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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2896/3865

2896話

好きラノ2021年上期が始まりました。

レジェンドは16巻が対象になっていますので、投票の方よろしくお願いします。


URLは以下となります。

https://lightnovel.jp/best/2021_01-06/


締め切りは7月24日となっています。



カクヨムにて5話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452219415512391

「ん……ん……?」


 眠りから目覚めたレイは、最初自分がどこにいるのかが理解出来なかった。

 とはいえ、ここ最近は眠っている場所がいつも違うというのは珍しい話ではないので、現在の自分の状況が一体どういうことなのかというのは、そんなに疑問を抱くようなことはなかったのだが。

 そんなことを、十分くらいの時間を掛けて思考していく。

 そのような状況であってもレイは未だに頭がはっきりとしない状態のままで寝惚けており……


「レイ、ちょっとレイ! いつまで寝てるのよ! もう朝よ! スモッグパンサーを倒しに行くんでしょ!」


 マジックテントの中に突然響き渡る声。

 その声を聞いて、レイはその声のした方に視線を向ける。

 するとそこには、妖精の姿があった。

 最初は人形か? と寝惚けた頭で考えるレイだったが、じっとその人形……妖精を見ていると、ようやく自分がどこにいるのか、そして目の前にいるのが誰なのかを理解した。


「ニールセン?」

「そうよ、私よ! 一体誰だと思っていたのかしら?」

「あー……悪いな。寝起きで頭がはっきりして……へぇ、そうなのか」


 言葉の途中で少しだけ驚いた様子を見せるレイに、ニールセンは不思議そうな視線を向ける。

 基本的に、レイは冒険者として活動していたり、あるいは何らかの気が抜けない場所で眠っていたりした場合、寝起きでもすぐに行動出来る。

 だが、そこが安心してもいい場所だというのを理解していると、今のように結構な時間、寝惚けてしまうのだ。

 この妖精郷でそのような状態になったということは、それはつまりレイにとってこの妖精郷は安心出来る場所だと、そう本能的に理解しているのだろう。

 それに気が付き、レイは驚きの声を上げたのだ。


(この妖精郷が安心出来る場所、か。いやまぁ、隙あらばお菓子を欲してきたり、場合によっては悪戯をしてくるような連中だが、度のすぎる悪戯は……いや、妖精だと考えれば、寧ろそっちの方が普通なんじゃないか? それでもそんなことにならなかったのは……長のおかげか)


 妖精の中でも優秀ではあるものの、悪戯好きで好奇心の強いニールセンだが、そんなニールセンであっても長の言葉を聞いてレイに悪戯をするようなことはなかった。

 それだけこの妖精郷において、長というのは大きな存在なのだろう。

 それこそ、もし長からの言葉がなければニールセンのように次々とマジックテントに入ってきて悪戯をしかねない。

 ましてや、このマジックテントは妖精のニールセンにとっても驚くべき存在なのだから。

 外見は普通のテントだが、その中は下手な宿よりも快適に暮らせるようになっている。

 そんなマジックテントだけに、昨日ニールセンが最初に中に入った時は興奮して叫びっぱなしだった。

 ……それこそ妙な場所に入ったりといったような真似をして、捜し出すのに苦労する程に。


「ちょっと、レイ。いつまでもそこにいないで、起きたなら出発の準備をするわよ。私の方はもう出発の準備が終わってるんだから」

「出発の準備? ああ、俺も特に準備らしい準備は必要ないから、気にする必要はないぞ」

「え? どういうこと? 人間って、出掛ける時には色々と準備をする必要があるんじゃないの? だから、出発するよりも少し前に起こしたのに」

「普通ならそういう準備が必要なのは否定しない。ただ、俺の場合は色々と特殊だからな。ニールセンも知ってるだろ? 俺のミスティリングは、色々な物を入れておける。俺が生活する上で必要となる各種荷物の類は、全てミスティリングに収納されている」


