2889話
好きラノ2021年上期が始まりました。
レジェンドは16巻が対象になっていますので、投票の方よろしくお願いします。
URLは以下となります。
https://lightnovel.jp/best/2021_01-06/
締め切りは7月24日となっています。
レベル六になった地形操作は、レイにとって予想外の威力を持っていた。
勿論、強力なスキルというのは、レイにとってありがたい。
そういう意味で嬉しい出来事だったのは間違いないのだが、それでも予想外の威力を持っていたのは間違いない。
「レベル五以上で今までより格段に強力になるのは間違いないが、それでもこれはちょっと予想外だったな。……まぁ、レベルアップをする状況を考えると、当然なのかもしれないが」
今のところ、地形操作のスキルがレベルアップするのは基本的にダンジョンの核をデスサイズで破壊してだ。
魔獣術というのは、一度魔石を使ってしまえば同種のモンスターの魔石は使えなくなる。
そういう意味で、ダンジョンの核なら何度使っても全く問題なくレベルアップし続けるというのは色々な意味で特殊だった。
もっとも、ダンジョンというのは基本的に攻略するのは難しい。
ましてや、時間が経てば経つ程にダンジョンも成長していくので、攻略するのが難しくなる。
そういう意味では、今回のようにダンジョンの核であるにも関わらず、まだダンジョンを作れていなかったというダンジョンの核を見つけることが出来たのは、非常に幸運だったのだろう。
とはいえ、その幸運はレイが上空から地上を見た時に違和感に気が付くといったようなことがあり。その違和感の正体をセトが見つけることが出来たから、というのが大きい。
蜃気楼のように見える幻影で、ダンジョンの核は自分の存在を隠していた。
それこそもう少し時間があれば、ダンジョンの階層を作るといったような真似も出来ていたかもしれないが。
「グルルルゥ」
大好きなレイが喜んでいるのは、セトも嬉しい。
……デスサイズでダンジョンの核を切断することによって地形操作のレベルが上がるのなら、当然だがデスサイズと同様に魔獣術で生み出されたセトも、ダンジョンの核を使えば新たなスキルを習得出来るか、もしくは既存のスキルをレベルアップ出来るだろう。
セトも当然それには気が付いているものの、レイが喜ぶのならダンジョンの核は譲っても構わなかった。
そもそもの話、地形操作は極めて強力なスキルだ。
レベル一を習得した当初は効果範囲もそこまで広くはなく、大地を操作出来る規模も小さかった。
それがレベル六になった今では、レベル一の時とは比べものにならないくらい圧倒的な威力を持ったスキルとなっている。
レイは炎の竜巻……火災旋風を使うことにより、一軍ですら相手に出来るという風に言われているものの、レベル六になった地形操作を使えば火災旋風を使わずとも一軍も相手に出来るだけの戦力を持っているのは間違いない。
セトにしてみれば、大好きなレイが強くなるのは大歓迎だ。
また、今はレベル六である以上、この先レベル十になるのはそう遠くないと思うので、セトがダンジョンの核を使ってスキルを習得するのは、それからでも何の問題もないのも事実だった。
本来ならダンジョンの核というのは、そう簡単にお目に掛かれるものではない。
だが、レイがこのエルジィンにやって来てから、まだ数年。
それで既にダンジョンの核とこれだけ遭遇してるのだから、そう遠くないうちに地形操作がレベル十になるのは間違いないとセトには思える。
「さて、もう夜になってしまったし……結局今日はここに野営だな。地形操作でちょっと調子に乗りすぎたし」
「グルルルゥ」
レイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らす。
セトはレイと一緒にいられればそれで満足出来るのだ。
そういう意味では、下手に村や街で宿に泊まるよりも、こうして野営の方が望ましいくらいだった。
そんな訳で、野営をすると決めれば準備は早い。
……正確には準備が早いのではなく、そもそもやるべきことがそう多くはないのだが。
普通、野営をするのなら、テントを用意したり、食事の準備をしたり、見張りの順番を決めたり……そんな諸々を準備する必要がある。
