2908話
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「さて、取りあえず最低限の目的だった三種類のモンスターを倒すことにも成功したし、先に進みたいところではあるんだが……」
「どうしたの? 目的だったモンスターを倒したんだから、もういいんでしょ?」
レイの呟きに、ニールセンが不思議そうな視線を向けてきて、そう尋ねる。
ニールセンにしてみれば、レイが倒したがっていたモンスターは倒したのだから、次の敵……それこそ本命である、スモッグパンサーを倒しに向かってもいいのでは? と思っていた。
しかし、レイにしてみれば正直なところ出来れば蜘蛛と鹿はもう一匹ずつ倒したい。
何しろ魔獣術に使う魔石は、セトとデスサイズの分で二つずつ必要なのだ。
トカゲは結構な量の魔石を入手出来たものの、蜘蛛と鹿はそれぞれ一匹ずつしかいなかった。
そういう意味では、やはりこの近辺でそれぞれもう一匹ずつ倒したい。
「魔石は、保存用と観賞用の二つが必要なんだ。トカゲはともかく、蜘蛛と鹿はまだ一匹ずつだろ? そう考えると、出来ればもう一匹ずつ倒しておきたい」
レイは普段の説明でもよく使うカバーストーリーをニールセンに話す。
ニールセンは面倒そうな表情を浮かべる。
先程までは自分の実力をレイに認めさせたと嬉しそうにしていたのだが、そんなことはもうすっかり忘れてしまったかのような態度だ。
レイにしてみれば、ニールセンの気紛れには多少思うところがない訳でもなかったが、それでも取りあえず今は……ということで、話を続ける。
「安心しろ、別にわざわざあの蜘蛛と鹿を探そうはしないから。ただ、スモッグパンサーを探している中で偶然見つけたら倒すつもりだけど」
「そう? ならいいけど」
レイの言葉に納得したニールセンだったが、そんなニールセンの様子を見たレイは内心でしてやったりと思う。
何しろスモッグパンサーはこの森の何ヶ所にも散らばって存在していると聞いている。
そしてレイ達はスモッグパンサーを出来るだけ多く倒すつもりなのだ。
つまり、スモッグパンサーを探している最中で蜘蛛や鹿を見つけるのはそうおかしな話ではない。
ましてや、スモッグパンサーを探すのはレイやセトであり、特にセトの感覚は非常に鋭い。
そんなレイやセトが森の中を移動してスモッグパンサーを探した場合、蜘蛛や鹿を……あるいはそれ以外の未知のモンスターを見つけるというのは、そう珍しい話ではない筈だった。
「納得して貰えたようなら、そろそろ移動するか。スモッグパンサーを見つけるにしても、色々と行動したりする必要があるし」
「うーん……ねぇ、レイ。何か隠してない?」
不意にそんな風にレイに尋ねてくるニールセン。
今の状況で一体どこからそんな結論になったのか、生憎とレイにはその辺は分からなかった。
女の勘か、それとも妖精の勘か。
「隠してるというか、俺にも人に言えないようことはそれなりにあるから、そういう意味では隠してるな」
ここで素直に何も隠していないと言えば、怪しまれる可能性が高い。
そう判断したレイは、取りあえずそういう風に誤魔化しておく。
レイが口にした言葉は、決して嘘という訳ではない。
実際にニールセンに話せないことはかなりあるし、それにも相応の理由がある。
だからこそ、レイのその言葉を聞いたニールセンはある程度納得した様子を見せた。
「そう? まぁ、いいけど。……じゃあ、行きましょうか。出来れば早いところ、スモッグパンサーを見つけたいわね」
そう言い、レイとセトの前を案内するように飛ぶニールセン。
レイはそんなニールセンの様子を一瞥すると、セトに視線を向ける。
レイが何を言わなくても、セトにはその視線だけで大体理解する。
「グルゥ」
分かったと小さく喉を鳴らすセトに、レイは小さく頷く。
「さて、スモッグパンサーは一体どこにいるんだろうな。この森に分散してるって話だったし、そろそろ一匹くらいは見つけてもいいんじゃないか?」
「うーん、そう言われるとそうね。スモッグパンサーもかなり高ランクモンスターなんだから、この状況だとそろそろ出て来てもおかしくはないと思うんだけど。もしかしたらセトがいるから姿を現さないのかも?」
