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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2842/3865

2842話

 ミルスと名乗った、リンディのパーティメンバーという男。

 その男の顔を見て、そう言えば……とレイは思い出す。

 初めてエグジニスに来て、ギルドでゴライアスの名前を口にしたレイにリンディが即座に反応した時、リンディと一緒にいた仲間の中にこの男もいたなと思い出す。


「そう言えばリンディの仲間として一緒にいたな。……悪い。あれから色々とあったから」

「気にするな。さっきも言ったが、顔を合わせた程度の相手だったんだ。それよりちょっと話さないか? ここにいるとちょっと目立つし」


 ミルスの言葉にレイは周囲の様子を見る。

 するとそこでは、部屋の中にいる多くの者が色々な感情で自分を見ているのに気が付く。

 ダイラスの護衛と思しき者達の敵意に満ちた視線はともかく、それ以外の二人――片方はドワンダという名前だと知っているものの、もう一人は分からない――の護衛達。

 ローベルやオルバンの護衛がレイだけである以上、ミルスもそんな三人の仲の誰かの護衛としてここにいるのは間違いないのだろう。

 それは分かっているものの、問題なのはミルスが残り三人のうちの誰の護衛なのかということになる。


(俺に敵意を向けてる様子はないし、リンディのことを考えればダイラス以外の二人だといんだけどな)


 そんな風に思いつつ、レイはミルスの言葉に頷く。


「分かった。じゃあ……ちょっと向こうに行くか」


 人が集まっていない方の壁を見て告げるレイに、異論のないミルスは頷く。

 そうして壁の方に移動すると、ある程度視線は外れる。

 ……ダイラスの護衛達が向けてくる視線は、そのままだったが。


「で、まずはこれを最初に聞いておくか。ミルスは誰の護衛でここにいる?」

「ルシタニアさんだ」


 聞いたことのない名前がミルスの口から出て来たが、恐らくそれが聖なる四会合に参加している最後の一人の名前だというのは、レイにも容易に想像出来た。


「ルシタニアか。で、そのルシタニアという人物はローベルとの関係性はどうだ?」

「そう聞かれても、俺は臨時の護衛として雇われただけなんだから詳しい話は知らないな。それより、リンディがどうしているのか聞いてもいいか? 少し前に突然いなくなったんだけど。レイと一緒に行動していると思ってもいいのか?」

「ああ。俺と一緒にいる」


 現在は風雪のアジトに匿われているといったようなことを口にしそうになったレイだったが、ミルスはリンディの仲間であっても現在はルシタニアという人物の護衛だ。

 ルシタニアがどのような立場の人物なのかは、レイにも分からない。

 そうである以上、ここで迂闊に現在リンディがどこにいるのかといったことを話す訳にはいかなかった。


(とはいえ、俺と一緒にいたのが誰なのかを聞けば、リンディがどこにいるのかを予想するのかは難しくないと思うが)


 風雪を率いるオルバンと一緒にいたのを思えば、それは当然の話だろう。

 だとすれば、あるいはここでリンディがどこにいるのかを言ってもいいのでは? という思いがない訳でもなかったのだが……それでも、今の自分はローベルやオルバンの護衛としてここにいる以上、それを話す訳にはいかなかった。

 ミルスもレイがその辺について言いたくても言えないというのは理解したのだろう。

 すぐに頷いて口を開く。


「そうか。取りあえずリンディが無事ならそれでいいんだ」


 安堵したその様子から、ミルスがリンディを心の底から心配していたのは明らかだ。

 同じパーティに所属しているというのもあって、行方不明になったリンディが心配だったのだろう。


(あるいは男としてリンディを心配してたのか? その辺は俺にはちょっと分からないけど、可能性はあるよな)


 リンディは顔立ちが整っており、性格も決して悪くはない。

 仲間思いのところもあるので、異性として好きになる者がいてもおかしくはないが……


(その場合、絶対に失恋するな)


