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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2828/3865

2828話

「助かった」

「気にするな。それより証拠の方は? まだ見つかってないのか?」

「ああ、この部屋の中にある扉が怪しいんだが、結界に守られていてどうやっても開かない」


 扉の前にいた男達を全員殺すと、クロウは扉の前にいた仲間達と話をする。

 しかし、その話はクロウの望むような答えではなかった。

 いや、怪しい扉を見つけたという点では非常に大きな意味を持つのは間違いない。

 だがその扉を開けることが出来ない以上、それはクロウにとってまだ目的を達成したとは言えなかった。


「扉を破壊することは出来ないのか?」

「無理だな。結界でしっかりと守られているよ。俺達では無理だと思う。可能だとすれば……」


 そこで言葉を切った男が視線を向けたのは、窓。

 正確には、窓の外にいるレイなのは明らかだろう。

 レイの持つデスサイズと黄昏の槍は、双方共に強力なマジックアイテムだ。

 それを知ってるからこそ、暗殺者はそちらを見たのだろう。

 クロウも仲間が何を言いたいのかは理解したものの、だからといってすぐに頷くような真似も出来ない。

 レイは目立つ。

 デスサイズと黄昏の槍の二槍流でもそうだし、セトを連れているということでもそうだ。

 そのようなレイだからこそ、陽動をやって貰っているのだ。

 そんなレイをこの部屋に呼ぶということになれば、陽動はセトだけに任せるしかない。


(あれ? それでも十分陽動になるんじゃないか?)


 グリフォンのセトが暴れているのだから、当然のようにその姿は目立つ。

 そうである以上、警備兵として雇われている冒険者がセトに意識を集中するのは当然の話だろう。

 ましてや、レイを呼ぶにしてもずっと屋敷の中にいて貰う訳ではない。

 勿論そうしてくれた方がいいのは間違いないのだが、その辺は自分達の仕事であるという認識もあった。

 そうである以上、やはりここは結界だけを破壊して貰い、残りは自分達でやった方がいいと思う。 思うのだが、結界が一つだけであるとは限らないのも、今回に限っては非常に痛い。

 もしレイに結界を破壊して貰ってまた外に戻るように言っておきながら、扉の先に再び結界の類あった場合、それに対処するのにまたレイを呼ぶ必要があるのだ。

 そうして無駄な時間を使うのはどうかと思うし、何よりも今回の一件に関しては非常に嫌な予感がするのも、間違いのない事実だった。


「やはりここは素直にレイに協力して貰った方がいいか」

「本気か? 別にレイに頼る必要はないだろう!?」


 レイに頼るというのが気にくわなかったのか、クロウの独り言を聞いていた暗殺者の一人がそう叫ぶ。


(こいつはレイの反対派か)


 クロウは面倒そうな視線を男に向ける。

 風雪の中には、未だにレイを嫌っている者が多い。

 昨夜の一件で一緒に戦い、それどころか一番目立って風雪の者達を助けてくれたということで、感謝している者も多い。

 しかし、そこまでやられても未だにレイを許容出来ない者がいるのも事実。

 風雪という組織にプライドを持っているだけに、レイの一存で血の刃と戦うことになったことを不満に思っている者も多いし、昨夜の件もそもそもレイのせいで風雪のアジトが襲われたという認識を持っている者が多かった。

 クロウもその意見の全てが間違っているとは言えない。

 事実、ドーラン工房やダイラスといった権力者と揉めるようになったのは、レイ達が原因と言っても間違いではないのだから。

 だが、今更それを言ってどうするのか。

 今の状況になったのはレイが関係しているのは間違いない。

 しかし、それを言ったところで現状がどうにかなる訳ではないのも事実。

 それに、今回の一件を起こしたのはレイかもしれないが、それを受け入れたのは風雪側なのだ。

 それを思えば、今更ここでレイに協力しないといったようなことを言っても意味がないのは明らかだろう。


「冷静に考えろ。今は個人の感情云々ではなく、まずはその扉を守っている結界をどうにかする必要がある。そうである以上、ここにその結界をどうにか出来る奴がいるか?」

「それは……」


 あるいはこの屋敷に突入してきた暗殺者の中には、結界をどうにか出来るだけの実力者がいるかもしれない。

 しかし、問題なのはもしそのような者がいたとして、今ここにそのような人物がいないということだろう。

 そのような人物がおらず、そしてレイは外にいるとはっきりしている。

 そうである以上、どちらを呼ぶのが手っ取り早いのかは考えるまでもなかった。


「分かった」


 渋々、本当に渋々といった様子ではあったが、レイに頼るのを反対していた男がそう告げる。

 このままでは結界をどうにか出来るとは思えなかったのだろう。


「まずは結界が具体的にどういうのかを見る必要があるな。ここまでこうして色々と言っておきながらなんだが、もしかしたら俺達で結界そのものをどうにか出来る可能性もあるかもしれないし」

