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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2879/3865

2879話

 ロジャーの開発した新技術は、結局レイにとっては期待した程ではなかったらしい。

 正確には、錬金術師にとってはそれなりに大きな技術なのかもしれないが、あくまでも現行の技術の先にあるもので、例えばレイが期待していた……いや、妄想したような清掃用のゴーレムが変形したり、あるいは合体したり……もしくは空を飛んだりといったような技術ではない。


(いやまぁ、今にして考えてみれば清掃用のゴーレムが変身したり合体したりしても、特に意味はないかもしれないけど。空を飛ぶのなら、多少は清掃の役に立つかもしれないけど)


 新技術を求めるという意味では、そういうロマンを求めるような技術を開発しても構わないのだろうが、生憎と今はそのような状況ではない。

 そもそもロジャーがここまで必死になって新型のゴーレムを開発しているのは、あくまでドーラン工房に追い抜かれたエグジニスでも最高の工房という名誉をジャーリス工房が取り戻したいからだ。

 だが、今の状況を考えるとドーラン工房は半ば自滅したような形となっている。

 そうである以上、わざわざロジャーが新技術を、そして新しいゴーレムを開発するといったような必要もなくなってきたのは間違いない。


「とにかく、話は分かった。それで新技術ってのは具体的にどういう技術なんだ? これまでの技術と同じような感じだって話だったが」

「専門的な用語を抜きにして、レイに分かりやすいように言えば……ゴミを見つけてそれを処理する為の全体的な判断力の早さが上がった」

「……つまり、全体的に高性能になったということか?」

「それで間違ってはいない」


 新技術によって全体的に高性能になったという話は、レイにとってもそれなりに驚きではある。 それが具体的にどのくらい能力が上がっているのかといったことが分からない以上、それについてはどう判断すればいいのかは分からないが。


(とはいえ、ロジャーの性格を考えれば少しだけ能力が上がった程度でわざわざ俺に許可を取ってまで、今の街中に清掃用のゴーレムを放つといったようなことは考えない筈だ。だとすれば、今回の一件は俺が思っていたよりも凄いことだったりするのか?)


 レイにしてみれば、清掃用のゴーレムが具体的にどのくらいの性能を持つのかは分からない。

 ただ、その清掃用のゴーレムはあくまでもレイが頼んだ物であるのも事実。

 つまり、自分が頼んだ清掃用のゴーレムの性能が上がるのは、レイにとって決して損ではない。


「とにかく、その清掃用のゴーレムを使いたい。……構わないか?」


 真剣な表情でそう尋ねてくるロジャーに、レイは迷う様子もなく頷く。


「ああ、構わない。今のエグジニスの状況を考えれば、清掃用のゴーレムは少しでも多い方がいいしな。街中にいた清掃用のゴーレムは、結構な数がネクロゴーレムによって吸収されたし」

「それだ。ネクロゴーレムという存在についての話は聞いている。だがしかし、本当に死体をゴーレムのようにして使うことは出来るのか?」


 ネクロゴーレムという言葉に反応して、ロジャーは真剣な様子でレイに尋ねてくる。

 ロジャーにしてみれば、ドーラン工房がダイラスを核として作ったネクロゴーレムという存在は、同じ錬金術師だけに強い興味を惹かれるのだろう。

 ロジャーの性格から何となくこうなるだろうとは分かっていたものの、だからこそレイはそんなロジャーに対して注意する必要があった。


「ロジャー、分かってると思うが、ネクロゴーレムはかなり危険な存在だ。もしお前がネクロゴーレムを作ろうとしているのなら、俺はお前を殺してでもそれを止める必要がある」


 ネクロゴーレムは、その名の通りネクロマンシー……人の死体を使って作られたゴーレムだ。

 それだけでも厄介だというのに、ネクロゴーレムの場合は傷を付けた場所から腐液を流し、それに触れると猛毒の煙となる。

 もしロジャーがそんなゴーレムを作ろうとしているのなら、実際にネクロゴーレムと戦い、そして倒した者として、それを放っておく訳にはいかなかった。


「も、勿論そんなことは考えていない。ただ、少し興味深いと思っただけだ」


 レイの言葉に本気を感じたのだろう。

 ロジャーは慌てたようにそう言う。

 正直なところ、レイはそんなロジャーの言葉をどこまで信じてもいいのか迷う。

 ロジャーの性格を考えれば、それがゴーレム技術の発展に繋がるのならネクロゴーレムに手を出してもおかしくはないと、そう思えたのだ。

 レイも、普通にゴーレムについてであれば許容することが出来たかもしれないが……それがネクロゴーレムとなれば、話は別だった。


「とにかく、今は清掃用のゴーレムを使うんだろ? まずはそっちに集中した方がよくないか? ……個人的には、防御用のゴーレムはどうなってるのかと突っ込みたいところだが」


