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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2821/3865

2821話

 夕食を食べ終わったレイは、リビングで軽く身体を動かしながら料理について考える。

 昨夜の襲撃があったというのに、今日出された料理はどれもがそれなりに美味い料理だった。

 最悪パンとチーズ、それに塩漬け肉くらいがあれば御の字では? と思っていたのだが。

 他の者に話を聞いたところ、今日出された食事は夕食以外もしっかりとしたものであったらしい。

 レイが今日このリビングで食事をしたのは夕食が初めてだったが、驚くには十分だった。


(これは多分、俺達がしっかりと代価を支払って匿って貰っているからだろうな。オルバンの性格を考えれば、料金を貰ったんだからしっかりと相応の待遇にするのは当然だと考えてもおかしくはない。だとすれば、やっぱり風雪を頼って正解だった)


 現在の自分達の状況を考えつつ、レイはそんな風に思う。

 自分達がしっかりとした食事をしたのは事実だが、風雪の他の面々は一体何を食べたのかが少し気になる。

 暗殺者ギルドであるということを考えれば、恐らくは自分達が食べているよりは質素な食事のような気がするが。


(あるいは士気を上げる為に豪華な料理を食べさせている……といった可能性もあるのか? オルバンの性格を考えると、そういうことをしてもおかしくはなさそうだけど)


 そんな風に考えていると、食事を終えてソファで休んでいたイルナラがレイのいる方に向かって歩いてくる。

 一体何が? と思ったが、すぐにどんな用件なのか予想出来た。

 今夜レイが向かうのは、ドーラン工房と繋がりのある……黒幕と言ってもいい人物の屋敷だ。

 ドーラン工房に強い思い入れのあるイルナラにしてみれば、今のドーラン工房がおかしくなっている……主流派が非人道的な真似をしているのは、その相手の命令であると思いたいのだろうと。


「レイ……」

「言っておくが、もし今夜の件で一緒に連れていって欲しいというのなら、それは出来ないぞ」


 イルナラが最後まで何かを言うよりも前に、レイは機先を制してそう告げる。


「ぐ……」


 最後まで言うよりも前に拒絶されたことに、イルナラは呻く。

 やはり自分も一緒に連れていって欲しいと、そう言いたかったのだろう。

 レイはイルナラの様子から先回りをしてよかったと思う。

 もしイルナラに最後まで言わせていれば、恐らくこの話は長くなったと思ったからだ。

 だが……それで話は終わりだと判断したレイと違い、イルナラは一刀両断に自分の頼みが断られても、それを素直に聞くつもりはなかった。


「それでも、私は一緒に連れていって欲しいのです。今回の一件は、ドーラン工房にも大きく関わってくることの筈。であれば、私が行くのは何の問題もないのでは?」

「大ありだ。俺達は別に話し合いに行く訳じゃない。問答無用で実力行使をしに行くんだぞ? そんな場所に、ろくに自分の身も守れないような奴を連れていける訳がないだろ」


 あるいはイルナラがゴーレムを連れていれば、ある程度の戦力として運用出来たかもしれない。

 しかし、当然ながら今のイルナラにゴーレムは持っていなかった。

 正確には、レイがドーラン工房に潜入した時に破壊したのが原因なのだが。

 そういう意味ではイルナラがレイを恨んでも仕方がないのだが、あの時の状況ではレイにゴーレムを壊すなとも言えないし、イルナラにレイを攻撃するなとも言えない。

 レイがイルナラと遭遇した時は、レイとイルナラは敵対関係だったのだから。

 そう考えると、現在の状況で戦力にならないイルナラを殴り込みに連れていける筈もない。


(ゴーレムの一番重要な核ならミスティリングの中にそれなりに入ってるんだよな。部品も幾つか持ってきたし。もしかしたら、これを使えば新たなゴーレムを作ることも出来たかもしれないな。今更言っても意味はないが)


 ここはゴーレム産業で栄えているエグジニスだけに、暗殺者ギルドであってもある程度錬金術の設備があってもおかしくはない。

 ましてや風雪はエグジニスの中でも最大の暗殺者ギルドなのだから、他にはない設備があってもおかしくはなかった。


(イルナラがその件について気が付かなかったのは、取りあえず幸運だったと思っておくか。筋肉痛もまだ治ってないんだろうから、そっちに意識を集中していただけなのかもしれないが)


