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レジェンド  作者: 神無月 紅
ゴーレムの街エグジニス
2805/3865

2805話

カクヨムにて5話先行投稿していますので、続きを早く読みたい方は以下のURLからどうぞ。


https://kakuyomu.jp/works/16816452219415512391

「やりすぎだ、レイ」


 クロウが呆れたようにレイに言う。

 せっかく見つけた侵入者達。

 しかし、その侵入者達はレイの存在を見ると即座に今まで戦っていた風雪の暗殺者達を放り出し、レイに襲い掛かった。

 暗殺者としてそれはどうなんだ? と思わないでもなかったが、レイにしてみれば自分から向かって来た相手である以上、それを悲しむようなことはしない。

 寧ろ逃げられなかったことを嬉しく思いながら黄昏の槍で戦い、暗殺者三人は瞬く間に手足を失って床に倒れ伏すことになった。

 切断された場所からは激しく血が流れていたのだが、クロウを含めた風雪の暗殺者達の手によって既に血止めをされている。

 それはレイにやられた相手を可哀想に思ったから……ではなく、情報を聞き出す為だ。

 折角の相手である以上、情報を聞き出すよりも前に殺されてしまうのは困ると判断したのだろう。

 当然のように自殺しないように猿轡を嵌められ、手足もしっかりと縛られて動かすことが出来なくなっている。


(ああいう結び方、俺も覚えておいた方がいいのかもしれないけど……何となく苦手なんだよな。一応簡単なのは出来るけど)


 暗殺者を見ながら、クロウにどうやって結んでいるのかを聞くかと少しだけ迷うも、結局止めておく。

 今はそのようなことを話している余裕はないのだから。

 風雪のアジトに侵入してきた敵を倒し、リンディ達の無事を出来るだけ早く確保するのが先決だった。


「情報は聞き出せそうか?」

「聞き出すにも、時間が必要だ。聞こうと思ってすぐに聞き出すなんてのは……まぁ、やってやれないこともないだろうが、俺には無理だ」


 その言い方は、自分には無理だが風雪の中にはそのような真似が出来る者がいるということを示している。


(スキルか、魔法か、マジックアイテムか。どういう手段かは分からないけど、ちょっと興味があるな。とはいえ、今ここでそれを聞いても答えるとは思えないが)


 どのような手段かは分からないが、尋問に便利な力を持つ者がいるのなら、それは間違いなく風雪にとって有益な人物だ。

 そうである以上、レイがその相手の話を聞こうとしてもクロウがそう簡単に話してくれるとは思えなかった。


「それで、これからどうする?」

「この連中が来た方向は分かった。なら、そっちに向かう。恐らくこの連中が来た方向に侵入口があるだろうし」


 仲間の暗殺者と情報交換をしていたクロウが、レイの言葉にそう告げる。

 レイもその意見に異論はなかったので、素直に頷く。


「分かった。なら、この連中は……あっちの二人に任せてもいいのか?」

「ああ、頼んでおいたから問題はない。俺達は少しでも多くの侵入者を倒す。行くぞ」


 そう言い、走り出すクロウ。

 そんなクロウを追ってレイも走り出すが、ここに残る二人の暗殺者はレイを見て頭を下げる。

 自分達が戦っているところを助けて貰ったからか、それともレイがクロウと共に少しでも多くの侵入者を倒そうとしているからか。

 その辺りは分からなかったものの、それでもそのような態度を取られれば気分は悪くなかった。






 風雪のアジトの中を走るクロウとレイ。

 既に走り始めてから数分が経過してるものの、まだ他の暗殺者に遭遇する様子はない。


「さっきの連中はどこの暗殺者が分かるか?」

「いや、分からないな。どうかしたのか?」


 走ってる中でレイが尋ねるが、クロウは相手がどこの者達かは分からないといった首を横に振る。

 そんな状況を残念に思いつつ、レイは言葉を続ける。


「聞いた話によると、風雪程ではないにしろ、それなりに大きな暗殺者ギルドからも人が派遣されてるんだろ? さっき戦った連中もそんな奴だったのかと思ってな。大きな暗殺者ギルドなら、当然だけど質も高いのがいるんだろ?」

