上位種か希少種が通常種を率いていたからと考えるのが自然だな。だとすれば、こうして敵の戦力を減らせばそれだけこっちにとって有利になる)


 そう判断し、レイはデスサイズの石突きを地面に突き立てる。


「風の手!」


 スキルが発動し、デスサイズの石突きから風の手が……透明な触手染みたものが伸びていく。

 風の手の中で具体的に風が影響を及ぼすことが出来るのは、あくまでも先端の部分だ。

 それ以外の場所は、それこそ何かに触れても影響を及ぼすことは出来ない。

 そういう意味ではセトのトルネードよりも汎用性は低いものの……先端部分だけが影響を与えるというのは、全体に影響を与えるよりは使いやすい一面もある。

 何より、風の手はレイの思い通りに動くというのが、この場合は大きい。

 レイは風の手を生み出し、周囲を漂っている霧を風の力で集めていく。

 先端部分でしか霧を纏めることは出来ないだけに、風の手が通った場所は見て分かるくらい霧がなくなっている。

 それこそ埃だらけの床の一部分を掃除機で綺麗にしたような感じ……とレイなら表現するだろう。

 そうして霧を集めたところで風の手の先端を自分のところまで戻し……デスサイズを振るう。

 その一撃によって風の手に集められていたスモッグパンサーが、纏めて切断されて死ぬ。

 本来なら霧となっている状態で物理攻撃を行っても、スモッグパンサーにダメージを与えるようなことは出来ない。

 しかし、デスサイズは普通の武器ではなく、マジックアイテムだ。

 それもその辺のマジックアイテムとは格の違う、強力なマジックアイテム。

 その一撃によるダメージは、霧となっているスモッグパンサーに致命傷を与えるには十分な威力を持っていた。

 そうして身体の様々な部位を切断されたスモッグパンサーが地面に落ちるが、それを一瞥したレイはすぐに周囲の様子に目を向ける。

 今の一撃で攻撃されたスモッグパンサーの中には、まだ生きている個体もいる。

 しかし、そのような個体であってもダメージが大きく、レイに反撃出来る様子はない。

 それを確認したからこそ、レイは少しでも多くのスモッグパンサーを倒す為に周囲を見たのだが……


「今のは随分と効いたみたいだな」


 先程よりも更に霧が薄くなっているのを確認し、レイは笑みを浮かべる。

 既に周囲に漂っている霧は、レイ達が休憩している時にいきなり襲ってきた時と比べると全く違う霧となっていた。

 それはつまり、このスモッグパンサーたちを率いてる個体の力が弱まっているということを意味していた。


(そうなると、問題なのはどうやってその個体を霧の中から出すか、だな)


 これが普通のスモッグパンサーであれば、セトの王の威圧を使えば即座に霧から元に戻すことが出来る。

 しかし、今のスモッグパンサーは統率している個体に率いられている為か、通常の個体であってもセトの王の威圧を食らってても霧から元に戻ることはない。

 そんな状況で統率している個体を倒す為にはどうすればいいのか。


(やっぱり確実なのは、こうやってスモッグパンサーを倒して数を減らしていくことか。ただ、問題なのはこうしてスモッグパンサーの数が減っていけば、統率している個体が不利を悟って逃げないかといった感じなんだが。……出来ればここで倒しておきたい)


 実際には、レイの目的であるスモッグパンサーの魔石を集めるという点では、今回の一件で十分に成果があった。

 この統率個体に率いられているスモッグパンサーを結構な数倒しているのだから。

 寧ろレイとしては、単独で暮らしているというスモッグパンサーがこの森にこれだけの数がいたことにも驚いていたが。


「セト、ここで統率している個体を逃がすような真似はしないぞ!」

「グルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは当然といった様子で喉を鳴らす。

 セトにしてみれば、ここまで自分を手こずらせた相手を逃がすつもりはなかったし、何よりもスモッグパンサーの統率個体は上位種か希少種の可能性が高く、そういう意味では是非ともその魔石は欲しかった。

