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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2827/3865

2827話

 レイとセトがダイラスの屋敷……正確にはその周辺で暴れている頃、ダイラスの屋敷の中では風雪の暗殺者達が大規模に動いていた。

 ただし、大規模に動いてはいるものの、その戦闘方法はレイやセトのように派手なものではない。

 暗殺者なのだからこれは当然だろう。

 基本的には自分から姿を見せるような真似はせず、ダイラスの屋敷の中に存在するだろうドーラン工房との繋がりを示す証拠、もしくはエグジニスの住人なら知っているものとは全く違うダイラスの顔を示す証拠の類を探していた。


「どうだ? 見つかったか?」

「駄目だ。それらしい場所は色々とが探してるんだが、まだ見つかってない」


 廊下で仲間と会ったクロウの質問に、返ってきたのはまだ何も見つかっていないという言葉。

 その言葉を聞いて若干の焦燥感を抱くクロウだったが、すぐに自分を落ち着かせる。

 元々オルバンの指示によってダイラスが怪しいということで証拠を探していたにも関わらず、その証拠はまだ見つけられてなかったのだ。

 そこまでの用心深さを持っている以上、こうして探し始めたからといってすぐに見つかるとは思っていなかった。

 今の状況を思えば、それは仕方のないことだ。

 そう理解しつつも、だからといってまさかここで証拠を探すのを諦めるなどといった真似が出来る筈もない。

 見つからないようにこっそりと調べるといった手段で証拠が見つからなかったから、こうして襲撃しつつ証拠を探してるのだから。

 ……実際には、風雪のアジトに襲撃をした報復という意味合いの方が強いのも事実だが。

 とにかくここまでした以上、絶対に何らかの証拠を見つける必要があるのだが……生憎と、今のところそのような証拠が見つかったという報告はない。


(これ、本当に大丈夫なんだろうな? 実はダイラスは評判通り元々後ろ暗いことをしていない奴で……なんてことになったら、洒落にならないぞ?)


 屋敷の外で戦っているレイと同じようなことを考えるクロウ。

 いや、そのようなことを考えているのはクロウだけではない。

 現在ダイラスの屋敷にいる風雪の暗殺者達の多くが、似たようなことを考えているだろう。

 だからこそ、今は少しでも早く何らかの証拠を見つける必要があったのだが……

 キンッ、という甲高い金属音が不意にクロウの耳に入ってくる。

 一体何だ? と戸惑ったりはしない。

 それが戦いの音であるのは明らかなのだから。

 それも屋敷の外でレイが戦っているのではなく、屋敷の中で暗殺者と警備兵が戦っている音なのは間違いない。


(また見つかったか)


 屋敷の中に金属音が響き渡るのは、別にこれが初めてという訳ではない。

 数十人の暗殺者が屋敷に中に侵入して行動しているのだ。

 その全員が相応の技量の持ち主ではあっても、これだけの人数が同時に行動してるのだから、ちょっと運が悪ければすぐに見つかってしまうのは当然だった。

 結果として、クロウも今までにも何度か警備兵と遭遇して戦いになっている。

 それでいながらも戦闘が大規模に広がらなかったのは、警備兵と比べて風雪の暗殺者の技量が高く、戦闘が長引かないで終わっていたからだろう。

 ……なお、その戦闘によって警備兵が殺されるか、あるいは生き残るのは戦った暗殺者次第だ。

 風雪の暗殺者と一纏めにしても、その中には無用な殺しを嫌う者もいるし、自分の敵は皆殺しにする者もいる。

 そういう意味では、警備兵が生き残れるかどうか運が全てを決めると言ってもいい。

 勿論、暗殺者を倒すことが出来れば生き残ることが出来るが、警備兵として雇われている冒険者と風雪の暗殺者の間にある実力差は圧倒的だった。

 そうである以上、今の状況で警備兵達が生き残るには、やはり運が全てとなってしまう。


(それでも、レイと戦うよりはマシだろうな)


 クロウはダイラスの屋敷の外で行われているだろう戦いを想像しながら、再び証拠の捜索に戻る……いや、戻ろうとしたところで誰か近付いてきた気配を感じ、反射的に短剣を構える。

