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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2812/3865

2812話

 風雪の援軍が来たのを見た侵入者達は、士気が総崩れになった。

 当然だろう。元々風雪はエグジニスの中でも最大の暗殺者ギルドで、そこに所属する者達も精鋭揃いとして有名なのだから。

 レイやクロウ、ロアビー達といった少人数を相手にしても、戦力としては圧倒的に押されていたのだ。

 それでもかろうじて……本当にかろうじて拮抗を保っていたのは、侵入してきた暗殺者達の数が多く、やられた者達の代わりをすぐに補充していたからというのが大きい。

 そのような状況では、時間が経過すると侵入してきた者達が不利になるのだが……そんな中で更に風雪の援軍が来たのは侵入者達にとっては致命的だった。

 あるいは侵入口が既に潰されていれば、侵入者達も腹を括って攻撃に集中出来たかもしれない。

 だが、逃げる場所がある状態でそのような真似が出来る者はそう多くない。

 結果として、風雪の援軍が到着した時点で多くの者が逃げ出し始めていた。

 多くの者にしてみれば、生き残れる可能性があるのならそちらを選ぶのは当然だろう。

 レイとしては、自分達から攻め込んできておきながらピンチになったら即座に逃げるのはどうかと思うのだが。

 レイがそのように思うのだから、当然のように風雪の面々はより強くそのように思い、撤退しようとする侵入者達に対して激しい追撃が行われた。

 本来ならそのような真似をされれば、むざむざ攻撃されるよりも一矢報いるか、反撃して相手の足を止めてから逃げるといったような行動をとってもおかしくはない。

 しかし、この場合は多数の組織であったりソロの暗殺者達が同時に行動していることが風雪にとっては有利に、侵入者達にとっては不利に働いた。

 追撃として背後から攻撃を受けても、それが見知らぬ相手……もしくは顔見知り程度の相手であれば助けようとは思わず、寧ろその相手のおかげで自分が攻撃されなかったり、死体になって床に倒れれば障害物になる。

 攻撃されてもまだ生きている場合は、何とか生き延びようと一か八か、限りなく低い可能性に賭けて自分に攻撃してきた相手に反撃するといったような真似をするので、もっとありがたい。

 あるいは死んだ振りをする可能性もあったが、生きてるのが風雪に知られれば、それこそ拷問が待っているだろう。

 死んだ振りをして風雪に捕まるよりも前に逃げ出すといった手段もあるが、それを試したいと思うかどうかは別の話だ。


「結局のところ、これ以上は俺もやるべきことがないんだよな」

「追撃戦に加わらないのか?」


 レイの呟きが聞こえたのか、クロウがそう尋ねてくる。

 尋ねるクロウもまた、視線の先で行われている追撃戦に参加する様子はない。

 もっとも、既に見えるのは侵入者達の姿ではなく風雪の暗殺者達……それも出遅れた者達の後ろ姿だけだったが。

 侵入者達には当然思うところはあるのだが、この状況で自分までもが追撃に加わった場合、通路の狭さが影響して味方を不利にしてしまうと考えての待機だった。

 現在レイやクロウ達のいる場所は広い空間になっているものの、この先には狭い道となっている場所もあるのだ。

 その狭い道の先に、侵入口が用意されているという話だった。


「俺が加わっても、あの状況だと邪魔になるだけだろ。……にしても、本当に今更の話だけど、何でこの通路の先に侵入口があると知ってるんだ? まさか、向こうに行って侵入口を見てから戻ってきたところで敵に見つかったって訳じゃないよな?」


 レイが戦っている場所から、ロアビーやクロウ達がこちらに向かった時は、侵入者達がすぐ追撃に向かった。

 ここに来るまでは死体を目印にしてやってきたのだから、それは間違いないだろう。

 そうである以上、一度通路の先まで向かって戻ってきたというのは考えられなかった。


「ああ、あれか。あの連中が話していた内容から予想しただけだよ。実際にあの様子を見る限りでは間違っていなかったみたいだな」

「それは……」


 大胆と無謀のどちらがクロウの行動の評価としては相応しいのかは、生憎とレイにも分からなかった。

 とはいえ、実際にクロウのその言葉で敵が動揺したのは間違いない。


「となると、地中を掘ったゴーレムは出来るだけ早く破壊した方がいいかもしれないな。ここで時間を掛けると、同じようにまた侵入してくる可能性も否定は出来ないし。というか、今回の一件で風雪のアジトの侵入方法が確立したのは痛いんじゃないか? 地面を掘るゴーレムはかなり高価だから、そう簡単に同じような真似は出来ないだろうけど」