ニールセンのその言葉は、レイにも納得出来るものだ。
しかし、セトは森に入った時から既に気配を抑えている。
事実、先程の蜘蛛や鹿、トカゲといったモンスターはセトの気配に気が付いた様子がなかった。
……もっとも、それは三つ巴の戦いになっており、そちらに意識を集中していたから、というのも大きいのかもしれないが。
(三つ巴……あれを三つ巴と呼んでもいいのかどうかは、正直微妙なところだけど)
レイがその場に到着した時、既に鹿は蜘蛛によって身動きを封じられ、いつ殺されてもおかしくなかった。
そんな状況でまだ鹿が殺されていなかったのは、鹿の周囲にトカゲの群れがいた為だろう。
蜘蛛にしてみれば、自分が鹿を殺しても、それを横から奪われるといったようなことにならないようにトカゲを警戒しており、鹿を殺すといったことはまだ出来ていなかったのだ。
そのような状況だったので、モンスター達はセトの存在に気が付けなくてもおかしくはなかった。
「ねぇ、レイ。ちょっと。向こうに何かあるみたいよ」
レイとセトを引き連れるように移動していたニールセンは、不意にそんな風に言ってくる。
ニールセン言う何かというのが何なのかは、分からない。
だが、もしかしたらモンスターを見つけたのはでないかと考え、興味深そうな様子で尋ねる。
「何かってのは、具体的にどういうのだ?」
「うーん……何か大きな木の実? 私よりも大きい木の実があるわ」
木の実? と疑問に思う。
レイにしてみれば、ニールセンよりも大きな木の実というのはそれなりに珍しいものではないが、ニールセンがそう言うのなら、それなりに面白そうなものかもしれないと思う。
「分かった。なら、そっちに行ってみるか。その木の実が美味いものだったら、確保しておきたいし」
「分かったわ。じゃあ、行きましょう。こっちよ」
そう言い、空を飛んで今まで進んでいた方向から逸れていくニールセン。
ニールセンのそんな様子に、レイとセトもそんな姿を追う。
(木の実か。ニールセンよりも大きいとなると、結構な大きさなのは間違いないな。問題は、それが本当に食えるかどうかだけど)
ニールセンの興味を引いた以上、その木の実がただの木の実であるとは思えない。
であれば、それこそレイが予想していたよりも美味い木の実……という可能性もあった。
「それで、ニールセン。その木の実はどんな外見なんだ?」
「うーん、そうね。外見は……皺?」
「……皺?」
木の実を表現するのに、皺というのは相応しいのか。
そんな疑問を抱くレイだったが、ニールセンの様子を見る限りでは嘘を吐いているようには見えない。
(皺……クルミとか?)
日本では山の近くに住んでいたレイだ。
当然ながら、山の中にはクルミの木があり、クルミの実がどういうものなのかは知っている。
実際にはレイが知っているクルミの実は果肉に覆われた状態なのだが、一般的に知られている状態で木になっていてもレイには納得出来てしまう。
また、クルミは普通に食材としても美味い。
もしニールセンが見つけたのがクルミなら、それはレイにとっても悪い話ではない。
クルミは色々と使い道の多い食材である以上、料理が一段と美味くなるのは間違いないのだから。
……もっとも、その料理を作るのはレイではなく、基本的にはマリーナの仕事になるのだが。
クルミだといいなと思いながらレイは森の中を進み……
「あ、ほら、レイ。見えてきたわよ。あそこ、あそこ」
ニールセンが指さす方向にあったのは、確かにかなりの大きさを持つ木の実だ。
そして外見が皺であるのも事実。
「これは……一体、この木の実は何だ? 食えるのか?」
クルミを想像していた為か、レイの口から出たのはそんな感想だった。
実際、こうして見る限りでは食べられそうには見えない。
ただし、それを言うならクルミだって外見は皺があって不気味で、食べられるとは思わないだろう。
そういう意味では、こうして食べられそうに見えない木の実であっても普通に……いや、それどころか美味く食べられる可能性は決して否定出来ない事実なのだ。
今の状況を思えば、この木の実をすぐに食べるといったような真似は出来ないものの、それでも入手しないという選択はレイの中にはなかった。
