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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
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2838話

 今回の一件の裏にいるのがダイラスであると聞き、そしてダイラスがドーラン工房と繋がっていた証拠があると口にしたレイに対し、それを聞いていた者達はそれでも未だに信じられないといった様子を見せる。


(ここまで強くダイラスのことを信じてるとなると、やっぱりそれだけダイラスの表向きの顔はしっかりとしたものだったんだろうな)


 それなら少しでも真実を知った方がいいだろうと、レイはダイラスの屋敷で見た冒険者達のことを説明する。


「ダイラスの屋敷で、俺は援軍としてやってきた冒険者達と戦った。そして冒険者達の中にはジャーリス工房を襲撃した者達もいた」

「それは……」


 レイの言葉を聞き、何も言えなくなるリンディ達。

 そのような者達が援軍としてやって来るというのは、明らかに怪しいのは間違いない。

 それを聞いた上でも、レイの言葉を素直に聞くといったような真似は出来なかったのだろう。


「何かの間違いではないんですか?」


 そう聞いてきたのは、錬金術師の一人。

 ダイラスの表向きの評判を知ってるからこそ、そう言いたくなったのだろう。


「生憎と間違いじゃない。これは正真正銘の真実だ。とはいえ、俺の話だけで全てを信じるといったことが出来ない者もいるだろう。そういう奴は、今は信じなくてもいい。いずれその辺がはっきりとするだろうから、その時まではダイラスを信じてもいいと思う」


 その言葉に、話を聞いていた者達は複雑な表情を浮かべる。

 レイの言葉が真実なのかどうかは、正直なところ分からない。

 分からないものの、それでももしかしたら……と、思ってしまう一面があるのも事実なのだ。


「そんな訳で、俺から知らせるのはこれで終わりだ。明日も早い……かどうかは分からないけど、それでもこの状況だけに何があるのかは分からない。そろそろ眠った方がいいと思うぞ。寝不足だと、何をやるにしても万全の状況とはいかないからな」


 レイに促され、それぞれが自分の部屋に戻っていく。

 何人かはリビングで眠っているので、この場に残る者もいたが。

 残った者達はまだレイに色々と話を聞きたそうにしていたものの、レイはそれを無視して自分が寝るのに使っているソファに横になる。

 そろそろクロウ達も帰ってきたのかなと思いながら、そのまま眠りにつくのだった。






「ん……んん……?」


 急速に意識が覚醒していく感覚を味わいつつ、レイは目を覚ます。

 周囲の様子を見てみると、まだ誰も起きていない。


(これって、昨日と同じか? ……まぁ、今日はカミラも起きてくる様子はないけど)


 部屋の中にレイ以外にも何人か眠っているが、その中でまだ起きている者は誰もいない。

 レイが眠っている間に誰かが近付いてきた様子もない。

 もしそのようなことがあった場合、現在仕事モードとも呼ぶべき状態になっているレイだけに、すぐに起きてしまうだろう。

 起きてすぐに寝惚けもしていないのが、レイの仕事モードとなっている証だった。

 そんな状態で周囲の状態を見回して身支度をする。


「時間は……まぁ、ここだと懐中時計を使うしかないか」


 地下にある部屋だけに、当然ながら太陽の位置で大体の時間を確認するような真似も出来ない。

 ミスティリングの中からマジックアイテムの懐中時計を取りだして時間を確認すると、既に十時をすぎていた。

 完全に寝坊したのだが、眠った時間を考えれば昼前に起きられたのは悪くない結果だろう。


(さて、そうなると問題は……)


 レイは扉の前に移動し、護衛兼見張りの気配があるのを確認すると扉を開ける。


「あ、おはようございます。レイさん」

「ああ。護衛、ご苦労さん。……で、昨日の件で何かあったか聞いてないか?」

「俺達はここにいたので、特に何も……あ、でも奇襲に参加した人達は殆どが無事に帰ってきたらしいです」


 殆どということは、ダイラスの屋敷での戦いで殺された者も多数いるのだろう。

 また、戻ってきた者の中で怪我をした者も間違いなく相当な数になる筈だ。

 軽い怪我ならポーションの類を使えばすぐにでも回復するが、手足を失った者はポーションでの回復は難しい。

 実際に手足を失っても回復するポーションというのもあるが、それは非常に高額となる。

 例え風雪がエグジニスの中でも最大の暗殺者ギルドであっても、そう簡単に使えるような物ではないし、そもそもそのようなポーションは貴重で入手したいと思っても入手するのは難しい。


