2825話
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セトの放った王の威圧によって身動きが出来なくなった警備兵達。
ダイラスの屋敷を守っていた者達のうち、正門の辺りにいた者達はそれによって全員がレイとセトの攻撃によって何も出来なくなった。
レイの挑発の言葉にも反応出来なくなっていたのは、正直なところ誤算に近い。
そんな警備兵達を全員気絶させると、レイはセトと共にダイラスの屋敷の正門に向かう。
警備兵達が出て来たこともあって正門は開いていた筈だったが、それでもセトの雄叫びを聞いて何があったのかと屋敷から追加で出て来た者達がレイの宣言を聞き、急いで正門を閉めていた。
警備兵として雇われているとはいえ、自分達の実力でレイやセトを相手にどうにか出来るとは思っておらず、だからこそ正門を閉じて籠城し、警備兵がやって来るのを待つという選択をしたのだろう。
あるいはもっと単純に、レイとセトの存在に恐怖し、戦いではなく籠城を選んだという可能性もあったが。
もしレイやセトが中堅程度の実力しか持たない冒険者であれば、そのような対処で十分だったのかもしれない。
ダイラスの屋敷は規模こそ大きくない――あくまでも高級住宅街の他の屋敷に比べてだが――ものの、エグジニスを動かす人物の一人であり、裏では色々と後ろ暗いことをしているので、いざという時に備えてはいた。
しかし、ダイラスにとって最大の不運はレイを敵に回したことだろう。
盗賊の集まり具合を疑問に思って調べたのか、あるいは未知のドラゴンの素材を欲したのか、もしくはゴライアスのことを調べたのが気にくわなかったのか、違法奴隷の件を潰されたのか気にくわなかったのか、ネクロマンシーについて知られ、その祭壇を奪ったのが気にくわなかったのか。
ダイラスとドーラン工房にとって様々な意味でレイの存在が邪魔になり、結果としてレイに暗殺者を放ち、殺そうとした。
そんな真似をした結果が、現在のダイラスの状況だった。
あるいは、自分がドーラン工房の裏にいるのを知られることがないと思ったのか。
とにかくレイと敵対したのがダイラスにとって最大のミスだったのは間違いない。
それ以外にも、風雪を敵に回したのも大きいだろう。
「そんな風に門を閉めた程度で……いや、おい、ちょっとこれは……面白い真似をしてるな」
門を攻撃しようとしたレイだったが、不意にその手を止める。
何故その動きを止めたのか。
それは、門が明らかに普通とは違っていた為だ。
門を構成している鉄の部分が槍となってレイに襲い掛かって来たのを、レイはデスサイズを振るって迎撃する。
鉄の塊であろうが、デスサイズによって切断出来ないという事はない。
その一撃によって、門が変化した槍はあっさりと切断され、穂先が地面に落ちる。
「相手の意表を突くという意味では、悪くない攻撃だったな。……こういうのがあるから、ここではそこまで警備が頑丈ではなかった……違うのか?」
レイが自分の予想を口にしつつも途中で意見を変更したのは、門の向こう側にいる警備兵達も自分の目の前で起こった出来事に信じられないといった驚きの表情を浮かべていた為だ。
その表情を見る限り、門にこのような能力があるとは思っていなかったのだろう。
レイの裏を突く為に演技としてそのような真似をしている可能性もあったが、レイが見たところでは本気で驚いているようにしか見えない。
「マジックアイテム……いや、ゴーレムか!?」
一本の穂先が切断されたのを見て、レイやセトを強敵と認めたのだろう。
門から放たれる槍は、その数が十本以上にまで増える。
とはいえ、最初の不意打ちの一撃でレイを仕留められなかったのは致命的だった。
そのような存在だと知っていれば、レイにとってそんな相手に対処する方法は幾らでもあるのだから。
レイは自分に向かって来た槍を次々と切断していき、セトもまたその鋭い爪を使ってあっさりと対処していく。
一人と一匹はそうして門との間合いを詰め、レイとセトの一撃によって門は破壊された……と思った瞬間、鉄の槍が盾代わりになる。
それによって門そのものは無事だったが、その部位だけが激しく吹き飛ぶ。