 ミスティリングは、レイの持つマジックアイテムの中でも特に重要な物だ。

 それに慣れているのは、正直なところ冒険者としては決して褒められたことではないのだが。

 何しろ、レイの行動は基本的にミスティリングありきとなっているのだから。

 例えば、レイがギルムで定宿としている夕暮れの小麦亭だが、その部屋を使っていた時でも、部屋の中にレイの荷物の類は本当に最低限の物しか置いていなかった。

 宿で働いている者にしてみれば、部屋の掃除をする時に客の荷物を壊すといったことを考えなくてもいいので、気楽に掃除出来る。


「ふーん。じゃあ、レイは随分と楽なのね。私が知ってる人は、移動する時の準備にかなり時間が掛かっていたから、レイもそうだと思ったんだけど」

「他の奴に比べたら……って、どこでそんなのを見たんだ?」

「え? ほ、ほら。前にレイの家に行ったでしょ。その時よ、その時」


 慌てたように言うニールセンの言葉が、正直なところ信用出来ない。

 とはいえ、他に……と、そう考えたレイだったが、ふとその答えに辿り着く。


(ああ、生誕の塔の護衛をしている連中か?)


 今も妖精達が悪戯をしてるのかどうかは分からないが、それでも以前に妖精は生誕の塔の護衛をしている冒険者達に悪戯をしていた。

 悪戯をするということは、当然ながら相手がどんな風に感じるのかといったようなことを把握して行う必要がある。

 その時に相手の行動を観察するといった真似をしていれば、どこかに出掛けるといった真似をする時に準備をしているのを見ていてもおかしくない。

 とはいえ、それはニールセンを含めた妖精達が少しでも多く人間たちについては知るということを意味している以上、レイとしては改めてそれを責めようとは思わなかった。


「ちなみに人が準備に時間が掛かるのは基本的にその通りだが……ニールセンの場合はどうなんだ? それなりに準備に時間が掛かったりするのか?」

「ううん、そんなことはないわ。このままの状況で移動するもの。そういう意味では、レイと同じような感じかしら」


 そう告げるニールセンに、レイは納得する。

 妖精が移動する時に何かを持って移動するというのは、あまりイメージ出来ないからだろう。

 とはいえ、この妖精郷では霧の音というマジックアイテムが発動しているし、新たに霧の音を始めとしたマジックアイテムを作るといった真似も出来る。

 それはつまり、マジックアイテムの製作に必要な各種素材の類は、以前住んでいた場所からこのトレントの森にやって来る時に持ってきたのだろう。

 そう考えれば、一応物を持って移動するといった方法があるのも間違いはない。

 具体的にどのような手段を使ってそのような真似をしてるのかと言われれば、生憎とレイにもその方法は思いつかなかったが。


「なるほど。じゃあ、俺は出掛ける準備をするから、外で待っててくれ。セトと一緒に遊んでいてもいいから」

「そう? うーん、まぁ、レイがそう言うのならそうしましょうか」


 意外なことに、ニールセンはレイの言葉を素直に聞いて、マジックテントから出ていく。

 正直なところ、レイとしては意外だった。

 今の状況を思えば、ニールセンが素直に自分の言葉に従うとは思わなかったのだ。


(もしかしたら、昨日の長の言葉がまだ効いてるのかもしれないな。あるいは……今朝、改めて長から何か言われたのかもしれないが)


 そんな風に思いつつ、素早く身支度を終えるとマジックテントから出る。

 するとそこでは、池の周囲で昨日も見た狼の子供が二頭と、ニールセンがいてそれぞれに動き回っていた。

 具体的に何をしているのかは、レイにも分からない。

 しかし、こうして見る限りでは何か悪戯をしているといった様子ではなく、ただ走り回って遊んでいるように見え、そしてセトは離れた場所から何か起きた時すぐに助けに入れるように眺めていた。

 そんな行動を眺めてから、レイはマジックテントをミスティリングに収納する。

 いきなりマジックテントが消えたからだろう。

 セトの周囲で走り回っていたニールセンや狼の子供達は驚いた様子で足を止めていた。


「待たせたな。まずは、どうする? 朝食にするか?」

「え? あ、えっと……ううん。ここで何かを食べてると、他の子達が来て出発するまでに時間が掛かってしまうから、朝食はここから出てからの方がいいと思う」


 そんなニールセンの言葉に従って、レイはセトと共に妖精郷を出ることにする。

 なお、二頭の狼の子供はもっと遊んで欲しいといった様子だったものの、セトに駄目だと喉を鳴らされると素直に諦めた。……ニールセンの方は、もう少し遊んでもいいかもといったように、少し名残惜しそうにしていたが。

