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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2809/3865

2809話

「レイだ! レイがいたぞ! こっちに向かって来ている!」


 レイと遭遇した暗殺者のうち、無事に逃げ延びることが出来たのはたった一人。

 ……いや、レイの強さを考えれば一人だけでも逃げ切ったことを褒めるべきだろう。

 そんな暗殺者は、自分の仲間……という訳ではないが、一緒に風雪のアジトに侵入した者達が集まっている場所が見えるなり、そう叫ぶ。

 ざわり、と。

 逃げてきた暗殺者の言葉を聞いた者達は、ざわめく。

 ただし、そのざわめきには二つの種類がある。

 一つは狙っていた獲物が自分から向かって来たということによるざわめき。

 そしてもう一つは、深紅の異名を持つレイと戦わなければならないのかというざわめき。

 特に後者は、暗殺者としてに自分の強さに自信があっても、レイと戦ってまともに勝てると思えない、彼我の実力差を正確に把握している者が多い。

 前者は血気盛んな者や、自分の実力に必要以上の自信を持っている者、あるいは……こちらは本当に少数だが、レイの噂を知らないか、あるいは誇張と思っている者達。

 ともあれ、この場に集まっていた者達にとって事態が大きく動くことになったのは間違いない。

 そんな中で真っ先に動いたのは、血の気の多い者達。

 風雪のアジトを強襲するということでやる気を見せていたものの、実際に来てみればこの場で待機するように命じられ、面白くなかった者達だ。

 今回の最大の標的であるレイがやって来たのだから、これ以上自分達がここで待っている必要はないと判断してもおかしくはない。

 本来なら上司、もしくは雇い主からレイは可能な限り生け捕りにするようにと言われていたのだが、そんなことは綺麗さっぱり忘れていた。

 命令の大元たるドーラン工房にしてみれば、レイの持つミスティリングに入っているだろうネクロマンシーに使う祭壇を確保する必要があるからこその命令だったのだが。

 もしレイを殺したことによってミスティリングの中に入っている祭壇を取り出せなくなるのは、ドーラン工房にとって最悪の事態だった。

 とはいえ、血の気の多い暗殺者にそのようなことを理解出来る筈もない。

 レイが来たと叫んでいる暗殺者と入れ替わるように走り出し……そして次の瞬間、レイの前に飛び出した者の大半は胴体を上下に切断されて命を落とす。

 場所がよかったおかげで胴体を切断されなかった者も、内臓がはみ出るような傷を胴体に付けられて地面に倒れていたり、もしくはデスサイズの柄によって肋骨を粉砕されながら吹き飛ばされるといったような末路を迎えた暗殺者も多い。