 オークナーガの素材を使って清掃用のゴーレムが高性能化したというのはレイにも理解出来る。

 だが、レイにとって本当の意味で重要なのは、やはり防御用のゴーレムだった。

 以前にジャーリス工房に来た時は防御用のゴーレムが使う装備の一部を見せて貰ったので、防御用のゴーレムは全く何も開発していない訳ではないのだろうが。


「そちらもきちんと開発中だ。しかし、既に多数のゴーレムが製造されている清掃用のゴーレムの方が開発が容易なのは間違いない」

「納得出来る理由ではあるけど、出来れば防御用のゴーレムを優先して欲しかったな」


 そんなレイの言葉に、ロジャーは不満そうな様子を見せながらも口を開く。


「別に防御用のゴーレムを忘れていた訳じゃない。それより、清掃用のゴーレムをさっさと使おう。レイはどうする? 一緒に来るのなら止めないが」

「あー……そうだな。正直なところちょっと迷ってる」


 もしこれで、清掃用のゴーレムに使われた新技術というのがレイにとって興味深いものであったのなら、直接それがどう動くのかを見に行ったりもしただろう。

 しかし、新技術ではあってもレイが期待したような技術ではない以上、わざわざ見に行く必要はないように思えた。


(とはいえ、せっかくここまで来たのに、結局何もしないで戻るってのも、ちょっとどうかと思うしな。それなら、やっぱりある程度見て回った方がいいのかもしれないけど)


 レイにしてみれば、このままスラム街まで戻るのはどうかと思う。

 かといって、自分が清掃用のゴーレムの様子を見に行く気分でもない。

 もし今が普通の……特に何もないような時なら、それこそレイは大通りに行って屋台で何かを買ったり、もしくは武器やマジックアイテムといった物を売ってる店に顔を出して、何か気に入った物があったら購入する……といったような真似をするのだが、生憎と今の状況ではそのような真似は出来ない。

 何しろ大通りは結構な被害を受けているのだから。

 そう考えたレイが出した結論は……


「適当な場所を見てから、俺はスラム街に戻るよ。大通りには出てない店でも、ネクロゴーレムの被害がなかった店ならまだやってるかもしれないし」


 レイの言葉に、ロジャーは微妙な表情を浮かべながらも頷く。

 そうして、ロジャーはレイから許可を貰ったので早速清掃用のゴーレムと共に街中に……そしてレイは、大通り以外の場所で何かセトに対してのお土産でも購入する為に行動する。

 そのつもりでロジャーと別れ、ジャーリス工房から出たのだが……


(誰だ?)


 自分を追ってきている者達の気配を察したレイは、少しだけ戸惑う。

 あるいはこれが、出来る限り気配を押さえているのなら何らかの裏の組織であるという風に納得も出来るだろう。

 だが、気配を消すといったような真似は当然ながら、足音を消すことすらしないでレイを追っているのだから、訓練の類を受けている相手でないのは間違いない。

 それでいながら、レイに対して含むところがあるのが気配から察することが出来る。

 憎悪や殺意とまではいかないが、何らかのマイナスの感情を抱いてる存在。

 そう考えたレイは、風雪のアジトまでレイに会いに来た冒険者の言葉を思い出す。


(そうか、そう言えばネクロゴーレムに自分の製造したゴーレムを吸収されたことで、思うところがあるような奴がいるって話だったな。こいつはその類か?)


