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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2864/3865

2864話

 ミスティリングにネクロゴーレムを収納するという真似は、レイの予想通り失敗した。

 上手くいけば何とか出来るかもしれないと、レイの中には微かな希望があったのだが、それは結局失敗したのだ。

 ミスティリングには生き物を収納することは出来ない。

 そういう意味では、ネクロゴーレムの核となったダイラスが生きている以上はミスティリングに収納出来ないのは当然の話だった。

 とはいえ、オルバンが口にしたように次々と死体を吸収した以上、割合としては間違いなく死体としての方が大きいのは間違いない。

 だからこそ、レイもまたもしかしたら……と思ったのだが。


「セト!」

「グルゥ!」


 背後からネクロゴーレムが触手を放ってきたのを察したレイは、即座にセトを呼ぶ。

 セトはそんなレイの言葉に素早く反応し、翼を羽ばたかせてそこから移動する。

 次の瞬間にはセトのいた場所を触手が貫く。

 その一撃を回避したセトは、そのまま近くの建物の陰に向かう。

 触手は細長い構造になっているのだが、それでも建物の陰に移動したセトに向かっては追ってこない。

 元々触手がそのようなことが出来ないようになっているのか、それとも建物の陰に隠れたレイとセトは相手にしなくてもいいと判断したのか。

 その辺りの理由はレイにも分からなかったが、とにかく追撃がなかったのはレイにとって悪い話ではない。

 建物の陰に移動すると、すぐにレイはセトの背から降りてミスティリングから対のオーブを取り出す。


「セト、ネクロゴーレムがこっちに攻撃をしてくるようなことがあったら教えてくれ」

「グルルルゥ!」


 レイの言葉に、セトは任せて! と喉を鳴らして周囲の様子を確認する。

 そんなセトを頼もしげに見てから、レイはすぐに対のオーブを起動した。


「グリム、頼む。出てくれ……多分、異世界の方について集中しているのか、そもそも近くにいないのかもしれないけど……出てくれ、頼む」


 祈るように対のオーブに声を掛けるレイだったが、生憎とグリム側の対のオーブに誰かが姿を現す様子はない。

 レイが口にしたように、異世界……ケンタウロスのいる世界の何かに集中しているのか、あるいは異世界で入手した素材を使ってマジックアイテムを作るのに集中しているのか。もしくは、異世界とこの世界の繋がりを維持するというその方法に何らかの目処がつき、そちらに集中しているのか。

 数分の間グリムを呼び続けたレイだったが、それでもグリムが対のオーブに映る様子がないのを確認すると諦める。

 もっと時間を掛ければ、あるいはグリムも姿を現すかもしれない。

 しかし、今の状況では悠長にそのようなことをしている余裕がないのも事実だった。

 こうしてここで時間を使っている間にも、いつネクロゴーレムが動くのかは分からないのだから。

 そうである以上、今は考えるよりも行動する方が先だろう。


「駄目だな。セト、戻るぞ。いつまでも俺達が姿を消してると、オルバン達が心配する」

「グルルゥ?」


 いいの? とセトは喉を鳴らす。

 レイと一緒に行動することの多いセトだからこそ、レイが頼ろうとしたグリムがどれだけの存在なのかは十分に知っている。

 それこそグリムがいれば、ネクロゴーレムの件もあっさりとどうにかなると、そう理解していた。

 レイもまた、そんなセトの考えは分かるものの、連絡が出来ない以上はグリムに頼るといった訳にもいかない。

 グリムのような力があれば……と思うことは多いのだが、そのような真似が出来ない以上、現在の自分の手札でどうにかするしかない。


(ネクロマンシーを使ったゴーレムである以上、アンデッドのグリムなら力になってくれると思ったし、何よりも興味を持つとおもったんだけどな)


 グリムは尊敬するゼパイルの後継者とでも呼ぶべきレイを孫のように可愛がっている。

 実際に今まで何度もグリムに助けて貰ってるのだから、それは間違いないだろう。

 だが同時に、グリムはアンデッドでもある。

 それだけに、ネクロゴーレムの存在はグリムにとっても興味深い存在であるのは間違いなかった。

 ……もっとも、こうして連絡を取ろうにも全く連絡出来ない以上、どうしようもないのは間違いのない事実だが。

 ここで何とかグリムに連絡を取ろうとするよりも、今はまず実際に動くことが必要だった

 レイは対のオーブをミスティリングに収納すると、セトに乗ってオルバン達のいる場所まで移動する。

 幸いにも、ネクロゴーレムは建物の陰に隠れたレイとセトは特に気にするような真似はせず、再び建物の破壊に専念している。


(あの様子を見ると、やっぱり建物に対して強い憎悪を抱いてるようにしか見えないよな。一体何だってそんなことになってるんだ?)