「そうだな。けどそういう対策は上の方で考えるだろ。それに、そんな真似をしても侵入してくる奴がいるかどうかは分からないし」

「それは……そうだろうな」


 実際、今回侵入してきた者達の中で一体どのくらいの人数が生きて帰れたのか。

 レイもかなりの数を殺したが、当然ながら侵入者と戦っていたのはレイだけではなく、援軍に来た風雪の暗殺者達も相応の戦果を上げている。

 純粋に自分達のアジトに侵入してきた相手が憎いという意味では、寧ろレイよりも風雪の面々の方がそのように強く思っているだろう。

 そういう意味では、侵入してきた者の大半は殺されたり捕まったと思っても間違いない。

 今回の侵入に関しては、ドーラン工房もかなりの力を入れていたのは間違いない。

 風雪には及ばずとも、それなりに規模の大きな暗殺者ギルドを複数雇っていることからも、それは明らかだ。

 そんな者達の大半が死んだのだから、風雪のアジトに侵入する方法が確立しても同じような真似がそう簡単に出来るとも思えない。


(厄介な方法としては、穴だけ開けてそこから大量の水を流し込むとか、毒ガスを流し込むとか、そういう方法だろうな。地下だけに、そうなるとかなり対処が難しい。一応換気施設とかはあるだろうけど、それだってどこまで通用するか分からないし)


 そう思いつつも、レイは恐らくそのような真似をしないだろうと予想している。

 今までの行動から、ドーラン工房はレイをどうにかして生きて捕らえようとしているのは間違いない。

 そうである以上、万が一にもレイを殺すといった危険は避けたいと、そう思うのは当然の話だった。

 もしレイが死んだ場合、ドーラン工房が何とか取り返したいと思っているネクロマンシーの儀式に使う祭壇は永遠に失われる可能性が高いのだから。

 祭壇を取り戻すのではなく、どうにかしてレイを殺さないといけないということになれば、どこかから侵入口を繋げて水や毒でどうにかしようと考えてもおかしくはなかったが。


「取りあえずここでこうしてるのもなんだし、俺達も移動するか。ゴーレムを破壊出来るかどうかは分からないが、侵入口だけはどうにかして潰す必要があるし」

「そうだな。ロアビー達ももう行ったし、俺達も行くか」


 レイの言葉にクロウは同意し、二人はそのまま通路を進む。

 そんな通路にある死体は、全て風雪のアジトに侵入してきた暗殺者達のものだ。

 もっとも、レイは風雪のメンバー全員の顔を知ってる訳でもないので、もし死体の中に風雪の者が混ざっていても分からなかっただろうが。


(組織で統一した制服とか、そういうのを着ていれば分かりやすいんだけどな。ただ、そうなればそうなったで、色々と面倒なことになるのは間違いないか)


 暗殺者が一目見て風雪の所属だと判断されるようなことがあれば、それは風雪にとって決していいことではないだろう。

 これが冒険者で、特に後ろ暗いことをしているような者ではない場合は、そのパーティに所属しているとして目立つ利点はあったが。


「クロウ、一応聞くけど、ここの死体の中に風雪に所属してる奴とかはいないよな?」

「え? ああ……そうだな。こうして見た限りでは俺の仲間の死体はないと思う」


 レイの言葉に周囲の様子を確認したクロウが、そう断言する。

 その言葉に安堵し、レイはクロウと共に通路を進む。

 すると細い通路の先は再び広くなっている場所があり、そこには多数の死体が積み重なっていた。

 そんな中で死体よりも目立っているのは、やはり壁に存在する巨大な穴だろう。

 扉の類でもあれば、風雪のアジトの設備の一つといったように思うことも出来たのだろうが、壁にある穴には当然のように扉のようなものは存在しない。

 ただ、大きな穴が存在しているだけだ。

 そんな穴を見て、周囲に多数の暗殺者の死体があるのを見れば、ここが侵入口だと予想するのは難しい話ではない。


「ここから侵入してきたのか。……厄介な真似をしてくれるな」


 レイが思いついたことは当然のようにクロウも思いつき……いや、それ以前にクロウは風雪のアジトに住んでいるのだから、ここに穴があるという時点で侵入口だと判断したのだろう。