 そんな風に考えつつも、イルナラの目をじっと見る。

 ここでイルナラに押し負けるようなことがあれば、今夜の一件にイルナラが一緒にくるかもしれないのだから、目を逸らすような真似は出来ない。

 そうして視線を合わせる……というよりは、半ば睨み合う形になる二人。

 周囲で二人の様子を見ていた者達は、どうなるのかと心配しながら二人の様子を見ていた。

 もしイルナラがどうしても自分も行くと言ってレイに攻撃をするような真似をしたら……その時、イルナラが一体どのような目に遭うのかは考えるまでもないだろう。

 唯一の救いは、この状況でレイから手を出すといったようなことはまずないということか。

 数分の間、お互いに一言も喋らずに視線を合わせ……やがて大きく息を吐いたのは、イルナラ。

 自分ではレイを説得することは出来ないと悟ったのか、それ以上は何も言わずに筋肉痛で痛む身体を引きずりながら部屋に戻っていく。

 イルナラがいなくなり、緊張感が消えたところでリビングで成り行きを見守っていた者達も安堵した様子を見せる。

 レイにしてみれば、今回の一件はどうあっても受け入れる訳にはいかなかった。

 そういう意味では、この結果は当然のこととなる。


「すいません、レイさん。今までにも何度か言いましたけど、イルナラさんはドーラン工房に深い思い入れがあるんです。そんな中で今のような状況になっているので、どうにかして自分もこの一件の解決に関わりたいんだ思います」


 イルナラの仲間の錬金術師の女が、そうレイに謝罪の言葉を口にする。

 レイはそんな相手に対し、気にするなと首を横に振る。


「俺がイルナラと同じ立場でも、もしかしたら同じような真似をしたかもしれないしな。それを考えれば、この結果は当然だろう。俺からは特に何も言うつもりはないから、安心しろ」

「ありがとうございます」


 レイの言葉を聞いて安堵した様子を見せる女。

 こうして謝ったのは、イルナラのことを誤解して欲しくないからというのもあるが、それ以外にもレイとの関係が悪くならないで欲しいという思いもあった。

 今でこそこうして風雪に匿って貰っているものの、それを手配してくれたのも、報酬を支払ってくれたのもレイだ。

 ましてやレイは暗殺者ではなく冒険者、それも異名持ちのランクA冒険者。

 そんなレイとの関係が悪くなるということは、最悪の未来しか思い浮かばない。

 レイもそんな女の考えを全て理解していた訳ではないにしろ、何となくは理解していた。

 それを承知の上で問題はないと言ったのだ。


「さて、取りあえず……いや、もうこれ以上は何もする必要はないか」


 レイがそう呟くのとほぼ同時に扉がノックされる。


「じゃあ、そろそろ出撃の時間だ。お前達は俺が帰ってくるまで部屋から出るなよ。……特にカミラ」

「任せて下さい。カミラは絶対に外に出しませんから」


 レイの言葉にアンヌが笑みを浮かべてそう言い、自分の側から離れようとしたカミラを捕まえる。

 そんなアンヌから少し離れた場所では、アンヌに片思いをしている男が何とか話し掛けようと頑張っていたが、アンヌはカミラを捕まえることに集中しており、全く気が付いていない。