「それは……ちょっと難しいと思う」


 結界を実際に自分の目で見ている暗殺者の一人が、クロウの言葉にそう返す。

 実際に自分の目で見ているからこそ、その結界がどれだけ強靱なものかを理解しているのだろう。

 そんな仲間の様子に、クロウはそこまで頑丈な結界なのかと予想しつつ、とにかくいつまでも扉の前にいるのは危険だと判断して部屋の中に入る。

 何人かには、死体をどこかに運ぶように言っておく。

 もしこの状況でまた部屋を取り戻しにくるような戦力があった場合、再び部屋の前での戦いになる。

 そんな中で死体が転がっているのは、クロウ達にとって戦いにくかった。

 死体が床に転がっていて戦いにくいというのは、敵も同様だろう。

 それはクロウも知っていたが、今の状況を思えばやはり敵が不利になるよりも自分達が万全の状態で戦えるようになった方がいいと、そう思ったのだ。

 そうして部屋の中に入ると、真っ先に目に入ってきたのは壁の側に存在する本棚。

 ただし、その本棚は横に動くようになっており、その本棚のあった場所にはスイッチと思しき物があった。

 そうしてスイッチのあった壁の向かい側には、巨大な絵画が掛けられている。

 ただし、その絵画も今は横に移動し、その絵画のあったと思しき場所には扉があった。


「なるほど。その本棚の後ろにある仕掛けで絵画が動いて扉が出て来た訳か」

「そうだ。他にも何らかの仕掛けがないか……特にあの扉が開かないように展開されている結界を解除する方法がないかどうか、かなり頑張って調べてみたんだが、生憎とそういうのはどこにもなかった」


 部屋の中で他にも何らかの仕掛けの類かないか、特に結界を解除する仕掛けがないかと探していた暗殺者達の一人が、クロウに向かってそう告げる。

 とはいえ、この状況で仕掛けの類を見つけられなくてもクロウとしては責めるつもりはない。

 そもそも自分達は、あくまでも暗殺者なのであって、盗賊や密偵といったような者達とは違う。

 普通の戦士達に比べるとその手の作業に慣れてはいるものの、だからといって専門家という訳ではない。

 そういう意味では、寧ろ結界が張られている隠し扉を見つけることが出来た点で褒めてもいいとすら思っていた。


「あの結界は破壊出来ないかどうか試してみたんだよな?」


 一応といったように尋ねるクロウに、その言葉を聞いていた者達は当然といったように頷く。

 あの結界に守られた扉の向こうに何かがあるのかを考えれば、そのような真似をしない訳にはいかない。


「扉が無理なら、廊下の壁側から攻撃をして破壊するのってのはどうだ?」


 クロウが口にしたのは、そこまで突飛な案という訳ではない。

 正規の扉が無理なら、その横の壁を破壊して扉の先にある隠し通路に入ればいいというのは、少しでも機転の利く者ならすぐに思いついてもおかしくはないものだ。

 しかし、クロウのその言葉に話を聞いていた暗殺者達は首を横に振る。


「試してみたけど、壁はかなり頑丈な作りになっている。扉と違って結界の類じゃないみたいだが、物理的な意味で頑丈みたいだな」

「それはまた……厄介な。そうなると、やっぱりレイを呼んだ方がいいな。レイなら、この扉の結界を破壊するなり、壁を破壊するなり、どっちでも出来るだろうし。とはいえ、下手に壁を破壊すれば隠し通路が破壊されてしまう可能性もあるから、やっぱり扉を破壊した方がいいか」

