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レジェンド  作者: 神無月 紅
妖精のマジックアイテム
2891/3865

2891話

好きラノ2021年上期が始まりました。

レジェンドは16巻が対象になっていますので、投票の方よろしくお願いします。


URLは以下となります。

https://lightnovel.jp/best/2021_01-06/


締め切りは7月24日となっています。

 レイの言葉に出て来た妖精。

 妖精の一人であるニールセンと知り合いだというのが理由なのか、あるいはレイが口にしたお菓子といった単語が効いたのか。

 その辺は具体的にどうなのか分からなかったものの、それでも妖精が出て来たことによってレイは安堵する。

 また、妖精が出て来たのが関係しているのだろうが、怯えながらもレイとセトを包囲していた狼もそれ以上は攻撃したり牽制したりする様子もなく距離を取った。

 狼の群れにとっても、レイやセトを包囲したものの、攻撃をした場合は自分達に勝ち目がないというのは理解していたのだろう。

 それだけに、こうして妖精が出て来てくれたのは狼の群れにとっても助かることなのは間違いなかった。


「あんた達がニールセンの……? 本当でしょうね?」


 姿を現した妖精は、レイとセトを見ても疑わしそうな様子を変えてはいない。

 それでも今まで姿を見せなかったのにこうして実際に姿を見せたのは、多少なりともレイの言葉を信じているからだろう。

 小さな……それこそ掌で容易に掴める程度の大きさしかない妖精だったが、何故か先天的に偉そうな態度のままだ。

 そんな妖精に対し、レイは当然だというように頷く。


「ニールセンを連れてくれば、分かると思うぞ。……それにお前もあそこに住んでいるのなら、以前俺が妖精の長に会いに行った時、俺とセトを見てないか?」


 妖精の住んでいる場所にレイが行った時、多くの妖精を見た。

 その時はゆっくりと見た訳ではなかったので、妖精を個別に見分けるといった真似はレイには出来なかった。

 しかし、妖精にしてみればレイとセトは色々な意味で特殊な存在となる。

 そうである以上、レイのことを知っていてもおかしくはない。

 だというのに、現在レイの前にいる妖精はまるでレイと初対面であるかのように振る舞っているのだ。

 レイがそれを疑問に思っても、おかしくはないだろう。だが……


「知らないわね!」


 妖精はレイの問いに対し、あっさりとそう返してくる。

 それは無理に知らない振りをしているというのではなく、本当に知らないと思っているかのような、そんな態度。


(どうなってるんだ? 本当に俺が来た時にはいなかったのか……それとも、単純に忘れているといった可能性もあるな)


 妖精というのは、人間に対して洒落にならないような悪戯をする、ある意味で享楽的な性格をしている。

 それだけに、暫く顔を見せていなかったレイをすっかり忘れていても、おかしな話ではない。

 ……レイにしてみれば、それはどうよ? と思わないでもなかったが。

 そんな風に考えていると……


「あーっ! ちょっと、レイじゃない! 久しぶり! 元気にしてた!?」


 不意にそんな声が周囲に響く。

 聞き覚えのある声に、レイはようやく安堵した。

 それは先程までレイが考えていた妖精……ニールセンの声だったのだから。

 空を飛び、真っ直ぐレイに向かって突っ込んでくるニールセン。

 その速度は以前に見た時よりも速いように思える。

 思えたが……だからといって、レイが目で追えない程ではない。

 手を伸ばし、自分に向かって突っ込んできたニールセンを受け止める。


「きゃっ! ちょっ、ちょっと、何よこの対応! 普通こういう時は、大人しく抱きつかれるものでしょ!」


 抱きつかれるのではなく、掌で受け止めるといった真似をしたのが気にくわなかったのか、ニールセンは不満そうにキーキーと喚く。

 そんなニールセンに対し、レイはミスティリングの中からドワの実を取り出す。

 エグジニスで購入したこの果実は既に結構食べたのだが、それでもまだそれなりの量がある。


「え? 何これ? 私にくれるの?」

「ああ、取りあえずこれでも食って興奮を収めろ」


 そう言ってレイはドワの実を渡したのだが……それが失敗だったのは、数秒後に判明する。


「ちょ……何これ! 甘い、甘い、甘い、美味しい! 凄いわ!」


 顔を……いや、身体中をドワの実の果汁で濡らしながら、ニールセンが叫ぶ。

 そんなニールセンの様子を見て、最初にレイとセトの前に出て来た妖精もまだ完全に警戒を解いた様子はなかったが、ニールセンの食べているドワの実を珍しそうな様子で眺めていた。