 だが、その短剣が実際に振るわれることがなかったのは、近付いてきたのが風雪の仲間だと理解していたからだろう。

 もし敵であったら、それこそすぐにでも短剣を振るうなり、投擲するなりしていたのは間違いない。


「どうした?」

「クロウ、ちょっと手を貸してくれ。怪しい場所を見つけた!」


 そうクロウに言う男の声は、間違いなく興奮している。

 今までどんなに頑張っても見つけられなかった証拠がある……かもしれない場所を見つけたのだから、当然だろう。

 クロウもそんな仲間の言葉に真剣な表情を浮かべる。


「本当か!?」

「ああ。ただ、そこを開けるのに手間取っているし、何より向こうはこっちにそこを占拠されるのは絶対にごめんらしい。結構な人数が俺達の占拠した部屋を取り戻そうとしてやってきている」

「結構な人数って……レイが外で暴れているのに、そこまで戦力が残ってるのか?」

「厄介なことにそうらしいな。だからこそ、そこが余計に怪しいと思ったんだが」

「分かった、行こう」


 説明を聞いたクロウは、即座にそう判断する。

 今この状況でその部屋を敵に取り戻されるのは危険だと判断した為だ。

 何としてでも、その怪しい場所は自分達で確保する必要があるとクロウも考える。

 クロウが口にしたように、本来なら敵の多くはレイの攻撃によって外に出ていてもおかしくはなかった。

 そのような状況で未だにそれだけの戦力を残しており、その戦力を派遣してくるのだ。

 怪しい場所を見つけたというのも、勘違いという訳ではないだろう。

 呼びに来た仲間とそちらに向かうと、途中で何人かの仲間が合流してくる。

 クロウと同様に応援に来るように要請を受けた者達だ。


「どうだった?」


 通路を走りながら言葉少なに尋ねるクロウに、合流してきた者達は揃って首を横に振る。

 クロウも予想はしていたので、それによってがっかりしたりはしない。

 なお、新たに合流してきた者達も、クロウがそのように聞いてくるということはクロウの方でも手掛かりらしい手掛かりは見つけられなかったと判断したのか、聞いてくる様子はない。

 それ以後は特に何を喋るでもなく無言で走っていたのだが……


「敵だ!」


 不意に先頭を走っていた男が鋭く叫ぶ。

 その言葉を聞くと同時に、皆が走りながらも一斉に武器を構え、いつ戦闘になっても言いように準備を整える。

 するとクロウ達が走っている通路の先、T字路になっている場所で、左側から数人の男達が姿を現す。


(ちっ、やっぱりか!)


 姿を現した者達を見たクロウは、内心で苛立ちを露わにする。

 苛立ちを露わにした理由は、現れた者達が明らかに警備兵……冒険者がダイラスに雇われて警備兵をしているのではなかった為だ。

 揃いの金属鎧を着ているのを見れば、とてもではないが普通の冒険者とは思えないだろう。

 勿論、冒険者でもパーティで揃いの装備を身に着けていたり、あるいは雇い主の趣味で揃いの防具を装備させたりといったようなことはあるが、今回はそのどちらでもないとクロウには理解出来た。

 それはクロウだけではなく、一緒に行動している他の暗殺者達も同様だった。

 相手がこちらの存在に気が付くよりも前に、先制攻撃をする必要がある。

 そう判断し、通路を走っていた集団の半分程が走る速度を一気に上げ、もう半分は仲間を援護する為に短剣を投擲する。


「何っ!」


 金属鎧を着た者達がクロウ達の存在に気が付いたのは、ここでようやくだった。

 クロウ達が金属鎧の類を装備していればもっと前に相手も気が付いたかもしれないが、暗殺者としては防御力が高くても重量があり、音が鳴りやすい金属鎧よりは革の防具を好む。

 それも鎧ではなく服にしているような者も多い。

 そのような者達だけに、金属鎧を着た者達が気が付くのは遅れてしまう。……それこそ、致命的なまでに。

 真っ先に叫んだ男の顔面に、暗殺者の一人が投げた短剣の刃が突き刺さる。


「ぐ……」


 地面に倒れる男。

 当然だが、そのような状況になれば他の者達も暗殺者達の存在に気が付く。

 ……いや、そもそも最初に男の一人が叫んだ時点で、敵との遭遇であると認識出来ていた。

 仲間が倒れたのも気にせず、すぐに迎撃の態勢を整える。

 もしここにレイがいれば、表で戦った警備兵との練度の違いに気が付いただろう。

 表で戦った相手は、仲間が倒れればそちらに視線を向けるといったような真似をしていた。

 そのような真似をするだけで、戦闘においては致命的なのは当然だろう。

 ましてやレイやセト、クロウのような腕利きの暗殺者達と戦っているのなら尚更に。

 しかし、今こうしてクロウ達が戦っている相手は仲間が殺されても全く動揺した様子もなく、反撃の準備をしている。


(手強いな)