しかし、レイの場合はマジックテントをミスティリングから出せばそのまま使えるので、後は焚き火の準備をして、ミスティリングから夕食用の料理を出せばそれで終わりだ。
焚き火はレイなら魔法を使うとすぐに準備出来るし、見張りに関してはセトがいるので心配する必要が全くない。
レイにしてみれば、野営の準備は本当にこれだけで終わりだった。
「今日の夕食は……そうだな、内臓と豆の煮物に、スープは野菜のスープ。それに……今日の昼にセトが獲ってくれた魚を焼いてから解して追加の具材にするか。パンはサンドイッチ……いや、内臓と豆の煮込みがあるから味が濃いし、何でもない普通のパンで十分だな」
そう言いつつ、次々に料理を出していく。
セトもレイの出す料理はどれも好きなので、それに不満はない。
そうして料理の準備が出来ると、早速食事の時間となるのだった。
『ほう、ダンジョンの核がな。レイらしいというか何というか……』
対のオーブの向こう側で、エレーナが呆れたように言う。
なお、対のオーブにはエレーナ以外にも、マリーナとヴィヘラの姿もある。
いつもならここにアーラとビューネの姿もあるのだが、アーラは少し用事があって今はおらず、ビューネは今日の仕事で既に疲れたのか眠っている。
そんな訳で、今日はこうして三人と対のオーブでやり取りをすることになっていた。
『でも、レイだからって言われると、不思議と納得出来るのよね。……エレーナとマリーナもそうじゃない?』
ヴィヘラのその言葉に、何故か納得した様子を見せる二人。
そんなヴィヘラの言葉に『レイだから』という理由で納得されるのは、レイとしては微妙なのだが。
「ダンジョンの核については予想外だったけど、俺にとっては美味しかったな。エグジニスでの一件で頑張ったからかも」
『エグジニスね。……まさか、ネクロマンシーをゴーレムの核に使うなんて、よく考えついたわね』
しみじみとしたマリーナの言葉は、レイも同意だった。
普通に考えた場合、ネクロマンシーをゴーレムの技術に組み合わせるというのは、そう簡単に考えつくようなことではない。
「ドーラン工房の主流派の錬金術師がやっていたのは間違いないが、実際に考えついたのは誰だったのか……まぁ、捕まった錬金術師達から情報提供があるから、そのうちその辺の情報もはっきりすると思うが」
『だと、いいんだけど』
元ギルドマスターのマリーナにしてみれば、エグジニスの一件は他人事ではないのだろう。
もしギルムでも同じようにそんなゴーレムが作られた場合、間違いなく冒険者が巻き込まれてしまうのだから。
「けど、ドーラン工房……いや、エグジニスのようにゴーレム産業が頻繁な場所でならそういうのがあってもおかしくはないかもしれないが、ギルムではゴーレム産業とかは殆どないし、そこまで心配する必要はないと思うけどな」
『そうかしら? ギルムの錬金術師なら技量は高いのよ。つまり、そういう技術があると知れば、同じような真似をしないとも限らないわよ』
「可能性は否定出来ないな」
ギルムの錬金術師達は希少な素材であったり、珍しいマジックアイテムには強い興味を向けているのをレイは知っている。
ギルムの増築工事において、錬金術師達はトレントの森で伐採した木を魔法的に加工しているのだが、その伐採した木を運んでいたのが、レイだ。
そしてレイが木を運ぶと、決まってそういう錬金術師達に絡まれるといったようなことが多かった。
それを思えば、もしエグジニスで起きた一件を錬金術師達が知った場合、人の魂を使わずとも、モンスターの魂を使ったり……といったようなことを行ってもおかしくはない。
そうなった時、ギルムで一体どれだけの騒動になるのか。
そう考えれば、そこには破滅しかないように思える。
エグジニスと違い、辺境であるギルムは希少な素材が圧倒的に入手しやすい。
人の魂もまた、現在のギルムでは増築工事の為に多くの者が集まってきており、そちらでも困らない。
それが組み合わさった場合、とてもではないが許容出来る範囲を超えているのは間違いなかった。
『とにかく、レイがトレントの森にある妖精のいる場所にいくのなら、これからは連絡しやすくなるな。その機会が一番多そうなのがヴィヘラだというのが少し残念だが』
『あら、そんなに残念なら、エレーナも私と一緒にトレントの森を回ってみたらいいんじゃない? 姫将軍様が来たら、きっと皆が喜ぶわよ?』
