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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2875/3865

2875話

 レイとローベル、オルバンとの話はそう長く続くこともなく終わった。

 ローベルは本来ならもっとレイと話したいことがあったのだが、今の状況を思えばそんなに長時間の話をしているような余裕はない。

 他の仕事が多数存在している以上、そちらの仕事をどうにかする必要があると考えるのは当然だろう。

 最低限のことを聞いた以上、世間話をしているような余裕はない。


「で、どうじゃった? 話は随分と早く終わったようじゃったが」


 部屋から出たレイを見て、マルカがそう尋ねてくる。

 マルカにしてみれは、話が早く終わるというのは十分に予想していたのだろう。

 だからこそ、レイが中に入ってからも部屋の前からいなくなるといったようなことはなかったのだろう。

 ニッキーは特に表情を変えなかったが、それでもマルカと一緒にここで待っていたということは、つまりそういうことだ。


「取りあえず報告は終わった。後は、ローベル達がネクロゴーレムの残骸とかをどうにかして、今回の騒動が正真正銘解決したと宣言すれば、問題ないだろ」


 レイとセトによってネクロゴーレムが倒されたというのは、既に情報としてかなり広がっている。

 それだけエグジニスの住人にとってネクロゴーレムというのは脅威的な存在だったのだろう。

 レイにもそれは理解出来ていたが、それでも正式にネクロゴーレムの討伐が完了したという話をするには、きちんとした証拠が必要となる。


(もっとも、あんな状況になった以上、ネクロゴーレムの残骸らしいのが何か残ってるとは思えないが)


 レイは魔法……それもかなりの大魔法を使ってネクロゴーレムを倒したのだ。

 今もまだ灼熱地獄となっているあの場所に、一体どのような残骸が残っているのか。

 そんな風にレイが疑問に思うのは当然の話だろう。


「それで、報告は終わったのじゃろう? これからどうするのじゃ?」

「風雪のアジトに向かう」


 レイがこの役所に来てよかったと思うのは、ゴライアスについて知ることが出来たことだろう。

 そのおかげで、リンディから頼まれて一緒にゴライアスを捜していたレイだったが、ようやくその場所を見つけることが出来たのだ。

 これはレイにとって大きな収穫だったと言ってもいい。


(リンディはゴライアスがいなくなったのはドーラン工房が関わってるって言ってたけど、見事に当たってたんだな。冒険者の勘……いや、女の勘か)


 必死になってリンディがゴライアスを捜しているのはレイも分かっていたが、アンヌ達のように違法奴隷になっている者達の捕まっていた場所にもゴライアスの姿はなかった。

 そう考えれば、ゴライアスがいなくなったとしてもそれはもっと別の理由……それこそリンディには言えなかったものの、何らかの依頼に失敗して死んだか、もしくは他の街に恋人が出来てそちらに行ったか。

 そういう可能性の方が高いだろうとレイは思っていたものの、どうやらそんなレイの予想は外れたらしい。

 その結果として、ゴライアスは痩せ細った状態で見つかったが、それでもドーラン工房に囚われていたということを考えると、命があっただけで幸運だったのは間違いない。

 ドーラン工房がどれだけの人の命を奪ってきたのかを考えれば、そう思うのは当然だった。

 ともあれ、詳しい事情についてはオルバンやローベル達もまだ知らなかったようなので、取りあえず風雪のアジトに戻れば多少なりともその辺の情報も入手出来るだろうというのが、レイの予想だった。