 とはいえ、長からの言葉に逆らってここで遊ぶといったような真似をすることが出来る筈もなく、レイやセトと共に妖精郷から出る。

 当然のように途中で他の妖精達から一緒に遊ぼうといったようなことを言われたのだが、それについては素直に全て断っていた。

 そうして妖精郷から出ると、霧の音の効果によって生み出された霧の中を通ってトレントの森に出る。

 ……実際には妖精郷もトレントの森の一部なのだから、トレントの森に出るという表現は相応しくないのだが。


「ワウウ」


 トレントの森に出ると、そこには当然のように狼の群れがいた。

 昨日と違うのは、ニールセンが一緒だからか、それとも昨日の件を覚えているからなのか、レイやセトを包囲したりしないということだろう。

 それどころか、自分の上位者に対するかのような態度を示す。


(実際にセトと狼なら、セトが圧倒的に上位者なんだから、そういう意味ではこの狼達の行動は間違ってないか)


 レイは自分に対しても喉を鳴らして顔を擦りつけてくる狼の頭を撫でながら、そんな風に思う。

 狼と数分戯れると、やがてレイはセトの背に乗る。


「ニールセンはどうする?」

「え? どうするって……どういうこと?」

「俺と一緒にセトに乗るのか、それとも別に飛んでくるのかってことだが」

「そんなの、レイと一緒にセトに乗るに決まってるでしょ! 私は空を飛べるけど、セトみたいなとんでもない速さで飛ぶような真似が出来ないんだから!」


 力一杯自分の飛行速度は速くないと叫ぶニールセンに、レイはこの場合どう言えばいいのか少し迷う。

 自分の力の足りなさをそこまで力一杯否定するなと言えばいいのか、それともそんなことはないとでも言えばいいのか。 

 少し疑問に思うものの、結局のところそれ以上は何も言わないことにしておく。


「分かった。じゃあ、こっちに来い」

「うん」


 レイの言葉に従い、ニールセンはセトの背に乗ったレイの肩の上に止まる。


「よし、これで問題はないな。じゃあ、行くか。セト、頼む」

「グルルルゥ!」


 レイの言葉を聞いたセトは、数歩の助走の後で大きく翼を羽ばたかせながら空を駆け上がっていく。

 そんなセトの姿を、地上の狼達はどこか羨ましそうに眺めていたが、セトがそれに気が付くことはなかった。

 地上にいた狼のうちの何頭かは今の光景を忘れることが出来ず、将来的にモンスターになった時に翼を持つ狼となるのだが……それは今この場にいる誰もが知らないことだった。

 地上の諸々はともかく、セトはトレントの森の上空まであっという間に到着する。


「それでスモッグパンサーのいる場所だったが……具体的にはどこなんだ? このトレントの森から東の方って長は言ってたけど。取りあえず東に向かえばいいのか?」

「そうしてちょうだい。進む方向から逸れたら、私が教えるから。もっともセトの速度を考えると、スモッグパンサーのいる場所に向かうまでそんなに時間が掛からないと思うから、もしかして間違う可能性があるかもしれないけど」


 それはそれでどうなんだ?

 思わずそう突っ込みたくなったレイだったが、今はまずニールセンの言葉に従って移動しようとセトに頼む。


「セト、東の方に向かってくれ」

「グルゥ!」


 レイの言葉に、セトは翼を羽ばたかせながら東に向かう。


「それにしても、ニールセンが妖精で本当によかったよな」


 飛び始めてから数分。

 そんな数分程度でも、空を飛ぶセトは地上で移動する者達とは比べものにならない程の距離を移動していた。

 レイにとってはいつものことだが、自分も空を飛ぶニールセンは、そんなセトの速度に驚いていたのだが、レイのその言葉で我に返る。


「え? それってどういうこと?」

「セトは背中に俺以外を乗せるとなると、子供くらいしか乗せられないんだよ。熊とかを足で持って移動するのは出来るんだけどな。そんな訳で、もしニールセンが妖精じゃなくて普通の人と同じくらいの大きさだったりした場合、セトはニールセンを乗せて飛べなかった」

「……その場合、どうなるの?」

「セト篭っていうのがあって、その篭をセトが掴んで飛ぶとか、あるいはセトの足に直接捕まって飛ぶとか、そんな感じだな」

「……妖精でよかった……」


 レイの言葉を聞いたニールセンは、しみじみと呟くのだった。

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