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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2830/3865

2830話

昨日、間違って1話飛ばして投稿してしまったみたいです。

なので、昨日の午後9時くらいまでに見た方は前話からどうぞ。


申し訳ありませんでした。


 後ろに注意しながら、レイは咄嗟に顔を動かす。

 一瞬前までレイの顔のあった空間を貫く矢。

 進む先から何らかの機械音がした瞬間に叫びながらの行動だったが……


「ぐぅっ!」


 背後から聞こえてくる声にレイは舌打ちをする。

 今のこの状況でそのような声が発せられるということは、当然ながら矢によって誰かが被害を受けたのだろうと考えるしかない。


「一気に前に出る! 罠が発動するかもしれないから、注意しろ!」

「ちょっと待て、この状態で注意しろって言われ……」


 背後から聞こえてくるクロウの声を無視して、レイは走り出す。

 心の中で、先程の苦痛の声がクロウのものではなかったということに安堵しながら。

 通路の先にある扉まで、五m程。

 そのくらいの距離なら、レイの脚力なら容易に走り抜けられる。

 しかし、その代わりにレイが走った影響で罠が発動するといったようなことになってもおかしくはなく……


「ちっ!」


 そんなレイの予想は当たり、扉まで二m程の距離まで近付いたとろで、再び扉から矢が射られる。

 一度目の発射から二射目まで多少ではあっても時間が掛かったのは、恐らくは新たな矢の装填に時間が掛かってしまったのだろう。

 それでもレイの速度で扉に着く前に再び矢を発射出来たのだから、その速度は決して遅いものではないのだが。

 それに最初の一撃はどのような罠があるのか分からなかったので反応が遅れたものの、矢が来ると分かっていればレイもそれに対応するのは難しい話ではない。

 半ば反射的に自分に向かって来た矢を掴み取る。

 飛んでくる矢を回避するのなら、そこまで難しい話ではない。……それでも相応の身体能力であったり先読みの能力が必要になるが。

 だが、矢を掴み取るとなると、もし成功しても完全に掴んでいなければ、矢は手の中で滑って完全に止めることは出来ない。

 それが出来る辺り、レイの類い希な身体能力が……あるいは本能的な勘の類が優れていることの証拠だろう。


「おらぁっ!」


 矢を掴み取ったまま、レイの拳は扉に用意されていた矢の発射口に向かって振るわれる。

 振るわれた拳は、握っていた矢を折りながら発射口を破壊する。

 レイはそれで満足するような真似はしない。

 この矢だけがここに仕掛けられた罠であるとは思えなかったからだ。

 幸いにも……あるいは罠を仕掛けた者にとってレイの身体能力は完全に予想外だったのだろう。

 もし今の矢に続く何らかの罠があっても、今は作動していない。

 ならば、レイがそんな格好の隙を逃す筈もない。

 扉を開く……のではなく、扉を蹴り破る。


「ぐ……おおおおっ!」


 蹴りを放ちはしたものの、扉にはレイのような侵入者対策に金属が仕込まれていた。

 もしレイが普通の……エグジニスにおける普通の冒険者であれば、そのような扉を破壊するといった真似は不可能だっただろう。

 しかし、レイは異名持ちのランクA冒険者だ。

 ゼパイル一門によって生み出されたその身体は、中に金属を仕込んだ扉であろうとも問題なく開けることに成功する。

 正確には蹴り破るのではなく、蹴って扉の蝶番を破壊して内部に吹き飛ばすといったような結果だったが。


「来い!」


 扉が消えた部屋の中に入り込んだレイは、後ろに向かって鋭く叫ぶ。

 クロウ達も風雪の暗殺者だ。レイの言葉よりも前に駆け出していた。

 レイが部屋の中に入って数秒もしないうちに中に入ってくる。

 その中には先程レイが回避した矢が左肩に命中した一人も入っていたが、それでも動きが多少鈍った程度なのは、暗殺者として厳しい訓練を積んでいるからだろう。

 部屋の中に入ってきたクロウ達だったが、当然のようにそれで安心出来る訳ではない。

 部屋の中にも何らかの罠があるのではないかと警戒し、レイ共々部屋の中を見回す。


(窓の一つもないってことは……換気とかどうしてるんだ? 待て、換気? 毒とかは……いや、心配ないか)


