2888話
好きラノ2021年上期が始まりました。
レジェンドは16巻が対象になっていますので、投票の方よろしくお願いします。
URLは以下となります。
https://lightnovel.jp/best/2021_01-06/
締め切りは7月24日となっています。
「うわ……もう夕方か。ちょっと急いだ方がいいかもしれないな」
「グルルゥ」
レイの言葉に、セトが同意するように鳴く。
結局川で休憩している時に眠ってしまったレイは、起きた時にはもう午後もかなり回ってしまっていた。
そんな中で何に驚いたのかと言えば、眠っていたレイから少し離れた場所に、非常に簡単なものだが生け簀が用意されていたことだろう。
実際にはセトが地面に穴を掘って、そこに川の水を流せるように簡単な水路を作り、魚を逃がさないように水が穴の中に十分に溜まったら近くにあった石を水路に入れて魚を逃がさないようにするという、そんな生け簀。
折角セトが魚を獲ったのに、レイが昼寝をしたので、その魚の下処理をしてミスティリングに入れるようなことが出来なかった。
そのまま地面の上に置いておけば、魚は死ぬ。
かといって、ぐっすりと眠っているレイを起こしたくはない。
そんな訳で、セトは急いで生け簀を作ったのだ。
グリフォンの高い身体能力があれば、獲った魚が死ぬよりも前に生け簀を作るといったことは簡単だった。
……何度か威力を極限まで弱めた水球を地面に使って、水を魚に掛けたりといったような真似はしたが。
一時間くらい経ってレイが目覚めた時、そこには立派な生け簀があった。
レイはそのことに驚き、その生け簀の中に魚が入っているのを確認すると、セトを褒める。
そうしてどうせならともっと本格的な生け簀にしようと、セトと一緒に頑張った。
それこそ、デスサイズのスキルである地形操作を使ってまで。
結果として生け簀はかなり本格的なものになったのだが……当然ながら、誰もこないような山奥にそんな生け簀を作っても意味はないのでは? と我に返り、最終的には生け簀は川と繋げる形にして、魚が遠回りしながらも川に戻れるようにした。
勿論、レイが寝ている間にセトが獲った魚は、下処理をしてミスティリングに収納したが。
とにかくそんな感じで昼休憩どころか夕方近くまで休憩することになり、それから急いでセトに乗ってトレントの森に向かっていたのだ。
(とはいえ、セトの速度を考えても今からだとトレントの森に到着するのはかなり遅くなってしまいそうだな。そうなると、どこかで一晩野営をして、トレントの森に到着するのは明日にしてもいいか)
トレントの森は、ギルムのように夜になれば正門が閉まって中に入れなくなる……といったようなことはない。
しかし、それでも夜中にいきなりレイとセトがトレントの森に行くようなことがあれば、印象は悪くなってしまうだろう。
少なくても、レイは夜中に寝ている時に突然尋ねてくる相手は非常識な相手としか認識出来ず、好感は持てない。
あるいは尋ねてくる理由が緊急のものであれば、また話は違うかもしれないが。
そんな訳で、レイとしては自分にマジックアイテムを作ってくれる妖精の長に悪印象を持たれたくはない。
何しろ妖精の作るマジックアイテムは、錬金術師が作るマジックアイテムよりも高性能で、しかも希少なのだ。
マジックアイテムを集める趣味を持つレイにしてみれば、そんな妖精との関係は大事にしたい。
「どこか村か街があれば、宿を借りたいんだけどな。セト、どこかそれらしいのがあったら教えてくれ」
「グルルルルゥ!」
レイの言葉に、セトは任せてと鳴き声を上げる。
最悪の場合は野営でもいいのだが、それでもどうせなら宿で眠りたいと思うのはレイにとって当然だった。
もっともレイにはマジックテントがあり、その中は下手な安宿よりも施設が整い、快適だ。
そういう意味では、宿よりもマジックテントの方がいいというようなことも、十分あった。
セトが翼を羽ばたかせ、空を飛ぶ。
そんなセトの背中に乗ったレイは、夕日によって周辺一帯が真っ赤に染まる景色に目を奪われ……そんな中、不意に違和感があった。
「ん? 何だ?」
具体的に、自分が何に違和感を覚えたのかは分からない。
分からないが、それでも自分が何かを感じたということは、この景色に何かがあるのだろうというのは理解出来た。
「グルゥ?」