 レイにとって、それは半ば確信に近い。

 何しろリンディは、自分と同じ孤児院で育ったゴライアスという男に恋をし、行方不明になった今も必死になって捜しているのだから。

 そこまで一人の男を想っているのだから、もしミルスがリンディを女として意識していても、その恋が成就する可能性はほぼなかった。


「今、リンディはアンヌ……リンディの出身の孤児院で働いてる女や、その孤児院の子供と一緒にいる。そういう意味ではあまり心配はいらない」

「孤児院の……? そうか。何でそんなことになってるのかは分からないが、安心したよ」

「今回の件が片付けば、またリンディもお前のパーティに参加すると思う。……もっとも、あくまでもそれはリンディにとって最良の結果になればの話だが」

「……そうか」


 もしリンディにとって最悪の結果になって終わった場合、リンディがエグジニスにいるのは難しいだろう。

 本人としては、ゴライアスが戻ってくるかもしれないということで、出来ればここに残りたいのだろうが。

 そのような状況だけに、聖なる四会合次第ではどうなるかが全く分からない。


「ミルスを雇ったルシタニアとかいう人物は、どういう奴なんだ? ダイラスに協力してるのか?」

「ダイラスさんの呼び掛けで集まった以上、協力はしてると思う。……けど、何がどうなってレイ達はダイラスさんの屋敷を襲撃したんだ?」

「それは……勿論理由があってのことだな」


 ドーラン工房と繋がっている証拠を入手する為と言おうと考えたレイだったが、現在この部屋には結構な人数が集まっている。

 そうである以上、ここでダイラスの屋敷を襲った理由を話すのは不味いと考えたレイは、そう話を誤魔化す。

 実際そんなレイの判断は正しく、部屋の中にいた何人かが表情には出さないものの残念な思いを抱いていた。


「その理由を聞きたいんだが」

「ここで話すような内容じゃない」

「へぇ、そうなのか? 俺もその件については聞きたいんだけどよ」


 レイとミルスの会話に割り込んで来たのは、ドワンダが護衛として雇っている冒険者の一人。

 ルシタニアと同じく、ドワンダもまた半ば今回は事情を知らない状況で騒動に巻き込まれたからだろう。

 そのドワンダに雇われている冒険者にしてみれば、自分を雇っている相手が最悪の結果にならないようにして欲しいと思うのは当然の話だった。

 しかし……だからといって、レイがそれに対して素直に頷く訳にもいかない。


「その件を知りたいという気持ちは分からないでもないが、だからといって俺がそれを話すことは出来ない。どうしても知りたいのなら、事情を知ってる他の連中に聞いたらどうだ?」


 具体的に誰と示した訳ではなかったが、それでも事情を知っている相手というのが誰のことを示すのかは、部屋の中にいた者達には容易に想像出来た。

 想像出来てしまったからこそ、面倒なことになると思ってしまい……それを証明するかのように、レイの言葉が聞こえたのだろうダイラスの護衛の一人が口を開く。


「へぇ、事情を知ってる他の奴ってのは、一体誰のことを言ってるんだ? その辺、しっかりと聞かせて欲しいものだな」


 ダイラスに雇われている者……あるいは配下にしてみれば、今回の一件は明らかに風雪やレイの暴走といった印象を抱いている者も多い。

 事情を知らない者は特にそう思うし、事情を知ってダイラスの味方をしている者にしてみれば、ダイラスが破滅をすれば自分も道連れになってしまうのだ。

 そうである以上、ここで何もしないという選択肢はありえなかった。

 ダイラスの部下にしてみれば、ここで暴れてその混乱に乗じてオルバンの持っている証拠をどうにかして処分し、ついでにローベルを殺すことが出来れば最高の結果ではある。

 結果ではあるが、だからといってそう簡単にそのような結果を得ることは出来ない。

 そもそもの話、その結果を得る為にはレイをどうにかしないといけないのだから。

 戦ってしまえば、間違いなく自分達が負ける。

 つまり戦わないでどうにかしないといけないのだが、戦わずに建物の中に混乱を起こすのは難しいだろう。……それこそ不可能であると言ってもいい。


「俺が言わなくても、分かる奴は分かると思うけどな。……ほら、お前の隣にいる奴は分かってる感じだぞ」

「何?」


 いきなりのレイの言葉に、男は反射的に自分の隣にいる仲間に視線を向ける。

 急に自分に視線を向けられた男は、動揺した様子を見せた。


(あれ? 当たりか?)