 周囲には内臓や体液、血といった諸々が散らばり、そこから周囲に悪臭を漂わせる。

 しん、と。

 あまりと言えばあまりの光景に、それを見ていた暗殺者達が黙り込む。


「なるほど。これくらい広いのなら、デスサイズも十分に使えるな」


 そんな静寂を破るように姿を現したのは、暗殺者を追っていた時に使っていた黄昏の槍の他にデスサイズを手にしたレイ。

 セトとは違った意味で自分の象徴とも呼ぶべきデスサイズを振るうことが出来る空間を見て、獰猛な笑みを浮かべている。

 数人の暗殺者を……それも血の気は多いものの、雑魚ではなく相応の強さを持っている者達を文字通りの意味で一掃するだけの実力を持つレイ。

 そんなレイの実力を見た者の中には、即座にその場から逃げ出した者もいる。

 恐らくそれが最善の手段であったのは間違いないのだが、逃げ出せたのは本当に少数だけだ。

 真っ先に逃げ出した者の後を追うように逃げ出そうとした者もいたのだが、その行動は遅い。


「はぁっ!」


 気合いの声と共に投擲された黄昏の槍は、数人……いや、十人近い者達の身体を貫いて一気に暗殺者達の数を減らす。


「多連斬!」


 黄昏の槍の投擲に驚き、一瞬動きの止まった暗殺者の集団に突撃したレイは、多連斬のスキルを発動する。

 一度の斬撃の筈が、放たれたのは十の斬撃。

 ましてや、長剣の類ではなく長柄の武器である大鎌の一撃だ。

 その斬撃の範囲は広く、多連斬を食らった数人が肉片となり、周囲にいた数人が大小様々な傷を負う。


「地中転移斬!」


 続けて放たれた一撃により、デスサイズの刃が地中に叩き込まれる。

 それを見た暗殺者達は、一体レイは何をしているのかと疑問に思う者もいたが……そんな暗殺者の一人が、地中から出て来た刃の斬撃によって足を切断された。

 レイから直接攻撃された訳ではなく、本当にいきなり足を切断されたのだ。

 レイの……正確にはデスサイズの持つスキルの一つ、地中転移斬。

 それは地面を媒介としてデスサイズの刃そのものを転移して攻撃出来るという、相手の意表を突くという点では屈指の効果を持つスキルだ。

 まだレベルが一で自分を中心に半径五mしか攻撃範囲がないのが欠点だったが、その五mも今のように敵が密集している場所であればそれ程問題はない。


「散れ! レイは何らかの手段で遠距離に攻撃出来ているぞ!」


 地中転移斬についての詳細を理解した訳ではないのだろうが、それでもレイの攻撃の危険性を察知した暗殺者の一人が叫ぶ。

 その叫びにレイの近くにいた暗殺者達は素早く距離を取るが……


「俺が、それを黙って見ていると思うのか!」


 叫び、デスサイズと手元に戻した黄昏の槍を手に一気に前に出る。

 暗殺者達にしてみれば、少人数ではレイとの戦いに勝ち目がないから集団で攻撃していたのに、スキルの危険さを察知して一度後ろに下がったその瞬間にレイが自分達の懐に飛び込んできたのだから、たまったものではない。

 機を見るに敏という言葉があるが、暗殺者達が退くタイミングを見逃さない辺り、レイはまさにそれだろう。

 後方に退く……つまりレイを中心にしていた暗殺者達の包囲網が自然と薄れたということを意味している。

 これが一つの暗殺者組織から派遣されてきて、お互いに連携が取れる状態であれば包囲網が薄くならなかったか、あるいはなっても最低限ですんだかもしれない。

 しかし、ここにいる暗殺者達は多数の組織が集まっている者達で、その技量も個人によって大きく違う。

 風雪という、エグジニスで最大手の暗殺者ギルドを倒す為に、多くのギルドや場合によっては個人でさえも協力しているものの、それは言ってみれば寄せ集めでしかない。

 今のような状況で、この場にいる暗殺者達に一糸乱れぬ連携を期待するという方が無理だった。

 レイが狙ったのは、そのような連携の隙。

 デスサイズと黄昏の槍を手に暗殺者達の包囲網に突っ込んだレイは、自分と違う流儀で動いている為に実力を発揮出来ない者達に向かい、デスサイズを大きく振るう。


「パワースラッシュ!」


 鋭さよりも一撃の威力を重視したそのスキルは、レベル四までと違って手首に衝撃が来るといったようなことはなく、その性能を十分に発揮し……レイの前にいた暗殺者達を文字通りの意味で吹き飛ばす。

 肉片と化して吹き飛んだ者は、痛みを感じなかったという意味で幸運だったのだろう。

 不運だったのは、中途半端にパワースラッシュを受けた者達だ。

 身体の一部を文字通りの意味で吹き飛ばされるといったような、そんな重傷を負った者も多い。

 あるいは、金属製の鎧を装備していれば、そこまで重傷を負うといったことはなかったのかもしれない。

 しかし、暗殺者というのは基本的に身軽な格好を好む。……中には血の刃に所属していたように、暗殺者というよりも戦士と呼ぶに相応しい装備をしている者もいたが、基本的にはやはり重量のある装備は嫌う者が多い。

 今回のように隠れる場所のないアジトの中での戦いともなれば、金属製の鎧を装備した方が有利なのは間違いない。それでも今までずっと身軽な装備しかしてこなかっただけに、暗殺者としての装備に慣れている。

 その為に今回の戦いにおいても暗殺者達はいつも通りの身軽な格好をしていたのだが、それが致命的な間違いになってしまった。

 レイの放った一撃に、周囲で様子を見ていた暗殺者達は一瞬だが唖然とし……レイがそのような隙を見逃す筈もない。


「はああぁっ!」


 投擲された黄昏の槍は、数人の身体を貫いて命を奪う。

 丁度そのタイミングでクロウやロアビーを始めとする他の面々がこの場に姿を現す。

 そこまでレイから遅れてやって来た訳ではないのに、既にこの場にいる多くの暗殺者達は殺されていた。

 これはレイの持つ強さがクロウ達の予想以上だったからだろう。


「ロアビー、俺達もレイの援護を!」

「ちょっと待て、援護なのか!? 俺達は攻撃しないのか!?」


 クロウの指示にロアビーが不満そうに言うものの、クロウにしてみればここで下手に敵の暗殺者に攻撃をした場合、レイの攻撃に自分達が巻き込まれてしまうかもしれないという思いがある。