「……そうでもないな。中には数だけを揃えて洗脳なり薬を使ったりして、敵に突っ込ませるなんてことをしている組織もあるし」


 クロウの言葉はレイにも納得出来るものがあった。

 この世界においては地球と違って質が量を凌駕することも珍しくはないものの、誰もがそのような真似を出来る訳ではない。

 異名持ちや高ランク冒険者といったような、一部の者達だけがそのような真似を出来るのだ。

 そして暗殺対象となるような者がそのような特殊な例であるかと言われれば、多くの場合は否だろう。

 そうである以上、数だけを集めて敵に送り込むといったような手段はそれなりに有効であるのは間違いない。

 勿論、相手がそのような手段で暗殺しようとしているのなら、対処のしようはそれなりにあるのだが。


「そういう連中は……少し面倒だな」

「意外だな」


 まさかレイの口から面倒という言葉が出て来るとは思わなかったのか、クロウが走りながらも横目でレイを見て驚く。

 クロウにしてみれば、レイ程の実力があれば数だけを送ってくるような相手の対処は楽に出来ると思ったのだろう。

 それは間違っていない。

 レイの実力があれば、それこそ雑魚が幾ら襲ってきても対処は可能だろう。

 だが対処出来るというのと、それが面倒かそうではないかというのは全く別の話だ。

 レイにしてみれば、雑魚を無数に送ってくる相手よりもある程度の腕利きを少数送ってきてくれた方が対処は楽だった。


「言っておくが、対処出来ないって訳じゃないぞ。ただ、言葉通り面倒だというだけだ。それに、そういう連中は自爆したりといったような真似をするという印象があるから、街の外でならともかく、街中でそういう連中と戦うのはちょっとな」


 レイも自分を狙ってきた相手が自爆したことによって、何の関係もない相手が巻き込まれるというのは遠慮したい。

 巻き込まれるのが盗賊の類ならまだしも、善良な一般人であった場合はレイも罪悪感を抱く。


「ああ、そういう。……けど、俺にそんな話をしてもいいのか? 俺は風雪の一員だぞ?」


 今は手を組んでいるとはいえ、風雪も暗殺者ギルドであるのは間違いない。

 そんな自分にそのような情報を話してもいいのか、と。そうクロウが暗に言う。


「別に構わないだろ。今は手を組んでるんだし。それに、さっきも言ったが数でこられるのは面倒ではあっても対処出来ない訳じゃない。結局のところ雑魚を指揮している奴を倒してしまえば、有象無象でしかないしな。もし風雪がそういう真似をするなら、それこそ俺とセトがこのアジトに乗り込めば解決する」


 質の特化とでも呼ぶべきレイとセトが、今回の暗殺者ギルド連合とでも呼ぶべき者達と同じようにこのアジトに侵入した場合、風雪側が対処するのは非常に難しい。

 そうである以上、風雪にとってレイとセトが侵入した時点で負けたに等しいだろう。

 ただでさえ質という点ではレイやセトに劣っているのに、このアジトの中では数の利を活かすのは難しいのだから。


「う……」


 クロウもレイと話しながら、もしレイと敵対した場合は対処のしようがないと判断したのだろう。何も言えなくなる。

 そもそも、レイのようなあからさまに個人でここまでの力を持っているのが、そもそも反則なのだ。


「まぁ、風雪とは友好的な関係を保ちたいと思ってるけどな」


 これはクロウに対するお世辞でも何でもなく、純粋にレイが感じていることだ。

 風雪を率いているオルバンとは個人的にかなり友好的な関係を築けていると思っている。

 また、風雪の交渉を担当しているニナに対しても同様に。

 そのような相手と好んで敵対したいとはレイも思わない。

 もっとも風雪は暗殺者ギルドだ。

 場合によっては、断れない相手からレイの暗殺を依頼されるといった可能性も否定は出来なかったが。

 そうなった場合、風雪として出来ることはそう多くないだろう。


「俺もそうであって欲しいとは思うよ。今の状況を思えば……レイ」


 クロウはレイの言葉に最後まで言わず、その名前を呼ぶ。

 レイもまた、クロウが何を考えてそのようなことを言ってきてたのかを理解して走る速度を緩めた。

 クロウもレイと同様に走る速度を緩める。

 そんな二人の視線の先にある曲がり角から、やがて一人の女が姿を現す。

 その女が姿を現すと同時に、周囲に一際強い強い鉄錆臭が漂う。

 それが何なのかは、慣れているレイもクロウも理解していた。

 血の臭い。

 それを示すかのように、姿を現した女は顔に……いや、身体中に血が付着している。

 それは寧ろ血を被っているといった表現の方が正しいだろう。

 一体どのような戦い方をすれば、あるいは何人と戦えばそのような状況になるのか。


「いた……いた、いた、いた……見つけた!」


 地の底から聞こえてきたかのようなその声と、そして改めてよく見れば女が着ているのがかなりズタボロになってはいるが、メイド服であるということにレイは気が付く。


「お前……もしかして……いや、でも……」


 正直なところ、その声だけではレイも相手が誰なのかというのは分からなかっただろう。

 しかしズタボロになっているとはいえ、メイド服を着ている暗殺者ということを理解すれば……そう思うも、レイが風雪から受けた報告によれば、星の川亭に侵入してきたメイド服を着た暗殺者は既に殺されていると聞かされていた。