「そうか。無事に戻ってきた連中が多いのはせめてもの救いだな。それで、オルバンはこれからどう動くのかは聞いてるのか?」

「いえ、その辺は何も」

「分かった。なら、警備を頑張ってくれ」


 ある程度の情報を入手すると、レイは扉を閉めて再びソファに寝転がる。


(問題なのは、オルバンがどう動くかだよな。昨日あの金庫のゴーレムから入手した資料を考えると、この状況で動かない筈はない。ローベルとはもう接触したのか?)


 エグジニスを動かしているうちの一人、ローベル。

 そのローベルとオルバンは手を組んでいる。……いや、この場合は友好的な関係にあると言ってもいいだろう。

 オルバンがドーラン工房やダイラスの一件にここまで積極的なのは、レイの行動で巻き込まれたというのもあるだろうし、エグジニスの膿をどうにかしたいという思いがあるのも事実。

 だが、それ以外にもローベルとの件が関係してるのも事実だろう。


(普通に考えると、ダイラスが昨夜の動きで妙な行動をするよりも前にローベルが動く……と、そう考えた方がいいんだろうけど。その辺がどうなってるかだよな。オルバンの性格を考えれば、ローベルとの一件に関わるとなると俺に連絡があってもおかしくはないだろうし)


 以前ローベルに会いに行った時も、レイはオルバンと共に行動した。

 であれば、今回ローベルに会いに行く時も、レイは一緒に行くということになってもおかしくはない。


「んん……あ……ん?」


 これからの事を考えていたレイの耳に、ふとそんな声が入ってくる。

 だが、レイがそちらに意識を取られたのは一瞬だけだ。

 自分が部屋の中を動き回った事で、恐らく誰かが起きたのだろうと予想は出来たのだから。

 しかし、その起きた人物がレイに話し掛けてくれば、話は別だった。


「おはよう、レイさん。もう起きてたのか?」


 そう言ってレイに挨拶をしてくる男。

 そんな男に対して、レイは頷いて口を開く。


「昨日は結構早く眠ったしな。それに冒険者だけあって、寝ようと思えばすぐに眠れる」

「へぇ、冒険者ってのは凄いんだな。……で、今日はこれからどうなるんだ? 俺達は今日もここから出ることは出来ないのか?」


 昨日はこのアジトに対する襲撃があったので、その後片付けであったり、まだ襲撃してきた生き残りがいるかもしれないということで、レイ以外は部屋から出ることは出来なかった。

 錬金術師達は元々部屋の中で研究をするのが仕事なので、外に出ないというのは問題ない。

 アンヌを始めとして違法奴隷になっていた者達や冒険者のリンディも、大人だけに一日二日程度はこの部屋から出られなくても問題はない。

 だが、そんな中で唯一我慢をするのが出来ないのがカミラだ。

 エグジニスまで一人でやって来る行動力のある子供である以上、狭い――リビングと個室を合わせれば何気に結構広いのだが――部屋の中に閉じ籠もりっぱなしというのは、我慢が出来ないのだろう。

 レイに尋ねてきた男も、その辺を心配しているのだと思えた。


「どうだろうな。襲撃された件の後片付けはもう終わってるだろうし、攻めて来た奴の生き残りがいるのかどうかも大体は確認が終わってるだろうし。……やっぱり昨日は大変だったのか?」


 一応その辺りについては、リンディやアンヌから聞いている。

 だが、それはあくまでも人伝に効いた話であって、実際に見た訳ではない。……いや、筋肉痛のリンディにカミラが跳び掛かった時に絶叫は聞こえてきたが。


(あれ? でもそう言えば昨夜のリンディはそこまで筋肉痛に苦しんでる様子はなかったな。一日……いや、正確にはもっと時間は少ないんだろうが、それでも筋肉痛が回復するのか?)