レイが夕暮れに染まった景色に目を奪われているのを見て、何か疑問があったのを感じたのだろう。
セトはどうしたの? と自分の背中にいるレイに向かって喉を鳴らす。
そんなセトの首の後ろを撫でながら、レイは少し困ったといったように口を開く。
「この光景……空から見ている限りだと綺麗だけど、何か違和感があるんだよ。セトはその違和感が分からないか?」
「グルゥ? ……グルルルルゥ」
レイの言葉を聞いたセトは、赤く染まった地上の様子を眺める。
レイは常人よりも圧倒的に鋭い五感を持つが、セトはそんなレイよりも更に鋭い五感を持っている。
そんなセトだけに、レイの言葉で地上の様子を確認し……やがて、鋭く鳴き声を上げた。
「グルゥ!」
見つけた! と、そう示すセトの視線を追うように、レイはじっとそちらの方を見る。
すると最初は分からなかったものの、夕日に染まっているその一部だけがゆらゆらと揺れているのが理解出来た。
真夏にコンクリートの熱で遠くの景色が揺れる……一種の蜃気楼に近いものか? と思ったものの、今はもう初秋でそこまで暑くはない。
あるいは昨日のエグジニスなら、レイの魔法の効果で同じような現象があったかもしれないが……ここは、エグジニスからは遠く離れている。
蜃気楼のような現象があるとは思えない。
だとすれば、レイの視線の先にあるのはもっと別の何かということになるのだが……それが具体的に何なのかというのは、生憎とレイにも分からなかった。
(夕日の影響で、ああいう風になってるだけ……って可能性もあるけど)
自然というのは、時に全く予想外の……信じられないような光景を生み出すというのは、それなりに聞く話だ。
ましてや、日本……あるいは地球と比べて、この世界には魔法や魔力が存在する。
そのような場所だけに、あるいは何らかの自然現象か? と、そんな風に思いもしたのだが、その光景が気になったレイはセトに頼む。
「あの蜃気楼っぽいのがあるような場所……ちょっとあそこに行ってくれないか? 気になるから、確認してみよう」
もしこれでレイが何か急いでいるのなら、そのようなことをする余裕はなかっただろう。
だが、今のレイは特に何か急いでいる訳ではない。
あえて上げるとすれば、夜に寝る場所を確保する為に村や街を探す程度だが……それも今となっては無理に探す必要もなく、蜃気楼と似た現象の方がレイの注意を引いていた。
セトもそんなレイの言葉に、蜃気楼のように揺れている景色に興味を抱いたのだろう。
そちらに向かい、翼を羽ばたかせて降下していく。
当然ながら、セトの移動速度を考えればすぐに到着する。
そうして降りた場所は、…蜃気楼のような景色のある場所のすぐ前。
さすがにセトも、今のような状況で蜃気楼のある場所に突っ込む……といった真似は出来なかったのだろう。
もしそのような真似をした場合、そこで一体何が起きるのかという不安があったからだろう。
レイもまた、そんなセトの心配を理解すると背中から降りる。
この蜃気楼が一体何なのか、もしくは蜃気楼の先に何があるのかといった疑問を抱くのは当然だろう。
「さて、ここからは何があるのか分からない。あるいは何もないのかもしれないけど、こんなあからさまに蜃気楼……というか、幻影か? そんなのがあるんだから、この先に何かがあるのは間違いないと思ってもいい。妖精の仕業じゃないとは思うけど」
これからトレントの森にある妖精の住んでいる場所に行こうとしたところで、妖精の悪戯と思しき幻影があった。
それはちょっと都合がよすぎると思うのは、レイだけではないだろう。
勿論、これが妖精の悪戯ではないという可能性も十分にある……いや、そちらの可能性の方が圧倒的に高い訳だが。
この先に何があるのかは、それこそ実際に移動してみて試してみなければ分からない。
あるいは、妖精の悪戯などということではなく、何らかのモンスターがいる可能性も否定は出来なかった。
ここは辺境ではないので、そこまで強力なモンスターがいる可能性は低い。
それでも万が一ということを考えると、警戒しないという選択肢は存在しなかった。
何があってもいいように、レイはミスティリングからデスサイズと黄昏の槍を取り出す。
そうしてレイとセトは蜃気楼のように景色が歪んでいる場所に一歩踏み出した。
すると……その先には、特に何がある訳でもない景色が広がっていた。
一瞬、もしかして自分は何かミスをしたのか?