 敵との間合いを詰めるクロウも、相手の様子を見てそんな風に判断した。

 しかし、手強いからといってここで攻撃をしないという選択肢は存在しない。

 それどころか、クロウの走る速度は相手が手強いと判断すると一段と増し……やがて、長剣を握る相手の間合いに入る。

 クロウにとって最も近い場所にいた相手は、そんなクロウの速度を承知した上で長剣を振り下ろす。

 槍の類を持っていないのは、このような場所では槍よりも長剣の方が使いやすいと判断したからだろう。

 そしてこれもまた外にいる警備兵とは明らかに格の違う振り下ろしの一撃。

 しかし、クロウはそんな相手の攻撃を床を蹴って斜めに跳ぶことであっさりと回避し、短剣の刃を相手の足の膝関節に突き刺す。

 当然だが、金属鎧を着ていても関節部分に隙間はある。

 そうでなければ動けないのだから。

 そして隙間がある以上、幾ら金属鎧の防御力が高くても無意味だった。


「ぐわぁっ!」


 関節を切断され、地面に崩れ落ちる男。

 しかしクロウはそんな相手の様子を全く気にした様子もなく、次の敵に向かう。

 クロウという名前とは裏腹に、地を這うかの如く移動して他の相手の膝関節を刃で刺していく。

 勿論敵と直接戦っているのはクロウだけではないので、他の暗殺者もそれぞれに攻撃をしている。

 膝関節を主に狙うクロウとは違い、肘関節を狙ったり、顔面を狙ったりといった真似をしている者も多い。

 恐らく正面から戦った場合、金属鎧の男達は強かったのだろう。

 しかし、暗殺者のクロウ達が正面から戦う筈もない。

 結果として、金属鎧の男達は戦いらしい戦いをすることも出来ないまま、全員が死んでしまう。


「よし、この連中はこのままにして、部屋に向かうぞ」


 ここにいるのがレイなら、剥ぎ取りと称して敵から武器や防具を奪っていたかもしれない。

 しかしクロウ達がそのような真似をする筈もなかった。

 ましてや、今は剥ぎ取りなどといった行為で時間を潰しているような暇はない。

 ダイラスがドーラン工房と繋がっており、それ以外にも出来るだけ多くの悪事の証拠を見つける必要があった。

 その為、まずは手掛かりらしい物を見つけたという部屋に急ぐ必要があるのだ。


「あそこだ! ……ちっ、やっぱりいるか!」


 クロウを呼びに来た男が周囲には響かないように小声で叫ぶと、クロウは通路の先を見てその叫びの意味を理解する。

 一つの部屋の扉の前で、先程クロウ達が戦ったのと同じような金属鎧を着た者達と風雪の暗殺者が戦っているのだ。

 相手の不意を突き、そのまま一気に戦いの流れを奪ったクロウ達と違い、扉を……正確には扉の中で調べているだろう仲間を守る為に、暗殺者達は正面から金属の鎧を着た相手と戦うことになっていた。

 正面からの戦いということで、床に倒れている死体の中には暗殺者も多い。

 その状況に思うところがない訳でもなかったが、今はまず敵を倒して部屋の安全を確保するのが先だ。

 クロウを含めた暗殺者達はそのまま扉を守っている暗殺者と戦っている金属鎧の男達に向かって背後から奇襲を仕掛ける。

 戦いの中で背後から殆ど音も立てずに近付いて来るクロウの存在には、金属の鎧の男達も気が付く様子はない。

 ましてや、扉の前を守っている暗殺者達はそんなクロウ達の存在に気が付いており、相手に気が付かれないようにことさら派手に戦って相手の目を引き付けていた。

 目の前の相手に集中しているところを、いきなりクロウ達に襲われたのだ。

 金属鎧によって高い防御力があったとしても、それでも致命的な一撃なのは間違いない。

 最初に一人、二人、三人……そのくらいの人数が殺され、そこでようやく金属の鎧の男達も自分達が背後から奇襲をされているのに気が付いたのだろう。


「敵だ! 敵の援軍が来てるぞ!」


 そんな風に叫ぶ相手に、クロウは短剣を手に襲い掛かるのだった。

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