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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2902/3865

2902話

好きラノ2021年上期の結果発表がありました。


https://lightnovel.jp/best/2021_01-06/


です。


レジェンドは43票の投票がありました。

投票してくれた方、ありがとうございました。

 モンスターが出た。

 その叫びを聞いた時、レイはもしかしてセトのことを言ってるのでは? と思ってしまう。

 しかし、声が聞こえてきたのはレイやセトの近くではなく、もっと遠くの方だ。

 だとすれば、それはセトを見て怖がった村人が叫んだのではなく……


「早速来たか!」


 レイは視線を村の外に向けながら、そう叫ぶ。

 とはいえ、村は木の塀によって覆われているので、外を見るといった真似は出来なかったが。

 それでも村の外にモンスターが……それこそ双頭の猪が現れたのだと判断すると、レイはセトの背に乗る。


「セト!」

「グルゥ!」


 レイの言葉にセトは素早く返事をすると、そのまま走り出す。

 向かう先は、当然のように村の外。

 元々双頭の猪を倒す為に村長に雇われていた以上、モンスターが出たという話を聞いて、ここでレイが出ないという訳にはいかなかった。


「きゃあっ!」

「うわっ!」

「ちょっ、おいっ!?」


 セトが走っているのを見て驚きの声を上げる村人達が多かったが、レイやセトはそれに構わない。

 最初こそ走るセトの姿に驚いた様子を見せた者も多かったが、その中にはレイとセトを見て応援の声を上げる者もいる。


「頑張ってモンスターを倒してくれよ!」


 そう叫ぶのは、レイが村長に雇われているのを知っている者だろう。

 小さい村なので、レイが村長に雇われたという情報は既に全員が知っている。

 しかしそれでも素直に応援出来る者もいれば、よそ者である……あるいはレイの外見から信じられないといったように思うまで、それぞれだ。

 そんな中でもしっかりと自分を応援してくれる声があるのは、レイにとって悪い話ではない。

 応援の声を掛けてきてくれた相手に一瞬視線を向け、小さく頷いておく。

 そうしてセトは村の中を走り、門……というには少し大袈裟だが、とにかく外と繋がっている場所に到着した。

 先程のモンスターが出たという叫びを聞いたのだろう。門の前には何人もの村人が武器を持って集まっていた。

 ただし、その手に持つ武器は大半が農業用の道具で、それで双頭の猪と戦うのは難しいだろうとレイには思える。

 ゴブリンのようなモンスターならともかく、双頭の猪はセトと同じくらいの大きさを持つと言われているのだから。

 一応農作業用の道具ではなく、きちんとした武器を持っている者もいるが、普段から使い慣れている訳ではないのは、その動きを見れば分かる。

 それこそ下手をすれば味方……どころか、自分を傷付けてもおかしくはないような様子。


「退いてくれ! 俺とセトがモンスターと戦う!」

「グルルルルゥ!」


 レイが叫び、セトがそれに続くように鳴き声を上げる。

 そんなレイとセトの行動により、ここでようやく村人たちは後ろにレイとセトがいるのに気が付いたのだろう。慌てて道を空ける。

 そうして空いた道を、セトが走る。

 村の外に出ると、ここで初めてレイは双頭の猪と呼ばれているモンスターの姿を見たのだが……


「サイじゃん」


 双頭の猪の姿を見たレイの口から、思わずといった様子でそんな声が漏れる。

 頭が二つある双頭というのは、当然のようにサイの特徴ではない。

 しかし鼻の上に角があるその姿は、猪よりもサイに近い。

 体毛が生えている点では猪らしいが、顔は完全にサイのように思える。

 角の他に鋭い牙が生えているのはともかくとして。

 とはいえ、この村の住人がサイについて知らなければ、猪であると認識してもおかしくはないだろうが。

 そもそもの話、このエルジィンにサイがいるのかどうかすらレイには分からなかった。

 とにかく、双頭の猪……いや、双頭のサイは、前情報通り五匹いた。

 ただし、そんな中で一匹……恐らくこの群れのリーダー格であるだろう双頭のサイは、他の個体よりも明らかに大きい。

 他の双頭のサイの大きさがセトと同じくらいであるのに対して、リーダー格であると思われる双頭のサイは、体長五m程もある。


(希少種か上位種か……こうして群れを率いているってことは、多分上位種で間違いないんだろうが。それでも俺にしてみればありがたい、か)