 ネクロゴーレムの行動原理がレイには分からない。

 エグジニスの発展を願っていたダイラスがネクロゴーレムの核となっている以上、あのネクロゴーレムを動かしているのはダイラスで間違いない筈だった。

 だというのに、何故か今はそんなダイラスの考えを無視したかのように建物の破壊に専念しているのだ。

 一体何がどうなっているのか、レイには全く理解出来なかった。

 とはいえ、そのお陰で周辺の建物の被害がないのは皮肉だったが。

 やがてレイを背中に乗せたセトは、離れた場所で待機していたオルバン達のいる場所に到着する。


「レイ! 無事だったのか!」


 セトの背に乗っていたレイを見たオルバンが、嬉しそうに叫ぶ。

 オルバンにしてみれば、レイがネクロゴーレムから離れてからこうして自分達のいる場所に戻ってくるまで、予想以上に時間が掛かった。

 だからこそ、レイが無事に戻ってきたのを喜んでいるのだろう。


「悪いな、遅くなった。俺の持っているマジックアイテムの中に、どうにか出来る方法がないかと思ったんだが。……無理だった」


 正確ではないが、全くの嘘でもない。

 対のオーブでグリムに連絡が取れていれば、ネクロゴーレムの件もどうにかなったのは間違いないのだから。

 しかし、それが無理だった以上レイとしてはそうやって誤魔化すしかなかった。


「そうか。……そうなると、やはりもう取れる手段は少ないな」


 ネクロゴーレムをミスティリングに収納するといった手段も、結局は失敗している。

 そうである以上、残された手段は多くない。

 それこそレイが口にしたように、どうにかしてネクロゴーレムを街の外まで連れ出して、そこで処分するといった方法くらいしかなかった。

 あるいはこれがギルムであれば、増築工事をしているところに誘き寄せるといった手段もあったのだが。

 増築工事をしている場所なら、人の数はそう多くはない。

 ……もっとも、そうなった場合は破壊された場所の増築工事は最初からやり直しになるだろうが。


「その件だが……ちょっと不味いかもしれないな」


 街の外に誘き寄せるというアイディアを出したレイの口から、そんな声が漏れる。

 本来ならレイもこのようなことは言いたくない。

 何しろ、今から自分が口にするのは街の外に誘き寄せるという悪手に、更に追加でマイナスの要素についてのものなのだから。

 そんなレイの様子に、何か思うところがあったのだろう。オルバンが慎重な様子で尋ねる。


「何が不味い?」

「ネクロゴーレムだが、俺が最初に戦った時とミスティリングに収納しようとした時の二回近くで見たが、一度目よりも二度目の方が大きくなってるように思えた」

「……何?」


 レイの言葉にそう声を出したのはオルバンだったが、他の者達も同様にレイの言葉に驚く。

 ネクロゴーレムの大きさは、先程までのものが最大でこれ以上大きくならないと思っていたのだろう。

 そう思ったのは、ダイラスが死体を吸収した時には急激に大きくなったのだが、それ以降は特に大きさが変わらなかったからだろう。


「ま、間違いないのですか?」


 言葉を失った者の中で、真っ先に我に返ったローベルが確認するようにレイに尋ねる。

 ローベルにしてみれば、何らかの見間違いであって欲しいと思うのは当然だろう。

 だが、レイはそんなローベルの言葉に素直に頷く。


「ああ、微かに……あくまでもネクロゴーレムの大きさと比較しての微かにだから、実際には恐らく結構な速度でだろうが、大きくなってるのは間違いない。……死体を吸収して大きくなるって話だったが、実は死体以外でも大きくなるって可能性はないのか?」

「そ、それは……分かりません。し、死体で大きくなるというのも、あくまでも見た時にそうだったからですし」

「だろうな。結局のところ、ネクロゴーレムの生態は分からないんだ。何かあったら、あくまでもそういう存在であると認識して行動するしかない。……で、つまりだ。ネクロゴーレムはあの大きさが最大じゃなくて、もっと大きくなる。街の外に移動させる間に死んだ者の死体や、建物の残骸とかも吸収している可能性がある。そうなると、もうネクロゴーレムとは呼べなくなるけどな」