「分かった。他の連中はどうする? この先にダイラスの公に出来ない秘密があるのなら、ここに全員を集めるか?」


 その提案は、クロウにとっても悩ましいところだ。

 このように手間の掛かった隠し場所がある以上、この先にダイラスの秘密があるのはほぼ確定であると考えてもいいだろう。

 しかし、同時にダイラスの用心深さを考えれば、一ヶ所に全ての秘密を纏めておくか? という疑問もある。

 ……とはいえ、下手に秘密を分散させるとすぐに見つかってしまう可能性が高いのだが。

 そう考えると、一ヶ所に隠しておいた方がいいのも事実。


「この部屋に俺達が気が付いたというのは、出来るだけ知られたくない。屋敷の色々な場所で騒動を起こして、それによってダイラスの注意を分散させたい。特にあの金属の鎧を着ている連中は、正面から戦うと厄介だしな」


 クロウのその言葉に、他の者達も納得する。

 あの金属鎧を着ていた者達の練度は相応に高い。

 正面から戦えば、クロウ達にも被害があるのは事実だ。

 不意打ちや奇襲をすれば対処は難しくないのだが。

 それでも今の状況を思えば、やはり正面から戦いたくはなかった。

 あの金属鎧の者達を一ヶ所に集めるといったような真似をせずに戦うには、この広い屋敷の中で同時に多数の騒動を引き起こした方がいいと考えるのは当然だろう。


(ダイラスの屋敷がかなりの広さがあったことに感謝だな。……あるいは、屋敷がもっと狭ければあの金属鎧の連中も数が少なかったのかもしれないが)


 そんな風に考えるクロウは、とにかくまずはレイを呼んでくるのが最優先だと判断する。


「他の場所で証拠を探してる連中に、出来るだけ派手に暴れるように伝言を頼む。そうなれば金属鎧の連中がそっちに向かうかもしれないとの伝言と共にな。後は、レイには……俺が行った方がいいか?」


 ここにいる者の中で、一番レイと親しいのは間違いなくクロウだ。

 そうである以上、レイをここに呼んでくるのならクロウが行った方がいいのは間違いない。

 とはいえ、自然な流れでクロウはこの場で指揮を執っている。

 これはクロウが風雪の中でもそれなりに名前が知られているからこそなのだが、そんなクロウがここからいなくなるのは若干問題でもあった。


「俺が行くから、クロウはここで指揮をしていていくれ」


 そう言ったのは、この部屋の中で結界を調べていた男だ。

 これで自分が行くと言ったのが、先程レイの存在を気にくわないと言った者であれば、クロウもそれを却下しただろう。

 だが、自分がレイを呼びに行くと立候補した男は、そこまでレイを敵視していなかったと思い出す。

 出来ればもう少しじっくりと考えたかったが、今は少しでも早く動くのを優先するべきだった。


「分かった。なら、そっちは任せる。ただ、レイの機嫌を損ねるような真似しないでくれよ。レイが来ないと、あの結界はどうにも出来ないだろうし」

「何とかしてみる。今はとにかく、あの扉をどうにかする必要があるしな。それを考えれば、少しでも出来ることはしておきたい」


 この場合の出来ることというのは、クロウにレイを呼びにいかせるのではなく、自分がレイを呼びに行き、それによってクロウの指揮で少しでもここの戦況を優位にしたいと、そう思ってのものだろう。

 クロウの仕切りが優秀だと判断したので、それに頼ってのことだった。


「それぞれ、自分のやるべきことは分かったな。なら、その通りに行動を開始しろ。それと……手の空いてる奴は、部屋の前にある死体の片付けだ。今やってる連中の手伝いを頼む。出来れば俺達がここにいるのは秘密にしておきたいから、死体を見えない場所に移動させた方がいい」

「けど、クロウ。死体がなくても戦闘の痕跡はどうにも出来ないぞ?」


 この場合の戦闘の痕跡というのは、血痕であったり、壁や床にある傷であったりを示す。

 ここで派手な戦いが行われている以上、廊下や壁にも大きな傷跡が存在している。

 何も知らない者であってもそれを見れば、ここで戦いが行われたというのは誰にでも理解出来ただろう。

 それを見れば、死体をどうにか運んでも意味はなくなってしまうのは間違いなかった。


「それでもやらないよりはいい」


 そう言うクロウの言葉に、多くの者は行動を始めるのだった。

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