 セトの背から降りたレイは、いつものようにデスサイズと黄昏の槍をミスティリングから取り出し、獰猛な笑みを浮かべる。

 レイにしてみれば、魔獣術で吸収することが出来る魔石を持つモンスターの種類が増えたのだから、これは決して悪い話ではなかった。

 基本的に魔獣術で使える魔石は、一種類のモンスターにつき一つとなる。

 しかし、通常種と上位種、希少種といったモンスターは別枠の計算となるので、そういう意味ではレイやセトにとってありがたい話だった。

 ……魔石を得る為には、当然ながらモンスターを倒す必要があるのだが。


「さて、俺の言葉が分かるとは思わないが……とにかく、こうして村の近くまでやって来たのを、そして魔石を欲している俺の前に現れたのを不幸だと思って……死んでくれ!」


 その一言が切っ掛けとなり、そこはすぐ戦場になる。

 レイが真っ先に向かったのは、当然ながら双頭のサイのリーダー格の個体。

 相手はレイが自分から向かって来たのを見て、二つの口で牙を剥き出しにしながら待ち受け……


「ゴルルルルルル」

「ギュギャアアアア!」


 十分に近付いたところで、二つの頭が一斉にレイに向かって牙を突き立てんと行動に移る。

 その俊敏な動きは、五m近い巨体とは裏腹に非常に素早い。

 レイは後ろに下がって回避し……


「と、邪魔だ! パワースラッシュ!」


 後ろに跳んだレイの様子を見て、攻撃のチャンスだと判断したのだろう。

 双頭のサイのうちの一匹が、素早くレイに角を突き立てんと突っ込んで来た。

 しかし、レイの振るうデスサイズは三m近い体長を持つ双頭のサイの頭二つを纏めて吹き飛ばす。

 二つある頭部を同時に失った双頭のサイは、そのまま地面に倒れ込んだ。

 本来なら、その身体を包んでいる厚い皮膚はその辺の武器でダメージを与えることは出来ない。

 村人達が持っていた農作業用の道具では間違いなく皮膚を傷付けることすら出来なかっただろう。

 レイにしてみればパワースラッシュの一撃で倒せるくらいの攻撃ではあったが。


(しまった)


 しかし、二つの頭部を破壊したレイは自分のミスに気が付く。

 頭部を破壊した際、当然ながら鼻の上から伸びている角も破壊してしまったのだ。

 その特徴的は角は、間違いなく何らかの素材になるだろうし、もしくは討伐証明部位となる可能性もあった。

 だからこそ出来れば頭部はそのままにしたかったのだが……


「グギャアアアアア!」

「ギョアアアアアア!」


 そうして隙を見せたレイに対し、リーダー格の双頭のサイは叫びながら口を開き……その喉の奥に明るい何かと白い何かを見た瞬間、レイは半ば反射的にスレイプニルの靴を発動し、跳躍する。

 空中を蹴って移動したレイだったが、そんなレイのいる方に向かって双頭のサイは口の動きで追い……次の瞬間、二つの口から炎と氷のブレスがそれぞれ別の頭から放たれた。

 それどころか、ブレスを放ったままで顔を動かしているので、炎と氷のブレスは空中を移動するレイを追尾する。


「ちっ!」


 そんな相手の攻撃を見たレイは、このままでは追い付かれると判断して再び空中を蹴る。

 ただし、空中を蹴ったレイが向かったのは更に高い空中……ではなく、地上。

 具体的には、セトと戦っている数匹の双頭のサイのうちの一匹。

 なお、レイが一匹を倒し、リーダー格の相手をしている間に、セトもまた一匹の双頭のサイを倒しており、レイがパワースラッシュで頭部を砕いた一匹と同じように揃って頭部を失った一匹分の死体があった。

 二匹倒され、一匹はリーダー格なので、残る通常の双頭のサイの数は二匹。

 その残り二匹は、それなりに高い知能を持っているのだろう。

 一匹ずつセトに攻撃するのではなく、二匹が同時に攻撃しようとする。

 とはいえ、セトも今までレイと共に数々の戦いを潜り抜けてきた猛者だ。

 相手がタイミングを合わせて攻撃をしてくのを悟ると、寧ろそんな相手の攻撃を利用して攻撃することを考える。

 跳びかかってくるタイミングを合わせ、その場で跳躍し……


「グルルルルルゥ!」


 セトがいなくなったことにより、ぶつかった二匹の双頭のサイ。

 そうしてぶつかった二匹に、上空から前足の一撃を放つ。

 それもただの一撃ではなく、パワークラッシュの一撃。

 その一撃により、二匹はあっさりと身体の一部を肉片として息絶えるのだった。


「どうやら、残りはお前だけみたいだな」


 炎と氷のブレスを放つという、少し驚きの攻撃を行った敵を見ながら、レイはそう告げる。

 そんなレイの言葉に一体何を感じたのか、リーダー格の双頭のサイは思わずといった様子で後退りし……しかし、当然ながらレイはそんな相手の行動を見逃すような真似はしない。