どこかからかうように、ヴィヘラがエレーナに言う。
レイがいない間、トレントの森関係の仕事は全てヴィヘラに任されている。
正確にはヴィヘラとビューネの二人にだ。
(間違いなく、三人の中で一番忙しいのはヴィヘラなんだよな)
レイは自分がやっていた仕事を思い出し、しみじみとそう思う。
マリーナも診療所で治療をするという意味では間違いなく忙しい。
だが、それでもトレントの森の一件を全て任されているヴィヘラには及ばない。
エレーナは正確にはレイの手伝いという訳ではないが、マリーナの家を自分の拠点として使っているので、そんなエレーナに会いたいと希望する者は多い。
貴族派の貴族は勿論、国王派や中立派の貴族。
それだけではなく、その三大派閥に所属していない貴族や、商人の類もやって来る。
少し変わったところでは、トレントの森の周辺に転移してきた生誕の塔や湖を研究している者達も、エレーナに面会を希望する者がいる。
そのような研究者達の中には、イエロに興味を持っている者も多い。
黒竜というドラゴンの子供を使い魔にしてるのだから、興味を持つ者が多いのは当然の話だった。
……それでもエレーナの立場を考えれば、多くの者は観察させてもらったり、あるいは少し撫でさせて貰うといった程度だが。
しかし、世の中には自分が知識を得る為なら何をしてもいいと考えている者も多い。
そのような者は、エレーナに対して黒竜を自分に譲るべきだと言う者もいる。
ある意味で勇者と呼ぶに相応しい者達だが、当然ながらその結果がどうなったのかは考えるまでもないだろう。
そんな者達のことを思い出したのか、エレーナは大きく息を吐きながら口を開く。
『ふむ。私の代わりにヴィヘラが愚か者共の相手をしてくれるのなら、そうしてもいいのかもしれんがな』
『ええ……それはちょっと嫌ね。話を聞いた限りだと、本当に中には愚か者という表現が相応しい人達が多いみたいだし。……あ、でも気にくわない相手は殴ってもいいのなら構わないわよ?』
もともと堅苦しい生活を嫌い、自由を求めてベスティア帝国の姫という立場を捨てたヴィヘラだ。
当然ながら、そんな堅苦しい場で誰かに会うようなやり取りをしたいとは思わない。
……ましてや、自分の欲望からイエロを渡すようにとエレーナに言うような者が相手であった場合、即座に手を出してもおかしくはなかった。
『むぅ、手をか。……相手にもよるが……』
『あのね、エレーナ。そんなことをする訳にいかないでしょ。ヴィヘラも無茶を言わないの』
もしかしたら一時的ににしろ、お互いの役割を変えてしまいかねない様子を見せたエレーナとヴィヘラにマリーナがそう注意する。
もし本当にそのような真似をしたら、それこそこの先一体どうなるのか。
マリーナには、とてもではないがそんなことを経験したいとは思わなかったし、それどころか想像もしたいとは思わなかった。
そんなマリーナを哀れに思ったのか、レイは話題を変えることにする。
「話は変わるけど、エグジニスの件を頼めるか? 出来れば現状のまま……って風にしたいけど、それは難しそうだから、せめてきちんとした貴族が領主になるようにして欲しい」
『ふむ、一応お父様に話をしてみるが、エグジニスの価値を考えると国王派の方で貴族を出してきそうだな』
『私も後でダスカーに話をしてみるけど、ダスカーの中立派は元々数が少ないから、その辺はあまり期待出来ないと思うわ』
レイの言葉にエレーナとマリーナがそれぞれに言う。
そんな二人の言葉を聞き、レイもそうだろうなと納得してしまう。
国王派は最近少し勢力が落ちてきているものの、それでもまた最大派閥なのは間違いない。
だからこそ、エグジニスの領主の座を国王派から出すといったようなことは十分に出来た。
……ましてや、マルカというクエント公爵家の令嬢が今回の騒動に関わっていただけに、口出しをする十分な理由もあった。
「ドーラン工房だったり、ダイラスだったり……色々と問題があるのは間違いないが、ゴーレム産業をやってるエグジニスだけに、下手な相手に任せることは出来ないと思うけど……こういう時に限って、馬鹿な真似をする奴が来たりするから、心配なんだよな」
レイの言葉に思うところがあったのだろう。
対のオーブの向こう側にいる三人は、しみじみと納得したように頷くのだった。