 相手はレイの泊まっている宿に侵入してきた危険人物だけに、その情報をレイから聞かされていた風雪達は、死体もしっかりと確認されていた筈だった。


「当たり。そして外れよ。姉さんはあんた達に殺されたのは間違いないわ。けど、私は生き残った。それだけよ」




「姉妹……? いや、双子か?」


 血で濡れた顔だけに、その顔立ちをしっかりと把握するようなことは出来ない。

 それでも改めて女の顔を見れば、星の川亭にやって来たメイド姿の暗殺者と似ているように思えた。

 姉妹というには似すぎていると思える程に。


「正解よ。姉さんの仇……討たせて貰うわ!」


 女は叫ぶと、そのままレイに向かって突進してくる。

 レイと一緒にいるクロウは全く気にしていない……いや、それどころか見えてすらいないと思えるような、そんな様子で。

 とはいえ、自分が相手にされていないからとはいえ、クロウも女を無視するような真似が出来る筈もない。

 女は血に塗れている。

 それこそメイド服がぐしょ濡れになる程の大量の血に。

 なら、その血は誰の血なのか。

 まさか女自身の血ということはないだろう。

 文字通りの意味で血が滴っている以上、以前に風雪が血の刃を襲撃した時の血でもないのは明らかだった。

 それはつまり……


「俺の仲間を殺したな!」


 レイに向かおうとする女に対し、クロウは素早く短剣を振るう。

 普通なら回避するといったことは不可能だろうタイミングの一撃。

 だが女は、信じられない程の身体の柔らかさによってクロウの一撃を回避する。

 回避してクロウに反撃をするのかと思いきや、そのままクロウを無視してレイに向かう。


「貴様ぁっ!」


 自分の攻撃を回避したのはともかく、全く相手にしていない様子を見せられたクロウは女に怒声を放つ。

 女はそんなクロウについては全く気にした様子もなく、ただ一直線にレイに向かう。


(完全に俺を殺すことしか頭にないな。仇討ちなら当然か)


 仇討ちについては賛成派であるレイだったが、だからといって大人しく殺されるつもりはない。

 そもそも暗殺者が襲ってきたので撃退しただけでしかなく、その暗殺者を殺したのもレイではなく風雪の暗殺者だ。

 ……レイの要請で血の刃が滅んで女が死んだとなれば、実質的に殺したのはレイであると認識してもいいのかもしれないが。

 ともあれ、レイは当然こんな場所で死ぬつもりはないので、短剣を手に間合いを詰めてきた女に向かって黄昏の槍の一撃を放ち……次の瞬間、驚きの声を上げる。


「はぁっ!?」


 間違いなく女の身体を貫くだけの速度と鋭さを持った突きが放たれたのだが、女はそんな一撃を何とか回避しようとした。

 それでも完全に回避するような真似は出来ず、女の身体に穂先が刺さると思った瞬間、まるで金属の身体にでもなったかのように、女の身体を滑るようにしてレイの突きは外れた。

 それでも触れた場所を斬り裂きながらではあったが、手応えから間違いなく致命傷にはなっていないだろう。

 驚きつつもレイの動きは止まらない。

 女の身体を滑った黄昏の槍を横薙ぎに振るったのだ。

 地下通路なので、自由自在に黄昏の槍を振るうといったような真似は出来ない。

 しかし槍の柄が女の真横にあるのだから、そのような状況であれば女を吹き飛ばすのは難しい話ではなかった。

 ただし、槍の柄と女の距離がすぐ側である以上、それは槍の柄で殴りつけるというよりは押して飛ばすといった形になったが。

 それでも十分にレイの目的は果たされ……


「ぐふ……」


 黄昏の槍によって吹き飛ばされた女は、強烈な勢いで壁にぶつかって鈍い声を漏らすのだった。

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