そうして木の実の中でも背の低いレイであっても普通に届く高さにあった枝になっている木の実を採ろうと手を伸ばし……
「うおっ!」
触れた瞬間、木の実が破裂する。
咄嗟のことで後ろに跳んだので、レイに被害の類はなかったが、それでもレイを驚かせるには十分だった。
「グルルゥ?」
後方に跳躍したレイを見て、セトは大丈夫? と喉を鳴らす。
ニールセンは驚きの表情を浮かべて破裂した木の実を見ていた。
まさか木の実が破裂するとは、ニールセンにとっても完全に予想外だったのだろう。
そして木の実から視線を逸らすと、一応といったようにレイに尋ねる。
「レイ、大丈夫?」
「ああ、問題ない。まさか、木の実が爆発するとは思わなかった」
「え? そう? この木の実が爆発するのは分からなかったけど、植物の中には爆発するのはそれなりにあるわよ」
「……そうなのか?」
ニールセンの言葉に、驚きと共に呟くレイ。
とはいえ、レイは知らなかったようだが地球にも爆発……破裂して種を周辺に飛ばすという植物はそれなりに存在する。
特にスナバコノキという植物は、時速二百五十kmもの速度で飛ばす。
その上で種は有毒でもあるのだから、非常に危険な植物と言えるだろう。
種だけではなく、木の幹からは多数の棘が生えており、その棘もまた有毒という危険さだ。
それだけではなく、樹液、葉、実……その全てが有毒で、樹液が目に入れば失明の恐れすらある程に凶悪な植物。
そのような凶悪な植物と比べれば、レイの前にある破裂する木の実というのはそこまで危険な植物ではなかった。
「あの破裂したのは……種を飛ばしたのか?」
「えっと、ちょっと待ってて。……うーん、あ、これじゃない?」
破裂した木の実から反射的に回避したレイだったが、その破裂したのは種を飛ばす為だったのではないかと、そんな風に考える。
実際、ニールセンが地上の近くを飛び回ると、種らしき物を見つけた。
とはいえ、それが本当に先程の木の実が破裂したことによって飛んだものなのかどうかは分からなかったが。
「お……重い……ちょ、ちょっとレイ。持ってよ!」
ニールセンよりも大きな木の実から弾けた……あるいは発射されたと思われる種は、結構な重量があったらしい。
ただし、それはあくまでも妖精のニールセンにとっての重量で、レイにしてみればそこまで重いとは思わなかった。
そうしてニールセンから受け取った種と思しき存在を眺め……ふと、その香りが甘いのに気が付く。
種から漂ってくるその香りは、間違いなく甘い。
それもただ甘いのではなく、まるでチョコレートのような甘い匂いだ。
(チョコレート? いや、でも……チョコレートってこういうのだったか? カカオ豆? とかいうのを使う筈だし、それだって別に豆の時は甘くないとか何とか、何かで見た記憶があるけど)
疑問に思うレイだったが、すぐに首を横に振る。
レイが持っているのは、あくまでも日本……いや、地球での知識だ。
このエルジィンは色々と地球に似ているところがあるのは間違いないが、全く似ていないところも多い。
魔法やモンスターの存在はその顕著なものだろう。
もっとも、レイが知らなかっただけで、もしかしたら地球にも魔法があった可能性は否定出来なかったが。
とにかく地球の常識とエルジィンの常識が同じ筈でもない以上、エルジィンには普通にチョコレート味の種といったような物が存在する可能性は否定出来なかった。
であればチョコレートその物の味の種があっても不思議ではない。
そう考え……ふと、疑問を抱く。
「ん? ニールセン、お前はお菓子が好きだった筈なのに、この種には興味を抱かなかったのか?」
「……え? その種がどうかしたの? 変わった臭いだとは思うけど、甘味とかそういう風には思えなかったわよ?」
「そうなのか?」
レイは改めて種を手に取って臭いを嗅ぐ。
するとやはり、そこにはチョコレートらしい甘い香りがあった。
この香りをニールセンが好まないというのは、生憎と理由が分からない。
妖精ならではで分からないのか、それともニールセンだからなのか。
正直なところその辺の違いは分からなかったが、それでも取りあえずこの種は出来るだけ集めておいた方がいいだろうと判断し、セトやニールセンと共に地面を探すのだった。