 ……いや、それは珍しそうなではなく、羨ましそうなという表現の方が相応しいだろう。

 そんな様子だけに、レイはもう一つドワの実を取り出し、その妖精に向けて差し出す。


「な……何よ。私に見せつけて自慢しながらそれを食べるつもり?」


 自分に差し出されたドワの実を見て、妖精は不満そうにそう言う。

 しかし、レイはそんな妖精の言葉に呆れたように口を開く。


「何でわざわざそんな真似をする必要があるんだよ。これはお前にやるよ。ニールセンが食べているのを見て、羨ましかったんだろ?」

「ぐ……そ、そんなことはないわよ! 別に本当にそんなことは思っていないんだからね!」

「そうなのか? その割には随分と熱心にみていたけどな。けど……そうか。お前が食わないのなら、俺が食うよ。残念だな。このドワの実はそう簡単に入手出来る果実じゃないのに。多分、ここで食い逃したら、恐らく……いや、間違いなくもう食べることは出来ないと思うけど」


 残念だな、と。そう言いながらレイは手にしたドワの実を自分の口に運ぼうとしたところで……


「そ、そんなに言うのなら、食べてあげるわよ! 言っておくけど、これはニールセンがこのドワの実というのを食べて本当に安心出来るかどうか、それを確認する為なんだからね!」


 そう叫びながら妖精が突っ込んできて、レイの手からドワの実を奪っていく。

 レイがその気なら、妖精からドワの実を守るようなことも出来ただろう。

 しかし、レイは別にドワの実を絶対に渡さないといったようなことは考えていなかった。

 それどころか、妖精にドワの実を渡す為に、敢えて今のような茶番を行ったのだ。

 それを思えば、ここで妖精がドワの実を奪うのを防ごうとする筈もない。

 ドワの実を奪っていった妖精に対して頷く。


「ああ。それでいい。……まぁ、食べるにしてもニールセンみたいに身体中を果汁塗れにするような食べ方はどうかと思うけどな」

「え? 何? 何か言った? それにしても、これ美味しいわね。その辺のお菓子よりもよっぽど甘いわ! ねぇ、これもっとないの?」


 渡したドワの実を全て食べたニールセンは、レイに向かってもっと欲しいと言ってくる。

 そんなニールセンに、レイは笑みを浮かべて口を開く。


「お前達の住んでる場所……妖精郷に連れていってくれたら、もう一個やるよ」

「私達の住んでる場所に? まぁ、レイは以前も来たからいいと思うけど……何をしに?」

「ちょっと面倒なことになって、それで匿って貰おうと思ってな。それに、以前頼んでいたマジックアイテム……霧の音がそろそろ出来たのかどうかが気になって。もしかしたら、もう霧の音が出来ているのなら、それを貰おうと思ってな」


