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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2831/3865

2831話

 ミスティリングの中に金庫が消えた光景を見たクロウ達は、驚きの声を上げる。

 まさかこうして金庫を収納出来るとは思っていなかったのだろう。

 勿論レイがアイテムボックスを持ってるのは知っていたものの、それでもこの光景は予想外だったらしい。


「さて、取りあえずこれで金庫に関しては問題ない。これからどうする?」

「一応、この部屋の中にある他の物も持っていってくれないか?」


 クロウの言葉に、レイは部屋の中を見回す。

 ソファにテーブル、簡単な机と椅子。

 この部屋の中にあるのは、そのくらいしかない。

 当然だが、クロウが持っていって欲しいと言ってるのはそれらだろう。


「ソファを始めとした諸々をか?」


 一応、確認の為に尋ねたレイだったが、やはりクロウはそんなレイの言葉に頷く。


「そうだ。金庫に証拠が入ってるのはほぼ間違いないと思うが、もしかしたら金庫は囮で他の場所に証拠がある可能性もある。だとすれば、その可能性のある物は持っていきたい。普通ならそういうことを考えても実行は出来ないんだが、レイがいる今は違う」


 その言葉に、レイ以外の他の二人も納得したように頷く。

 もしソファの類を持っていかず、実は金庫の中には証拠の類が何も入ってなく、ソファの中に証拠が隠されていた……といったようなことになれば、後悔してもしきれない。

 クロウの本音としては、それこそソファを始めとした家具だけではなく、この部屋そのものを持っていけるのなら持っていきたいとすら思っていた。

 とはいえ、さすがにレイにも部屋を持っていくような真似は無理だろうと判断して、それについては主張しなかったが。

 実際にこの状況で部屋を持っていけと言われても、無理だったのは間違いない。

 あるいはコンテナハウスのように独立した部屋であり、レイがそのように認識していれば収納出来たかもしれないが。


「分かった。クロウがそう言うのなら、俺は構わない。そこまで手間って訳でもないしな」


 そう言い、レイはソファを始めとして家具も全てミスティリングに収納する。


「さて、これで正真正銘部屋の中には何もなくなったけど、これからどうする? もうダイラスの屋敷から撤退するのか?」

「それは……」


 クロウはレイの言葉に悩む。

 もし金庫や、あるいはそれ以外の家具に証拠があれば、このまま撤退しても構わないだろう。

 しかし、この部屋のどこかにまた別の証拠があった場合、一体どうすればいいのか。

 それこそ、後でそのことに気が付いても戻ってくることは出来ないのだ。

 だからこそ、クロウはレイの言葉に素直に答えられなかった。

 言葉に迷うクロウの様子を見ていたレイは、仕方がないと判断してから口を開く。


「このままだと後悔しそうだな。なら……ちょっと試してみるか」

「は? 試してみる? 一体何をだ?」

「この部屋の中に更に隠し通路や隠し階段の類があるかないかを調べるんだよ。ただ、これは罠があるかどうかを確認する為の魔法だ。証拠がどこに隠されているのかどうかを見つけられるかが本当に見つかるかどうかは分からないが」

「……そういう魔法があるのなら、結界を破ってからこの部屋に来るまでの間に使ってもよかったんじゃないか?」


 レイの言葉にクロウが不満そうに言う。

 クロウにしてみれば、もし最初にレイがその魔法を使っていれば仲間が矢で傷つくこともなかったのにと、そう考えるのは当然だろう。


「そうだな。今にして思えばそうだったかもしれない。けど、この魔法はそこまで完全に正確な訳でもないし、場合によっては魔法の影響で罠が発動する可能性も否定は出来ない。それにこの部屋までは短い距離だったってのもあるし」