鉄の槍が十本以上集まっていたところで、レイとセトの一撃を持ち堪えるような真似は出来なかった。
不運だったのは、門の近くにいた警備兵達だろう。
門の近くにいたということは、当然ながらレイとセトの攻撃によって吹き飛ばされた複数の鉄の槍による攻撃を受けたのだから。
飛んできた鉄の槍にぶつかり、悲鳴を上げる警備兵達。
レイとセトの一撃によるものである以上その威力は高く、鉄の槍が命中して手足の骨を折った者も何人かいる。
……それでも槍の穂先に貫かれるといったような者がいなかったのは、幸いだったのだろう。
「ちっ、厄介な真似をしてくる。……この門は一体なんなんだろうな」
一旦門から距離を取り、痛みに悲鳴を上げている警備兵達を眺めて疑問を口にするレイ。
恐らくはゴーレムかマジックアイテムなのだろうとは思うものの、確実にそうであるという証拠はない。
ダイラスがドーラン工房と繋がっていることから、恐らくはドーラン工房のゴーレムなのだろうという予想は出来たが。
(もしこの門がゴーレムだとすれば、当然ながらゴーレムの核もある筈。そしてドーラン工房のゴーレムの核となると……考えるまでもない、か)
それはつまり、この門に偽装しているゴーレムの核にも人間の魂が素材として使われている可能性が高い事を示していた。
あくまでもレイの予想でしかなく、もしかしたらドーラン工房がネクロマンシーに手を染めるよりも前に作られたゴーレムという可能性は否定出来なかったが。
「とにかく、俺の行動の邪魔をするのなら破壊するだけだ。それから収納して、お前のゴーレムの核がどういうのかをイルナラ達に調べて貰うからな」
門のゴーレムに向かってそう言うレイだったが、実際にその言葉をゴーレムが認識しているのかどうかは分からない。
そもそも目の前のゴーレムにそこまでの高い知性があるのかどうかすら、分からないのだから。
それでも門のゴーレムにとってレイは敵だと判断したのだろう。
再び鉄の槍を生み出し、放ってくる。
その攻撃を回避しながら、レイはセトに指示を出す。
「セト、このゴーレムは俺に任せろ。セトは壁を跳び越えて門の中に入って、そこにいる警備兵達を倒しておいてくれ。出来るだけ派手に、そして殺さないようにな!」
連続して放たれる鉄の槍だったが、レイはその全てを回避していた。
そんなレイの様子を見ていたセトだったが、これなら大丈夫だと判断したのだろう。門のゴーレムから離れていく。
尚、派手に戦うようにレイが指示したのは、自分達が陽動である以上、目立つ必要があった為だ。
殺さないようにとしたのは、レイが見たところでは警備兵達はダイラスの正体を全く知らないように思ったからだった。
警備兵全員がダイラスの秘密について何も知らないという可能性は低いだろう。
しかし、レイが戦ってみたところ大部分が知らないと思えたのも事実。
それを示すように、最初にレイが倒した男はいきなりのレイとセトの出現に驚いていたというのもあるが、それ以上に何故善人として有名なダイラスの屋敷を襲うのかといった驚愕があったようにも思えた。
「グルルルルルゥ!」
レイの言葉に鋭く鳴き、セトは数歩の助走で壁を跳び越えて中に入る。
その辺の人間にはそう簡単に跳躍出来ないような壁ではあったが、その相手がセトであれば容易に跳び越えることが可能だった。
「ん?」
槍の攻撃を回避しつつ、横目でセトの様子を見ていたレイはふと疑問を抱く。
門のゴーレムは現在レイに向かって集中攻撃をしているというのもあるが、それでも壁を跳び越えたセトに全く興味を示さなかったのは何故か、と。
(一度標的を決めたら、その相手を倒すまでは他に攻撃しない? それともあくまでも倒す相手は人間……エルフやドワーフ、獣人も含めて人型の存在であって、明らかに人外のセトは相手にしない? いや、さっきセトにも攻撃してたんだからそれはないか)
そんな風に考えつつ槍の攻撃を回避し……そして壁の向こうから警備兵の悲鳴が聞こえてくるようになったところで、レイは攻撃に移る。
「扉のゴーレムである以上、接続されている壁を破棄してミスティリングに収納してしまえばそれで終わりだ!」