 レイが口にしたのは、実は半ばハッタリによるものだ。

 ただ、ダイラスの部下で何も知らない相手を動揺させることが出来ればいいと、そう考えてのことだったのだが……そんなレイの予想は、見事なまでに当たってしまったらしい。

 この場合、不運なのはレイのハッタリに使われた男だろう。

 自分に視線を向けてくる相手に、慌てたように口を開く。


「い、一体何を考えてるんだよ。俺がそんなことを知ってる訳がないだろ!? レイのハッタリに引っ掛かってるぞ、お前!」

「そうか? その割には随分と動揺してるように見えるんだけどな」

「っ!? お前は黙ってろよ!」


 レイの言葉に不満そうに叫ぶ男。

 そのような態度が、余計に男の怪しさを強調していたのだが……本人は全く気が付いていないらしい。


「おい、ちょっと話を聞かせてくれないか?」


 また別のダイラスの部下が、動揺している男にそう声を掛ける。

 他にも数人から同じような視線を向けられた男は、慌てて周囲にいる自分の仲間に視線を向けるが……巻き込まれたくはないと、そっと視線が逸らされる。

 そうして仲間から見捨てられた男は、周囲に集まってきた者達をどう説得するか迷う。

 レイはダイラスの配下のそんな様子を見ていて、取りあえず自分が面倒に巻き込まれなくてよかったと、しみじみと思う。


「ちょっとやりすぎじゃないか?」


 ミルスが呆れたようにレイに向かってそう言ってくるが、レイにしてみれば自分が絡まれるよりは、ダイラスの配下同士でやり合ってくれれば向こうの戦力が減っていいという認識だ。


「そうか? 今の状況を思えば、これが最優先だったと思うけど。……それとも、俺がここで暴れた方がよかったと思うか?」

「それは……」


 そう言われれば、ミルスも迂闊に反論は出来ない。

 ミルスにとっても、ここでレイが暴れるというのは出来れば避けて欲しいと思ってしまうのだから。

 ここはそれなりに広い部屋だが、そのような場所であってもレイがここで暴れるようなことになってしまった場合、周囲に与える被害は間違いなく大きい。

 そうである以上、レイが暴れるよりはダイラスの部下同士で争っていてもらった方が周囲に与える被害が少ないのは間違いない。

 その意見はミルスだけではなく、他にもレイの様子を見ていた者たちにとっても同様であり、だからこそ今のレイの態度に反論を口にする者はいなかった。

 勿論、中にはどうせならレイが暴れるところを見たいと思っている者もいたが、それを直接口に出すような真似はしない。

 もしそのようなことを口にした場合は、それこそ周囲の雰囲気を読めないといったように思われてしまうだろう。


「さて、取りあえずこれで面倒はなくなったな。……あの状況でも身内同士で揉めたりしないで俺に攻撃を仕掛けてくるのなら、こっちも相応の態度を取ろうと思ったんだが」

「それは……出来れば止めて欲しい」


 しみじみといった様子でミルスが告げ、その会話が聞こえていた者の何人かもそんなミルスの言葉に同意するように頷く。


「安心しろ。俺も別に自分から好んで騒動を起こそうとは思わないが」


 レイがエグジニスにやって来てから、まだそこまで長くない。

 その間に起きた騒動の諸々を考えた場合、一体誰がそんなレイの言葉を信じられるのか。

 事実、今のレイの言葉を聞いた者の大半は信じられないと感じていたし、中には冗談はそのくらいにしておけといったように感じている者もいた。


「取りあえず、レイが暴れなくてよかったのは間違いないな。それで、どうする? こうして暇になったんだから、レイは何かしたいことはないのか?」

「急にそんな風に言われてもな」


 何かやりたいことをと言われても、すぐに思い浮かぶようなことはない。

 ミスティリングから出した料理でも食うか? と思ったが、このような場所で止めておいた方がいいだろうと思い直す。

 もしこのような場所で料理を食べるような真似をすれば、それこそレイに不満を抱いている者達に攻撃する切っ掛けを与えるようなものなのだから。

 かといって、時間を潰すのにどうすればいいのか。

 他の者達は自分と同じ相手に雇われている者達と話をするといったような真似をしていたが、ローベルやオルバンの護衛としてやって来たのはレイだけだ。

 仕方がないので、暇潰しも兼ねてモンスター図鑑を読むのだった。

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