 毒ガスの類を心配したレイだったが、幸いなことにこの部屋に入る時に扉を蹴り飛ばしている。

 もし扉が閉まって外に出られないようにしてから何らかの手段で毒ガスの類を噴射しても、そこから毒ガスは流れていくか、あるいはそこから脱出すればいいだけだった。


「レイ? どうした?」


 扉の嵌まっていた場所を見ていたレイに、クロウが不思議そうに尋ねる。

 何か妙なところでも見つけたのかと思ったのだろう。

 しかし、レイはそんなクロウに向かって首を横に振る。


「何でもない。もしかしたらってのを考えていただけだよ。それよりも怪我をした奴は大丈夫か? 俺が最初にきちんと対処していれば、怪我をさせなくてもすんだんだが」

「気にするな。あの状況でレイが攻撃を回避したのを責めるような者はいない。幸い、矢が刺さったのは左肩で、ポーションを使ったから問題ない。鏃には毒の類も付着していなかったみたいだしな」

「そうか。ならいい」


 鏃に毒の類が付着していなかったのは、レイにとっても悪い報告ではなかった。

 この状態で毒というのは、非常に厄介なのだから。

 一応毒消しのポーションも持ってはいるので、いざとなれば対処は出来ない訳でもなかったが。


「それにしても……てっきり部屋の中に入っても何らかの罠があるかと思ったけど、今のところそんな罠はないみたいだな。で、問題はあれか」


 改めて部屋の中を見回しながら、レイは呟く。

 部屋の中にある物で、一際目を引くのは部屋の片隅に存在する金庫。

 それも高さと横幅、奥行きともに三m程の金属の塊とでも言うべき巨大な金庫。

 一体どれだけの重量があるのか、非常に気になってしまう。


(ここは二階だし、下手をしたら床が抜けるんじゃないか? いやまぁ、ここにああいう金庫を置くってことは、相応の補強はしてるんだろうけど)


 軽く床を蹴ってみるレイだったが、生憎それだけで床の頑丈さが分かる訳でもない。


「どう見ても、あの金庫に証拠の類があると思ってもいいんだろうが……厄介だな」


 あれだけの金属の塊である以上、持ち出すことはまず不可能だろう。

 そうなると、何とか金庫の扉を開ける必要があるのだが、今の状況でそのような悠長な真似をする訳にはいかない。いかないのだが……それでも証拠を得る為には、その悠長な真似をする必要があるのだ。それも出来るだけ早く。

 忌々しげに呟くクロウだったが……


「何でだ?」


 クロウと一緒に金庫を見ていたレイの口から、そんな気楽な声が漏れる。

 は? と、クロウや他の二人は何故レイがそのような気楽な声を出せるのかと、理解出来ない様子を見せる。

 ミスティリングを持っているレイにしてみれば、こういう金庫の類は全く問題なく持ち運べる。

 中に生き物がいる場合は収納は不可能だが、隠し部屋にある金庫ならそんな心配はいらない。

 寧ろ問題なのは、金庫を破壊する時に内部にある証拠を破壊してしまわないかということだろう。

 金庫の残骸については、それこそ鍛冶屋に売るなり、あるいはセトに乗って上空から地上に対する攻撃方法として使うなり、使い道は幾らでもある。


「俺がミスティリングで収納するよ。そうすれば持ち出すのに何の問題もない。……この状況なら、中にダイラスの悪事の証拠の類が入ってるのはほぼ間違いないだろうし」


 そう言いながら、実は金庫の中に入ってるのは宝石や美術品、あるいは白金貨、光金貨の類だったらどうする? と思ってしまう。


「そんな訳で、この金庫は持っていくから心配するな。問題なのは、この金庫が実は囮で他の場所に証拠があるということだが」


 レイの言葉に、クロウ達は部屋の中を見回す。

 金庫以外には、それこそソファとテーブル、簡素な机と椅子といった程度の物しかない。

 ダイラスの隠し部屋として考えれば、かなり質素な部屋なのは間違いないなかった。


「それにしても……なぁ、レイ。もしダイラスがこの部屋に用事がある時は、あの罠とかどうしていたと思う?」

「は? それは……普通に考えれば、ああいう罠が発動するのは正規の手段以外で結界を解除……というか破壊して、入ってきたりしたからだろ。ダイラスが持ってる何か……結界を正規の手段で解除出来る何かがあるのなら、ああいう罠は発動しないと考えてもいい」

「なら、それを……いや、無理か」


 レイとクロウの会話を聞いていた男の一人が、思わずといった様子でその何かを入手してからここに挑んだ方がよかったのではないかと言いそうになるも、すぐにそれが無謀なことだと理解して途中で言葉を止める。