 そう考えれば、憎悪や殺意程ではないにしろ、レイに対して思うところがあるというのは納得出来た。

 ……実際には、別にネクロゴーレムはレイが生み出した訳ではないのだから、そのような感情を向けられても困るのだが。

 それでも既にネクロゴーレムがいない以上、そのような感情はレイに向けるしかないのだろう。

 だからといって、レイがそんな相手の行動を大人しく受け入れるかと言われれば、その答えは当然のように否なのだが。


(あの曲がり角でいいか)


 道を歩いている中で、レイは曲がり角を曲がる。

 だが、そのまま道を進むのではなく、曲がってすぐの場所に寄り掛かって少し待つ。

 するとレイを追ってきた相手が、いきなり曲がり角を曲がったレイを逃がす訳にはいかないと、走ってくる音がして……やがてレイの前に一人の女が姿を現す。


「っ!?」


 そして女は、曲がり角を曲がった場所で待っていたレイが自分の尾行に気が付いていたと知ると、狼狽し……すぐに鋭い視線をレイに向けてくる。


「貴方がレイね!」


 ドラゴンローブのフードを被っている今の状況であっても女がレイを見間違うようなことはなかった。

 それはジャーリス工房でレイであると認識したからというのが大きかったのだろう。

 あるいは、単純に女が錬金術師としてマジックアイテムを見抜く目を持っているから、こうもあっさりとレイであると見抜けたのもしれない。

 その辺りの理由は残念ながらレイには分からなかったが、それでも女が自分をレイであると認識しているのは間違いない。

 そうである以上、ここで知らない振りをしても通用しないのは間違いなかった。


「ああ、俺はレイだ。それでお前は? ジャーリス工房から俺を尾行してきたみたいだが……ジャーリス工房所属の錬金術師か? 何でも、自分の製造したゴーレムがネクロゴーレムに吸収された錬金術師の中には、俺を恨んでいる奴もいるって話だったけど」


 お前がそうなんだろう?

 言葉には出さないものの、視線でそう告げる。

 女の方も自分がゴーレムの件でレイを恨んでいるというのを知られている以上は、隠すこともないと判断したのだろう。

 レイを睨み付けながら頷く。


「そうよ。私の可愛いゴーレムは、あのネクロゴーレムなんていう醜いゴーレムに吸収されてしまった。それもこれも、貴方のせいよ!」


 そう叫ぶ女だったが、レイとしては自分にそんなことを言ってくるのはそもそも間違いだろうと口を開く。


「ネクロゴーレムが憎いのは認めるが、だからといってお前の作ったゴーレムがネクロゴーレムに吸収されたのを俺のせいにされてもな」


 レイの言葉に、女の視線は一段と鋭くなる。

 目つきこそ鋭いが、女は理知的な美人と評しても決して間違いではないだろう。

 そのような理知的な美貌の持ち主に鋭く睨み付けられるのは、そういう趣味がある者にしてみればご褒美なのかもしれない。

 しかし、レイにしてみればそんな風に睨み付けられても、見当違いの女の行動に不満を募らせるくらいしかすることはなかった

 やがて女も理知的だからこそ、自分の行動がレイに対して理不尽なものであると理解していたのだろう。

 苛立ちを見せながらも、レイから視線を逸らす。


「分かってるわよ。でも、私はあの子を作るのにかなりの労力を掛けたの。それが修理出来るくらいに壊れたのならともかく、残骸も何も残らなかったのよ?」

「そもそも、何でそんな状況でゴーレムをネクロゴーレムに接触させるような真似をしたんだ? 触れれば吸収されるというのは分かっていたんだろう?」

「逃げ遅れた人がいて、少しでも時間を稼がないといけなかったのよ」


 その言葉に、レイは少しだけ女に対する評価を上昇させる。

 手柄を独り占めにしたくて、あるいは自分のゴーレムなら大丈夫だと根拠のない自信を抱いて。

 もしくは、何らかのもっと身勝手な理由でネクロゴーレムに自分のゴーレムを接触させたのかと思ったのだが、今の話を聞く限りでは人を助ける為にそのような真似をしたということだったのだから。


「お前のゴーレムはその相手を助けたんだろう? なら、そのことを誇りに思うのならまだしも、それで俺を恨むというのはどうなんだ?」

「それは……」


 女も、レイの言ってることが正しいのは分かる。

 だが同時に、その正しいことで全てが納得出来る訳がないのも、また事実であり……レイの言葉に黙りこむのだった。

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