「レイが先頭を進んだんだから、これ以上は言わないが」


 実際に怪我をしたのはクロウの仲間だったが、一番危険だったのは間違いなく先頭を進んだレイなのだ。

 これでレイがクロウ達を先頭にして進めていた場合は、クロウももっと不満を抱いていただろう。


「とにかく試してみる。……ただし、さっきも言ったがこれは完全だという訳でもない。この魔法で見つけられないけど、実はそこに何かがあるという可能性は否定出来ない」

「分かった。それでも頼む」


 クロウが頷いたのを確認し、レイはデスサイズを手に呪文を唱え始める。


『炎よ、紅き炎を示しつつ燃え広がれ。我が意志の赴くままに焔の絨毯と化せ』


 デスサイズの石突きに炎の塊が生まれ、レイはそれを床に触れさせ魔法を発動する。


『薄き焔!』


 魔法の発動と同時に、炎は床全体に広がっていく。


「うおおお!」

「落ち着け! これは炎だが、触っても火傷はしない!」


 いきなり炎が周囲に広がったのを見て驚きの声を上げるクロウだったが、レイの言葉で我に返る。

 そして実際に自分の方に向かってきた炎にそっと手を伸ばし……レイの説明通り、炎に触れても決して火傷しないのを確認して安堵する。

 一度安堵してしまえば、炎に触れても熱くなく火傷をしないという現象に疑問を抱き、何度も炎に触れる。

 炎としてそこに存在しているのは間違いないし、実際に炎に触れているという実感もある。

 だというのに、その炎は暖かい……いや、生温いといった程度の温度でしかない。

 そんな炎が部屋の中一杯に広がっていく光景は、ある種幻想的ですらあった。


「……ないな。少なくても俺の魔法で見つけることは出来ない」


 炎が部屋全体に行き渡ったが、それでも特にそれらしい仕掛けの類を見つけることが出来ずに、レイは首を横に振る。


「そうか」

「どうする? 自分で直接調べてみないと納得が出来ないなら、調べるのを待っていてもいいけど」


 魔法で生み出された炎を消し、レイはクロウにそう尋ねる。

 尋ねられたクロウは、そんなレイの言葉を聞いて少し考える様子を見せたものの、やがて首を横に振る。


「いや、やめておこう。レイの魔法で調べたんだ。それなら、俺がこれ以上部屋を調べても何も出てこない可能性が高い」


 クロウのその言葉に他の二人もまた同意するように頷く。

 レイと一緒に行動した時間の短い二人だが、それでも十分にレイの実力はその目で見ている。

 そんなレイが魔法を使っても何も見つけることが出来ないとなると、ここで自分達が調べたところで何かがあっても見つけられないと思ったのだろう。


「クロウ達がそれでいいのなら、こっちはそれで問題ない。だが、そうなるとこれからどうする? まだ他の場所で騒動を……って、話している暇がなくなったな」


 話の途中でレイの視線は部屋の扉……正確には扉のあった場所に向けられる。

 そんなレイの姿を見てクロウは厳しい表情を浮かべ、他の二人は何が起きてるのかは分からないものの、何が起きてもいいように対処する。


「敵か?」

「ああ。それも聞こえてくる声からすると、結構な人数がいると思われる」


 鋭い五感を持つレイだからこそ、その音を聞き取れたのだろう。

 そしてレイとクロウの会話を聞いていた二人も事情を察し、表情を厳しく引き締める。


「取りあえずここでゆっくりしていられる暇はなくなったな。で、どうする?」

「当然援軍に向かう! 行くぞ!」


 レイの言葉にクロウは鋭く叫ぶと、そのまま部屋を出ていく。

 途中の通路に罠があるかもしれないというのを忘れているのかのような行動。


(しまったな。どうせならこの部屋の中だけじゃなくて、あっちの通路も罠があるかどうか調べておけばよかった)


 この部屋に来る時は全速力で走ったので、扉の罠だけしか作動した様子はなかった。

 だが、もしかしたら他にも罠がある可能性がある。

 あるいはこの部屋に向かってくる時は発動せず、この部屋から戻ろうとした時だけに発動するような罠があってもおかしくない。

 しかし、それは今更の話だろう。

 今はまず、声のする方向……この隠し部屋に続く結界の張られた隠し扉があった部屋に行く方が先だった。

 真っ先に駆け出したクロウと、そのクロウを追う二人。

 レイもまたそんな三人を追う。


(罠は、ないな。元々なかったのか、それとも俺が扉を吹き飛ばした影響で動作しなくなったのかは分からないけど)