「ふむ、風雪のアジトはスラム街じゃったな」

「駄目っすよ」


 マルカが何かを言うよりも前にニッキーが釘を刺すように言う。

 マルカの護衛として、ニッキーはマルカの性格をそれなりに知っている。

 だからこそ、今のような状況でマルカが何を言おうとしているのかはすぐに理解出来てしまった。


「むぅ、まだ妾は何も言ってないじゃろう」

「お嬢様のことだから、スラム街に行ってみたいとか、そんな風に言うと思ったので先回りさせて貰ったっす。……間違ってたら謝るっすけど」


 ニッキーの言葉に、マルカは何も言えなくなる。

 ニッキーにしてみれば、マルカの護衛としてここにいる以上はマルカを危険な場所に連れていく訳にはいかない。

 そんな中でマルカがスラム街に行くと言った場合、どうなるか。

 ただでさえ、スラム街は非常に危険な場所なのだ。

 そのような場所に行くようなことがあった場合、間違いなくマルカは面倒に巻き込まれる。

 そしてマルカが面倒なことに巻き込まれた場合、当然のように護衛のニッキーもまたその面倒に巻き込まれてしまうだろう。

 ましてや、現在エグジニスはネクロゴーレムの一件でとてもではないが普通の状況ではない。

 そのような状況は、当然のようにスラム街にも影響を与えており……普段のスラム街よりも、一層危険な状況になっていてもおかしくはなかった。

 ……実際には、レイとセトが一緒なら現在のエグジニスのスラム街では、手を出してくる者はかなり少ないのだが。

 何しろレイは異名持ちの高ランク冒険者だし、風雪の……エグジニスの中でも最大手の暗殺者ギルドの客人という立場にいる。

 そのような状況でレイに手を出せば、それは即ち風雪の顔に泥を塗るのと同じようなものだ。

 これが普段なら、喧嘩を売るといったような意味でちょっかいを出す組織もあるのかもしれないが、一連の騒動で風雪に敵対的な暗殺者ギルドはかなりの被害を受けている。

 そうである以上、今の風雪にちょっかいを出すような者はそういない。

 あるいは現在のエグジニスの裏について何も知らないような者がいれば、ちょっかいを出してくるような者もいるかもしれないが。


「じゃあ、マルカとニッキーはスラム街に来ないんだな?」

「ぬぅ……」


 確認をするようなレイの言葉に、マルカは何も言えなくなる。

 ニッキーに釘を刺された以上、マルカもスラム街に行けるとは思えなくなったのだろう。

 レイとしては、マルカが行くのならそれはそれで構わないと思うのだが。


「そうっすね。俺とお嬢様はこっちに残るっす。この後で何かがあるのかは分からないっすから。それに、国王派の貴族として行動する必要もあるかもしれないっすしね」


 国王派の貴族として動くというは、この場合は非常に大きな意味を持つ。

 マルカの実家であるクエント公爵家は、国王派の中でも大きな影響力を持つ人物の一人だ。

 そんなクエント公爵家の娘にして、まだ子供であっても魔法の高い実力を持つ……それこそ、次代の姫将軍と呼ばれることもあるマルカだ。

 国王派の貴族にしてみれば、そんなマルカを軽く扱うような真似は出来ないだろう。


(俺は派閥に所属している貴族とかには詳しくなかったけど、多分一階で役人に不満を言っていた中にも国王派の貴族はいるんだろうな。他にも貴族派や中立派の貴族がいてもおかしくはないけど)


 そう思いながら、レイはふとエグジニスにおいて知り合った中立派の貴族二人を思い出す。

 幸い……という表現はどうかと思うが、その二人は一階で役人に不満を言ってる者の中にはいなかった。

 もしいた場合、レイとしては恐らく微妙な気分になってしまっただろう。


「分かった。国王派の貴族を任せてもいいのなら、そっちは任せるよ。何かあったら……そうだな、宿の方に連絡を残してくれ」


 レイが泊まっていた宿は、まだ部屋を借りたままになっている筈だった。

 であれば、何かあった時はそちらに伝言を残せば連絡が出来る。

 ……とはいえ、今のこのような状況の中でそんなに急にレイに連絡をする必要が出て来るとは思えなかったが。


(いや、それともこうして混乱している状況だからこそ、連絡をする必要が出て来るような事態が起きるのかもしれないのか?)


