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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2881/3865

2881話

 レイにとっては完全に予想外の出来事が起きてから少しして、レイは大通りとはまた違う通りを歩いていた。

 最初に予想したように、ネクロゴーレムによって被害を受けた大通りはともかく、それ以外の場所は普通に店が運営されていた。

 とはいえ、当然ながらそのような場所で開いている店も、ネクロゴーレムの一件で色々と不安に思っている者はいる。

 レイが周囲の様子を気にしていると、買い物客であったり店の店員や店主がそれぞれ不安を口にしているのが聞こえてきた。


(これだと、セトのお土産とかはあまり期待出来そうにないか? セトに留守番させてるんだし、出来れば何かお土産を買っていきたいところなんだけど)


 そんな風に考えていると、不意にレイに近付いて来る人影に気が付く。

 先程の錬金術師の女のように尾行してくるといった様子ではなく、普通にレイと接触する為にやって来たと思しき相手。

 しかもドラゴンローブを着てフードを被っている今の状況では、本来ならレイをレイと認識するのは難しい筈なのだが……それでもこうしてレイに向かって真っ直ぐに向かっている以上、普通の相手でないのは明らかだろう。

 ドラゴンローブの隠蔽を見抜いているのか、あるいはレイの姿を見ただけで実力を見抜いてレイだと認識したのか、もしくはそれ以外の理由からか。

 ともあれ、何らかの理由で自分に用件があるのだと判断したレイは素直に近付いて来る男を待つ。


「初めまして、レイさん。私はドワンダ様に仕えている者です」

「……なるほど」


 誰が自分に用件があるのかと思っていたレイだったが、その相手がドワンダであると言われれば納得は出来る。

 とはいえ、今のドワンダにそんなことをしている余裕があるのか? といった疑問もあったが。

 ドワンダはダイラスによって大きな怪我をした。

 ポーションのおかげで命に別状はなかったものの、腕をなくした現状では今後の仕事にも影響が出る。

 マジックアイテムの義手を使えば何とか仕事も出来るかもしれないが。

 ドワンダの商会はこのエグジニスの中でも大きな商会の一つである以上、マジックアイテムの義手を購入することも可能だろう。

 しかし、ドワンダは結構な年齢だ。

 今回の一件で自分はもう限界に近いと判断したのか、息子に自分の地位を譲ることにしたと聞いていた。

 とはいえ、当然ながら今のような忙しい状況ですぐに商会長の座を譲るといったような真似が出来る訳でもない。

 つまり、この騒動が一段落してから……という話になっていたはずだったのだが、それで自分に接触してきた理由がレイにはあまり分からなかった。


「ドワンダが俺に用件があるのか? 一応、今の俺はどちらかといえばローベルに近しい存在の筈なんだが」


 正確にはローベルと手を組んでいる……あるいは同盟を結んでいるオルバンと友好的な関係である、というのが正しい。

 そんな自分に用があるというのは、一体何なのか。

 そんな疑問をレイが抱くのは当然だろう。


「私が聞いた話によると、ポーションの用意が出来たから取りに来て欲しいと」

「ポーション……? ああ、そう言えばそんな話もしてあったな」


 レイがネクロゴーレムを倒すということになった時、自分もそれを依頼したという形にする為に、ドワンダもまたレイに依頼するという形になっていた筈だった。

 その際の報酬として、レイは金ではなくポーション……それも相応に効果の高い物を欲したのだ。

 ドワンダが接触してきた用件は、そのポーションが用意出来たからだったのだろう。


(とはいえ、ただポーションを渡す為なら、わざわざ俺を呼ぶような真似をしなくても、それこそ俺に接触してきたこの男にポーションを渡せばいいだけなんだよな。そうしなかったということは、ポーションを渡す以外にも何らかの理由があってこのような真似をしたのか)


 今この状況で自分に接触してくる理由……それがレイには分からない。

 これでレイが明確にローベルに雇われているといったような場合なら、レイを引き抜くといった真似をしてもおかしくはない。

 だが実際には、レイはあくまでもローベルの協力者であるオルバンに雇われているといった形なのだ。

 そんな状況で引き抜きをするとは……


(いや、寧ろ雇われているから、か?)