 そんな風に考えつつも、レイは通路を走る。

 部屋が近付いてくると、当然のように部屋から聞こえてくる音も大きくなっていた。

 隠し部屋にいる時からレイには聞こえていた音だったが、そんな音がクロウ達の耳にもしっかりと入るようになったのだろう。

 通路を走る速度が、今までよりも更に上がる。

 結局レイが警戒したように罠の類はどこにも存在せず、特に何もないまま無事に通路を抜けることに成功する。


「クロウ! 戻ってきたのか!? 証拠は!?」

「問題ない、証拠と思しき物は入手した! それより状況は!? 今は館の中で一斉に騒動を起こして陽動してるんじゃなかったのか!?」

「どこからか援軍が来たらしい!」

「セトがいるだろう!?」


 クロウの男の会話に、レイが驚きと共にそう割り込む。

 実際、援軍が来たというのはとてもではないが信じられなかった。

 外にセトがいる以上、その隙を掻い潜るようにして敵の援軍がやって来るとは到底思えない。

 それだけの信頼をレイはセトに抱いているし、そのように信頼されるだけの高い実力がセトにあるのもまた事実だった。

 しかし、援軍が来たと説明した男は首を横に振る。


「律儀に外を通ってやって来たのではなく、どうやら地下通路か何かを通ってきたらしい」


 そう言われれば、レイも納得するしか出来ない。

 実際には今のこの状況を考えれば、そのように敵がやってきた可能性は十分にあるのだから。

 いや、寧ろそのような方法以外で援軍がこの屋敷にやって来るのは不可能だろう。

 セトのいる地上を通るのではなく、地下を取って援軍を送られれば、セトも対処出来ない。

 ……いや、もし本気でセトが対処するつもりがあるのなら、地下道が走っている上にある地面を破壊するといったような真似も出来るので、レイが指示すれば対処出来ないこともなかったのだろうが。


「地下道か、厄介な。……で、どうするんだ? 地下道があるのなら、最悪ダイラスはそこから逃げるといった可能性もあるけど」


 レイはクロウに向かってそう尋ねる。

 クロウが所属する風雪にしてみれば、今夜の襲撃は昨夜の一件の報復的な意味合いが強い。

 勿論最大の目的は、ダイラスがドーラン工房と繋がっていることを示す証拠であったり、それ以外にも表沙汰に出来ない裏の顔についての証拠を得るというものだ。

 だが、ダイラスの身柄を確保出来れば、それは風雪にとって大きな意味があるのは間違いない。

 善人と言われているダイラスの裏の顔を暴くにも、あるいはその証拠を入手するにも、ダイラスの身柄を確保出来ればそれが最善だったのだから。

 しかし、そんなレイの言葉にクロウは少し考え、かなり悔しげな様子ではあったが、口を開く。


「いや、出来ればこのまま撤退したい。実際にはギガラーナさんがその辺を考えるだろうが、多分同じ判断をする筈だ。当初の目的を果たしたのだから、これ以上この屋敷にいる必要はない。この部屋にもう用はないから、全員で脱出してギガラーナさんに合流しよう」


 部屋の外では、まだ戦いの音が続いている。

 だが、もうこの部屋にあった証拠と思しき物を入手した以上、この部屋を守る必要はどこにもないのだ。

 クロウのその説明に、部屋の中にいる者達の多くが納得するものの……


「それで、ギガラーナに合流するにしても、どこにいるのかは分かってるのか? 今の状況を考えると、迂闊に行動すると敵の目を引くことになるぞ」

「それは……確かギガラーナさんにも陽動はやって貰ってるんだよな? なら、その伝令に行った奴なら……誰だ?」

「部屋の前で戦ってる。とにかく、今はここで話すよりも部屋の前にいる敵をどうにかするのが先決じゃないか?」


 部屋の中にいた一人がそう言い、他の者達もそれに同意するように頷く。

 レイもまた、その意見には賛成だった。

 自分達がここでこうして話している間にも、部屋の前で風雪の者達が戦い続けているのだ。

 そうである以上、そちらを先に処理した方がいいのは間違いない事実。

 レイ達は自分のやるべきことを決めると、すぐに扉から外に出る。

 廊下で広がっているのは、レイが予想していたのと同じ光景だった。

 風雪の暗殺者達が、援軍でやって来たと思しき冒険者達と正面から戦っている。

 何人かはレイにとっても見覚えのある金属鎧を着ているが、大半は部屋の中で聞いたように援軍としてやって来た冒険者と思しき存在だ。


「くそっ! 敵にまた戦力が来たぞ! さっさとこの連中を倒さないと不味い!」


 冒険者の一人が咄嗟に叫ぶものの、その相手に対してレイは突っ込んでいくのだった。

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