 そんなレイの言葉に、ニールセンは少し考え……やがて頷く。


「分かったわ。レイなら問題ないでしょうから連れていくわね。その代わり、後でまた今の果実……ドワの実だったわよね。それをちょうだいよ」

「ちょっ、ニールセン!? 本当にいいの!?」


 レイから受け取ったドワの実を食べていた妖精が、ニールセンのその言葉に慌てたように叫ぶ。

 ニールセンにしてみれば、レイは自分の知り合いで長とも友好的な関係なので、妖精郷に連れていってもいいと思ったのだろう。


「いいの、いいの。レイは長からも認めてられてるし。来たら通すようにって言われてるんだから」


 勿論、ニールセンはドワの実をもっと食べたいという思いもあったのだろうが、それでもやはり長とレイが友好的な関係だからというのが大きい。

 そんなニールセンの言葉に、レイは少しだけ安堵した様子を見せる。

 ここまでしておいて、妖精郷に入るのは許可出来ないと言われたらどうするべきかと、そんな風に思ったのだ。

 もっとも、その場合はまた別の手段を考えたのだろうが。


「むぅ……分かったわよ。じゃあ、ここはニールセンに任せるから!」


 そう言い、妖精はドワの実を手にしたまま、飛んでいった。

 ……ドワの実はまだ結構な量が残っていたので、飛ぶ速度はかなり遅かったが。

 それを見たレイは、血を限界まで吸った蚊はあんな感じだったなと思い出す。

 そして動きが鈍いということで蚊を潰すと、その時は手には大量の血が付着することになる。

 いや、手だけであればまだいい。

 しかし、これが部屋の壁にとまっている蚊を潰すといったようなことになれば……ましてや、その壁が白かったりした場合、大惨事となるのは間違いない。


「ちょっと、レイ。どうしたの? もしかして……ドワの実だっけ? 今のが最後の一個だったとか、そんなことはないわよね!?」


 そこまで必死にならなくても……ニールセンの態度を見てそんな風に思うレイだったが、ニールセンにしてみればドワの実をもっと食べられるかどうかというのは重要なことなのだろう。


「安心しろ。ドワの実はまだそれなりにある。とはいえ、別に無限にあるって訳じゃないからな」


 エグジニスにある店にあったドワの実は全て購入したが、それでも結局は一つの店で売っていた量でしかない。

 ましてや、ドワの実はそれなりに高価な果実ということもあり、店ではかなりの量を購入したらしいが、それでも一つの店となるとそこまで多くはない。

 店の大量とレイの大量では、同じ大量という言葉を使っていても、その意味は大きく違ってくる。

 普通なら個人と店の大量では店の大量の方が明らかに多いのだが、大食いのレイとセトがいて、ミスティリングに収納すれば幾らでも入手出来るのなら、レイと店の大量の意味は逆転する。

 実際にレイの魔法によって気温が上がったことで果実はかなり甘くなっており、レイやセトも結構な量を食べている。

 そうである以上、どうしてもドワの実はそう遠くないうちになくなるのは間違いなかった。


「そう、ならいいわ。じゃあ……行きましょうか。あ、貴方達ももういいわよ。ご苦労様」

「ワン!」


 ニールセンの言葉に、狼の群れもそれを率いる狼が一声吠えると先程の妖精が向かった方に走っていく。


「そう言えば……今更だけど、結局また狼を飼い慣らしてるんだな」

「え? あ、うん。というか、あの時に生き残った狼を雇っていたら、同じような狼が集まってきた……という方が正しいのかな」


 レイが妖精と関わるようになった時に妖精郷を守る為に妖精に飼い慣らされていた――どちらかというと雇われていたという表現の方が正しいのだが――狼の群れがいた。

 レイとも色々とあった狼の群れだったが、その大半はレイとトラブルを起こし……そして妖精を手に入れようとした冒険者によって殺されてしまった。

 それだけに、こうして妖精郷を狼が守っているのを見て、思うところがあったのだろう。


「そうか。あの時の生き残りが……っと、そろそろ霧が出て来たな。しっかりと案内を頼むぞ」

「グルルゥ」

「いや、お前じゃなくてニールセンだからな?」


 何故か案内を頼むといったレイの言葉に反応したセトだったが、レイはそんなセトを撫でながらそう告げる。

 レイに撫でられるのが気持ちいいのだろう。セトは喉を鳴らし、嬉しそうに目を細める。

 そんなレイとセトの少し前を、ニールセンは飛んでいた。

 妖精郷を守る霧が出て来ているが、ニールセンは特に迷う様子もなくレイとセトを先導していく。

 そして暫く進み……霧を抜ける。


「うおっ!」


 霧を抜け、妖精郷に到着したところでレイの口から驚きの声が漏れる。

 何故なら、そこには多くの妖精が……それこそ数十という数で待ち構えていたからだ。

 一瞬攻撃されるのか? と思ったが、妖精達はレイを見ても攻撃してくる様子はない。

 代わりに、何かを期待するような視線を向けていた。


「えっと……何だ?」


 モンスターの群れと戦うのなら怯えたりしないレイだったが、こうして攻撃されるでもなく、ただ目の前に集まるといったようなことをされると、レイも少し戸惑う。

 戸惑いながらも尋ねるレイに、期待の視線を向けている妖精の一人がとある方向を指さす。

 そこでは先程レイがドワの実を渡した妖精の姿があった。

 大きな実を抱え込みながら、周囲に甘い匂いを漂わせつつドワの実を食べている。

 それを見れば、一体この妖精達が何を欲しているのかは明らかだった。


「あーっ! ちょ……ちょっと! 私が貰うつもりだったのよ!」


 妖精達が何を要求してるのかを知ったニールセンが叫ぶものの、妖精達は黙ったままレイに向かって視線を向けるのだった。

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