 ただレイが雇われているような状況なら、それこそオルバンとの契約が終わった後で自分がレイを雇いたいと考えてもおかしくはなかった。


(ましてや、ドワンダは息子に地位を譲る。そんな時、息子の部下に俺のような存在がいれば……いや、それはどうだろうな?)


 レイは自分が決して扱いやすい人材であるとは思っていない。

 気にくわない相手に対しては、それこそ相手の立場がどうであろうと……それこそ貴族や王族であろうとも、レイは相手に遠慮するような真似をせずに敵対する。

 そんなレイを部下にするというのは、雇う方もかなりの危険を前提とする必要がある筈だった。

 レイがドワンダの立場なら、そのような者を部下に欲しいとは思わないだろうというくらいには自覚があった。


「ただ、俺にポーションを渡す為に呼んでこいと言ったのか?」

「私はそれしか聞かされてません。どうでしょう、見たところ今は特に何か忙しそうでもありませんし」


 男の言葉にレイは少し考え、やがて頷く。


「分かった。お前の言う通り、今は何か特に急いでやるようなことはないしな。それならちょっとドワンダの話に付き合ってもいい」


 話の内容は何となく理解しつつ、それでも断るようなことがなかったのは、今は本当に特に何かやるべきことがあった訳でもないからだ。

 また、ドワンダが自分と話す切っ掛けとして用意したポーションの類も気になったからというのが大きい。

 半ば暇潰しに近い理由ではあったが、それでも無事にレイを連れていくことが出来る男は安堵した様子で口を開く。


「ありがとうございます、レイさん。では早速案内しますので……」


 そう言い、使いの男はレイを先導するようにして歩き始めるのだった。






「へぇ……てっきりドワンダの商会に案内されるのかと思っていたんだけど」


 意外そうな表情を浮かべるレイ。

 ドワンダが呼んでいるということでやって来た場所が、実は一軒の家……それなりに豪華ではあるが、エグジニスの中でも大手の商会を率いてる人物が使っている家とは到底思えなかったのだ。

 それこそ、一般人がちょっと……いや、それなりに無理をすれば購入出来るといった家。


「はい。ドワンダ様はレイさんときちんと話をしたいとお望みですので」

「そういうものか? 別にここで商会に案内してもよかった思うんだけどな。いやまぁ、それならそれで構わないけど」


 男の案内に従って家の敷地内に入っていく。


(そう言えば、ロジャーもちょっと治安の悪い場所に自分用の隠れ家的な家を持っていたな。もしかして、エグジニスではそういうのが流行っていたりするのか? それならそれで構わないとは思うけど)


 この辺にもネクロゴーレムのブレスによる被害はないということに安堵しながら、家の扉を開ける。

 するとそこには、メイドが一人待っていた。


(ドワンダの怪我を考えれば、当然こういう風にメイドとかは必要になるのか。片腕が使えないってのは、かなり面倒だし)


 レイがそんな風に思っている間に、レイをここまで案内してきた男がメイドに一礼してから口を開く。


「ドワンダ様の指示により、レイさんを案内してきました」

「はい、お話は伺っています。どうぞ。ドワンダ様が奥の部屋でお待ちですので」


 そうメイドが言い、レイを建物の中を案内する。

 レイをここまで連れて来た男は、レイをメイドに渡したことで仕事は終わったのだろう。

 レイやメイドと一緒に行動するようなことはなかった。

 そうして男がいなくなった中で建物の中を進み……やがて一つの部屋の前に到着する。


「旦那様、レイさんがおいでになりました」


 扉をノックしてそう言うと、中から部屋の中に入るようにと声が聞こえてきた。

 その言葉を聞いたメイドが扉を開くと、レイは部屋の中に入る。

 メイドは一礼すると、自分は部屋に入ることはなく扉を閉めた。


「わざわざすまなかったな。取りあえずソファに座ってくれ」


 腕を失った影響からか、執務机ではなくソファに座って何らかの書類を見ているドワンダがレイに向かってそう言う。

 レイはその言葉に頷き、ドワンダの正面に座ってから口を開く。


「いや、気にしないでくれ。それにしても、誰か部下に指示を出したりしてるのかと思っていたんだが……見た限りでは別にそんな訳でもないんだな」

「うむ。そういう仕事もあるのだが、そちらは息子に任せてある。今回の騒動が終わってしまえば、商会長の地位を譲るのだ。そうである以上、今ここで自分の力を周囲に見せておく必要がある」


