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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2899/3865

2899話

好きラノ2021年上期が始まりました。

レジェンドは16巻が対象になっていますので、投票の方よろしくお願いします。


URLは以下となります。

https://lightnovel.jp/best/2021_01-06/


締め切りは7月24日となっています。



昨日の投稿で1話飛ばして投稿してしまいました。

前話を読んでない方は、1話前から読んで下さい。


申し訳ありませんでした。

 村長の言葉から、何故この村が自分を歓迎するのかの理由がレイには理解出来た。

 もしレイが村長からの依頼を受けても、その危険度に見合う報酬を貰うようなことは出来ないだろう。

 セトと同程度の大きさ……体長三mを前後の、双頭の猪。

 それも村の側で見つかったのは、一匹ではなく五匹。

 その最大五匹というのも、あくまでも村の側までやって来た数で、実際には村の側までやって来ていない個体がいないとも限らない。

 勿論、セトと同じくらいの大きさとはいえ、実際にセトと同じくらいの強さということは……絶対にないとは言い切れないが、その可能性が恐ろしく低いのは間違いないだろう。

 それでも、ゴブリンやオークといった辺境で出て来るモンスターと比べると圧倒的な強さを持ってるのは間違いない。

 そのような存在の討伐依頼となると、当然ながら報酬も相応のものになる。

 もしレイが一般的な冒険者であれば、村の出す報酬はまず満足出来るものではないだろう。

 しかし……レイは普通の冒険者ではない。

 頭部が二つある巨大な猪というモンスターは、幸いなことにレイは見たことがなかった。

 ……そう。幸いに、だ。

 普通の冒険者なら、未知のモンスターとの戦いは出来るだけ避けたい。

 相手がどんな性質をしていて、どんな特殊な能力を持っているのか分からないのだから。

 しかし、レイは違う。

 相手が未知のモンスターということで対処が大変なのは間違いないが、それでも戦うべき理由がレイにはあった。

 具体的には、魔石。

 魔獣術で生み出されたセトとデスサイズは、モンスターの魔石によって強化される。

 だが、同じモンスターの魔石は一度しか使えないという欠点がある。

 他にもこちらはあくまで傾向で色々と例外はあるものの、倒したモンスターのランクが高ければ高い……強敵である分だけ、スキルを習得したり強化されやすいというものがある。

 その辺りの事情を考えれば、双頭の猪というのはレイにとってありがたい存在なのは間違いなかった。


「村長、俺に双頭の猪の討伐を依頼したいんだな? けど、報酬はそこまで多く出せない」

「……はい、そうなります」


 村長としては、本来ならもっと婉曲に話を持っていきたかった。

 具体的にはレイを宴でもてなし、村の綺麗どころに相手をさせながら話を出すといったように。

 もっとも、村の綺麗どころとはいえ、それはあくまでもこの村の中での話だ。

 レイと親しい関係にあるエレーナ、マリーナ、ヴィヘラといったように、タイプはそれぞれ違うものの、歴史上稀に見る美女といった表現が相応しい三人と比べれば圧倒的に劣る。

 そんな三人を見知っているレイが、綺麗どころに言い寄られたところで村長の想像するような態度になるかというのは……正直微妙なところだろう。

 ともあれ、そんな風に話を持っていこうとしていた村長にとって、レイの口から出た言葉はかなり意外なものだったのは間違いない。

 とはいえ、レイの方からそのような話を口にしたということは、もしかして……といった希望を抱けたのも事実。


「この村にはギルドがないって話だったから一応言っておくけど、もし俺が双頭の猪を倒した場合は、その魔石や素材、それ以外にも肉の類は全て俺の物になるんだが……それは全て理解してるか?」


 ギルドのある場所では、冒険者が倒したモンスターはその冒険者の所有物となるのは知られている。

 自分、もしくは冒険者が所属しているパーティだけで倒せなかった場合は、協力してくれた相手に分け前を渡すのだが。

 しかしギルドのないこの村では、もしかしたらギルドのある場所では知られているその件が知られていない可能性もあるのでは?