 苛立ちも露わに、そう吐き捨てる。

 クロウにしてみれば、自分の家に勝手に穴を開けて侵入してきた者達なのだから、それに苛立つなという方が無理だった。

 言ってみれば強盗に近い存在なのだから。

 いや、暗殺者である以上は強盗よりも酷いのかもしれないが。


「レイさんとクロウも来たのか。……見てくれよ、これ。一体どうしたらいいと思う?」


 穴の前にいた風雪の暗殺者の一人が、そう言ってくる。

 困った様子を見せつつ、それでいながらそこまで殺気だった様子がないのは、とにかく侵入口を実際に見つけたからだろう。

 とはいえ、それでも完全に安心した様子がないのは、アジトの中にまだ隠れている暗殺者がいるかもしれないと思っている為か。

 レイに好意的なのは、今回の侵入者への対処の一件でレイが大きな役割を果たしたからというのも大きいのだろう。

 事実、この場にいる暗殺者達の多くがレイに向かって好意的な視線を向けていた。

 血の刃の一件もあって、レイは決して風雪の面々に好まれていた訳ではない。

 それでも積極的に絡んでくる者がいなかったのは、上から……具体的にはオルバンやニナといった面々から、レイと敵対するなと命じられていた為だろう。

 レイと敵対したくなくて血の刃を滅ぼすといった真似をしたのに、ここでレイと敵対するというのは、選択肢として有り得ない。

 そういう訳で、風雪の上層部としてはレイに対して敵対しないように言うのは当然だった。

 レイもまた、相手が友好的に接してくるのなら自分から喧嘩を売るといったような真似はしない。


「どうすると言われても、穴を崩すしかないんじゃないか? もしくは土とかを持ってきて埋めるとか。……ちなみに、穴の先がどうなってるのは分かってるか? 侵入してきた連中が撤退した以上、この穴の先は侵入してきた連中の拠点があるんだろうけど」

「撤退していった敵を追撃した者が何人かいるけど、この先には誰もいなかったらしい」

「は? そうなのか?」


 男の説明は、レイにとってもかなり予想外のものだった。

 今の状況を思えば、この先には侵入してきた者達のバックアップを担当している者達が通路の先にいるのだと、そう思っていたのだが。


(いや、違う。俺達が戦っている時に、既に敵は逃げ出していたのが何人かいた筈だ。それを考えれば、風雪が援軍に来てから逃げ出すよりも前にこの侵入口から脱出していた奴がいてもおかしくない。そんな奴から今回の一件が失敗だったという話を聞けば、どうする?)


 恐らく逆襲してくることを警戒し、すぐに撤退するだろうというのがレイの予想だった。

 実際に撤退した暗殺者達を追って風雪の暗殺者達が追撃をしたのだから、その考えはそこまで間違っていないだろう。

 なら、侵入が失敗した時点で逃げた方がいいのは、間違いのない事実。


「敵がこの侵入口の先にいないのなら、これ以上は追撃をするのは難しいだろうな。侵入してきた勢力は分かってるんだから、それは風雪が落ち着いた後で組織として交渉する必要が出て来ると思う」


 レイの結論に、クロウは納得しながらも少し面白くなさそうな表情を浮かべる。

 クロウにしてみれば、今回の一件は話し合いで終わらせたくはないのだろう。

 レイにとってはそちらの方が面倒がないのだが、風雪に所属しているクロウにしてみれば、ここで手ぬるい真似をすれば風雪が侮られると考えてもおかしくない。

 事実、非合法組織の暗殺者ギルドだからこそ、面子は非常に重要な意味を持つ。


(その辺りをどうするのかは、オルバンやニナ、それ以外の幹部次第か。暗殺者ギルドだけあって、武力で解決するといったような者がいてもおかしくはないと思うんだが。その辺はどうなんだろうな)


 そう考えつつ、レイはこの場所が問題ないのなら一度リンディ達の様子を見に戻りたいと考えるのだった。

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