そう思ったレイだったが、そんなレイの横でセトがじっと一ヶ所を見る。
そんなセトの視線に気が付いたレイは、一体何を見ている? とそちらに視線を向けるが……その視線の先に、有り得ない物をみる。
いや、有り得ない訳ではない。
以前にも他の街でそれを見たことがあったのだから。
「ダンジョンの……核、だと?」
そう、レイの視線の先にあったのは、ダンジョンの核。
ただし、今まで見てきたダンジョンの核の中でも、かなり弱いように思える。
剥き出しのダンジョンの核ということであれば、魔熱病の一件で行ったバールにも存在していたが、現在レイの視線の先にあるダンジョンの核は、蜃気楼を使って自分の姿を隠していたものの、やっているのはそれだけだ。
(可能性としては、まだ本格的にダンジョンとして活動する前の状態とか、そういうことなんだろうな。……ある意味、運がよかったと言うべきか?)
現在レイとセトがいる場所は、街道から大きく外れている場所だ。
普通ならそのような場所を移動したりはしないのだが、空を飛ぶセトがいるレイにしてみれば街道以外を移動するのは難しい話ではない。
……その為に、道に迷ったりするようなことも多いのだが。
ともあれ、街道から外れたこのような場所にダンジョンの核があり、それが本格的にダンジョンとなるよりも前にレイが見つけることが出来たというのは、ある意味で運命なのだろう。
レイはデスサイズを手に、ダンジョンの核に向かって近付いていく。
そんなレイを牽制するかのように、ダンジョンの核は点滅するように光る。
しかし、光った程度でレイをどうにか出来る筈もなく……
「悪いな」
一言と共にデスサイズを振るう。
【デスサイズは『地形操作 Lv.六』のスキルを習得した】
脳裏に響くアナウンス。
今までと同じように、ダンジョンの核をデスサイズで破壊することによって地形操作のレベルが上がったのだ。
(これで地形操作はレベル六。つまり、俺はダンジョンの核を六個破壊したことになるのか。そう考えると、実は俺ってかなりダンジョンをクリアしてるんじゃないか? ……まぁ、そのクリアしたダンジョンの核は、全てデスサイズで破壊してるんだが。あ、いや、レベル五になったのはダンジョン核じゃなくてドラゴニアスの女王だったか。それでもダンジョンの核を五個破壊してるのは事実なんだが)
そんな風に思っていると、セトが喉を鳴らしながらレイに身体を擦りつけてくる。
レイの頭の中に響くアナウンスメッセージは、当然ながら魔力で繋がっているセトにも聞こえる。
その逆に、セトが魔石を吸収してスキルを習得した時は、レイの脳裏にも同様にアナウンスメッセージが流れるのだが。
「ありがとな、セト。取りあえず……ここは誰もいない場所だし、丁度いい。地形操作を試してみるか」
地形操作に限らず、どのスキルもレベルが五になるとその威力は一気に強力になる。
地形操作の場合、レベル四の時は自分を中心として半径七十mの範囲内の地面を、百五十cm上下させることが出来たのだが、レベル五になると自分を中心に半径一kmの地面を五m上下させることが出来るというように。
そうである以上、レベル六になった今の地形操作が一体どれだけの効果があるのか、試してみたいと思うのは当然だった。
「よし、行くぞセト。……多分大丈夫だと思うけど、何かあった時の為に注意はしておいてくれ」
「グルルルゥ!」
レイの言葉に、任せてと喉を鳴らすセト。
そんなセトの姿を確認してから、レイはデスサイズの石突きを地面に突きつけ……
「地形操作!」
そう叫んだ瞬間、地面が大きく動く。
「うおっ!」
予想以上に大きく動いた為、自分でこの光景を作り出したにも関わらず、レイの口からはそんな動揺の声が漏れた。
だが……当然だろう。
半径二kmの広さの地面を十m程も上下させることが出来たのだから。
効果そのものは、レベル五の時の丁度倍となっているのにレイが気が付くには、もう少しだけ時間が必要だった。
そして気が付けば、次からは地形操作のレベルが上がる度に効果は倍になっていくのか? と、喜ぶべきか、驚くべきか、あるいは困るべきか……そんな風に迷うのだった。
【デスサイズ】
『腐食 Lv.六』『飛斬 Lv.五』『マジックシールド Lv.二』『パワースラッシュ Lv.五』『風の手 Lv.四』『地形操作 Lv.六』new『ペインバースト Lv.四』『ペネトレイト Lv.五』『多連斬 Lv.五』『氷雪斬 Lv.四』『飛針 Lv.一』『地中転移斬 Lv.一』
地形操作:デスサイズの柄を地面に付けている時に自分を中心とした特定範囲の地形を操作可能。レベル二は半径三十mで地面を五十cm程を、レベル三は半径五十mで地面を一m程、レベル四は七十mを百五十cm程、レベル五は半径一kmを五m程、レベル六は半径二kmを十m程上げたり下げたり出来る。