(当然だろうな)


 レイも途中で言葉を止めた男と同意見だった。

 ダイラスにとって、恐らくは金庫の中にあるだろう悪事の証拠の数々は決して表に出す訳にはいかない。

 そんな場所に入る為に結界を解除する道具……それが鍵か、あるいはカードのようなものか、はたまたもっと別の形をした何らかのマジックアイテムなのかはレイにも分からなかったが、そのような物をそう簡単に渡すような真似はしないだろう。

 ダイラスが直接持っている可能性が非常に高い。

 そのような物を入手しようとするなら、それこそダイラスを直接捕らえた方が手っ取り早い。


「なら、まずはレイさんにこの金庫を手に入れて貰って……ただ、この部屋から出るとまた何らかの罠があるかもしれないと思うと、少し気が滅入るな」


 矢によって傷ついた男が、部屋の隅にある金庫のある方に向かう。

 男にしてみれば、それは何気ない行動だったのだが……そんな男が近付いてきた瞬間、それを見計らったかのように金庫が動き出す。

 ……そう、金庫が動き出したのだ。

 迂闊に近寄ってきた男に向かって、金属の表面が針の……いや、それは既に槍の穂先と言ってもいいような形状になり、近付いてきた男に向かって襲い掛かる。


「うおっ!」


 男はそんな金庫の不意打ちに関しても何とか反応して回避し、金庫から距離を取る。


「大丈夫か!?」


 クロウが金庫を警戒しながらも、男に近寄って尋ねる。

 男はそんなクロウに問題はないと返しながら、それでも今は一体何があったのかといったように驚きを露わにした。

 改めて自分に攻撃をしてきた金庫を見てみると、既にそこには何もない。

 自分に向かって巨大な金属の針で攻撃してきたのは、何かの間違いだったのではないかと、そのようにすら思ってしまう状況だった。

 しかし、それは違う。

 あの金庫が自分に向かって攻撃をしてきたのは間違いのない事実。


「クロウ、夢や幻覚の類じゃないよな? あの金庫は間違いなく俺に向かって攻撃をしてきた」

「ああ、俺も見た」

「ゴーレムだろうな」


 クロウと男の会話に割り込んだのは、レイ。

 この屋敷に入る前、扉として使われていたゴーレムを自分の目で見ていたので、金庫がゴーレムであってもそこまで驚くようなことはない。


「ゴーレム? ……なるほど。ドーラン工房と繋がってるんだから、こういうゴーレムも用意は出来て当然か」


 金庫から距離を取った男が特に怪我らしい怪我をしていないのを確認し、クロウはそんな風に呟く。

 矢の件であったり、金庫のゴーレムであったり、色々と不運な男だなとは思わないでもなかったが。


「レイ、どうする?」

「問題ない。……正直なところ、ゴーレムと俺は相性的に最高だからな。ゴーレムを用意した側にしてみれば最悪だろうけど」


 そう言うと、レイはそのまま金庫に向かって近付いていく。

 金庫はレイの接近に反応するように、金属の針を伸ばしてくる。

 槍と針といったように若干攻撃方法は違うが、それでも攻撃方法そのものは門のゴーレムとそう違いはない。

 この辺はゴーレムを作った者の技術力の限界なのか、もしくは自由に動き回れるのではなく普段は門や金庫といった物に擬態をしている関係なのか、攻撃のパターンはほぼ同じだ。

 門を前にした時のレイや、金庫の突然の攻撃に驚いた男のように相手の意表を突いた奇襲であれば、それでも十分な性能があるのは間違いないだろう。

 しかし、そのようなゴーレムであると認識をしている状態であれば、対処するのは難しい話ではない。

 金庫から次々と放たれる金属の針。

 レイはそんな風に連続して放たれる攻撃を次々と回避しながら間合いを詰めていく。

 そんなレイを近づけんと必死に金属の針で攻撃をしてくる金庫だったものの、レイを相手にどうにかするにはその動きは明らかに遅すぎた。

 結果として、レイには一切ダメージを与えるようなこともないまま金庫はレイを近くまで近づけさせ……


「終わりだ」


 金庫の壁に触れ、そう言った瞬間にその姿は消える。

 本来なら針に触れてミスティリングに収納してもよかったのだが、ゴーレムである以上どんな仕掛けがあるのか分からない。

 だからこその、レイの行動だった。

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