 そんな風に思って念の為に尋ねてみたのだが……


「それで構いません。私達としては、とにかくこの村に近付く双頭の猪がいなくなってくれればいいのですから。森があるので、肉には困ってませんし。奥に行けば戻ってこられませんが、この村の者ならその辺は弁えておりますので」


 奥に行けば戻ってこられないという村長の説明に、レイはピンとくるものがあった。


(森の奥が、多分スモッグパンサーの縄張りなんだろうな)


 そんなレイの思いつきを読んだかのように、ドラゴンローブの中のニールセンがレイの身体を叩く。


「村長、この村も決して余裕がある訳じゃないだろうから、報酬は金じゃなくて情報で欲しい」

「情報……ですか?」


 金の代わりに情報が欲しいというレイの提案は、村長にとっても驚きだったのだろう。

 しかし、実際に村長にとってもそちらの方が助かるのは間違いない。


「それは構いませんが、私達が知りたい情報を持っているとは限りません。それでもいいのですか?」

「ああ。俺が知りたいのは、森の奥について。……具体的には、森の奥に棲み着いているスモッグパンサーについての情報だ」

「それは……いえ、構いません。ただ、忠告しておきますが、森の奥に棲息するモンスターはスモッグパンサーだけではありません。他にも辺境から流れてきたモンスターが棲息していると言われています」

「辺境から? なるほど、なら普段はこういう場所に生息しないだろうモンスターがいるのも納得は出来るな」


 辺境とレイ達が呼んでいるのは、あくまでもミレアーナ王国の者達が決めた場所でしかないのだ。

 そうである以上、辺境からそう離れていない場所に棲み着くモンスターがいてもおかしくはない。

 モンスターには、辺境がどうといったような認識はないのだから。

 代わりに縄張りといった認識はあるのだろうが、言ってみればその程度の違いでしかない。


(だとすれば、もしかすると双頭の猪も辺境からやって来たモンスターなのかもしれないな。……それでスモッグパンサーを相手に負けて追い出されて、この村の付近までやって来た。そう考えれば、辻褄はあう……のか?)


 レイの予想が当たっているのかどうかは、正直なところ分からない。

 しかし、レイが納得出来るのなら取りあえずそれで問題ない。


(それにスモッグパンサーや双頭の猪以外にも未知のモンスターがいるとなれば、俺としてはありがたいしな)


 魔獣術に使える魔石を入手出来るのなら、レイとしては多数のモンスターがいるのは全く問題ない。寧ろ望むところですらあった。


「それで構わない。……ああ、それと食料に余裕があるのなら今日と明日の早朝の食事を用意してくれるとありがたい。宿は……無理なようならこっちで準備するけど」


 レイの持つマジックテントは、その辺の宿よりも快適に暮らすことが出来る。

 そうである以上、宿は無理に用意する必要はないと思ったのだが、村長はレイのそんな言葉に首を横に振る。


「いえ、報酬は情報でいいという話なのですから、そのくらいはどうにかさせて下さい」

「そうか? そう言ってくれるのなら、こっちとしてはそれで構わないけど」


 そう言いながらも、レイは先程ニールセンに話したようにこの村には特に何か名物の料理や食材があるとは思わなかった。


(俺の期待を裏切って、実はこの村でしか食べられない料理があってくれればいいんだけどな)


 レイが恐らく難しいだろうと考えながらも、村長や他の村人達と共に村に向かう。

 レイと一緒にやって来たセトの存在に村人達はまだ完全に安心した様子ではなかったものの、それでも村長が言ってるのなら、多少は安心してもいいのかもしれないと思っているらしい。