そう叫び、レイは鉄の槍の攻撃を回避しながら一気に前に出る。
これまで扉のゴーレムの攻撃を回避し続けてきたので、向こうの攻撃がどのようなタイミングで行われるのかはレイにも容易に予想が出来た。
人型ではなく門の形をしているというのもあるのだが、ゴーレムの攻撃はある程度のパターンを持っている。
それを見て、レイはやはりこのゴーレムの核は人の魂を使っていない可能性が高いと思えた。
人の魂を素材とした核を持つゴーレムは、その反応が人間臭いというのもあるが、一定のパターンでの攻撃というのはそう多くない。
とはいえ、それが門の形をしているからかもしれないというのは否定出来ないのだが。
そんな相手のパターンの裏を突き、一気に間合いを詰めたレイはデスサイズを大きく振るう。
瞬間、レイの魔力を通されたデスサイズの刃は、何の抵抗も感じないまま門を固定している壁を斬り裂く。
その衝撃によって門は大きくバランスを崩し……それでもゴーレムだからか、特に動揺した様子もなく槍をレイに向かって放ってくる。
だが、鉄の槍の穂先を黄昏の槍で受け止め、そのまま身体を半回転させ、もう片方の壁を下から上に斬り上げるように切断すると、門を固定していた左右両方の壁が破壊され、門はそのまま地面に倒れ込む。
ただし、当然ながら門を固定していた壁を破壊したとはいえ、門そのものを破壊した訳ではない。
地面に倒れた門は、再度レイに向かって鉄の槍を放ってくるが……その攻撃を回避し、鉄の槍に触れると、即座に門の姿が消える。
「ふぅ。やっぱりゴーレムの相手は楽でいいな。……壁を破壊しないと収納出来ないのは面倒だけど」
基本的に生物を収納出来ないミスティリングだが、今回の場合は門を壁から離さないと収納は出来なかった。
それはレイの認識として、門と壁がくっついていたからというのが大きい。
だからこそ、門を壁から切断してからミスティリングに収納したのだ。
「それにしても、門をゴーレムにか。これってかなり便利そうだな」
門がゴーレムであるというのは、レイにとっても完全に予想外だった。
それだけに、門をゴーレムにするというのはレイにとって驚くべき発想だった。
(ロジャーに説明すれば、門ではなくて扉のゴーレムとか窓のゴーレムとか作って貰えるか? そうすれば、自動ドア……自動扉とか自動窓とか、そういうのになるだろうし)
わざわざ自分で開けなくても、自動的に開いてくれる扉や窓というのはそれなりに便利だ。
ロジャーには防御用のゴーレムを頼んでいたが、どうせならそういうゴーレムを頼んでもいいかもしれないと思いながら、レイは扉のゴーレムと戦っている間に悲鳴がどんどん大きくなっていく方に向かって移動する。
派手に戦うということで、恐らくセトは一ヶ所に留まって戦っているのではなく、移動しながら戦っているのだろう。
「さて、そうなると俺はどうするか」
周囲を見回しながら、レイが呟く。
セトが大きく騒ぎながら戦っているのも影響してか、あるいは元々ダイラスの屋敷には警備に雇われる者が少ないのか……はたまた門のゴーレムとレイの戦いで近づけないと判断したのか。
理由はともあれ、現在レイの近くに敵の姿はない。
そのような今の状況で、セトのいる方に向かってセトと一緒に暴れるか、それともセトとは別の場所でもう一つ大きな騒ぎを起こすか。
そうして迷っていると、そんなレイの行動を決めるように何人もの新たな警備兵達が姿を現す。
「ちょっ、おい! 何でこっちにも侵入者がいるんだよ!」
「知るか! けど、あの化け物と戦うよりは、こっちの奴と戦っていた方がいいだろ! 行くぞ!」
セトの姿を見て逃げてきたのか、セトと戦うよりはレイと戦った方がいいと判断し、一気に攻撃を仕掛けてくる男達。
外見だけで判断した場合は、確かにセトよりもレイの方が容易な相手に見えるだろう。
だが……混乱してるのか、それとも焦って考えてはいないのか、男達がセトの存在を見て完全に忘れていることがあった。
それは、レイがセトを従えているということは、レイはそんなセトに認められている人物であるということ。
そして何より、深紅の異名を持つレイのことを知らないのは致命的すぎた。