 軽い筋肉痛であれば、一日で治るというのも珍しい話ではないだろう。

 だが、リンディの筋肉痛はとてもではないが軽いとは呼べない筋肉痛だった

 そうである以上、そう簡単に治るとは思えなかったのだが。

 そんな疑問を抱くも、今は取りあえずその件については忘れておく。


「ああ。大変だった。それに、やっぱりここから出られないとなるというのはちょっとな」

「分かった。後でその辺については俺の方で聞いておくよ。風雪の面々も手伝ってくれる相手が多ければ助かるだろうし。ただ、一応言っておくけど……多分仕事の大半は怪我人の手当とかになると思うぞ?」


 レイが護衛兼見張りから聞いた話によると、帰ってきた者の中には怪我をしている者も多いと聞く。

 そうである以上、そちらの手伝いに回されるのは当然だった。

 ポーションを使わずに治療をしたり、あるいはポーションを使っても完全に回復しなかった怪我の手当てをしたり。

 そのような作業には、治療の知識がなくても雑用をやってくれる者が多いだけで助かるのだから。


「分かった。こっちも他の連中には話しておく」


 そうして会話を重ねていると、やがてリビングで眠っていた者達や個室で眠っていた者達も起きてくる。

 昨夜寝るのが遅かったこともあり、皆が寝不足といった様子だ。

 恐らくレイが戻ってくる前に眠っていたカミラは? と思って周囲を見回すも、カミラの姿はどこにも存在しない。


「あれ? カミラはまだ起きてこないのか?」

「カミラならまだ眠ってますよ」


 レイの疑問に答えたのは、アンヌ。

 いつも元気といった様子のアンヌだったが、そのアンヌもやはり寝不足は堪えるのだろう。

 眠そうな様子を隠し切れてない。

 これで起きてからもう少し時間が経過すれば、自然と目が覚めてくるのだろうが。


「そうか。カミラが大人しいのはいいことだ。……リンディは?」

「リンディならもう少し時間が掛かるかと」


 女の支度は時間が掛かるという話を思い出したレイだったが、そのレイが何かを言うよりも前に扉がノックされる音が周囲に響く。

 さて、朝食――時間的には半ば昼食だが――か、それともオルバンが俺を呼びに来たのか。

 ともあれ、自分が出ておくのがいいだろうと判断してレイが扉を開けると……


「おはようございます、レイ様」


 疲れた顔に、しかし満足そうな笑みを浮かべてニナの姿があった。


「ああ、おはよう。ニナが来たってことは、俺に用事か?」

「そうなりますね。オルバン様がお呼びです」


 そう言われると、レイも断るつもりはない。

 この状況でオルバンが自分を呼んだのだから、それはドーラン工房やダイラス……可能性としては、昨日金庫のゴーレムから入手した証拠についての話か、あるいはその件でローベルに会いにいくのだろうと予想が出来たのだから。


「分かった。なら行くか」

「朝食を持ってきましたが、どうします? オルバン様からは、軽く食べてからでもいいと言われてますけど」

「いや、今はオルバンの方を急いだ方がいい。それに俺はその気になればいつでも料理を食べることが出来るし」


 ミスティリングの中にある料理をいつでも食べられるというのは、レイにとって非常に便利なことだった。

 そんなレイを、ニナは羨ましそうに見る。

 ニナにとっても、好きな時に好きな料理を好きなだけ食べられるというのは非常に羨ましかったのだろう。


「じゃあ、そんな訳で俺はちょっと行ってくる。……ああ、そうそう。アジトの中がある程度安全になったのなら、今日からはこの部屋にいる連中が外に出て風雪の手伝いとかをしてもいいんじゃないか?」


 前半を部屋の中にいる者達に、そして後半をニナに向かって告げる。

 ニナはそんなレイの言葉を聞き、少し迷い……やがて頷く。


「分かりました。人手は多い方がいいですしね。ただし、中には結構厳しい作業もありますよ?」

「その辺はこの連中なら何とかなるだろうし、何ともならないと判断すれば他の仲間に頼るだろ」


 こうして、レイの言葉によって今日からある程度自由に部屋から出られるようになるのだった。

 喜びの声を聞きながらレイはニナと共に部屋を出て、会話をしながらオルバンの部屋に向かう。


「かなり疲れてるみたいだけど、大丈夫か?」

「はい。昨夜から色々と大変だったので。ですが、充実した時間をすごすことが出来ましたよ」


 そう告げるニナは、言葉に嘘がないといった様子で満面の笑みを浮かべるのだった。

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