 そうである以上、ここで無理に自分達が侵入者を攻撃しなくても、レイのフォローに回った方がいいと考えたのだ。

 ……実際には、レイのフォローに回っても出来ることはそう多くはないのだが。

 何しろ、レイはそもそも敵を自分の側まで寄せ付けない。

 あるいは寄せ付けたとしても、それはあくまでもレイが誘い込む為の罠だ。

 そうである以上、レイの援護をすると言われてもどうにか出来る訳でもない。

 とはいえ、ロアビーもクロウの言うようにレイの邪魔をする訳にはいかないのは理解出来てしまい、クロウに反論したものの、すぐに首を横に振る。


「そうだな。今はまずレイを守るのが先決か。正直なところ、その辺はあまり納得出来ないところもあるんだが」

「レイを守ったというだけで俺達は十分に役割を果たしたと思うぞ。今はとにかく、自分達の出来るべきことをやるだけだ」


 クロウの言葉にロアビーも不承不承といった様子ではあるが頷き、侵入してきた暗殺者達に視線を向ける。

 レイを守る必要があるのかどうかは微妙だったが、それでも何かあった時は……と。


(とはいえ、俺達も出来ることがあったらそっちをやった方がいいけどな。具体的には、ここから逃げ出す相手を逃がさないとか、そして何よりもゴーレムが作ったのだろう侵入口を見つけるとか)


 ゴーレムによって新たな侵入口を作り、そこから暗殺者達は侵入してきた。

 それはレイやクロウから聞かされた話だったが、実はまだ確実にそうと決まった訳ではない。

 しかし、それでも一番可能性が高いのはそれだというのはロアビーにも納得出来ることだった。


(どこだ?)


 暴れているレイに近付いて来る暗殺者がいないのかを確認しつつも、ロアビーは周囲の様子を確認する。

 先程自分はここに偵察に来たし、何よりもここは風雪のアジトだ。ここが具体的にどのような場所なのかは、当然ながらロアビーにも理解出来ていた。

 しかし、それでもどこが新たに生み出された侵入口なのかと言われると、すぐには判別出来ない。

 何よりも厄介だったのは、敵の数が多いので奥の方が見えないということだろう。

 レイによって既に結構な数が倒されているのだが、それでもまだ三十人以上がいる。

 先程偵察に来た時にここにいたのは三十人程だったと考えると、明らかに数が合わない。


(とはいえ、それはつまりやっぱりこの近くに敵の援軍が入ってきている場所……侵入口があるということを意味している。だとすれば、必ずこの近くにある筈だ)


 ロアビーは周囲の様子を窺いつつ、仲間に声を掛ける。


「さっき俺達が偵察した時と比べると、随分と敵の数が増えている。恐らくこの近くのどこかに侵入口がある筈だ。俺達はそれを探すぞ」

「え? いいのか? レイの援護をするって話だったろ?」

「あの様子を見ろ。レイに俺達の援護が必要なように見えるのか?」


 そう言われると、ロアビーの仲間たちも何も言えなくなる。

 実際にレイは縦横無尽にデスサイズと黄昏の槍を振るっており、とてもではないが自分達の援護が必要なようには思えないのだから。

 事実、レイを援護すると主張したクロウですら、レイの戦いに援護出来るような隙を見出すことが出来ずに様子を窺っているだけだ。

 それを見たロアビーの仲間達は、ロアビーの意見に一理あると思うのは当然だった。


「それに、元々クロウやレイは敵の侵入口を探していた筈だ」


 クロウの名前を前に持ってきたのは、ロアビーにとってレイよりもクロウの方がより強く仲間という認識があるからだろう。

 そんなロアビーの言葉に気が付いた者もいたが、それはスルーしてその言葉に頷く。

 レイの援護をするという意味なら、侵入口を探すのがいいと思ったからだろう。

 いざという時の為に準備をしておくのも大事だが、それはクロウがいれば十分だ。

 なら、自分達がこの状況で何をやるか……そう考え、ロアビーの提案に仲間達は頷くのだった。

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[一言] 敵対する雑魚は皆殺しだ(`・ω・´)
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