 そう告げる様子が少しだけ悔しそうに見えたのは、決してレイの気のせいではないだろう。

 ドワンダは五十代と、それなりの年齢ではある。

 だが、その性格は非常に精力的で、体力的にも精神的にも年齢よりも遙かに若いのは間違いない。

 そんなドワンダだけに、本来ならまだそれなりに長い時間自分が商会を率いることが出来ていただろう。

 そのようなことが出来なくなったのは、今回の一件が原因だ。

 今の自分の状況について、色々と思うところがあるのは間違いない。

 しかし、ドワンダはそんな状況を決して人に見せるような真似はしない。

 あるいは気を許しているような者に対しては別なのかもしれないが、少なくてもレイにそのような態度を見せるようなことはなかった。


「そういう風に納得してるのなら、それでいい。……で、俺に渡すポーションは? それが用意出来たって話を聞いたから、ここに来たんだが」

「心配するな。ポーションは用意してある」


 そう言うと、ドワンダは残った手で書類の横に置いてあった鐘を鳴らす。

 するとすぐに先程レイをこの部屋まで案内したメイドが姿を現す。

 先程と違うのは、ポーションが二十本程乗ったカートを持ってきたことだろう。

 そのカートをソファに座っているレイの側まで持ってくる。

「へぇ……」


 カートに乗せられたポーションを見たレイの口からは、感嘆の声が出る。

 そのポーションはどれも色が濃く……つまり店で安く売ってるような物ではなく、相応の値段がする効果の高いポーションであるのは明らかだったからだ。

 レイがネクロゴーレムの討伐を引き受けた時、ローベルやドワンダには報酬として効果の高いポーションが欲しいと要望していたが、そんなレイの要望に見事に答えた形だった。

 レイにしてみれば、言ってはみたものの、それでも本当にこれだけのポーションを用意してくれるとは思っていなかったのだが。

 勿論、カートの上にあるポーションは相応の値段がするとはいえ、光金貨が必要といったような圧倒的な値段の高さの物はない。

 だが、それでも金貨……物によっては白金貨数枚くらいは必要なのではないかと思われるくらいに効果の高いポーションがあるのは間違いなかった。

 値段や効果は多少前後するが、そのようなポーションが二十本程。

 カートの上にあるのは、結構なお宝なのは間違いない。

 とはいえ、ドワンダにしてみればこの程度の出費は大したことない。

 曲がりなりにも、このエグジニスにおいて大商会を率いているのだ。

 このくらいのポーションを集めるのはそれなりの出費ではあるものの、それでも大きな意味を持つのは間違いない。


「一応聞くけど、このポーションは全部俺が貰ってもいいんだよな?」

「ああ、それで構わない。ネクロゴーレムの討伐を依頼したというのは、それだけの意味がある。それどころか、この報酬をレイに受け取って貰わないと、ただ働きをさせたという風になりかねない。あるいは……そもそも依頼をしていないといった形になる可能性もあるな」


 だからこのポーションを受け取ってくれ。

 そう言われれば、レイもしっかりとポーションを報酬として依頼を受けた以上、このポーションを受け取らない訳にはいかない。


(しまったな。今更だけど、こんなにあっさりとポーションを渡すのなら、もっと高価なマジックアイテムか、あるいは何らかのゴーレムでも要求しておいた方がよかったんじゃないか?)


 本当に今更の話なのだが、そう思うレイ。

 とはいえ、あの時は急いでいたし、ポーションの類はどれだけあっても困るものではない。

 そういう意味では、今回の報酬はポーションでよかったという考えもあるのだろう。

 そう判断しながら、レイはカートの上にあるポーションを全てミスティリングに収納するのだった。

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