 ネクロゴーレムの混乱に紛れて、何らかの悪事を働くような者がいないとも限らない。

 とはいえ、多少の小悪党が動いたところで、警備兵が対処するだろう。

 ローベルやドワンダにしてみれば、ネクロゴーレムの一件で非常に大きな失態をしている。

 それこそローベルは今回の失態でエグジニスの自治権はなくなるだろうと予想しているくらいに。

 そうである以上、今後の立場を考えれば火事場泥棒をするような相手には非常に厳しく当たるというのが、レイの予想だ。

 エグジニス全体のことを考えれば、オルバンもまた風雪の暗殺者を動かして治安維持に当たってもおかしくはない。


「取りあえず、俺はもう行く。何かあったらよろしく頼むな」

「うむ。残念じゃが仕方あるまい。妾の方でも何か用があったらレイに知らせよう」

「俺もお嬢様の護衛がなかったら一緒にいくんすけどね……」


 しみじみと呟くニッキーの足を、マルカが踏みつける。


「妾の護衛が不満じゃというのか?」

「痛っ! 痛いっすよ、お嬢様!」


 そんないつも通りのやり取りを一瞥してから、レイは役所を出るのだった。






「グルルルルゥ!」


 レイは役所を出ると、セトを捜して歩き回っていたのだが……そんなレイの姿を見つけて、セトが嬉しそうに鳴き声を上げる。

 鳴き声のした方に視線を向けると、そこではセトが瓦礫の後片付けを手伝っていた。

 高ランクモンスターであるセトにしてみれば、瓦礫を運ぶというのは難しい話ではない。

 ……もっとも、瓦礫は様々な形なので、上手い具合にバランスを取って運ばなければ、途中で崩れたりするだろうが。

 とはいえ、セトの場合はそういうのも特に気にした様子がなく、瓦礫の後片付けをしていた。

 レイを見つけて嬉しそうに鳴き声を上げた時は、運んでいた瓦礫を崩しそうになったが。

 それでも何とか崩すことなく瓦礫を移動させると、セトは改めて嬉しそうにレイの方にやって来る。

 セトだけではなく、一緒に瓦礫を片付けていた者達の中の一人もレイに近付いてきて頭を下げる。


「その、ありがとうございました。大きな瓦礫を動かせなかったら、この子が助けてくれたんです。……凄い力持ちですよね」


 しみじみと……そしてどこか羨ましそうに言う男。

 男にしてみれば、瓦礫の片付けをする際に見たセトの力を羨ましく思ったのだろう。

 この世界では、レイのように外見とは見合わない力を持つ者も多い。

 それでも当然ながら、大抵の者はその外見通りの力しか持っていなかったりする。

 セトを羨ましそうに見ている男も、当然ながら外見通りの力しかないのだろう。


「セトの力はかなり強いからな。この外見を見れば、それは分かるだろう?」


 セトの体長は三mを超えている。そんなセトが一体どれだけの力を持っているのかは、考えるまでもない。

 ましてや、セトはただのグリフォンではない。

 レイの魔力によって生み出された、ある意味で規格外の存在なのだ。

 そんなセトの持つ力が強いのは当然だろう。


「そうですね。とにかく、一番大変なところはセトのおかげで何とかなりました。ありがとうございます」


 そう言って再度頭を下げると、男は仲間に呼ばれてレイの前から走り去る。

 男の後ろ姿を一瞥してから、レイはセトを褒めるように頭を撫でる。


「困ってる人を助けたみたいだな。よくやった」

「グルルゥ」


 レイに褒められ、嬉しそうに喉を鳴らすセト。

 セトにしてみれば、瓦礫を運ぶのはそう大変なことではない。

 そうである以上、これくらいのことでレイに褒められるのはセトにとってかなり嬉しいことだった。


「さて、じゃあスラム街に行くぞ」

「……グルゥ?」


 何でスラム街に? 不思議そうに円らな瞳に疑問を浮かべるセト。

 そんなセトを撫でながら、レイは言葉を続ける。


「ドーラン工房の中で、ゴライアスが見つかったらしい。……ゴライアスって名前、聞き覚えがないか?」

「グルルゥ? ……グルルゥ……グルゥ!」


 最初はゴライアスという名前を分からなかった様子のセトだったが、レイの言葉でようやくそれが何を意味するのかに気が付き、喉を鳴らす。

 リンディが捜していた男の名前だ、と。

 それについて思い出したのだろう。


「思い出したみたいだな。そんな訳で、風雪のアジトに一度戻る。……まぁ、もうリンディはその件について知ったらしいから、もうゴライアスのいる場所に向かったみたいだけど。多分、アンヌもそっちに行ったんじゃないか?」


 ゴライアスもリンディと同じ孤児院出身となると、当然ながらアンヌとも顔見知りの筈だった。

 そしてアンヌの性格を考えれば、行方不明だったゴライアスが見つかったとなれば、心配して駆けつけるのは当然だった。


「アンヌもいないかもしれないけど、まずは色々と情報を集める必要があるしな。そういう訳でスラム街に向かう訳だ」


 そんなレイの言葉に、セトは分かったと喉を鳴らすのだった。

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