 少しでもローベル達の受ける衝撃を軽くしようと、最後は冗談っぽく言ったレイだったが、残念ながらそれで雰囲気が明るくなることはない。


「ダイラスが死体を吸収して死体のゴーレムになったんだから、死体しか吸収出来ないと思っていた。だが……その予想が完全に外れた訳か」


 苦々しげなドワンダの声だったが、誰もそれを考えが浅いと責めることは出来ない。

 そもそもの話、最初にダイラスが死体を吸収してゴーレムとなったのは事実である以上、死体しか吸収出来ないと考えるのはおかしな話ではないのだから。






「つまり、街の外まで誘き寄せるにしても当初予想していたよりも被害は大きくなる訳か。……だとすれば、時間が経つごとに厄介になる以上、出来るだけ早く行動した方がいいな」


 オルバンのその言葉にレイは頷く。

 頷いてから、改めて口を開く。


「今の話の流れからすると、ネクロゴーレムを街の外に誘き出して倒すという以外の方法は何も思いつかなかった訳か。ああ、別に責めてる訳じゃないから気にするな。今の状況を思えば、すぐ別の方法を思いつけという方が無理だろうし」


 そもそも、レイからしてそれ以外の方法を思いつくことはなかったのだから、その件で責めるような真似が出来る筈もない。

 一応思いついた、ある意味では成功すれば起死回生の一手となるだろうミスティリングへの収納についても、結局は失敗したのだから。


「で、でも、そのままという訳ではなく……それぞれの工房に協力して貰おうという案は出ました」

「他の工房に? まぁ、エグジニスで暮らしている以上は、ここが破壊されて困るのは工房の連中も同様だろうが……けど、それでゴーレムが破壊されれば、商品がなくなるぞ?」

「そちらについては、こっちで十分とは言わないが補償することになるだろう。それに工房だけではなくゴーレムを所有している者達にも手を借りるように手配をしている」

「……随分と早いな。さすがと言うべきか」


 レイがネクロゴーレムと戦い、その後グリムと連絡を取ろうとしている間に既にそこまで段取りを整えていたらしい。

 改めてレイが周囲の様子を見てみれば、護衛の人数は三人まで減っていた。

 残りの者達は、ローベルやオルバンの指示を伝える為に動いているのだろう。


「最悪エグジニスが壊滅するかもしれんのだ。そうである以上、素早く動くのは当然だろう」

「……その当然のことが出来ない奴がいるから、色々と面倒なんだけどな。ともあれ、ネクロゴーレムの核はダイラスだったが、エグジニスを発展させることを願っていた……いや、そんな妄執を抱いていたのに、何で街中で暴れるような真似をしてるんだ?」

「それを言うなら、あの建物を壊しているという時点でおかしいだろう」


 オルバンが半ば呆れたように呟くと、レイも確かにと納得の表情を浮かべる。


「そうなると、やっぱりダイラスがネクロゴーレムの核であるのは間違いないが、自我の類はなくなっているのかもしれないな」


 その言葉には、話を聞いていた者達も異論はないのだろう。

 そもそもエグジニスを繁栄させようとしていた者が、一体何故聖なる四会合を開く建物を破壊するのか。

 そう考えれば、基本的にはやはり違和感しかない。


「とにかく、ゴーレムが手助けをして貰えると助かる。……問題なのは、どうやって助けて貰うかだな。まさか迂闊に攻撃するような真似は出来ないし」


 筋肉が剥き出しになっているネクロゴーレムだけに、普通のゴーレムが攻撃をしても相応のダメージは与えられるかもしれない。

 だが、そうなれば腐液が撒き散らかされ、毒煙が周囲に漂う。

 つまり、攻撃することそのものが致命的なのだ。

 そう告げるレイの言葉に、皆が悩むのだった。

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― 新着の感想 ―
魔熱病の時みたいに毒煙ごと燃やし尽くすみたいにはできないんですかね
[気になる点] 下記部分、段落が変わってない 「で、でも、そのままという訳ではなく……それぞれの工房に協力して貰おうという案は出ました」(段落?)「他の工房に? まぁ、エグジニスで暮らしている以上は…
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