 そしてレイもまた、そんな微妙な色恋沙汰には気が付かないまま口を開く。


「頑張ってくれ」


 そう短く声を掛け、扉を開ける。

 するとそこにいたのは……


「クロウ? お前が何でここに?」


 そう、昨夜レイと一緒にかなりの活躍をしたクロウだった。

 そのクロウは、レイの言葉に対して呆れたように口を開く。


「俺だってまたレイと一緒に行動するようになるとは思わなかったよ。……取りあえず俺が来たのはレイを呼ぶ為だ。話はもう聞いてるんだろう?」

「ああ。黒幕の屋敷に乗り込むんだってな。もっと早くやってれば、昨夜のように襲撃されるなんてことはなかっただろうに」

「昨夜の一件があったから、今夜こうして動くことになったんだよ。……とにかく、準備が出来てるのなら行くぞ。まずは地上に出る。そこで他の連中と合流して、移動する」


 クロウに促されたレイは、背中にリビングにいる者達の視線を感じながら、部屋から出る。

 すると扉の前には、当然のように護衛兼見張りの男が二人立っていた。


「護衛の方はよろしく頼む」

「お任せ下さい」


 短く言葉を交わし、レイはクロウと共に地上に向かうのだった。






「へぇ、結構な人数が揃ってるな」


 地上に出たレイが見たのは、五十人近い人数の暗殺者達。

 レイが口にしたように、かなりの規模の暗殺者達だ。

 一つの組織でこれだけの人数を出せるのは、風雪がエグジニスの中でも最大の規模の暗殺者ギルドだということの証だろう。


(他の組織でもこれだけの数を出せる場所はあるかもしれないが、風雪の場合は昨夜襲撃されて怪我人や死人を出した上でこれだしな。しかも、見たところ全員が一定以上の実力の持ち主だ)


 単純にこれだけの人数を出すというだけなら、他の組織でも同じような真似が出来るかもしれなない。

 だがそれは、あくまでも人数だけで質という点では風雪より劣ってしまうだろう。


「今回の一件は風雪にとっても他人事じゃないからな」


 クロウがそう言うのは、やはり昨夜の一件があるからか。

 土を掘って地中を移動することが出来るゴーレムを用意されたというのは、それだけ風雪にとって許容出来なかったのだろう。

 そして実際にそのような真似が行われたということは、また次に同じような真似が行われてもおかしくない。

 勿論昨夜の一件があった以上は、同じようなことがあっても対処出来るように準備はしているだろうし、実際にレイがそれとなく聞いてみた話でもそんなことを匂わせていた。

 そう考えれば同じようなことがあってもどうにか出来るのだろうが、その為に一体どれだけの労力が使われるのかは、正直なところレイにも分からない。


(もしかしたら、最悪アジトを変えるという可能性もあるかもしれないな。実際、昨夜は全滅するかどうかのピンチだった訳だし)


 昨夜は違法奴隷のアンヌ達を捕らえたり、何よりもレイがミスティリングに収納したネクロマンシーに使う祭壇を確保する為に直接人を送り込んできたが、もし単純に殺すだけなら水を流し込むなり毒を流し込むといった方法がある。

 地下のアジトであっても換気する為の何らかの仕掛けはあるのだろうが、それでも本気で水や毒を送り込まれれば対処は難しい。

 その辺りに対処するにしても、それはかなり難しいのではないかとレイには思えた。

 あるいはそれをどうにかするだけの考えがあるのかもしれないが。

 レイとしては、アンヌ達を保護して貰っている以上、風雪に万が一の時の備えはしっかりとして欲しいというのが正直なところだ。


「今夜の一件で昨夜の一件を仕組んだ奴を排除出来れば、風雪にちょっかいを出した奴がどうなるのかの見せしめにも出来る、か」

「そうだな。俺としてはそうしたいところだ。俺達にちょっかいを出してきた以上、相応の報いは受けてもらわないと」

「けど、だからって力だけで全てを解決するという訳にはいかない。……だろう?」


 レイとクロウの会話に入ってきたのは、一人の男だった。

 レイも初めて見る顔だ。

 とはいえ、レイも別に風雪の人員全てを知ってる訳ではないので、初めて見る顔があってもおしくはないのだが。

 しかし、レイは初めて見る顔だったがクロウは違ったらしい。

 男を見た瞬間、クロウは息を呑む。

 男が近付いてきたことに気が付かなかったのもそうだったが、その男が風雪最強の暗殺者であると理解していた為だ。


「ギガラーナさん!?」


 いつも冷静なクロウにしては珍しく、その声に強い驚きの色がある。

 ギガラーナ? と驚いた様子のクロウの口から出た名前に、レイはそちらに視線を向ける。

 その人物は明らかにその辺にいる他の暗殺者よりも格上の存在だった。

 この場にいる暗殺者が相応の技量を持っている者達だとすれば、やはりここにいるギガラーナという人物は風雪の中でも腕の立つ人物なのだろう。

 クロウの様子からそんな風に想像し……レイはそんなギガラーナに声を掛ける。


「どうやら腕利きみたいだな。お前が今日の指揮を執るのか?」

「そうなります。とはいえ、レイさんには指示を出したりといったような真似をするつもりはありません。レイさんはレイさんで好きに動いてくれればそれでいいので」


 そう、告げるのだった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] レイが強いのはわかる [一言] エグニス?でしたか?全部を手加減するのはどうかと思いますが、帝国でのレイ焔をみたいですが
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