 その魔石をセトが使うのか、デスサイズが使うのかは、今のところ分からない。

 分からないが、それでも自分達が強くなるのは間違いないのだから、その機会を見逃すつもりはなかった。


「グルルルルルルルルゥ!」


 雄叫びと共に、セトの口からサンダーブレスが放たれる。

 レベル一と、セトが習得しているスキルの中ではレベルの低いスキルだが、レベルが低いからといって全く使えないスキルという訳ではない。

 拡散気味に放たれたサンダーブレスは、霧となっていたスモッグパンサーにも効果を発揮させ、地面に落ちる。

 王の威圧の時と違い、物質化したスモッグパンサーは身体が軽く痺れた程度で、まだそれなりに動くことは可能だ。

 ……だが、元々がセトよりも格下のモンスターであるのは間違いない。

 万全の状態でセトと戦っても厄介なのは間違いないのに、身体が痺れている状況で勝てる筈もない。

 サンダーブレスによって物質化したスモッグパンサーは、セトによる攻撃で次々と死んでいく。

 何故セトが王の威圧ではなくサンダーブレスを使ったのか。

 それを見ていたレイは、すぐに理解する。

 セトがスモッグパンサーに使う王の威圧は、普通の個体に対してなら問題はないだろう。

 しかしスモッグパンサーを統率している個体は、王の威圧を使っても効果はない。

 少なくても、先程使った時は意味がなかった。

 だが、サンダーブレスは違う。

 霧となっている統率個体に命中すれば、王の威圧とは違って無効化するといったような真似は出来ずに効果を発揮する筈だった。

 そうであれば、統率個体を狙うのならそのような攻撃をするつもりがあった。


「なら、俺もセトだけに任せて置く訳にはいかないか。……多連斬!」


 再び放たれた多連斬は、周辺の霧や木々を次々と斬り裂いていく。

 すると次の瞬間には再び多くのスモッグパンサーが霧から物質化して地面に倒れ込んだ。


「そろそろスモッグパンサーの統率個体も出て来てくれないと、面倒なことになってきたな」


 そう言うと、レイはニールセンが隠れている木の近くまで移動する。

 移動している時に霧からまた攻撃されるのかもしれないと思ったのだが、幸いなことに攻撃をされるといったようなことはなかった。

 スモッグパンサーにしてみれば、今この状況で攻撃をしてもおかしくはないとレイには思えたのだが。

 あるいはレイとセトによって次々と攻撃されてスモッグパンサーの数が減ってきたのが影響しているのかもしれないが。


「ニールセン、おい、ニールセン。聞こえているか?」

「え? 何よ? 戦いの最中は危険だから出て来るなって言ってたじゃない。出てもいいの?」

「取りあえず、今は向こうも特に攻撃をする様子はないから、心配するな。攻撃してきても、ある程度は俺が守ってやるよ。……防御用のゴーレムが完成していれば、そういう心配もしなくてよかったんだけどな」


 ロジャーに頼んでいたゴーレムが出来上がっていれば。

 そう思うレイだったが、生憎と今の状況ではそのようなことを考えてもどうしようもない。

 今は敵も一気にスモッグパンサーの数を減らされたことから、攻撃を躊躇っているように思える。

 ……視線の先では、セトがクリスタルブレスを放っているところだったが、それが霧に与えた影響はない。


「で、どうしたのよ」


 ひょこん、といった様子で木の側にいるレイの顔のすぐ近くに、ニールセンの顔が生える。

 正確には違うのだが、今の状況を見ればそんな風に思ってもおかしくはない。


「まず前提として、ニールセンがスモッグパンサーを見つけることが出来なくなったのは、多分今俺達が戦っている個体……上位種か希少種かは分からないが、とにかく統率個体が森の中にいたスモッグパンサーを集めたからだと思う」


 何故統率個体がそのような真似をしたのは、生憎とレイにも分からない。

 何らかの方法で森の中にいるスモッグパンサーが次々と殺されているのを知ったのか、それとも偶然が重なった結果だったのか。

 ともあれ、統率個体が他のスモッグパンサーを集めたからこそ、ニールセンがスモッグパンサーを見つけられなくなったというのがレイの予想だった。


「それは……でも、私が言うのも何だけど、スモッグパンサーが集まっているのなら、すぐに見つけることが出来たんじゃないの?」

「どうだろうな。普通に考えればそうだろうけど、統率個体のスキルか何かによってニールセンに察知されないようにしていた可能性は否定出来ない」

「何よそれ、そういう意味不明なのってありなの?」

「お前がスモッグパンサーを見つけていたのも、大概意味不明だけどな」


 ニールセンの言葉に、レイは呆れたように言う。

 何しろニールセンが適当に指さした方向に進めば、そこにスモッグパンサーがいたのだ。

 ニールセン自身はあたかも自分がしっかりと根拠があってそう示している……といったように誤魔化していたが、実際に違うというのはレイにしてみれば明らかだった。

 であれば、この状況でニールセンがスモッグパンサーに対してだけ不満を露わにするのはどうかと思う。

 もっともニールセンの場合はレイにとってもスモッグパンサーのいる場所を見つけることが出来るという大きなメリットがあったので、そこまで深く突っ込むような真似はしなかったが。

 レイの言葉に何かを言い返そうとしたニールセンだったが、それよりも前に再びレイが口を開く。


「とにかくだ。ニールセンにはスモッグパンサーを見つける何らかの力があるは明らかだ。その能力を使って、統率個体がどこにいるのかを見つけられないか?」

「え? そ……そんなことを言われても……」


 ニールセンにしてみれば、レイの要望はすぐに頷くことが出来ない。

 スモッグパンサーの統率個体を見つけるのが必須なのは分かっている。分かっているのだが、それでも今の状況ですぐにどうこう出来る訳ではなかった。

 元々がスモッグパンサーを見つけていたのは、長から貰った……もしくは借りた力によるものだった。

 自分で意図して使っている訳ではない以上、すぐに見つけるといったような真似をするのが難しいのは間違いなかった。

 それはレイも分かっていたが、敵を見つけることが出来ない現状、手っ取り早く統率個体を見つけるにはニールセンに頼るのが最適だった。

 また……それ以外にも、ここでニールセンに頼めば何とかなるかもしれないという思いもある。


「俺とセトがスモッグパンサーを倒したことで、周囲の霧は薄くなってきた。つまり、統率個体の力は明らかに弱くなっている筈だ。なら……ニールセンにも、何とか出来るんじゃないか?」


 そんなレイの言葉に考え込んだニールセンは、やがてレイの言葉に頷くのだった。

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[気になる点] >元々がスモッグパンサーを見つけていたのは、長から貰った……もしくは借りた力によるものだった。 いつ判明したのか不明です。
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