 とはいえ、時間が経てばセトの人懐っこさに多少は警戒心も薄れるだろうと思っていたが。

 ……問題なのは、その警戒心が薄れるだけの時間がないということだろう。

 レイは明日にはスモッグパンサーのいる森に向かうつもりなのだから。


「では、こちらにどうぞ。村の者達に紹介しますので。……そう言えば、お名前を伺ってもよろしいでしょうか? 私は村長のニレットと申します」


 村長のニレットに自己紹介をされてしまえば、レイも返事をしない訳にはいかない。

 ましてや、一応個人依頼という形になってはいるものの、レイはニレットからの双頭の猪の討伐依頼を受けたのだから。


「俺はレイ。ランクA冒険者だ」


 ざわり、と。

 レイがランクA冒険者だと口にすると、村長の周囲にいた者達がざわめく。

 小柄なレイの外見から、とてもではないが冒険者の中でも最高峰のランクA冒険者だとは思わなかったのだろう。

 実際にはランクAの上にランクS冒険者が存在している。

 しかしランクS冒険者のというのは本当に特別な存在である以上、一般の者にしてみればランクA冒険者こそが最高ランクの冒険者という認識になるのだ。

 レイの言葉に驚いた村人達だったが、次第にその視線には疑惑の色が強くなる。

 レイの外見から、とてもではないがランクA冒険者だとは思えないのだろう。


「村長」


 そんな中、村人の一人が不審そうな様子を隠そうともせずにレイを見ながら、ニレットに呼び掛ける。

 村長はそんな村人に近寄り、尋ねる。


「どうした?」

「あんな子供がランクA冒険者なんて、信じられない。騙りじゃないか?」

「そんなことはないだろう。そもそもランクA冒険者を騙ってどうするのだ? こちらから示した報酬はいらないと言ってきた。その上でこちらの依頼を受けたんだぞ?」

「それは……そう、実際にはモンスターと戦わないで、宿と食事の為に……」

「そんなことをする為に、わざわざここまで来ると? それに、レイさんが連れているモンスターを見てみろ。見るからに高ランクモンスターなのは間違いない。あれだけのモンスターを従えているのだから、騙りということはないだろう」

「なら、あのレイてのがランクA冒険者になれたのは、連れているモンスターが強いからなんじゃないか?」

「仮に……本当に仮にの話だが、お前の意見が正しいとしてだ。それで何か問題があるのか? あのモンスターをレイさんが従えている以上、それはレイさんの実力となる。……違うか?」

「それは……」


 レイの外見から、どうしてもその実力を認められないのだろう男は、村長の反論に何も言えなくなる。


(いや、小声で話してるつもりかもしれないけど、全部聞こえてるからな?)


 村長と男の言葉は、離れた場所にいたレイの耳にはしっかりと聞こえていた。

 これでレイが普通の人間なら、その会話が聞こえるといったようなことはなかっただろう。

 しかし、レイの身体はゼパイル一門の技術の粋を凝らして作ったものだ。

 その五感は鋭く、この程度の距離で話している内容を聞くといった真似は普通に出来た。

 とはいえ、それに対してレイが特に何か突っ込むような真似はしなかったが。

 レイとしては、スモッグパンサーは勿論のこと、双頭の猪という未知のモンスターが最低でも二種類確認出来たのだ。

 あるいは森の奥にはそれ以外にもレイにとって未知のモンスターがいる可能性は否定出来ない。

 だからこそ、もし村長が村人の意見に頷いて依頼を取り消すといった場合でも、レイのやるべきことは変わらない。


(あ、でもそう考えると依頼を断った方が、何気にあの村にとっては得なのか? 依頼をしなくても俺が勝手に敵を倒すのなら、依頼料……というか、食料とかは渡す必要がない訳だし)


 そんな風に思っていると、村長は不意に自分の側にいた男を殴りつける。

 ……それは叩くとったような表現ではなく、殴るという表現が相応しい一撃。

 それ以上は話すこともないといった様子で男を睨み付け、レイの方に戻ってきた。


「すいません、レイさん。この村はギルドもないような村なので、どうしても冒険者に慣れていない者も多く……申し訳ありませんでした」


 そう言って謝ってくる村長の様子は、明らかに先程の自分と男の会話をレイが聞いていたと分かっているかのような様子だ。

 何故そのように判断したのかはレイにも分からなかったが、取りあえず頷いておく。


「ああ、それは気にするな。こういう村だとよくあることだろうしな」

「ありがとうございます。では、村の方へどうぞ。宿はありませんので、私の家の客間に泊まって貰うことになりますけど、構いませんか?」

「そこまで気を遣ってくれなくてもいいんだけどな。……取りあえず感謝はしておくよ」


 そうしてレイは村長や他の村人、そしてセトと共に村の中を進む。

 ……なお、村長に殴られた村人はその場に置き去りにされたものの、やがて村長達を追う。

 このまま何もしなければ、他の村人達の自分を見る目が変わってしまうと思ったのだろう。

 あるいは自分にこんな屈辱を与えたレイの存在が許せず、何かしでかさないか見張ってやるという思いもあったのだろう。

 何人かの村人が自分に向ける視線には全く気にした様子もないままに、行動するのだった。

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