「逃がすと思うか!?」


 地面を蹴って一気に敵との間合いを詰める。

 そんなレイの姿を見たリーダー格の双頭のサイは、最大の武器である角を使って掬い上げるような一撃を放とうとするものの、レイはあっさりとその一撃を回避しながら間合いの内側に入った。

 自分のすぐ近くまでやって来たレイに対し、双頭のサイが出来る攻撃手段は多くはない。

 体長五m程もある巨体だからこそ、すぐ側までやって来た相手に対処する方法は驚く程少ないのだが……そこは、リーダー格の双頭のサイも今まで多くの戦いを経験してきた存在だ。

 敵にとって自分の重量というのは圧倒的な威力を持つことを知っているので、そのまま大地を踏み締めていた足から力を抜き、そのままレイの身体を潰そうとするのだが……


「遅い」


 その一言と共に黄昏の槍が双頭のサイの首の付け根に突き刺さり、一瞬動きを止め……次の瞬間にはデスサイズが綺麗な一閃を描き、二本の首を纏めて切断する。


「っと」


 左手に持つ黄昏の槍だけで五mの巨体を支えていたレイだったが、即座にその場から跳び退った。

 レイがいなくなったことで胴体が地面にぶつかり、同時にその首からは大量の血が流れ始める。

 デスサイズの一撃があまりに鋭かったので、首を切断されたというのにすぐに血は出なかったのだろう。

 だが、地面にぶつかった衝撃により、そこから大量の血が流れ始めた。

 もしレイが首を切断したままの場所にいれば、首から流れた血を頭から被るといったようなことになっていただろう。


「血は……まぁ、いいか。そこまでランクの高いモンスターじゃなかったみたいだし」


 巨大で威圧的な外見をしている双頭のサイだったが、純粋な能力という点では戦ったレイにしてみればそこまで高いようには思えなかった。

 ……とはいえ、それはあくまでもレイが今まで戦ってきたモンスターが強かったからで、リーダー格の上位種、または希少種と思しき存在はランクBモンスター……ただし、ランクBモンスターの中でも下位の部類に入ると思えた。

 そして通常の双頭のサイは、平均的なランクCモンスターといったところか。

 レイやセトだからこそ、こうしてあっさりと倒すことが出来たようなものだが、本来ならランクBやCのモンスターというのはそう簡単に倒せる相手ではない。

 ましてや、村人達が持っていた農作業の道具を武器として挑んだ場合、ほぼ間違いなく返り討ちに遭っていただろう。

 そういう意味では、村長がレイに討伐を頼んだというのは賢明だった。


「さて、まずはこの死体を片付ける必要があるか。解体とかは……ここでやるのは難しいな」


 村人達が自分やセトを見る目は、恐怖に近い畏怖がある。

 勿論、村にとって危険な存在だったモンスターを倒してくれたのは嬉しいのだろう。

 だが、それでも自分達では絶対に敵わないだろうと思っていた相手に、こうして圧倒的な……そう、一切苦戦をするようなこともなく、蹂躙するといった表現が相応しい程の戦い振りだったレイは、村人達にしてみれば自分達と同じ存在だとは思えないだろう。

 ……実際、レイの身体はゼパイル一門の技術で作られているので、村人達と違うというのは間違ってはいないのだが。

 ともあれ、今の状況でレイが村人達に解体を手伝って欲しいと言っても、まず間違いなく断られるだろう。

 あるいは引き受けたとしても、レイに対する恐怖心から引き受けたといったようなことになりかねない。


「ひぃっ!」


 と、村の方から見ていた者のうち、レイと視線が合った男は小さな悲鳴を上げて、その場から逃げ出す。

 そこまで怖がらなくてもと一瞬思ったレイだったが、改めて考えてみると、逃げた男は昨日村長がレイを雇うといった判断をした時、レイが怪しいといったようなことを言って村長に殴られた男だった。

 自分が怪しんでいたレイが、実は自分ではどうしようもない程の実力を持っていると知り、慌てて逃げ出したのだろう。

 別に取って食う訳じゃないんだからと、レイは呆れたように息を吐くのだった。

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